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「ねえ、どうかな?」
試着室の扉を開けて、ユウミが格好を披露した。
ここは大原シティプラザ内の高級感漂うブティック内部である。
正直に言って、男の俺には場違い感極まりないし、たとえ女子高生でも小遣いの範囲で来るような店ではない。
「可愛いです! お似合いですよお客様。お兄さんもそう思いますよね!」
さっきからユウミに付いて営業している二十代半ばくらいの店員さんが俺に振ってきたので、
「あー、まあ……ね」
頬を引き攣らせながら答えた。
確かに似合ってはいる。
女物をきっちり着こなす技術はすごいと思う。
でも俺は知っている。
今ユウミが着ている爽やかな夏色ブランド服が、上下合わせて十万を超えることを。
「うーん、お兄ちゃんの反応が良くないなあ、店員さん、他に良さそうなのある?」
「それでしたら、こちらなどどうでしょう」
店員さんは目をキラキラさせながら新しい服を差し出す。
なんだか知らないが、この人ずいぶんノリノリで楽しんでるみたいだ。
値札に書かれた数字は五万八千円也。
めまいがする。
ちなみに最初にユウミが予算は一万で上下一枚ずつ、と伝えてあるので、完全に悪ノリしている。
いい服を見せれば多少予算オーバーでも買ってもらえるかもしれないという打算もあるのかもしれないけど、十倍はやりすぎだろ。
「わ、可愛い。ねえねえ、お兄ちゃん、どう?」
新しく渡された服を体の前に掲げ、見せつけるようにユウミは体を左右に揺らす。
「ウン、似合ッテルヨー」
「何その気のない返事ー」
正直に言うと、飽きてるんだよ。
女の買い物は長いってのがよく分かる。
お前中身は男なんだからそこまで再現しなくてもいいだろうに……。
「あ、これもかわいー」「お似合いですお客様、鼻血が出そうです」「これはどうかな?」「うーん、それでしたらこちらの方が」「それじゃあ――」「ではこちらなど――」
その後約一時間に及んで、ユウミのファッションショーは継続された。
「ありがとうございました!」
なんだかすごくイイ笑顔になっている店員さんに見送られて店を後にした。
ただの営業スマイルにしては随分興奮してる気がするんだけど、そっちの世界の人なんだろうか。
あの人にユウミが実は男だとバラしたらどうなるんだろう。
結局買ったのは四千八百円のジャケットと、四千二百八十円のスカート。
何のためにあんな試着をしたのかよく分からない。
俺の感覚からするとこれでも結構高いんだけど、お値段十倍のブランド品との違いもよく分からない。
「よしじゃあ次行こう次!」
「なん……だと……?」
あれだけファッションショーをやったのに、まだ足りないのか。
「あ、大丈夫、次行くのは『むらしま』だから」
いや、服の値段がどうこうとかそういうアレじゃないし。
「パトラッシュ、僕はもう疲れたよ……」
「今日一日は付き合ってもらう約束でしょー」
「そうだけどさ……」
「ほら行くよ!」
そう言うとユウミは俺の手首を掴んで引っぱりだした。
やる気のない俺はずるずると引きずられていく。
「るらるらるーらーるーら~」
売られていく時のテーマソングを口ずさんでみたら、
「やめてよ!」
と怒られた。
先ほどの高級ブティックと違い、『むらしま』の中は『春物大処分!』『セール品!』『安心価格』などの垂れ幕やPOPが並んでいて、俺は何となく安心する。
「あ、これ可愛い、これもいいかもー」
そんな風に言いながら、ユウミはまたいくつかの服を手にとって比べている。
「こっちの服でもいいならそれでいいじゃんかよ……」
「分かってないなあ。ちゃんとああいう店も見て、少しは買っておかないと、いい服は選べないんだよ。だからっていっつもブランド品で固めるのも良くないし。こういう店でも探せばいいデザインの服はあるんだから。安物だとさすがに生地までいい物を使っている服はないけどね」
そんなことを言いながら、ユウミはいくつかの服を買い物カゴに放り込んでいく。
「そんな適当で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。一番いいのはもう選んだしね。安物のいいところは、多少ハズレがあっても損失が少なくて済むってところだよ。一応試着はするけど」
「そういうもんか」
「あと、万一着れなくても、私の顔写真付けてネットで売れば原価以上で売れる」
「やめろよ!」
「冗談だよ、やるつもりはないから安心して。心配してくれた?」
ユウミはくすくすと笑う。このやろう……。
その後しばらくユウミの服選びに付き合って、『むらしま』を出た時には正午になっていた。
「もう昼だね。お腹空いてる?」
「ああ」
お腹よりも、全体的には気疲れの方が多い気がするけど。
「よし、じゃあケーキ食べに行こう」
「ケーキ!? 昼飯じゃないの!?」
「一食ぐらいお菓子だけでも大丈夫でしょ、いつもお兄ちゃんの手料理で栄養は足りてるし」
そりゃそうかも知れんが。昼飯時にケーキか……。
「今なら、あそこの『クラムボン』で期間限定二時間ケーキバイキングやってるんだ!」
ユウミは目を輝かせて、飲食店が集中している区画の、シックな趣の建物を指した。
漫画なら瞳に白抜きの十字が入るような目の輝かせっぷりである。
俺は止めても無駄だと悟った。
まあ、たまにはこういうのもいいか。




