金で人徳は買えるか否か -日常 その はち-
「さて、おはようございますですわ」
「うわっ、来たよ」
多様な出来事で早起きした何人もがいる、みなと喫茶店内。
そこに新しく加わる已御。
思えば大規模トラブルの元はこれから来た気すらする。
いや、気のせいでは絶対ないはずだ。
「おはよ…で、さっそく聞きたいことあるんだけどさ」
「もちろん恋人は羽輝さまですから安心してください」
「変なところ擦らなくていいから、外のあれなんだ…」
何か意味不明な車両が、隠しきれずに外にあるのを問いただしたい羽輝。
「ボーリングマシンです」
「……えっ、何がどうしてそんなものが」
いきなり言われても意味が分かるはずはない。
「お話をしてますと、結構端々に場所がよくないと申しているようでしたので、何なら移動してしまえるよう準備をしておこうと」
「…まぁ、この場所がメイン観光地からずれているのに不満を言っていたことは認めよう…それとこれに関連性は?」
「いえ、優勝したら東京ですから、建物移動が容易かどうかボーリング調査して準備を始めたいなと」
「んん?」
考える。
何か、今の話に関連性はあったのか?
建物の移動?
「んーっと…東京の店舗ってビルの中だよね?」
「完成してませんから風情を優先して地下4階に埋めれば内装も見事に違和感ないと思いますわ」
「待てよ!? これを東京にもってって埋めるの!?」
「できればそのままの形で、はい」
知っている。
羽輝は一応聞き覚えがある。
土台や建造物丸ごと移動させる特殊工法があることを。
「何千万もするヤツだろそれ…」
もっと言うとボーリングだけでもかかります。
「車両確保できれば、この大きさなら何ともありませんわ」
真顔で言うな、狭いって言いたいのか…とも言いたかったが。
「だからそんな金湧いてこないって!」
「もちろん私の独断ですので私のお給料から…」
「何千年かかるんだ!?」
「まぁまぁ、利益の確定した投資ですし、優勝したなら」
「私の店をどうしたいんだよ…お前らは寄ってたかって」
「「完璧にしたいです」」
しくると已御がそろって言うが…。
求めてねえ。
それだけがはっきり羽輝の確信として浮かぶ。
あと、優勝確定での投資って、ひそかに圧力かけてきてないか最近?
「うちの経営をよしようってのを私よりお前らが優先で考えなくていいし、弄りまわしていいとも言ってない! そこをわかれ」
「…いえね、それ以外もいろいろありますし、わたくしも、ここを割と気に入ってきているからこそなのですわ羽輝さま」
「それはありがとう」
「で、そこでちょっとした問題も見えて不満も出てくる、という結果の一つではありま…すが…」
「なんだよ」
言うか言わざるか、ちょっと迷っている様子の已御だったが、そのタイミングで鳴ったスマホでちょっとタイム。
「どうでしたナラサワ…ふむ、とりあえず30x50の2枚で見積もりどうだったかだけ言いなさい…450万…そう…」
何もかもが謎の話に、ついていく気もない顔の羽輝を横目に何かと会話している已御。
「次にうちの会社にその受付顔ださせたら、そちらの株すべて猛噛組に売却するとだけ伝えなさい、そう、わたくしの名前は出してかまいません」
「…合間だけど関係ある話の電話なのそれ」
「無くは…なかったんですが、今でも構いませんか」
「…電話の会話ちょっと怖い気がしたから不穏だなぁ何なんだよ」
さすがに、金の話についていけないので羽輝もひるむ。
「あの屋根についてるパイプは古風を呼びものにする建物にはどうにも許しがたく…」
と、思われたが、ちがう。
急に店舗である家にケチ付けだした。
「あれは雪がどさどさ降ってこないように止める機能的なものなの!」
「あれだけどうしても許しがたく…」
「雪が急に落ちてお客さんのケガになったら事件でしょ! いるの! 雪国には必須なの!」
「ですが許しがたいので、瓦屋根風デザインの一体成型ニューセラミックと融雪機構をつけたものに屋根を交換しようと、今、製造メーカーと交渉しておりまして…」
「もはやどれだけうちの影響残ってるくらい別物にしちゃう気!?」
その金額相談の電話かよ、この朝に。
わかるととんでもないとしか言えない。
「…あ、返事来ましたわね…どうですナラサワ…ふむ、20万でいいと……まぁそれなら正式な寸法取っていいですわね、満足な取引ですと伝えてくださいなナラサワ」
「…相手がかわいそうになってきたから、それ辞めるよう後で言っといて…」
「あら、これから建物前面のデザイン考えて雪止めの案なども聞きたかったのですが…」
「あきらかに業者泣いてるよ、今の話は…」
「顔も見たことない方にまでお優しいなんて、残念ではありますが、少し惚れ直す気分でわね…では、そこはまず保留いたしましょう」
やれやれ。
「でも…」
「今度は何だ」
「お風呂」
来やがった。
一度、ここに一緒に住もうかと押し込んできたときにお風呂も見られて、さすがに無茶なものを見たような文句を言われている。
「あれでやってきたんだよ私たちは」
「健康のためにもアレだけはちょっと…ですし、何より、お店ですからお仕事の都合上で汚れた時に、わたくしたちも使う可能性が高いのですから、これだけは、もう譲れません!」
「…近くの温泉の回数券使っていいよ…」
たまにみんなに隠れて使ってる、羽輝の隠し玉である。
さすがに温水すら確保に苦労する風呂だけで年単位我慢はできない。
「いえ、ここだけは私の私費で構いませんから、どうしてもやっていただきます!」
「わからんやつだな!」
「羽輝さまのためです!」
譲らない。
「…ちなみに、どうしてそこまで風呂だけ強情なんだ」
「そりゃもう、見てもあれじゃ減点対象しかないですので」
見る、とは?
「…んーと…あとは、わたくしが冬までいたとして絶対耐えられませんので、自分のためにやります」
「…なんでちょっと考えたような間を…」
今考えて絞り出しましたという雰囲気と顔を見て不安だが、羽輝にとってもタダで風呂場が奇麗になるなら悪い事じゃない。
そういう、ちょっとした欲が判断を迷わせる。
「…じゃあ、そっちはいいよ…」
「それでは、任せてくださいませ!」
満面、これでもかという笑顔の已御。
よだれがちょっと見えた気がするが気にするな。
「あ、ナラサワ、バスユニットは予定通りですから10時までには業者引き渡しするように、それと…例のプリンの専売購入決めてきたから早朝の高速便の手続きとメニュー追加を各店に」
何やら、知らない…いや、うちに関係ない話が増えているが、なんなんだ。
羽輝からすると、気にしてもしょうがない別の店の話なのだろうが。
「…そう、フェス第一弾の特製メニューとして、各店限定80に設定しておいて、数字は変えられるように複数作っておいてもらうように、あと断熱フロア材とカメラは先に届くように、これは確実にね」
カメラ?
それだけを言われたら確実に怪しまれそうだが、関係ない仕事の合間にされると意外とわからないようだ。
「…まぁ…今回だけにしてよ、店の中については今のままでいいのは店の方針だからね」
「そのへんは、都度相談、ということでー」
「なんか…笑いが急に湿度高くなってそうで嫌だなぁ…」
「それでは、新メニュー候補のナベ3種類もありますからこの辺で切り替えましょうか、ウェヘヘヘヘ」
「…ああ、やっぱり今日もあるんだ」
「具材入れたもの持ち込んでいますので、5人前それぞれ3種とりあえずかんそうくださいませね」
「朝からそんな量は食えねえよ!」
でも、姫乃と想が主に平らげた。
逐一東京のシェフと連携してこっちの具材を仕上げるので、どれもまずくはないのが救い。
已御自身も、そこそこ料理はできるのが意外というと意外ではあるが、味は確かにいいものが続いている。
……ただし、手間の関係で決して普通の店で採用はできない。
もちろんみなと喫茶でも。
なお、その日の夕方。
「店長! この騒音で仕事しろってどういうことなの!」
「止めるの忘れてたんだよ! 文句は已御に言え已御に!」
「…つーか、これうちの仕業なの!?」
「すまん!」
「今日もうちの学校のヤツ来るんだけど!」
「…謝ろう、2人で」
「いや、私はしらばっくれるね!」
学校帰りから参加の玲は後から事態に巻き込まれるので基本被害者側である。
「すみません工事のほうの確認お願いします」
「ちょい待ってね玲ちゃん、風呂のほうだからって、早いねって…なんだこの金ピカ!?」
未成年に見せてはいけないのではないかと疑うような浴室が羽輝に晒される。
絶対勘違いされてるだろこのメイド喫茶。
「あと、物置の形から変わってるじゃん!?」
「断熱構造のものに変更でしたので」
「早すぎるよ!?」
最近の業者ってすごいな。
「ああ、店長さんこちらでしたか」
「なんだしくる」
「あの、ボーリングのほうなんですが…」
「早いところ終われないかなって言っといて…本当にうちに必要ないから…」
「あの、水が出たんで一度止めようという話なんですが…暖かくて…」
「は?」
言葉通りをとらえると、暖かい水って…温泉では。
「埋めろ! すぐ中断して埋めて! 温泉なんて出たら権利の話だとか土地の価格変わって税金ふえたりでうち死ぬからな!」
「そ、それでいいんですか!?」
「業者の口止めだけでも已御に言っといて! ふさげすぐ!」
「は、はい!」
かくて、已御の風呂改築して隠しカメラたっぷり仕込んで楽しむ計画は完遂した。
一方でここ数日、気が休まる隙すらない羽輝である。
浸食は進んでいる…らしい。
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