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中央を追われた最強魔導師、辺境で参謀を始める~見捨てられた街と埋もれた才能を、王国最高峰へ~  作者: たにどおり


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第7話・冒険者ギルド・ドラゴニア

「頼もーう!」


 気の抜けた声と共に、ラインがギルドへ足を踏み入れた。


 中は、酒場のような造りだった。

 いくつもの丸テーブルを囲み、冒険者たちが飲み物を片手に話し込んでいる。

 奥には依頼書の並ぶクエストボード。


 その隣に、受付のカウンターがあった。


 賑やかだった会話が一瞬で途切れる。

 いくつもの視線が、ゾロっとこちらへ向いた。


 フィリアは思わず顔を手で押さえた。


 ……もう少し、普通に入れなかったのだろうか。


 隣の上官は、そんな視線など気にも留めていない。

 軽く片手を上げ、そのまま中へ進んでいく。


「このギルドで一番偉い人と話したいんだけど、アポなしでもよかったっけ?」


 椅子を引く音が重なった。

 近くの席から、体格のいい男たちが立ち上がる。

 そのうちの1人が、ラインの前へ立ちはだかった。


「何者だ、お前。うちのギルドマスターに何の用だ?」

「見たところ、カタギには見えねえが……」


 男たちの目が、ラインからフィリアへ移る。

 私服を着ていても、こうして乗り込んでしまえば意味はない。


「カタギも何も、軍人さ。今日は君たちに用があって来たんでね。別に争うつもりはないよ」


 その言葉で、周囲の空気がさらに険しくなった。

 カップを置く者もいれば、椅子に座ったままこちらへ向き直る者もいる。


「……軍だと?」


 フィリアは小さく息を吐いた。


 そうなるに決まっている。

 街中にあれだけ軍への不満が溢れていたのだ。

 その中心にいる者たちが、歓迎などするはずもなかった。


 ただ、この人もそれはわかっている。

 何か考えがあってのことなのだろう。

 今は……任せると決めたのだから。


「アポなしじゃ駄目なら素直に帰るんだけど……会えるなら会いたいんだ。通してくれるかい?」

「お前な……」


 男が言いかけた時、


「別にアポなしでも会えるんだけどさ」


 奥から別の声が届いた。

 まだ幼さの残る、しかしよく通る凛とした声。


 ラインがそちらへ顔を向ける。

 フィリアも目を向け––––息を呑んだ。


 少女が、宙を飛んでいた。

 両手で振り上げているのは、巨大なロングソード。

 その刃が、真っすぐラインへ振り下ろされる!


「少佐ッ!」


 咄嗟に杖を具現化し、前へ出た。

 両手で構えた杖と、大剣がぶつかる。


 ––––ガギィンッ––––!!


「くっ……!?」


 重い。

 腕だけでは支えきれず、踏ん張った足が床へめり込んだ。


 ––––空中からの降り下ろしとはいえ、なんて力……!


 思わず膝が折れかける。

 ここで崩れれば、そのまま押し潰される!


「ッ……はぁっ!」


 腕と足へ魔力を込め、一気に押し返した。

 刃が離れ、少女の体が後ろへ跳ぶ。


 長い金髪が、ふわりと広がった。

 少女は危なげなく着地すると、ロングソードを肩へ担ぐ。


「へえ、やるじゃん」


 フィリアは杖を構えたまま、相手を見据えた。

 赤色のパーカーに、明るいベージュのショートパンツ。

 長い金髪には髪飾りが添えられ、顔立ちだけを見れば、おしとやかな少女にも見える。


 体格は、自分よりも少し小さいくらいだ。

 その細い腕で、あの剣を軽々と支えている。


 ……今の力が、この子から?


 まだ手が痺れていた。

 万全でないことを差し引いても、まともに受け続けていい一撃ではない。


「随分なご挨拶ですね」

「そりゃこっちの台詞だよ、いきなり軍人が殴り込んでくるんだから。迎撃するのは普通じゃないかな?」

「争うつもりはないと言ったはずですが」

「信じられないね」


 少女は悪びれもせず、剣を肩から下ろした。

 床へ切っ先が突き立ち、木板に小さな亀裂が走る。


「私はシリカ・スターロッド。このドラゴニアの冒険者よ。マスターに会いたいんだったかしら?」


 フィリアが答えるより先に、ラインが口を開いた。


「いい力を持ってるねー。その力、軍で使わないかい?」


 ––––何を言っているんですか、この人は。


 フィリアは思わず振り返る。

 たった今、大剣で斬りかかられたばかりだというのに。

 だがラインは感心したように、シリカを眺めていた。


 当のシリカも、一瞬だけ目を丸くする。

 だが、すぐに鼻で笑った。


「そんな誘いに乗るとでも? 悪いんだけど、職業として魅力がなさすぎるよ。給料を倍にでも増やしてから出直したら?」

「もったいない。君ほどの力の持ち主が、こんなところで油を売っているだけとは」


 シリカの笑みが消えた。

 いくら何でも、今の言葉が相手を怒らせることくらいわかっているはずだ。


 ––––まさか、そのつもりで……?


「……役立たずの軍には言われたくないよ」


 剣の柄を握ったシリカの手に、とんでもない力が入る。


「軍が不甲斐ないせいで……こうなっているのが現実よ。街を守りもしないくせに、私たちのやり方に口を出す気?」

「だから話をしに来たんだ、悪いと思ってる。実力で言うこと聞かせても悪いし」

「不愉快ね……それとも何? あなた……私より強いわけ?」


 ラインは姿勢すら変えなかった。


「そうだと言ったら?」


 シリカの目つきが変わる。

 その体から赤い魔力が膨れ上がり、長い髪がわずかに揺れた。


 フィリアも咄嗟に杖を握り直す。


 ……準一級相当。

 やはり自分と同等、いや……それ以上の力があっても不思議ではない。

 先ほどの一撃ですら、まだ全力ではなかったのだ。


「おいシリカ! マスターの承認なしで、いきなり戦闘はまずいぞ!」


 周囲の男が声を上げる。

 シリカはそちらを見ず、床から剣を引き抜いた。


「事後報告で構わないわ。この軍人、私を舐め腐ってる。ただで帰すわけにはいかないよ」

「こっちはあくまでギルドマスターに用があるんだ。帰れというなら素直に帰るけど……どうしても駄目かな?」


 ここまで煽っておいて、よくもそんなことが言える。

 フィリアは上官の横顔を見上げた。


 相変わらず、涼しい表情だ。

 シリカの膨大な魔力を前にしても、声の調子すら変わっていない。


「じゃあ、提案」


 シリカが大剣を持ち上げた。

 切っ先が、ラインへ向けられる。


「私に実力を認めさせることができたら、マスターに会わせてあげるよ。まあ……もっとも、無理だろうけど」


 鼻で笑うシリカ。


 周囲の冒険者たちが顔を見合わせた。

 やがて近くにいた者から席を離れ、2人の間を空け始める。


 止めるつもりはないらしい。

 むしろ、面白そうに笑っている者までいた。


「いいね、そういうのは嫌いじゃない。本当は穏やかにいきたかったが」


 ラインが前へ出る。

 フィリアは杖を下ろしながら、その背中を見た。


 結局こうなるのかと思ったが、おそらく最初からこうするつもりだったんだろう。

 だが、心配なのは勝敗ではなかった。


「少佐……」


 呼びかけると、ラインが顔だけこちらへ向けた。


「大丈夫。僕––––こう見えて結構強いから」


 そんなことはもう知っている。


 昨日、目の前でまさしく見せられたばかりだ。

 自分が手も足も出なかった一級魔獣を、たった一撃で消し飛ばした。


 あの力を知った今、彼が負けるところなど想像もできない。


 シリカは強い。

 あの小柄な体で自分を押し潰しかけた力も、今纏っている魔力も本物だ。


 だがそれでも––––


 フィリアは、剣を構える少女へ目を向けた。


「……相手の方が心配ですね」


ため息をつき、司令部への報告内容を考え始めた。


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