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したり顔で



 どっしりとした深い色の瞳。

 短く刈り上げられた清潔感のある頭。

 泰然自若と呼ぶにふさわしい、落ち着きのある態度。

 ……何となく、前世で俺をよくからかってきた、運動部の連中を思い起こさせる容貌。


 Sクラス、二年生――ガンドウ=ヤナギ。

 彼は興味深げに俺たちを見つめ、それから口を開いた。


「……これは一体、どういう」

「あー、暇潰しだよ暇潰し。……あのクソ共が稽古付けてくれって言うからさ、引き受けたんだ。丁度退屈だったし」

「それは……何というか、意外だな」


 目を見開くガンドウ。


「まあ何だ。そういうことをするタイプだとは、思わなかった」

「テメーの見る目のなさが露呈したって訳だな」

「……口の悪さも予想以上だよ。アクアマリオンも彼に付き合っているのか?」


 話を振られたアクアマリオンは、緩く首を振った。


「そんな所。ただ、興味が湧いたから一緒に居るだけ」

「興味が湧いた……か。なあドラゴリュート、彼らはなぜ稽古を?」

「あ? ええと確か、クラス以上の力を身に付けたいとか何とか言ってたような。……あと、それから」


 そこから、言葉に詰まる。

 アクアマリオンが、目を細めて俺の顔を覗き込んでくる。

 ……その視線が、妙に鬱陶しかったので。

 つい正直に答えてしまった。


「その――俺を、失望させたくないんだってよ」

「失望?」


 何かを誤魔化すかのように俺は自分の服の裾を掴んだ。


「頑張ったり悩んだり、そういうのが無意味じゃないって――価値が、ちゃんとあるんだって。それを証明したいんだと」

「…………ほう」


 ――気のせいだろうか。

 ほんの一瞬、ガンドウの顔が強烈に歪んだ気がした。

 何か恐ろしく不愉快げな、触れられたくない部分を触れられたかのような――


「――ふふふふふっ……シズムくん、ようやく覚悟が決まったよ。あなたのためなら、私、どんなに苦しい修行にだって堪えてみせる! だけど、できれば、こう、少しだけ、少しだけでいいから、その、温情、温情を……」

「言うほど覚悟決まってないじゃないか。まあ所詮アラヤヒールだ、シズムくんも初めから君に期待なんて――って、あれ、貴方はSクラスの!?」


 丁度そこにガレットたちが戻ってきた。

 恐縮した様子でブレイドルが頭を下げる(ガレットはピンと来ていない様子だった)。


「は、初めまして、ガンドウ=ヤナギ殿っ! 僕の名前は――」

「ああ――いや、大丈夫だ。君たちのことは知っているよ、トーナメントでドラゴリュートと戦っていた子らだろう」


 それより、とガンドウはどこか冷たい瞳を向ける。


「――ひとつ。君たちに聴きたいことがあるのだが」

「え?」


 何か、異様な感じのする喋り方だった。

 先程までの力強さは薄れ――粘性で気味の悪い、グズグズの泥水のようなものが今、彼の瞳に宿っていた。


 生暖かい風が頬の横を吹き抜ける。

 虫の死骸が音もなく転がっていき――ガンドウは、言った。


「君たちは、自分に与えられたクラスに不満があるから修行をしているのか?」

「へっ? い、いや、別に――」

「言い訳をするのはよせ、余計惨めになるだけだぞ。……いいか、二人とも。クラスの高低を恥じることこそが最も恥ずべき行為なのだよ」


 ドス黒いゴミの塊に無理矢理ペンキを塗りたくったみたいな声が、格下クラスの内心を断定する。

 流石の二人もその言い方にはカチンと来たようだ。

 挑戦的に睨み返してくるガレットとブレイドルに、ガンドウは小さく溜息を吐いた。


「あのな――現実を見ろ。今までただの一人でも、自分に与えられたクラスから脱出できた者がエストに居たか? そんな話を聞いたことがあるか?」

「そ、そりゃ、ないですけど……でも」

「この世にはな」


 ブレイドルの言葉を遮り、ガンドウはしたり顔で言った。


「それぞれに与えられた領分というものがある。そこに貴賤などありはしない――例えば、低ランク卒業生の大半は、実家に戻るかギルドに身を寄せるかの二択を迫られるな。意地の悪い者にそれを笑われることもあるだろう。だがな、研究を継ぐのに――或いはギルドで市民の生活に貢献するのに、恥じるべき所などあるか?」


 ……こいつ、いきなり何を言い出してるんだ?

 反射的に思う。

 言われた二人も似たような状態だ。

 今はもう、怒っているというよりは戸惑っている感じだ。

 アクアマリオンは茫然とした様子で、ぽつりと呟いた。


「…………ガンドウ。あなた、そんな浅いことを言うような人間だった?」


 ――その言葉に、ガンドウは顔を歪めた。


「浅いこと? 何を戯けたことを、アクアマリオン――俺は、ただ彼らに意見を述べているだけだ」


 うそぶくガンドウ。

 何か気味の悪い笑みを浮かべ、彼は言った。


「お前はどうも、頓珍漢なことを言って場を乱す節があるな。優れた探知能力にかまけ、ロクに他人とコミュニケーションを取ってこなかったからそうなってしまうのだろうよ」

「な……に、をっ」


 動揺するアクアマリオン――その頬が、急激に色を失う。

 ガンドウは酷薄な笑みを浮かべ、再びガレットたちへ向き直った。



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