残骸
「ヤツらは攫ってきた子供に、具体的にどのようなものかは分からないが――高密度のエネルギー体を埋め込んでいた」
「高密度のエネルギー体って……え、そんなの魔法使いからすりゃご褒美みたいなモンじゃねえか。確かに子供にゃ負担がデカいかもしれねえが」
どういうこった、と俺は片眉を上げた。
実際、自分の魔力変換効率を高めるべく、マジックアイテムを体内に埋め込む魔法使いはそんなに少なくない。
もっとも、拒絶反応というデメリットもあるので一長一短なんだけど。
しかし、アクアマリオンは険しい顔で首を振った。
「違う。――彼らが実験の対象としていたのは、非魔法使い」
「……おおう」
マジかよ。
流石の俺でも若干引いたぞ。
――非魔法使いの肉体にとって、魔力ってのは完全なる毒だ。
いや、筋力増強の術とか癒しのおまじないとか、魔力を消費して生じた効果そのものは別に全然平気なんだけど……。
だが、身体に直接純粋な魔力を打ち込まれたとなると話は変わる。
まず魔力――つまり超自然エネルギーと、生き物全てが当たり前に持ち合わせている生命エネルギー。
学派によって解釈は異なるが、一般に両者はごく近い存在であるとされている。
つまり、生命力代わりに魔力を、或いは魔力代わりに生命力を用いることが可能なのだ。
しかし、非魔法使いには魔力を分解して排出する能力が備わっていない。
だから直接魔力を取り込んでしまうと、言わばエネルギー過剰の状態に陥ってしまうのだ。
キャパシティを超えた大量のエネルギーはやがて肉体を蝕んでいき――
最終的には、その、色々ととんでもないことになってしまう。
……昔、医学書でエネルギー過剰になった非魔法使いの図を見たことがあるが、その日はまともにメシが食えなかった。
そんな非道を子供相手にかますとは……。
まさしく鬼畜の所業と言った所か。
……ん。
いや、待て。
「もしかしてさ、このイヤーな匂いって……」
「……恐らく」
アクアマリオンは俯き、言った。
「実験の餌食となった子供の、“残骸”」
「うっわあああ……」
ちょっと、もう、想像しただけでキッツいわ。
あー畜生め、親玉もトンズラこくなら後始末くらいキッチリしとけや。
後で祟られても知らねえぞ。
予想以上に胸クソ悪い展開だぜ、ふざけやがって。
俺は両手を合わせ、ヤケクソ気味に叫んだ。
「とにかく早いトコこの大きな魔力の持ち主を潰して帰ろうや! クソったれめ、最高に気分悪いわっ!」
「同感」
短く呟き、互いの意思を示し合わせたその時――
「――きゃあああああああああああああああああああっ!?」
大きな悲鳴――ガレットの声――が上がった。
同時に、魔力が更に大きく膨れ上がり――更に腐臭が強まっていく。
「っ……不味い」
「よりによって凡人三匹の方が遭遇しやがったか――急ぐぞ」
ごちゃごちゃ考える前に走る。
くたびれた机を吹き飛ばす、壁を突き破る――
声の発生源、気配の元へ向かって最短経路で駆け抜ける。
数分後――幾分か開けた場所に辿り着いた。
気色の悪いグズグズまみれの地面を蹴飛ばし、瞬時に戦闘態勢へ移行――
バリアを展開する。
見た所、ガレットとブレイドル、デッパはショック状態だが、どうやら全員無事らしい。
不幸中の幸いというべきか――
だが今はそんなことに気を向けている場合ではない。
俺は三人めがけて叫んだ。
「いつまで固まってるつもりだボケナス共っ!! ボサッとしてないで俺らの後ろに下がれっ!!」
暗闇に響く怒声に、彼らはようやく正気を取り戻したようだ。
「あ――し、シズムくんっ!! よ、よかったあっ、私死ぬかと――」
「くっちゃべってる内にほんとに死んじまうぞ!! いいから走れ、下がれ!!」
「へ、は、はいいっ!!」
バタバタと慌ただしく駆け出す三匹。
ふう、と息を吐き――俺は立ち塞がる“それ”を睨み付けた。
十数メートルはあろうかという巨躯。
猛烈な腐臭――あの匂いはこいつから発せられていたのか。
歪に組み上がった骨格に絡みつく、ドロドロの赤黒い肉。
時折小刻みに身を震わせ――その度に、得体の知れないゼリー状の物体がボタボタと音を立てて落ちてくる。
姿は丁度ハイハイをする赤ん坊に近い。
しかし、それを人間――或いは生物と称するにはあまりにグロテスクだ。
異形の赤子――
漠然と頭に言葉が浮かんだ。
「……ほんっとに、悪趣味な連中だな」
ここの連中、絶対末代まで祟られるだろうなあ。
そう思い、俺は場違いに笑った。




