初陣
「…かなり多いな…」
焦土の野原付近に無事たどり着いた三人。今は身を隠して双眼鏡で偵察中だ。
「…いや、二十人程度見えるが、オリジナルは四人だろう。恐らく残りは偵察兵で、こっちが出れば逃げるはずだ。…そういえばまだ渡してなかったな、ほら。」
そう言って水色のバンドを一本ずつ渡すガズ。
「プロテクトバンドだ。腕にしておけ。ダメージの軽減効果と緊急転送効果がある」
バンドを腕に巻く二人。
「俺は今回は後ろで見ている。お前たちの実力がわかったら攻撃に参加するが、それまではお前たちの力でなんとかしろ。…準備と覚悟はいいな?行くぞ!」
障害物の少ない焦土の野原。やはりというか、すぐに見つかった。
「敵襲!敵襲だ!」
一人の兵士が叫ぶ。ガズの予想通り、ほとんどの兵士が逃げ出した。残るは、四人!
まず二人が向かってくる。一人はまっすぐに、一人は少々迂回して。対するフェンたちはフェンを前、ミナを後ろ、さらに後ろにガズという布陣だ。
「うわっ!?軽っ!」
用兵所時代とは違い、これからはフォームがある。それによって引き出された力に驚くフェン。しかし完全にプラスの変化なので、すぐに対応した。
「よっ、とっ」
「ぐえっ!」
まっすぐに来た相手を飛び越え、兜を踏み付けて180度体を捻ったフェン。完全に背後を取った。
「残念でしたっ!」
そのまま後ろから二刀で斬る。剣もフォームで変化したため、鎧を引きちぎるように斬り裂いた。
「ぐわぁっ!」
血を流すまでもなく、プロテクトバンドの力で消えた。本国に帰ったのだ。
「重力制御!単体、×10(マルチテン)!」
迂回してきた兵士に向けて手をかざすミナ。すると兵士は、その場で動けなくなってしまった。その兵士にだけ重力が10倍になったのだ。
ちなみに地面は等倍のままなので、沈みはしない。
「ブレイク!」
そして兵士のいる場所で空気の破裂が起きる。かつて栄えた魔術をマネした技術、魔導。源がフォームの力であることと、本当に下級の力しか使えないことを除けば同じものだ。
「がはっ…」
鳴り響いたのは風船の割れるような音だが、威力は凄まじい。10倍重力の上から相当な圧力がかかった。普通の人間なら圧死するが、それすらも防ぐプロテクトバンド。また一人消えた。
また一人が向かってきた。さきほどの二人よりは速い。
「うりゃっ!」
迎え撃つフェン。二刀で横薙ぎを繰り出すが…
「甘いんだよ!」
軽く跳んでかわされた。そのまま後衛のミナに向かう。
「重力制御!単体…」
ミナがそこまで言った瞬間に、背後に気配を感じた。気がつくともう一人の敵兵が後ろに回りこんでいたのだ。
「終わり…「…終わりなのはお前だ」…なっ!?」
いつのまにかガズもミナの後ろにいた。バズーカの発射口を敵兵に当てて、引き金を引いた。
「ファイアッ!」
すべての衝撃が敵兵に向かう。声もあげられずに吹き飛び、地面にたたき付けられて消えた。
「続けろ!ミナ!」
「は、はいっ。単体、×10!」
ガズの一喝で重力制御を再開するミナ。すんでのところで最後の一人の動きが止まった。
「うおおぉっ!」
追いついたフェンが斬りつける。直接斬った感覚はしたが、やはりそのまま消えた。
「…だいたいの力はわかった。戦力には十分になるが、油断はするな」
戦闘終了後、兵舎に戻るとガズがそう言った。
「「…ごめんなさい」」
「まあ、どうせ明日も出撃だ。こんなので休養をもらえるほど甘くねぇ。…出撃に変わんねぇのにな?…とりあえず明日に期待だな。ほら、もう休め」
軽く不満をこぼしながら、二人を気遣うガズ。
「隊長はどこに?」
どこかに行こうとするガズにフェンが尋ねる。
「報告だ。どうでもいいと思われている戦闘だが、報告は義務だからな。…そういえば報告で思い出した。お前たち、所属報告書は出したか?」
フェンの質問で何かを思い出したガズ。所属報告書というものの提出を二人に確認した。
「…なんですか、それ?」
「まだか、そうか。…お前たち、家族はいるか?」
ガズは急に辺りを気にするように二人に尋ねた。
「母がいます」
「誰も…」
「恐らく報告書には『家族構成』の欄がある。フェン、約束しろ。みなしごだと書け。わかったな?」
「え、どうして…「おーい新人!所属報告書まだだろー?早く書きに来ーい!」………」
聞き返そうとした瞬間、事務員と思わしき人物が二人を呼んだ。
「…行ってこい。くれぐれも書くなよ?」
そう言ってガズは城に向かった。
「どうするの?フェン」
「…隊長を信じよう」
結局、そのあと書かされた所属報告書には、フィーネのことは書かなかったフェンだった…。
そのあとの部屋案内、係員に連れられて歩くフェンたち。
「じゃあお前たち(・・)の部屋はここだ。…壊すなよ?」
立ち止まった部屋で係員がそう言った。
「…たち?」
フェンが疑問を口にする。
「特務新兵は二人相部屋と決まっている。一般兵の大部屋雑魚寝と比べれば…「いや、そうじゃなくて、ルームメイト…これ?」…ああ、そうだが?」
ちなみにフェンの指す『これ』とは…
「フェン、これ扱いってひどいよ!」
ミナだった。
「問題あるか?」
「…もういいです…」
フェンの意図を全く理解していない係員。もう諦めたようだ。
「じゃあな。壊すなよ」
そう言って去っていく係員。
「…お前は気にしないのか?」
「え?ずっと同じ屋根の下だったでしょ?」
「…もういいよ…」
再び諦めたフェンだった…。
大変申し訳ありませんが、未完のまま、この話で完結とさせていただきます。
応援して下さった皆さま、本当にありがとうございました!