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第18話 シェルとノノ



「八千代さんは本当にゲームマスターなんですよね? 嘘とか冗談とか、そういうのじゃ、ないんですよね?」


 少し間を置いて俺は再び口を開いた。

先程より少しだけ声色を低くして、真実を聞き出そうとするように。


「本当本当。本当なんだよ。といっても、これといって君達に信じて貰えるような証拠も私は持ち合わせていないからさ、イヨ君とトトちゃんにはただただ信じてもらうしかないんだけどね。うーん、困ったな。こんな事になるならもっと一般ユーザーの前に出とけば良かったかなー……いや、でもなぁ……」


 八千代さんは困り果てたようにそう答えた。

見たところ何かを隠したり取り繕ったりしているという感じには見えなかった。本当に、ただただ込み入った事情の説明に手間取っているように見える。見た目の上では。


「なぁトト。信じていいと思うか?」


 頭を抱えている"自称ゲームマスター"を横目に俺はトトに訊ねた。こう見えて案外トトは勘が鋭かったりするから。


「いいんじゃないかな。悪い人には見えないよ」


 トトはあっさりそう答えると対面に立つもう一人の自分(ゲーム内のトト)にも同じ問いを投げかけていた。


「ねぇねぇ。あの人、八千代さんって人なんだけど、私達、信じても大丈夫だよね?」


「うん、大丈夫だよ。悪い人じゃないからね。ちょっと誤解されやすい所はあるけど」


 もう一人のトトもあっさりとそう答えてくれた。

二人のトトがそう言うのなら、俺はきっと"自称ゲームマスター"の事を信じてもいいのだろう。というか、頭から丸ごと信じてやってもいい気さえする。


それよりも、俺が八千代さんの言葉を信じ、目の前の見覚えのあり過ぎる二人の存在を受け入れるとするならば、この世界はやっぱりそういう事になるのだろうか。いや、きっと、そういう事になるんだろうな。




「ね、ねぇ。ところでイヨ君、ゲームマスターってどういう人なんだろう……?」


 先程の発言とは打って変わり、ソワソワと落ち着きのない様子でトトが訊ねてきた。これはあくまで俺の予想になるのだが、トトは『ゲームマスター』という仰々しい言葉の響きに驚いただけであって、その単語の意味や内容については全く知らなかったんじゃないかと思う。元々トトという奴はレジェクエ事情に相当疎いのだ。無知と言ってもいい位に。


「えーっと、ゲームマスターっていうのは――」


気もそぞろなトトの問いに答えるべく俺が口を開こうとすると、


「あ、それ、私も気になる。聞かせてよー。私ってどんな風に噂されてたの?」


"困る事に飽きた"そういった様子で八千代さんも手を広げて歩み寄ってきた。


「ただの噂話ですよ。()()()()聞いた話です」


 俺はそう前置いて少しの間記憶の糸を手繰ってみる事にした。しかし不思議な事に、誰に聞いた話だったのか、いつ聞いた話だったのか、そういった経路が何故だか思い出せなかった。ただ、肝心要の噂話の内容の部分についてはなんとか引っ張り出す事ができた。


「たしか、レジェクエの世界には『ゲームマスター』と呼ばれる特別な役割を持つキャラクターがいて、レジェクエの世界の様々なシステムの管理を任されていたり、不具合が起きた箇所の修復をしてるって聞いた事があります。あとは、『ゲームマスター』は多くの権限を持っていて、チートみたいな事が簡単に出来るとか、出来ないとか。すみません、ここら辺は記憶があいまいで……」


俺がそこまで話し終えると、八千代さんは感心したように「へー」と小さな声を漏らしていた。


「そこまで間違っちゃいないよ。すごいね、誰がこんな話をしてたの?」


誰だったのだろう。俺は再び記憶の糸を、今度は慎重に手繰り寄せてみる。

しかし、それでもダメだった。記憶の糸はゆっくり時間をかけて手繰り寄せても、暗く深いどこか底の方でプツンと切れてしまう。もしくは、明るみに出ようとする所でパッと手を離されてしまうのだ。


「すみません。それが、誰に聞いたとかは思い出せなくて」


「いいよいいよ、気にしないで」


八千代さんはそう言って優しく笑っていた。


「ゲームマスターって、すごいね!」


ちなみに、トトの感想はコレだけだった。




「じゃあ次は、こっちの二人の紹介をさせて貰うね」


 八千代さんはそう言うと、自分の後ろに立つ二人と入れ替わるように数歩後ろに下がった。それを見てゲーム内のトトが照れ臭そうに一歩前に出て、ゲーム内の俺が煩わしそうに半歩前に出ていた。


「まず、こっちのイヨ君に似た男の子が()()()()。そして、可愛いトトちゃんそっくりの、これまた可愛いこっちの子が()()()()()です。二人とも気付いてると思うけど、この世界のイヨ君とトトちゃんです」


 俺とシェルという奴には何の形容詞も付いてなかったのが少しだけ気になったが、とりあえず頷いてみる事にした。


「はい」


「以上!」

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