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アレ倒せ



「あの大きな魔力の正体は、こいつか……」

「実験の被害者――その残留思念と魔力が歪に結合した結果生まれた生物。……いや、“生”物と呼べるかどうかは、分からないけれど」


 アクアマリオンは皮肉っぽく笑った。

 そんな笑うようなことかな。


 ……にしても、と額を抑える。

 想像以上に酷い――多分、実験の被害者の残留思念を起点にしつつ、肉体と脳とエネルギーとをめちゃくちゃに合体させたんだろうな。 

 ただのエネルギー過剰だったらどうにかならないこともなかったろうが――ここまでとなると、もはや治療も分離も不可能だ。


 おまけに――多分だけど、被害者はまだ意識を保っている。

 微かだが、人間の精神の気配を感じるのだ――それも、複数の。

 いや、流石にそこまで明確なモンでもないだろうけれど、少なくともエネルギーの暴走や精神の混濁に伴う苦痛は今なお味わい続けている筈だ。


 ……訂正しよう。

 鬼畜の所業、なんてモンじゃねえ――こりゃ、まるっきり地獄だ。

 地獄そのものが、この場所に顕現していやがる。


 ま、いいや。

 ひとまず俺は赤子の持つ潜在魔力を探った。

 ん、案外大したこたないな。

 相当甘めに見積もっても、Bクラス以上Aクラス未満ってトコか。

 ふむ。


「な、なんて大きく、そして禍々しい姿だ……っ!」

「……でも、何だか――きゃっ!?」


 ガレットが叫ぶ――刹那、足元に生じる違和感。

 ――何かが蠢いている?

 咄嗟に跳び上がり、魔法で滞空する――何だ、どうした――

 地面を見下ろし、目視する。

 ……うわあ~。


 そこには――どう形容すべきか分からないけど、その……。

 小刻みに震える腐った生肉のカーペットみたいなのが広がっていた。

 恐らく床に飛び散っていたグズグズが集まってきたのだろう。

 すかさず千里眼を使い、性質を看破――ふむ、纏わり付かれるとエネルギーを吸収される系のアレか。

 一々キモいんだよ、クソったれめ――内心で吐き捨て、叫んだ。


「ビビるなっ! 所詮は肉片だ、魔力を放出すりゃ簡単に散らせる!」

「っ――わ、分かったっ! クソ、酷い有様だ……!」


 ブレイドルが刃の魔法を繰り出し、デッパも怯みながらも応戦している。

 よし――問題なく対応できているな。

 気を取り直して、再度赤子に向き直る――アクアマリオンは既に根っこを取り出していた。


「え、何。お前も戦うの?」

「当然。あれは多分、魔力の大半を再生機能に充てている。幾らあなたでも、一人で仕留め切るのは――」

「は?」

「……じ、冗談。あなたが単独での撃破を望むのなら、私はそれに従う」


 などと軽口を飛ばしていると、赤子が突然身を縮め始めた。

 赤黒い肉がぷくりと膨れ上がる。

 何事か――と思う暇もなく、そこからバスケットボール大の弾丸らしき物体が射出された。


「おおうっ」


 咄嗟に身を捩って回避――視認してからでもかわせる程度の弾速。

 ――物理的な破壊力には乏しいか。

 とか思っていたらデッパが顔面にモロに喰らっていた。

 あっ凄い悲鳴挙げてる……ガレットとブレイドルが必死に介抱しているらしい。


 でも、見た感じ致命傷ではなさそうだ。

 少しヤケドした程度――やっぱ大して強くないな。 


 ――いや。

 かぶりを振って、赤子の方を見る。

 ヤツはこちらの様子を窺うように――或いは、何かに怯えているかのようにじっとしている。


 そうだ。

 あいつには、まだ人間の精神が残っているんだったな。

 だから本気で暴れること――他者を傷付けることを忌避しているのだろうか。

 となると、実質的な生命の危機は皆無――とまでは行かずとも、そう気を張る必要はないって訳か。


 うーん、よく分かんないな。

 こんだけめちゃくちゃやってなお人間だった頃の意識を消し切れていない――つまり兵器としての転用はまず不可能。

 単にエネルギータンクとしての利用を考えていた?

 それもなさそうだ、反逆された時のリスクがデカ過ぎるし。

 だったら、悪趣味な研究者の暇潰しか――あ、これは有り得そうだな。

 でも、暇潰しにしちゃ手が掛かり過ぎているような……。


 ……。

 あ、そうだ。

 いいこと思い付いた。


「おいガレット、あとブレイドル」

「……へ?」

「ど、どうしたんだい? シズムくん」


 俺は至って軽いノリで言い放った。


「――第一の修行だ。お前ら二人でアレ倒せ」


 二人の顔色が、みるみるうちに悪化していった。



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