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まだそんなふうには思えないけど



 休日、例によって予備運動場。

 普段は人気のないその場所で、色とりどりに飛び交う魔力粒子――


 ティッシュ一枚破けないようなクソショボい呪いを叩き落とす。

 犬がじゃれついてくるが如き念動力を、ただの気合でねじ伏せる。

 小学生のガキでも引っ掛からないであろう稚拙なトラップを消し飛ばす。


 ガレットのカスみたいな妨害――それら全てを片手間で捌きつつ、果敢に打ちかかってくるブレイドルを俺は圧倒していた。


 必死の形相、声すら挙げぬまま彼は銀色の刃を振り回してくる――

 袈裟懸けに一撃、次に横薙ぎ、振り降ろしてのち、即斬り上げ。

 その全てを完全に見切り、途中ではたき落す。

 呆れるほどに単調かつすっとろい攻撃だ――スタミナの消耗に伴い、勢いの落ちた刃を素手で掴み、握り潰した。

 凝固したエネルギーの砕ける音が響く――


「っ――!?」


 自慢の魔法をただの腕力で砕かれ、動揺するブレイドル。

 怯んだ彼の身体を、俺は瞬時に念動力で捉え――そのまま、五メートル近く吹き飛ばした。


「おあああああっ!?」


 ぽーん、とゴム毬が如くブレイドルは宙を舞った。

 頭からまっ逆さまに落っこちて、あわや大惨事――ぼふんっ。


「うわあああっ――とおおっ、ブレイドル大丈夫!?」


 と思いきや、すかさずガレットが魔法でフカフカの雲を空中に作り出し、寸前で彼の身体を受け止めた。

 凡人にしちゃ悪くない反応だ。


「あ、ああ、助かった! ただちょっと余力的には大丈夫ではないかな!」

「お互い様でしょう、そんなモンっ!」


 しかし、今ので彼女は相当エネルギーを消耗してしまったらしい――肩で息をしている。

 だからと言って、容赦などしない――

 フラフラの二人めがけて、更にエネルギー弾を撃ち込む。


「ひゃあっ!? ち、ちょっとタンマタンマ!」

「オラどうしたゴミクズ二匹!! その程度で俺を失望させないだの努力にも意味はあるだのと御大層なことほざいてやがったのか!?」

「い、いや、待っ、待ってシズムくん! 死んじゃう! これ以上魔法使ったら死んじゃう私たち!」

「知るか!! 死ね!!」

「死ッ……そ、そんなご無体な! せめて休憩、休憩をっ……!」


 汗まみれの顔を光らせてガレットが喚く。

 びしょびしょになったシャツが胸やら腰やらにピッタリと張り付いていてだいぶ艶めかしい感じだが、んなこたどうだっていい。

 ブレイドルも似たような状態だった。


 甘えたことほざいてんじゃねえよ、と怒鳴りつけようとしたが――どうやら二人とも、本当にガス欠らしい。

 魔力残量を見る限り、これ以上組み手を続けても効果は上がらなさそうだ。

 ……しょうがねえな。


「ったく。んじゃ、一時間休憩だ――それまでに少しでもスタミナ戻しとけ」

「はいっ……よ、よかったあ、私干からびて死んじゃうかと思った」

「何せ、朝から昼までブッ通しだったからね……うわ、身体中バキバキだ」


 ――でも、とブレイドルはこちらを向いて笑った。


「何だか、前よりもずっとパワーが付いてきた気がするんだ。……本当に感謝しているよ。ありがとう、シズムくん」


 唐突に述べられた感謝の言葉――俺は、一瞬胸がドキッとしてしまった。

 なぜかガレットまで嬉しそうに微笑んでいる。

 何だか妙に気恥ずかしくなって、ふいとそっぽを向いた。


「……無駄口叩いてる暇あったら休めってんだよ凡人。言っとくが、午後からは更に厳しくすっからな」

「さ、更に厳しく!? えっ今までの以上に厳しいトレーニングとかこの世に存在するの!?」

「うん」

「いやうんってシズムくん君そんな惨いことを!! そんなああああああああ畜生何てこった!! 何てこったああああああ!!」


 狂乱する凡人二匹を尻目に、俺は日陰に戻り、魔法でウッドチェアを出した。

 深く腰掛け、彼らを眺める。

 …………。


「……難しい顔をしている。考え事?」

「うわまたかよアクアマリオン。お前ほんと何しに来てんの?」

「色々」

「そのフワフワした回答止めろや。カッコいいと思ってやってんのか」

「べ、別にそういう訳では……」


 アクアマリオンは青髪を揺らし、言った。


「と、ともかく。彼らの調子は、どう?」

「どうって。……まあ、いいか悪いかっつったら、いい方だよ」


 でも――と、俺は両手を組んだ。


 本当に、彼らの実力は飛躍的に向上しているのだ。

 ブレイドルは持ち前の体術に更に磨きが掛かったし、刃の魔法も格段に応用が利くようになった。

 ガレットに至っては、全ての能力が以前とは比べ物にならないほどに成長しており、もはや別人レベルである。


 ――だが、結局はランク相応程度。

 評価を覆せるほどの力を得られている訳ではないのだ。


 ネックはやはりエネルギー量の低さだ。

 単純なテクニックや練度を高めるのは容易い。

 だけど、最大魔力保有量に関しては本当にどうにもならない。

 このまま稽古を続けても、ランクの境目に手を掛けるくらいの所までしか到達できないだろう。


 何よりも厄介なのが、ブレイドルの刃の魔法の構造のどうしようもなさだ。

 ただでさえコントロールに難のある術だ――あまりにも、あまりにも消耗が激し過ぎる。

 “脳味噌が二つあるレベルで”センスのあるヤツならどうにかなるだろうが、ヤツらにそこまでのものがあろう筈もない。


 どう足掻いても、才能>努力。

 そうだ――こと魔法に関して、そこを覆すことは絶対にできねえんだ。


「だとしたら、高みに昇るために必要なものって何だろう。一つ――何か一つ、新たな発想の転換が必要なんだよ。そいつさえ分かっちまえば、あいつらは格段に強くなれるはずだ――」


 ……そこまで喋って、俺は頭を振った。


 いやいや待て待て。

 何をクソ真面目に考えてんだよ俺は。

 どう足掻いても才能>努力、ってのをヤツらに教え込むのが目的の筈だろう。


 バカバカしい、と舌打ちをして――

 ふと、アクアマリオンの様子がおかしいことに気が付いた。


「あ? 何だよ」

「……いえ。何でも」

「はあ?」


 アクアマリオンは驚いたように目をパチパチさせていた。

 若干気の抜けた声を俺に向ける。


「……意外。そういう顔もできたとは。知らなかった」

「そういう顔ってどういう顔だよ気持ち悪いな。意味分かんないこと言ってんじゃねえよ」


 などとボロクソに言っていると――


「――昼休みになる度にどこへ行っているのかと思ったら、こんな所に居たのか。アクアマリオンに、ドラゴリュート」


 突然、背後から声を掛けられた。

 ぱっと振り返る。

 真っ先に目に入ったのは、刈り上げられた頭と鍛え抜かれた肉体、鋭い瞳――


「彼らは――確か、CクラスにBクラスの生徒か。ふむ……」


 ――ガンドウ=ヤナギだった。



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