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転生って実際すると大変

求:次話投稿の仕方

 ’’目が覚めた''とき、まず最初に気づいたのは視力の差。

 私は生まれてこのかた視力2.00であり、視界がぼやける、というのを経験したことがない。せいぜい玉ねぎに眼球を攻撃された時と、埃が目に入ったときくらいである。それがどうだろう、視界が霧の中、あるいは雲がかかったかのようにぼやけていた。しかも、1メートル程度の顔も認識できないであろう悪さだ。

 意識が途切れたのがぶっ倒れたことが原因であるので、てっきり何か体のどこかを悪くしたのかと思ったが、どうやらそうでもない。住んでいたのは8畳程度のマンションの一室で、白い壁に白い床、モノトーンの家具が必要最低限に置かれている、お世辞にも女子とは言えない部屋である。それが、十何畳とある部屋に、ヴィクトリアン調と思しき家具がおそらくうるさくなく配置されている。

 不鮮明な視界でも確信できるほど明らかにお金持ちの部屋だ。それぞれの家具も残念ながら細部を把握することができないが、一番手元に近いベッドの支柱は、一つの傷もなく、芸術品といってもおかしくないほどに上等なものである。この調子で見ると、他の家具も同じように完璧な彫刻がなされているに違いない。以前どこかの国の中世王室が再現された展示会でみたそれを思い出した。


 ともかく、私の突然視力が低下したのは自分自身の身体能力がどうなったからなどではなく、別の理由があるのは明らかであった。変に冷静な頭とは裏腹に、心拍数はどんどんと上がっていき、ふと肩から落ちてきた髪の毛に目が入った瞬間、私の脳裏にとある可能性が浮かんだ。


 異世界転生、である。よくよくみると、イエローベースだった肌はブルーベースの白い肌へ、骨盤の位置はいつもより高く、体は軽い。身につけていたのはアニメでよく目にする、貴族のお嬢様の着るシルクのワンピース。 

声を試しに出してみれば、鈴の鳴るような、しかし凛とした綺麗な声が発された。


 これはいよいよ……と思いながら、おぼつかない足取りで床に足を下ろした。ふわっとしている……。足元をみると、ベッドの周囲に花柄の絨毯が敷かれている。

 そのまま鏡らしきものまで近づいて、己の姿を確認した途端、私は小さく悲鳴をあげた。


作り物でない、本物のプラチナブロンド、ヘーゼルの目。

 髪の毛は一つの枝毛も許さないほどに艶めき、一本一本は細く、しなやかに束を作っている。

美しい肌は、肌荒れとはまるで縁がなさそうだ。眉毛だって、毛の流れ、量、左右のバランスはいくら昔の私が努力しようと手に入らない、完璧なもの。まつげは太く、長い。上まつげも下まつげも、びっしりとまるでエクステでもつけたのかと思ってしまうほど生え揃い、瞼も生計を疑う彫りの深い二重を装備していた。涙袋は書かなくても良さそうなくらいの、バランスの良い量。典型的な猫目と言える。

 鼻は小ぶりで、しかし高さは十分あるので、横顔は素晴らしいEラインである。唇は薄いハート型で血色の良いピンク色。パーツそれぞれの作り、サイズが完璧で、彫刻や絵のモデルになれそうなほど、整った顔。

 


お疲れ様です。凡人田宮京香は、悪役令嬢ソフィアナ・キーラに転生いたしました。



 ここまで整った顔を詰めるのはなんだか気が引けたので、手の甲をつねる。夢ではない。まさか、こんなテンプレ行為をする日が来るとは思わなかった。


 ソフィアナ・キーラ。生前、自身が恐ろしく憎んでいたキャラである。乙女ゲームではなく、ハイファンタジーの恋愛マンガであったはずだ。

 内容は乙女ゲームの王道ルートといった内容で、数年前にどハマりしていたもので間違いない。ヒロインのライラを当時激推ししていて、ソフィアナは、その主人公を敵視する大貴族のご令嬢であった。

 憎んでいたといってもそれはライラ激推しゆえで、ソフィアナ自体はいい子で、実際努力家のあまり空回りしてしまう、かわいそうな女の子。ヒーローに好かれるライラに嫉妬してしまい、ふてぶてしい態度を取ってしまったがために、当時ライラが受けていた嫌がらせの主犯格とされ、またライラが王妃候補であったがために魔王の生贄となった。

 その後終盤、魔王の嫁として人間に復讐をしにやってきて、改心するもその瞬間ヒーローに胸を刺され死亡した。

 憎んでいたものの、この鬱展開には同情を禁じ得なかったし、ヒーローとヒロインのライラは結ばれたものの、どうしてもソフィアナの不幸がちらついて、結局マンガ自体から離れてしまった。


 正直ライラもソフィアナも、ビジュアルがとても好みだったので、ソフィアナが死にライラが後悔の念で思いつめてしまうのも、ソフィアナが決戦時に泣きながら今まで受けた理不尽を口にするのも耐えられなかったのだ。

 未だにそのシーンは頭に焼きついていて、思い出すだけで涙が出る。

 実際ソフィアナになった己の姿をみて目が潤んでしまい、その目が潤んだソフィアナの姿をみてさらに病んだ。全くもって悪循環である。


 本格的に気が病む前に、鏡の前から離れた。それにしても、ソフィアナの目つきが悪い理由がようやくわかった。この視力のせいだ。目を細めてさえいなければ、少し釣りがちな綺麗な目だ。

 ライラにも、ヒーローにも、あの時濡れ衣を着せられたときだって、睨んでいた訳ではなかったのだろう。


 身体もたるみはなく、引き締まっている。残念ながら、胸部の膨らみはあまりないが……えぐれていた前世よりは全然ある。一番の差は顔面偏差値であるが、次に大きく変わったのは先ほども似たようなことを言ったが、骨格だ。まず、骨盤の高さ……もっとおおっぴらに言ってしまうと、足と胴体の比率が全然違う。日本人らしい足の長さが、身長の二分の一に変わった。身長はあまり変わらず165センチメートル程度なのだが、ここまで足の長さが変わると、重心の置き方が変わって来る。しばらくこれは足元に要注意だ。


 一番大きい変化、顔面についても、昔のコンプレックスを引きずらないようにしなければならないのも注意しなければならない。この顔でコンプレックスなど言おうものなら嫌われ者まで棒読みである。

 金銭面でも、キーラ家はこの国でも相当の資産を持つ貴族だったはずだ。それこそ、次期王妃への不敬罪でしか裁きを与えられないような立場なのだ。きっと、普通の会社の受付嬢では考えられないような金額が身の回りで動くのだろう。


村人Aに転生していればまだ良かっただろうに、生きる世界が真反対の人間に成ってしまったゆえ、学ばなければならないことはきっと多い。私がここへ来るまでのソフィアナ・キーラの努力を、台無しにしないように。

 


「ソフィアナ様、起きてらっしゃいますでしょうか」


「あ、……ええ。起きているわ」


「失礼いたします」



 ノックの後、入ってきたメイド数人に囲まれ、服を着替える。

 コルセットに締め付けられるのとともに、昨日のソフィアナと違いがないよう背筋を張って気を引き締めた。


 ブーツまで履いてから、ふと思ったのだが、私は食事の部屋がわからない。

急募、部屋までの行き方。



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