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吹き飛ばす



 暗闇を進む、進む、進む。

 通路を遮るガラクタは吹き飛ばす、鍵のかかった扉は壊す。

 怪しい所が見つかったら、隠し通路かもしれないのでとりあえず爆発させる。

 道中罠らしきものも仕掛けられていたが、そんなモンで俺の足を鈍らせることなどできない。


 飛ばす飛ばす飛ばす。

 突っ切る、ひたすら突っ切る――


「ま――待ってっ、シズム」


 疲れた声が背中に飛んできた。

 俺はとぼけた顔を作り、振り返った。


「あん? 何だよアクアマリオン。用でもあるのか」

「……大アリ」


 憎々しげに、彼女は汗を拭った。


「あなたの動きはあまりに派手過ぎるし、早過ぎる。それじゃあすぐ敵に見つかってしまうし――それに、ペースというものを考えて」

「早くに敵が出てきてくれた方がいいじゃん、とっとと潰せてさ。そして凡人如きに合わせるペースなんぞ俺は持ち合わせてねえ」

「減らず口……」

「事実を述べてるだけだよ能無し。少しは論理的ってのを思考を学べや」

「…………」


 一瞬、彼女は反論するべく口を開きかけ……また閉じた。

 何だつまんねえの。 


 もうちょいからかってやろうとしたが――


「……んん。微妙に間が悪いな」

「え」

「もう来やがった」


 暗がりに目を凝らす。

 何かが闇の中で蠢いている――こちらへ猛スピードで接近してきている。

 大きさ、形からしてモンスターの類ではない。

 人間だ――黒づくめの人間だ。


 アクアマリオンも気が付いたらしく、魔力を集中させ始めた。

 少し遅れてガレットとブレイドル、あとデッパが追いついてきた。


「おう、やっと来たか。ほれ出てきたぞ敵が」

「あ、あの真っ黒な人たちが“子供攫い”なの? わー……何であんな黒い服ばっか着てるんだろう。柄物を着るのが恥ずかしいのかな」

「止したまえそんな容姿とファッションに自信のない集団みたいに言うのは……」


 この(俺以外にとっては)切迫した状況下においてもガレットとブレイドルは全くブレていない。

 強い。

 精神が強い。

 と、ただ一人本気で怯えているらしいデッパが青い顔で叫ぶ。


「いやいや、のほほんとしてる場合ですかっ!? あれだけの数、幾らなんでもこの人数じゃ捌け――」

「丁度いいや。おいバカ二匹、師匠の最初の教えをくれてやる」

「話聞いてます!?」


 聞いた上で無視してんだよボケナス。

 それはさておき、“教え”という単語に、二人は物凄い勢い目を輝かせた。


「お、教え!? 何それ何それっ、めっちゃ気になるよシズムくんっ!」

「うおお、シズムくんから賜る最初の教えかっ……! うう、この身に流るブレイドルの血が騒いじまうよっ!」

「いやだからそれどころじゃないんですって! 敵が迫ってきてるんですって!」


 知るかそんなモン。

 デッパに対するシカトを継続しつつ、俺は人差し指を立てた。


「いいか――お前らみたいな凡人が瞑想なんかを幾ら重ねた所で、あんまり意味はない。魔力なんてそうそう増えるモンでもないからな――だったら、今のお前らに必要な修行ってのは、何だと思う。ガレット、答えろ」

「へ? な、何だろう、ええと……筋トレとか?」

「お前……もう、本当に……殺すぞ」


 全然違えよ、と指を振る。


「少しでも使える魔法を増やすんだよ。とにかく行動の幅を広げるんだ。一つでも多く術を、呪いを、反対呪文を学ぶんだ。対人戦闘――こと魔法使い同士の対決において、質の高い知識はそのまま戦闘力に直結し得るからな」

「おお――な、なるほどっ……!」


 二人は感嘆の声を挙げる。

 まだ本題にも入ってないのに、凄い興奮っぷりだ。

 さて、肝心なのはここからだ。


「で、今から見せるのは、その基本となる術――吹き飛ばし魔法だ」

「へっ?」


 今、気の抜けた声を発したのはバカ二匹ではない――彼らは今、熱心にどこからともなく取り出した紙切れにメモを取っている。

 デッパだ。 

 彼は焦燥も忘れ、はは、と笑った。


「な、何ですかい――吹き飛ばし魔法だなんて、そんなの、初歩中の初歩でしょうが。そんなことを今更教えるって、エストも案外レベルが――」

「……それは少し、考えが甘い」

「えっ!?」


 アクアマリオンが真顔で言った。


「見ていれば分かる。――お手並み拝見」

「は、はあ……?」


 おう、ナイスフォロー。

 凡人如きが見ているだけで理解できるとも思えねえけどな。

 ――ま、どうだっていいや。


 俺はゆっくりと魔力を高め始めた。



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