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第27章 名だけ残された契約

立て札があった。


風に擦り切れ、

ほとんど読めない文字が、

かろうじてそこに残っていた。


かつて交わされた契約。

かつて交わされた約束。


だが──

いま、それを覚えている者は

どこにもいなかった。


人々は、

古びた立て札を一瞥し、

何の感慨もなく、

通り過ぎていった。


契約はあった。

だが、

意味はなかった。


守るべき理由も、

違えるべき理由も、

とうに失われていた。


ノアは、

ひとつ、

その立て札に手を伸ばした。


触れた指先に、

かすかな脆さが伝わる。


キューブは、

一度だけ微かに振動した。


だが、

世界は沈黙したままだった。


ノアは、

何も言わず、

立て札を離れた。


風が、

乾いた音を立てて、

消えかけた契約を撫でた。

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