第5部 奮迅陸戦隊 第1章 伏撃
ブーゲンビル島 タロキナ内陸部 日本海軍舞鶴第4特別陸戦隊 蜂の巣陣地
1943年 12月20日 10:30
ブローニング重機関銃の腹に響く銃声と銃弾が命中した物を砕く粉砕音が連続する。
浸透してきたアメリカ軍尖兵の上げる悲鳴や、撃ち返すカービン銃やBARの射撃音が聞こえ始めた。
泥と丸太でぶ厚く築かれたトーチカのブローニング機銃が射撃を始めていた。
陸戦隊では、初撃においての発射を土民から購入したブローニングにのみに許可していた。
実際、それは効果を産み、反撃は限定的で、何か叫ぶ声や、誰何をしているのか、同じ言葉を叫ぶ声が多く聞こえた。
また分厚く緩やかな外面に植生を施されたトーチカは、離れるとその存在がほとんど判らなかった。
やがて、これも分厚い盛り土で隠蔽された胸壁の中から重擲弾頭が撃ちだされた。
その頃には、浸透してきたアメリカ軍は、地影に隠れるか、動けるものは後退していくようであった。
北丹2等水兵は、射撃を行っていたトーチカと、海岸へ向けて流れる水路の対岸にある突出陣地に布陣した歩兵砲分隊に詰めていた。
陣地は、掘れば水が出るので、土を腰ぐらいの高さまで積み重ねて胸壁を築き、その前方に砂や泥でゆるい傾斜をつけてある。同じように塹壕も掘る代わりに葉屋根付きの胸壁で築いてある。
陸戦隊は、昨夜の艦砲射撃終了後、夜を付いて装備を担ぎこの陣地まで進出してきている。
そして、彼はまたもや手が足りない、という理由で歩兵砲分隊の促成の装填手となっていた。
配置に付いた際に、驚いたことには92式歩兵砲の砲弾はたったの3発しかなかったことだ。
さすがにこれはと思い、砲手に、弾は3発だけですか、予備弾はどこですと聞いたところ。
砲手はぶっきらぼうに
「タ弾は3発しかない、大事に扱え」
と逆に諭された。
弾薬箱から出された砲弾を改めて見ると、彼が知っている歩兵砲の砲弾より弾頭の曲線が緩やかで、そこに装着する触角のような信管が用意されている、また薬莢そのものも2段になっている。
配属された時に、対戦車戦闘を行うと説明されたので、おそらくその専用弾であろうと彼は見当をつけた。
「前方に戦車!数量3、歩兵を伴い前進してくる」
砲側から監視していた、砲車長が低い声で号令を掛ける。
陸戦隊の前方、かって広がっていた密林は前夜の艦砲射撃によって疎林に変貌し、その中をM4戦車と散会した歩兵がゆっくりと前進してきていた。
「対戦車戦闘」
「目標は前方の先頭戦車」
「距離50にて発射」
砲車長は続けざまに命令を下してくる。
星形9気筒エンジンの低い重低音を響かせ、間隔を空けた縦列で前進してきたM4戦車は、途中から横隊に変化した。
歩兵砲陣地のさらに先、対戦車戦闘を担う歩兵砲陣地の側面を守っていたトーチカに据えられたブローニング重機関銃が撃ちだした。
あまりに随伴歩兵と距離が縮まり発見されると踏んだからだろう。
12.7ミリ弾が腕に当たった兵士は、腕が体から引き千切れて絶叫を上げて転げまわっている。脇腹に弾痕の大穴が空いた兵士は声も上げずにそのまま仰向けに倒れる。運が良かった他のアメリカ軍兵士は地に体を投げ出すようにして窪地にや地隙に隠れた。
一番手近のM4戦車の砲塔がクルリと廻り、何かを探しているように砲身が上下動していたが、直後に発砲した。
砲弾はトーチカの上を超えて飛んでいった。
トーチカの射手は、戦車の発砲に気づいたようだが、戦車はトーチカの銃眼の死角にいたため撃てないでいる。
「あの戦車を殺る、目標変更」
砲車長は、歩兵砲の射角を大急ぎで変えるよう命令した。
M4戦車が次弾を発砲した、砲弾はトーチカ側面の厚い土盛に当たり、盛大に土や砂を巻き上げた。
トーチカは、なんとか直撃に耐えたように見える。
歩兵砲陣地では、既に弾薬手により砲弾に信管は装着され、装填手の北丹2等水兵に砲弾は渡された。
「装填」
命令を受けて、彼は砲尾に砲弾を押し込んだ。
「射角良し」
「距離、90」
M4戦車が第3弾を発射した、今度もトーチカの側面に命中する。
炸裂する粉塵の上に構造体である丸太が吹き飛ぶのが見える。
次の瞬間、土煙と爆炎の間から形を大きく変えられてしまったトーチカが見えた。
「テッー!」
砲台車長が射撃命令を発した。
短い発射音がすると、92式歩兵砲は三式改穿甲榴弾を発射した。
砲身口直後で、砲弾を包んでいた弾筒が爆散するように分離する。
弾丸はM4戦車の手前に落ちると、土ぼこりを上げ小さな閃光を発した。
M4戦車は車体を僅かに廻し、前方車載機銃で辺りを掃射し始めた。タ弾の発射元は掴めていないようだ。
それに反応したのか、今まで発射を控えていた他の機銃座から射撃が始まった。




