確かめてみりゃいい
「で。君たちは、力を付けるためにどれだけの努力を重ねているんだ?」
「……授業が終わってからは、殆どずっと。もう一ヶ月くらい経ってます」
今や敵意剥き出しのブレイドルが堂々と言い切る。
しかし、相対するガンドウは微動だにしない。
「俺は学院に入ってから、睡眠と食事を摂る時以外は極力修行に時間を充てるようにしているぞ。その程度じゃあ、到底努力とは言えんと思うが」
ましてや、と真顔で続けるガンドウ。
「君たちは非才の身だ。それっぽちの修行量を誇るようじゃ、未熟――というか、愚かとしか言いようがない」
「…………」
ガレットが無言で俯いている。
それを受けて、ガンドウは目を細めた。
俺は小さく舌打ちをした。
その程度じゃ、到底努力と言えない?
バッカじゃねえのか。
基礎体力や集中力には個人差があるモンだし、それぞれに適した練習量ってのを考慮しなきゃなんねえのは当たり前だろうが。
皆が皆、量を重ねりゃ強くなるって訳じゃねえのによ。
んなくだらんことでマウント取りやがって、空しくなんねえのかなあのハゲは。
……ああ、クソ。
調子が狂うぜ。
何で凡人如きを庇うようなこと言ってんだ俺は?
「結局」
薄く、日が陰る。
運動場全体に影が差し込んだ――ガンドウは酷薄に言い放つ。
「君たちは、くだらない虚栄心に憑りつかれているだけなのだよ。身の程を知らぬままランク以上の力を望み、恥じる必要もないことを恥じ――純粋に成長したいという気持ちが感じられない。本気で努力していないのだ。だから、まともに成長できないのだ」
……こいつ。
本当、に。
本当に、どうして。
どうしてそういうことができるんだろう。
恥じる必要もないことを恥じ、って。
何言ってんだよ?
苦しくて苦しくて恥じちまうだろうが、そんなの嫌が応にも。
自分の今までをランクで格付けされて数字で否定されて。
バカにされてさ。
恥ずかしいし、死ぬほど辛いに決まってんだろ。
晒し者にされてるみたいな気分だよ。
そうやって見くびられた時の惨めさを知りもしねえで、ふざけんじゃねえ。
だからあいつらは必死になってんだろ、見返してやろうって足掻いて足掻いてもがき抜いてんだろ。
苦しくなったらそこから脱出しようとするのはごく当たり前のことだ。
現状を打破しようともがいてる人間をテメーのちっちゃな定規で測ってんじゃねえよ。
今必死で頑張ってるヤツに、そんなんじゃ足りない、もっと頑張れ、とか。
真剣さが足りない、とか。
全霊で立ち向かって、それでもなお届かなかったヤツに、怠け者、とか。
どうにもこうにも上手く行かないヤツに、出来損ない、とか。
どうしてそういう惨いことを躊躇なく言えるんだ。
当たり前にそんな言葉をぶつけられるんだ。
足りてないのってそんなに駄目なことなのかよ。
なんでそんな他人に酷いことできるんだ。
……我ながら、今更なことを言っていると思う。
惨いことを躊躇なく言うのも、そういう言葉をぶつけるのも、足りてないヤツを駄目って笑うのも、俺は全部とっくのとうに経験済みだってのに。
俺もあいつも残酷さって意味じゃ大差ないってのに。
でも今ほんとに腹立つんだよ。
凄く胸が痛むんだ。
だから。
「そこまでにしとけやクソ根性悪ハゲ。思い上がってんのはどっちの方だ?」
勝手に言葉が飛び出すのだ。
以前、ギルドであのグレーの髪の女の子を庇った時と同じさ――別に二人を擁護しようとしてる訳じゃない。
ただ不愉快だから口を出すだけだ。
ぱっと彼らが振り向いた――
ブレイドルは驚きを浮かべていて、ガレットは……よく分からない。
そしてガンドウは露骨に不機嫌な様子だった。
「……何だと?」
「察しの悪いヤツだな。お前みてえな凡人が、同じ凡人に説教かましてんのが思い上がってるっつってんだよ」
ド直球にバカにした、コケにした調子で笑ってやる。
ガンドウの顔がみるみる険しくなっていくのが分かった。
アクアマリオンといい、普段はクールぶってるヤツでも少し煽られるとあっさり反応しちゃうモンなんだな。
彼は苛立ちを露わにして言った。
「……ドラゴリュート。貴様、ふざけるのもいい加減に――」
「おいおい、ふざけてんのはそっちだろ? ガレットとブレイドルが凡人だってことにゃ同意するが、お前も大概じゃねえかよ身の程知らずのザコ術師が」
思い切りバカにした調子で混ぜっ返す。
ガンドウは一瞬真顔になり――そこからすぐに嘲笑をツラに張り付けた。
「ザコ術師? はは、お前のような人間でも冗談を言うのだな、ドラゴリュート。俺と彼らが同格に見えると? まるで“校長”のようなことを――バカバカしい」
校長、と言う時だけ、ガンドウの目が昏く染まった。
こいつ、校長(そう言えば入学式で一度顔を見たきりだな)に何か言われたんだろうか。
だがんなことはどうだっていい――苛立ちに任せて喋りまくる。
「校長がどうだとかは知らねえ。客観的な事実を述べてるだけさ――俺からすりゃお前も凡人だって、そんだけだよガンドウ=ヤナギ。虚栄心がどうとか御高説を垂れてたけどよ、ほんとは自己紹介してただけなんじゃねえのか?」
「……何を、ふざけたことを」
ガンドウ――その厳めしい顔が、確かな憎しみで染まった。
ビリビリと魔力の波動が伝わってくる。
「なら、お前は彼らが俺に決闘を仕掛けてきたとして、勝てると思うのか? 俺たちの実力に大した差はないのだろう?」
「……それは」
一瞬、言葉に詰まった。
それは確かにそうだ。
少なくともガンドウはガレットたちよりは圧倒的に強い――
その隙を彼は蛇のように目ざとく見逃さなかった。
「ほらな――答えられないだろう? 所詮はくだらんジョークだよ。彼らの戦いはトーナメントで一度見たきりだが、酷いものだったな――今もそこから大して成長していないのは、その貧弱な魔法力を察知すれば簡単に分かるぞ」
散々言われ――二人はすっかり俯いてしまっていた。
それが余計に不愉快で、腹が立って――勝手に口が動いていた。
「ほざけクソハゲ男。ロクに見もしねえ内から、んな決めつけきったことをほざくのは凡人の証拠だぜ――そこまで言うなら、自分の身体で味わってみりゃいいさ」
「……何だと?」
俺は、ガレットとブレイドルの両肩に手を載せた。
「決闘だよガンドウ=ヤナギ。ガレット=アラヤヒールとバーン=ブレイドル――こいつらと戦って確かめてみりゃいい。お前の、才能の乏しさってヤツをな」




