何が何だか
「それで。これからどうすんだよ、デッパとやら」
「へ――あ、は、はい! ええ……ええと、確かもう一人協力者が来るとのことなんで、暫くこの場で待ち合わせってことになるかとっ……」
「え、まだ誰か来るの?」
ごにょごにょと喋るデッパ。
俺は露骨に眉をしかめた。
いやだって目立つだろう、これ以上頭数増やしたら。
そもそも人攫い集団の殲滅如き、ほんとだったら俺一人でも余裕でこなせるくらいなんだし。
別に要らなくないか、そういうの。
「い、いや、しかしですね。“子供攫い”の本拠地を発見したのは彼女でして。それに相手は相当根の古い犯罪団体です、頭数は多ければ多いほど――」
「……お前は、俺が数に頼らねえと戦えねえザコだとでも思ってんのか?」
「ひっ――まさか、そ、そのようなことは決してっ!!」
不愉快だったので、少し睨みを利かせる。
途端にデッパは縮み上がってしまった。
……魔力すら込めてねえのに。
つくづく力も後ろ楯もない凡人ってのは哀れな存在だな、強者の一挙手一投足に気を配んねえと呼吸すらできないんだから。
どっちにしろ長々と待つのは嫌いなんだ、とっとと出発するか。
歩き出し掛けて――不意にその足を止める。
――大きな魔力が、こちらに近付いてきていた。
ん、あれ、こいつが協力者なのか。
色々と予想外だな。
「待たせた。私が協力者の――っ!?」
「おう、やっぱアクアマリオンじゃん。何だお前ギルドとかやってたのかよ」
揺れる蒼色の髪、深い紺碧の瞳。
人形めいた美貌――Sクラス所属の魔法使い、シルファ=アクアマリオンがそこにいた。
彼女は動揺した様子ながらも、辛うじて返答した。
「いや、雑費諸々を稼ぐために――それよりもなぜあなたがここに? まさか、あなたが“子供攫い”殲滅の協力者……?」
「……あー、っと」
後頭部を掻く。
素直に“弟子の修行に来ました”なんて言うのも普通に訳が分からないよな。
ていうかなんかちょっとバカみたいだし。
よし、適当に誤魔化しとくか。
俺は無表情を取り繕い、平坦な声を出した。
「いや別に、暇潰しがてらちょっとやってみただけ――」
「うわああああなたもしかしてトーナメントでシズムくんと戦ってた子!? すっごーいまさかSクラスと会える日が来るだなんて!」
「えっ何――きゃっ、え、何? あなた何――え? 近ッ……怖ッ!」
「ああっそうだ! 言い忘れてたね、私の名前はガレット! シズムくんの一番弟子だよ! 短い間だけどこれからよろしくね!」
「で、弟子? 弟子って何、どういうこと?」
クソ!!
先走りやがって!!
何が一番弟子だよ他に弟子一人しかいないのに一番もクソもねえだろ!!
「一番弟子だと? おいおいふざけるなよアラヤヒール、君みたいなアホったれがシズムくんの一番弟子だなんて……ハハハ!」
「ブレイドル! な、何よその笑いは!?」
「ハハハ! 実にお笑いだ! ハハハハハハハハ!」
「や、止めなさい! 笑うのを止めなさい!」
「ハハハハハハハハ!」
「止めろっつってんだろ殺すぞ!!」
とか苛ついていたら、今度はブレイドルが突っ込んでいった。
そして取っ組み合いの喧嘩を始めた。
もうよく分からない。
早くこの話題を打ち切らねば。
適当におどかしてやろうか、と考え始めた所に、デッパがおずおずと話し掛けてきた。
「あ、あの、シズム様。彼女とは、お知り合いで……?」
「別に――知り合いっつうか、ただの同級生だな」
「同級生!? それでは、彼女もエストの学生なのですか!?」
大げさに驚くデッパ。
手をひらひらと振って応じる。
「そういうこった。……無駄話にも、いい加減飽きてきたな――おい、アクアマリオン」
「え、な、何?」
「きゃあっシズムくん凄いなんか今私凄い! 凄い今空飛んでるよ凄い!」
「俺が浮かしてるだけだし空飛んだくらいのことで一々感動するの止めろ。で、
“子供攫い”とやらの本拠地はどこなんだよ?」
バカ二匹を空に飛ばして喧嘩を中断させ、アクアマリオンに声を掛けた。
それを受け、彼女は汗を拭い、咳払いをした。
普段の人形然とした表情を取り戻し、淡々と語り始めた。
「――ここから直進した所で裏路地に入って、三回右に曲がると廃屋がある。そこの地下室が、ヤツらの住処」
「直進して裏路地に入り、三度右に曲がって廃屋――ね。よっしゃ行くか」
「了解し――え?」
「あ? 何?」
「今から?」
「何が?」
「今から行くの?」
「そのつもりだけど」
「え!?」
「す、凄い決断力……流石! 流石シズムくん!」
「いやいやいや! シズム様幾らなんでも、幾らなんでもそれは!」
「素っ晴らしいっ! それでこそ僕の師匠だ!」
「不味いですって不味いですって!」
「もはや何が何やら」
唖然とするアクアマリオン。
もはや何も言えない様子のデッパ。
空中に浮いているガレットとブレイドル。
……なんか、形容し難い面子だなあ。
微妙に締まらない気分のまま、俺は言った。
「さ、とっとと行くぞお前ら。日帰りでやってこうぜ」




