02、第七部隊
「ほら、しゃきっとする!今日から軍人だろ?」
そう言ってバシバシとフェンの背中を叩くフィーネ。
「いて!いててっ!背中叩かないでよ!母さん!」
「ん、あ、ごめんごめん。まぁ、しゃきっとしてないあんたが悪いんだ」
一応謝ってはいるが、全く悪びれる様子はない。
「大丈夫?フェン」
心配そうにミナが聞く。
「いや、大丈夫。…母さん、馬鹿力なの忘れないでよ…」
「まぁいいじゃないか。ほら、行ってきな!」
「行ってきます!おばさん!」
「元気でね、母さん」
そう言って二人は家を出た。
「特務合格生か。腕輪は持っているな?…よし。装着は…まだだな…。今のうちに済ませておけ」
兵舎の配属先を教えてくれる係の人は、二人がまだ腕輪をしていないことを見ると装着を促した。
「理念、何になるかな?」
「俺は強そうなのならなんでもいいぜ」
そう言ってフェンは腕輪を装着した。
(人体に反応。…理念コード0238、名称、単独。覚醒フォーム、デュエル)
フェンの脳にそんな声が流れた。気がつくと、用兵所の制服は身軽そうな鎧に変わっており、腰の双剣も少々無骨な風貌になっていた。
「単独か…。お前は人付き合いが苦手なのか?」
「ほっといてください」
冗談を言う係員。そこまで堅い人ではないようだ。
「じゃあ…私も…」
ミナも腕輪を装着する。
(人体に反応。…理念コード6791、名称、制御。覚醒フォーム、グラビティ)
気がつけばミナも、服が制服から紫のローブになっていた。彼女は魔導師で武器は持たないため、武器の変化はなかった。
「制御のグラビティね…。嬢ちゃんは体重でも気にしてるのかい?」
「ほっといてください!」
再び冗談を言う係員。本当に気にしているのか、少々強く返すミナ。
「さてと…お前たち二人の配属部隊だが、当然特務部隊だ。そこの第七部隊だな。で…、これが第七部隊の拠点の場所だ。急ぎな。隊長は怖いぞ~」
そう言うと兵舎の全体図(第七部隊!と大きく赤で書いてあるうえ、最短ルートまで記してある)を渡してくれた係員。本当にいい人である。
「「ありがとうございました!」」
「おう、がんばってきな」
二人は走り出した。
「…定刻まで後二分か…」
兵舎内の「第七部隊会議室」と書かれた部屋内で、ごっつい鎧を着てバズーカを壁に立て掛けたいかにも厳格そうな男性がそう呟いた。
その時、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「来たか…」
男性はそう言うとバズーカを軽々と肩に担ぎ、言った。
「新人だな?入れ」
「はい、失礼します」
そう言ってフェンがドアを開くと…
「遅い!用兵所内で五分前行動が基本と習わなかったか!?」
男性はそう怒鳴ってバズーカの引き金を引いた。
直後、ズドオォォン!という発射音が鳴り響いた。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
フェンとミナが同時に叫び、目を閉じる。
しかしいっこうに衝撃も爆発も起きない。二人が恐る恐る目を開けると、ただ白い煙が充満していただけだった。
男性は窓を開けて換気しながら話し始めた。
「空砲だ。全く…冗談に決まっている。まあ座れ」
その言葉に促されて少々びくびくとしながら二人は椅子に座る。
「たしかに五分前行動は基本だが、兵舎の構造は機密事項で下調べはできん。配属部隊発表から知識無しで定刻までにここに来るのはまず不可能だ。だから少々の遅刻程度なら許そうと思っていたが…まさか定刻までに来るとは思っていなかった。さっきのは歓迎のクラッカーとでも思ってくれ」
言い終わると豪快に笑い出す男性。つまり、あの係員のおじさんのおかげで好印象を受けたわけだ。
「は…はぁ…」
しかしとりあえずは「冗談じゃない!死ぬかと思ったぞ!」と思った二人だった…。
「とりあえず自己紹介だ。俺はガズ、37歳。この第七部隊の隊長をやっている。理念は重撃だ。よろしく頼むぞ」
「僕はフェンです。年齢は17、理念は単独です。よろしくお願いします」
「…別に無理して敬語を使わなくていい。特にその『僕』。明らかに不自然だぞ?」
ガズ隊長はかなりおおらかな人柄のようだ。
「…わかった、よろしく隊長」
「おう、それでいい。よろしくな」
笑って答えるガズ。
「次、嬢ちゃんだ」
「あ、はい。私はミナと申します。17歳で、理念は制御です。よろしくお願いします」
「…それが楽ならかまわんが、敬語はどっちでもいいぞ?」
「あ、大丈夫です」
「そうか。本来ならもう一人いるんだが、今日は休養中でな。…ところでフェン、お前の父の名前は?」
自己紹介が終わるとそんなことを尋ねるガズ。
「え?…カラザと言いますが、七年前に戦死しました…」
「…やはり先輩の息子か。奇遇だな、先輩もこの第七部隊の所属だった」
懐かしそうに言うガズ。
「強くて優しい軍人の鑑のような人だったぞ。俺もあの人に何度助けられたことか…」
「じゃあ戦死したという話はやはり…?」
「…厳密には行方不明だ。軍部としては行方不明より戦死の方が都合が良いからな。ただ、死体が見つかってないから、もしかすると生きておられるかもしれん」
「なら…「このままでは話が終わらん。また今度だ。とりあえずは今日の仕事の話をする」…はい」
そう話を切り替えると、国の地図を指した。
「知っての通り、いま我が国『フォルムーン帝国』は、十数年前建国された新国『サンライズ国』と戦争状態にある。初代国王ブズタがクーデターを起こして奪った際の王族の生き残りが建てた国だ。…その程度は習ったな?」
無言で頷く二人。
「よし、なら戦争の基本はなんだ?…フェン」
「…少数精鋭による領土の奪い合い」
フェンが答える。
「そうだ。『オリジナル』の使い手には、『レプリカ』百人が束になっても絶対に勝てん。さらに、無駄な戦死を防ぐ『プロテクトバンド』は消耗品の上に数が限られている。だから最終決戦以外で一般兵はほとんど出番がない。じゃあ次の質問だ。一般兵、一般部隊長、特務兵、戦死率の高い順に並べろ。…ミナ」
「一般兵、特務兵、一般部隊長…ですか?」
「そうだ。特務兵は出撃数こそ多いが、よほどのことがない限り、プロテクトバンドが支給される。一般部隊長は特務兵ほど出撃数がないが、プロテクトバンドは支給される。これが戦死率の違いに繋がっている。ただ、一般兵には支給されない。だから一般兵の戦死率は飛び抜けて高い。そのため少数精鋭による長期的な戦争が続くのだ。では基本を復習したところで今日の出撃地だ。戦争地域の最北端、『焦土の野原』だ。資源にも乏しく、お互いの国からかなり遠いこともあって、かなりどうでもいいと思われている地域だ。…要するに実戦に慣れろということだな。手前の地域までは『転移師』に送ってもらう。以上だ。二人の実力に期待しようと思う」




