でなきゃ私が
「実際――吹き飛ばし魔法はあまりパワーのない術だ。大人の身体を文字通り吹っ飛ばす程度の威力しかないし、直接的な殺傷能力にはやや乏しい」
エネルギーを練り上げる。
掌が熱を帯びる――弾ける魔力の粒、淡い銀色の光。
「だけど、この魔法は戦闘における最重要ファクター――少なくともお前らみたいな凡人に取っちゃの話だが――の一つをある程度コントロールすることができる」
「そ、それは一体……?」
神妙な顔で話し掛けてくるガレット。
俺は平坦な声で答えた。
「――距離だよ」
淡い銀の燐光が暗闇に融ける。
たゆたう、舞い散る――軽やかに砕ける。
「距離があれば単に着弾するまでの時間が延びるし、狙いが甘くなる――そして、どんだけ厄介な術技や呪いを持っていたとしても、当たらなきゃ意味がねえ」
「つ、つまり、吹き飛ばし魔法を覚えておけば、戦いが有利になるってこと?」
「戦況を覆すほどじゃあねえけどな。それに、モンスター相手だとまた色々事情が変わってくる」
散った銀色の破片を指で摘まみ――俺は二人に目を向けた。
「ここまでつらつら語っといて何だけど、お前ら、吹き飛ばし魔法はどの程度使えるんだ? まさか全く使えねえってこともないだろう」
「え? 全然使えないけど」
「僕もだ」
「お前らマジでどうやって入学試験の実技通ったんだよ……?」
駄目だ、これ以上彼らの実力の話題を出すのは止めよう。
ちょっと普通によく分からない部分が多過ぎる。
「元がショボい魔法だし、俺でも大した威力は出せねえが――ま、精々参考にしとけや」
言って、俺は腕を引いた。
視界の端で、露骨にバカにしたように笑っているデッパを捉える――
うわ、ただでさえブッサイクなのに笑うと余計酷いことになるな。
無表情のまま死んじまえばいいのに。
などと惨いことを考えながら
「使い方は至って簡単だ。念動力を掌の表面に集めたら、後はストレートを繰り出す要領で――」
そのまま腕に力を込め――
「こう、振り抜く」
瞬間――通路が“吹き飛んだ”。
世界をつんざく轟音――
比喩表現ではない、本当に通路そのものが吹き飛んだのだ。
壁が抉れて石片が飛び散り、鉄筋が剥き出しになる――
巻き上げられた床は四方八方にすっ飛んでいく――
削る削る削る。
黒づくめの男たちは、ぎょっとする暇も逃げる時間も与えられぬまま、彼方へ吹き飛ばされていった。
……あれ……。
なんか思ったより偉いことになったな。
きまり悪げに後ろを振り向く。
アクアマリオンは全身を硬直させていた――引き攣った頬を、一筋の汗が滑り落ちる。
デッパはアゴが外れそうなくらいに口を開いている。
そして、ガレットとブレイドルは――
「すっっ――ごおおおおいっ!! こ、これが吹き飛ばし魔法なの!?」
「いや、本来の吹き飛ばし魔法はもっと基礎的な――」
「こ、こんなとんでもない術も君にとっちゃ基礎的だってのかい!? 流石は最も優れし魔法使いっ……くうう、痺れるなあ!!」
「聞けよ」
物凄い勢いで褒め称えてきた。
ああもう鬱陶しいな。
「あのな、落ち着けったら! お前ら凡人があれを使ったところであれだけの威力は発揮できねえよ。期待するだけ無駄だ無駄」
「ううん違う、そうじゃないよ! 私が言いたいのはそういうことじゃない!」
「は?」
ガレットが目を輝かせて言った。
「私にもできるとか、そういうのは別にどうでもよく――はないけどっ、でもそんな初歩的な術であんなことができるシズムくんが凄いって思ったんだ!」
「凄いって……だから、こんなモン天才の俺にとっちゃ当たり前――」
「それも違うよ、シズムくんっ!」
は?
何だガレット、お前反論という概念を持ち合わせていたんだな。
脳味噌腐ってるような賢さしかないくせに。
彼女は、怒ったみたいな(実際は凄いアホヅラである)顔をして、俺に顔を近付けた。
「才能があるとかないとか関係なくて、凄いことは凄いって言うべきだよ! 当たり前だなんてしょっぱい言葉で自分の凄さを小さくするのは、駄目……じゃないけど、んん、分かんないけどっ! 素敵なことを勘定から外したりしないでさ、あなたはあなたの偉大さを深く誇るべきなんだ!」
――でなきゃ、私が悲しいよ!
そう言って、ガレットは太陽のように笑った。




