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23 Thunder Storm

 炎は確かに防壁を貫いた。


『貴様はまた、よい姿を選んだものだ』


 その先に少年の姿はない。


 小さな体躯で大きな剣を担いだ少女が一人、佇んでいるだけだ。


「誉め言葉として受け取っとくよ」


 返事をするべき少年の声の代わりに、甲高い声が響く。


「黒騎士……? いや、違う。あなたは、一体」


 その姿は、太陽を思わせる少女の姿ではない。


 胸部の結晶は青く輝いている。


 黒い騎士の意匠を受け継ぐように、要所の装甲は夜の光のように黒く。


 その黒に映えるような、白銀の髪が月の光のように印象的だった。


 周りには抑えきれないエネルギーが紫電となって瞬いている。


「さあ? たった今変身したばかりだ。名前もないから名乗りようもないな」


「まさか、その青い輝きは天使の涙? ですが、リアがそんな気まぐれを起こすなど――」


 赤い髪の少女の困惑をよそに、天からは笑い声が響く。


『――本当に、おもしろい。たった今生まれし者よ、その誕生を祝福して名を贈ってやろう』


 白い髪の少女はその髪を揺らしながら、けげんな顔をする。


「いいけど。センスいいのを頼むよ」


『ルナ・エクエス。意味は月の騎士だ』


 訝しげだった白い髪の少女はその名を聞いて口角を吊り上げた。


月の騎士(ルナ・エクエス)。いいね、気に入った」


『それはなにより』


「何よりも(ルナ)ってのがいい」


 周囲のわずかに残った氷の壁のかけらが溶け、そして蒸発していく。


『そろそろ声を届かせるのも限界か』


 声もまた、確かなものではなく、雑音が混じりゆく。


「……二度、命を助けられたことになるのか」


『まさか。一度目は貴様の勝利の結果だ。今回は奴の掟破りに異議を唱えたに過ぎん』


 白髪の少女は先を見据える。


 その目線の先には赤く燃えるような、瞳があった。


「助けてくれたわけじゃないってか」


『見守るだけだとも。誕生を、結末を』


 少女は担いだ剣を構えなおす。


『ではな。その行く末が後悔のない結末になることを祈ろう』


 天の声は掻き消え、世界には少女が二人だけ残った。












「なあ、シエル。おまえはどうして、戦うんだ」


 オレはもう一度だけ、シエルに問いを投げた。


「言ったでしょう。あなたを魔王の元へ通しても、あなたは勝てない。だから、私はここであなたを防いでいる」


 違う。


 それは結果であって、理由ではない。


「オマエ自身の理由を聞きたいんだ。オレの弱さを理由にしないで、オマエの言葉で語ってほしいんだ」


 目に見えて、シエルの顔が怒りにゆがんだ。


「あなたは、そんなところまで黒騎士と同じなのですね」


 怒りに呼応して、使われた花弁が前よりも大きく復活する。


 嘆きながら、怒りながら、赤い力が増幅する。


「あなたは、残された者の気持ちを考えたことがありますか」


「残された者?」


 残された、と言われても、何の話かすら分からない。


 シエルはオレの勘の悪さに腹を立てたのか、さらにその目を見開いた。


「本当に、百年前と変わらない。あなたは、黒騎士の過去を垣間見たのではありませんか。そうでなくてはその鎧はあなたに力を貸さないはずです」


 シエルの目線は、オレの体の各所をつなぎとめている漆黒の鎧へと向けられていた。


 シエルの言葉の通り、誰かの過去をオレは追体験した。

 戦いの果てに、魔王によって敗れ去った一人の青年の物語の、その一部を。


「でも、そいつの過去がどうしたっていうんだ」


「それが、この扉の先に進むあなたの未来です。戦いの最中に大切なものを失っていく。戦いの果てに、体が崩壊する。戦いの後には、あなたが置き去りにした誰かだけが残る」


 そんなことはないと、否定はできない。


 きっと、変身を解けば歩くことすらままならない。戦いが終わった後、どうなっているのかなんて想像する意味もない。


「例え、世界を救うに至っても、あなた自身を救う神はいない。あるいは、救ったからこそ、関わった人間を不幸にする。それこそが身勝手な救いに待つ、不幸な終焉です」


 怒りのままに、火が揺らめく。


 その怒りを見て、ようやく、合点がいった。


「そういうこと、だったのか」


 どうして立ちはだかるのか。にもかかわらず、オレにまだ命があるのか。


 どうして、そんなにも張り裂けそうな顔を張り付かせていたのか。


 何よりも、どうしてその感情だけがこんなにも伝わるのか。


 その顔はきっと、鏡だったのだろう。


「オレも、一度そんな思いをしたんだ。自分の心の中がぐちゃぐちゃになるような、そんな思いを」


 ついた膝を、もう一度だけ立ち上がるために天へと伸ばす。


「そんなはずはないでしょう。もしも私の感情がわかるというのなら、その膝は出口へと向かうはずです。あなたを待つ人の元へ、帰るはずです」


 立ち上がることすら否定するように、火球が飛んできた。


 剣を一文字に振りぬき、それを壊す。


「オマエの気持ちなんてきっとわからない。少なくとも、百年も誰かに殉じてきたお前の気持ちは、オレなんかにはわからない」


 言葉は自然に出てきた。


「でも。誰かが目の前で倒れて、その理不尽を呪う気持ちだけは、理解できるつもりだ」


 脳裏によぎったのは今も傷だらけで眠っているであろう少女。


 彼女が倒れたあの一瞬を、きっとシエルは百年もの間抱き続けてきたんだろう。


 シエルの顔が、歯を噛み砕かんとするほどに赤い感情に染まる。







「――その口ぶりが、腹立たしい。その余裕が、忌々しい。何よりも、あの男を想起させるあなたと、この記憶が目障りだ」


 言葉とともに、シエルは炎の翼を携えて、大きく羽ばたいた。


「だから。全身全霊を持って。あなたを叩きのめしましょう」


 二度、三度、と羽ばたきを見送ったところで、ルナはこの部屋の異変に気が付いた。


 明らかに、入ってきた時よりも広がっている。


 横にも、上にも。


 まるで、戦闘区域が足りないと言う部屋の主の要望にこたえるように。


「あなたの感情は思い上がりです。あなたごときが私の感情を理解できる、などと。ああ、【変身】に至り力を使えるようになって、真実、思いあがっているのでしょう」


 部屋が一つの世界と見紛うほど大きくなってきたころに、シエルの炎の翼は一層羽ばたき、天を舞いはじめた。


「なら、理解しなさい。剣を握る限り、あなたは地に這いずるしかないと。――炎天回廊(サーキット)解放(オープン)


 炎の花弁が、燃え上がる砲台へと変化する。






 天に浮遊する少女は、地に足をつける少女を高みより見下ろす。


「あなたは届かない。地を這う騎士では、天を舞う私の元までは届かない」


「天じゃあない。たかが上空20メートルってところだろう」


 揚げ足を取るような指摘が、シエルの心を刺激する。


「何でも構わないでしょう、ミタカ。どちらにせよ、届かない。そして、剣しか持たぬ身ではこの流星群を越えられません」


 シエルの手元の花弁が輝きを増す。


 砲台はその照準を地上の少女へと向けている。


 ひたすらに死が降り注ぐのを前にして、白い髪の少女は笑みを崩さない。


「少し、違うな」


「何が違うと?」


「一つは名前だ。今の名前はルナ・エクエス。それは聞いていただろう」


 シエルの顔にいら立ちが浮かぶ。


「名前の呼称など、大したことではないでしょう」


「そうかな。大したことがない、というのならマスターと呼んでくれてもいいんだけど」


 ルナの見透かしたような笑みが、シエルの心をざわめかせる。


「いいでしょう、ルナ。ここで最後の別れになるのですから、たった一つの望みくらいは叶えましょう」


 シエルが魔杖を振り上げると同時、花弁の一つが十の火球に変化する。


「落ちなさい。月の騎士の意識を焼き尽くしなさい」


 天より地へと、星が落ちてくる。


 だがルナはなおも笑う。


「もう一つ訂正だ。剣しか振れない、なんてことはない。だって、この姿は」


 あふれていた紫電がルナの手元へと収束する。


「魔法少女なんだから」


 燃えながら落ちてくる十の火球を、収束した紫電が一閃となりそのすべてを切り裂いた。


 その現象を見て、シエルはかつての星の王女の能力を想起した。


「――あなたの真の属性は雷電。星の王女(スターデレミー)の炎は雷電の焦熱に過ぎなかった、というわけですか」


「さあな」


 まだまだ余力があると主張するように、ほとばしるような紫電が、ルナの周りにあふれている。


 だが、届かない。


「例え、あなたが最大限に魔力を扱えるようになったところで、翼を得るには至らなかったようですね」


 シエルは炎の翼を大きく広げ、さらに上空へと舞い上がる。


 ルナが雷を用いて攻撃してくるとしても、この天までは届かない。


 届くとしても、この天空であれば地上からの攻撃を受け止めるのはたやすい。


 ならば、この戦いはシエルが相も変わらず蹂躙を続けるに過ぎない。


「さあ、第二の花弁よ――」


 炎の花弁が十の星へと変化するとき、シエルの視界で何かがわずかに瞬いた。


「確かに、翼なんてものは手に入らなかった」


 ルナの言葉と同時に、地上の電撃は一層強くなった。


 シエルは理解している。


 どれだけの魔力をつぎ込もうと、シエルに有効打を与えるだけの電撃を飛ばすには至らない。


 なぜなら、たとえどれだけ効率的に魔力を扱えるようになろうとルナが扱う魔力は元の持ち主の魔力。


 つまり、三鷹月光の持ちうる魔力のみ。


 黒騎士の魂を利用しても、願いをかなえる青い涙を使っても、三鷹月光が扱える魔力には限界がある。


 そして、魔力に限界がある以上、その威力の推定もたやすい。


 シエルが花弁二つも使えば、ルナがどれだけの高出力でも燃やし尽くすことが可能であるはずだ。


 なのに、あの戦う意思がみじんも折れていない、勝利を見据えた瞳を見て、脅威であるとシエルは理解した。


「でも、空に手は届く」


 ルナの姿は一瞬のうちに消失した。




「消え――いや、違う」


 消失したはずのルナがたどる経路はシエルの目にははっきりと見えている。


 この空間にわずかに存在する、水蒸気の上を雷のような不規則な軌道で上昇してきている。


 まさか、と驚く余裕もない。


 瞬き一つした後には、剣を振りかぶったルナの姿がシエルの目前に存在したからだ。


「ハァ――!」


 大きく振り下ろされた剣を、シエルはとっさに手に持っていた魔杖で受け止める。


「く……!」


 その大きな衝撃に逆らうことなく、シエルは自身の体のダメージを最小限になるようにあえて大きく吹き飛ばされた。


「躱したな、シエル」


 衝撃を受けて下方へと位置を落としたシエルの上空より、ルナの声が聞こえる。


 ルナは大剣を担ぎなおし、なにもない宙に立っている。


 だが、真に何もないところに足をつくことは叶わない。


 ならば、ルナが足場にしているのは正確には何も見えない宙と言うべきだ。


 そして、何も見えずとも存在するものはそう多くない。


「……あなたは体の一部を雷に変化させ、この大気を足場としているのですね」


「実感としては伝っている、ってほうが近いけどな」


 ルナの足元では、あふれ出る電撃がバチバチと音を鳴らしていた。


 彼女は自らの体を一部電撃にすることで空気中の移動を可能にしているらしい。


 ありえない、と断ずる前に、そこに現実が存在する。


「そんな無茶は霧の中、雲の中ならいざ知らず。広がったばかりのこの空間ではできないはずですが――」


 周囲が、少しばかり魔力に満ちている。


 先ほどの氷壁の蒸発した水蒸気が上昇してきたものか、あるいは地上の獣が声を届かせるためにした何らかの細工のせいか。


 どちらであれ、魔力の籠った空間であれば、多少の無理は効くということはあるかもしれない。


「フェンリルめ、余計な置き土産を残してくれたものです」


 その残滓を少しでも落とすように、シエルは魔杖を一度真横に振った。


「剣以外の戦い方もある。空に飛ぶことができることも証明した。まだ力不足か?」


 そうは言いながらも、ルナは再度剣を掲げなおす。


 なぜなら、それを認めまい、とシエルの背後の炎の花弁が燃え盛っているからだ。


「いいえ。その力は未だ十全には至っていない」


「だから、引き返せ。そう言いたいのか」


「――――認めたくはありませんが。可能性はあるかもしれません。ですが、あなたの表情。暴走するその力を使いこなせてはいないでしょう」


 電撃が強く瞬くたびに、ルナの表情は苦悶に歪む。あふれ出る力が、彼女自身の体を蝕んでいる証拠だろう。


「おそらくは、肉体をすべて雷電へと変換するのは限界。宙に足をつける今でさえ、痛みで耐えることすら辛いでしょうに」


「分かるか」


「そのくらい、あなたの顔を見れば」


 思わず、と言った調子で笑みをこぼしたルナの表情を、苦痛が再度上書きした。


 電撃の毒は、彼女を強く、蝕んでいく。


 それを、見ていられない、とシエルは首を横に振る。


「十年、いや五年でいい。その力を使いこなせさえすれば、命を捨てずとも魔王に勝利する道は生まれるはずです」


 シエルの提案にルナは大きく息をついた。


「じゃあ、つまり。今のままでも命を賭ければ届く。そういうことだな」


 ルナの答えに、シエルの拳が震えるほどに握りしめられた。




「百年前と、変わらない」


 シエルにとって、その答えは認めるわけにはいかない。


 百年前と同じ答えなら、百年前と同じ悲劇に達する。


 地獄の中で、一人だけ取り残される、悲劇に。


 それは、認められない。


「なら、その意識だけでなく、体をも燃やしましょう。私は必ず、あなたをこの先には通さない」


 シエルが手をかざすと、その手元に九つの花弁が舞い戻る。


 万物に変化する花弁が、命を待つように燃え盛る。


「なら、証明しよう。オマエを超えられると。そして、その後ろの魔王にも到達しうる戦士であると」


 黒い剣は紫電を巻き込んで青白く瞬いている。


「オレは、月の騎士。涙を笑顔に変えるために、剣を取る」


 それを聞いて、シエルは決意を固めるがごとく、大きく杖を振り上げた。


「――私は。あなたを戦士などとは認めない。その身を焼き尽くしてでもあなたを止める」


 花弁の炎の一つが、魔杖へと収束する。





 ルナは直感的に理解する。


 剣を彼女に届かせるのなら、あの九つの花弁が邪魔であると。


 この戦いは、九の護りを超える走駆である。


「螺旋を描け」


 シエルの詠唱を受け、手元の炎が螺旋の渦を描いてルナの元へと飛来する。


 その螺旋を一文字に、黒い大剣が切り裂く。


 ――残る花弁は八。


 それを見届ける前に、二つ目の花弁が人間の体躯の二倍以上の槍へと変形していた。


「二重の槍よ、貫け」


 槍は巨大な質量を備えて、ルナへと飛び込んできた。


 剣で切り裂くには、質量が巨大すぎる。


「――雷よ、轟け!」


 代わりに、ルナのもう一つの武器である雷電がその炎の槍へ横から衝突する。


 炎は爆裂し、周囲を煙が包む。


 ――残り七。


 それを好機とみて、シエルのもとへ飛び込まんと、ルナは空を蹴る。


「目くらましからの状況打開。悪い手ではありませんが、読まれていては意味がない」


 魔杖の一振りで、風が舞う。


 ルナの視界に広がる煙霧は一瞬にして晴れた。


 代わりに、その視界に巨大な二本の炎の剣が水平に存在していた。


「――な」


「剣よ」


 鋏のように、その一対は敵を挟み込む。


「断て」


 首を断つべく、一対が上空より収束する。


 受けるには、剣が足りない。二本目の剣など、持ち合わせていない。


 退けば、勝機はない。永く戦えるほど、体はもたない。


 ゆえに、前に進む。


 目前に迫る断頭台の下を潜り、宙を蹴り落ちるように躱す。


 ――残り五。






 再度、この足は大地へと降り立ち、シエルとの距離は遠ざかった。


 代わりに標的を見失った二本の剣が消散するのも見届けた。


 見上げれば、炎の花弁も半ばまで減った。


 アレが復活する前に、懐まで飛び込まないと。


「ぐ――」


 地を蹴ろうとして、その脚部が割れるように痛む。


 その痛みで動きを止めた瞬間、上空のシエルと目が合った。


「実にしぶとい。ですが、これで終わりにしましょう」


 五枚の花弁がシエルの前で五芒星を描く。


 頂点たる五点を通過するように、紅い魔杖がぐるりと振り回される。


 その軌跡は、紅の円となって浮き上がった。


炎熱回廊(サーキット)制限解除(リリースアウト)


 シエルの言葉に応じて、その五芒星の中心が赤く溶けだす。


 あふれ出る熱が、周囲へと伝播し、その領域を拡大する。




 あの赤い輝きに覚えがある。


 森で見た、ソレイユの使った一撃にそっくりだ。


 けれど、ボロボロだった彼女の炎の柱と違い、頭上の熱はマグマとも太陽とも見紛うような、混沌とした熱の塊だ。


 止められない。


 躱せない。


 逃げられない。


 抗うすべてを、あの奔流は飲み込むだろう。




 なら、それをさらに飲み込むことで、打開しよう。




 炎の砲門を、この紫電で模倣する。


電磁回廊(サーキット)解放(オープン)


 紫電が円を描き、天を見据える砲台へと変状した。






魔力(ちから)比べとは。ヤキが回りましたか」


 赤が円の隅に到達したとき、強く輝きを増す。


 それに呼応するかのように、紫電の円もまた強く瞬く。


「いいでしょう。炎天よ、全てを焼き尽くせ!」


 熱の奔流が、降り注いできた。


「導け」


 その熱に、手を伸ばす。


 紫電が熱を迎え入れるように、その円を広げる。


「届け」


 炎熱が、電撃に触れた。


 この一瞬だけが、勝機を見いだせる。


 なぜなら、この炎熱の先にともに戦ってきた相棒の力があるからだ。


「――――繋がれ、電熱回廊(サーキット)!」


 己と、シエルの魔力の回廊を接続する。


 無茶なんてことはない。これまでさんざんやってきたんだから。


 その魔力を利用して、もう一度だけこの体を電撃へと変貌させる――!






 伝う。


 熱の奔流の内部を、電撃となった己の体が伝う。


 熱い、と感じることもこの一瞬だけはない。


 ただ、光るこの回廊の中で。


 この手を天へと伸ばす。






 光が消える。


 この体は、燃える回廊の先で再度少女の体を取り戻す。


 ――――残る花弁は零。


「――なぜ」


 その顔が驚愕に満ちている間に、さらに空を蹴る。


「――」


 高く振るわれた紫電の剣が、無防備な少女の頭上にて瞬いていた。


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