表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/121

測定不能



「……うわ、凄えなこれ。ほんとの金で作られてるんだ」


 ギルド前の広場――作りたて、金ピカの“冒険者の証”を太陽にかざし、呟く。


 キラキラと輝く光――

 飛び散ったプリズムが、瞳に残像を残した。


 色々と角度を変えて検分する。

 パッと見は運転免許証に似ている――が、流石ゴールドである。

 端々に細やかな装飾が施されていて、相当手間のかかったつくりだと分かる。

 何だか自分が重要人物(能力的にも立場的にも実際その通りである)になったかのような気分だ。


 あっ畜生なんかちょっとカッコいいなこういうの。

 内心微妙にワクワクしていると――ふにょん。

 背中に柔らかな感触が広がった。


「うわーシズムくん凄いなあマジ凄いよ、めっちゃ金ピカじゃん……うう、だのに何でさ、何で私のはこんな山盛りのクソみたいな色合いの板切れなのよう」

「前から思ってたけどお前俺以上に口悪いよな」


 ガレットだ。

 相変わらず人との距離感がおかしい。

 物理的に何かが壊れている。

 あともう一々身体を擦り付けるのを止めろ、わざとやってんのかお前は。

 割とマジで段々怖くなってきたぞ、常識ないってレベルじゃねえよ。

 何でこんなクソみたいなことで恐怖を感じなきゃいけないんだよ。

 意味が分からないんだよ。

 誰か俺を殺してくれ。


 つらつら考えていたら、ブレイドルが前髪を掻き上げながら話しに入ってきた。


「まあ待てシズムくん、アラヤヒールはその救いようのない品性の下劣っぷりを隠すことができないのさ……盗人にそんな理性が備わっている訳はないからね!」

「ブレイドル……」

「どうしたんだい理性壊滅盗人野郎? その足りない頭で反論を捻り出したのかい理性壊滅盗人野郎? 素晴らしい頑張りじゃないか理性壊滅盗人野郎!」

「黙れ」

「も、もはや理屈ですら!?」


 騒がしい理性壊滅野郎共を尻目に、俺は何となく冒険者の証を一撫でして――

 おや、と呟いた。


「おい、デッパとやら。ちょっとこっち来い」

「ぐっ……な、何でしょうか、シズム様」


 不満たらたら、といった風情でデッパが近づいてきた。

 どうやら渋々ながら俺たちの付き添いをすることを承諾したらしい。

 まあ相手が相手だ、断ったら冒険者生命絶たれるどころじゃ済まなさそうだもんな。

 しかし凡人って可哀相だなあ、立場の差如きで自分を左右されちまうだなんて。


 それはさておき、俺は冒険者の証をデッパに見せた。


「なんか、ほら……ほら見て。なんか撫でたら変なふうになっちゃった」

「ん――ああ、これはステータス表ですよ」

「ステータス表?」


 おおう。

 なんか聞き覚えのある単語が出てきたな。


「持ち主の簡易的な能力値を評価してくれるんです。もっとも、本当に簡易的なので、殆ど当てにゃならないんですがね……」

「ふうん。具体的にどんな感じで?」

「ええと確か、身体能力、敏捷性、魔力量、コントロールの精度――以上四点をDからSまでの五段階で表してくれる、んでしたっけ」


 若干頼りない口調でデッパが話す。

 ふと見ると、ガレットもブレイドルもふんふん言いながら話を聴いている。

 二人とも、早速自分のステータス表をチェックしているようだ。


 彼らの様子に、デッパは薄く笑った。


「ま、熟練の魔法使いでも全項目Dなんてザラですから、結果がどうあれあまり落ち込まないように――」

「ねえねえシズムくん凄いよ! 私身体能力とコントロールが両方ともBだ!」

「しなさい、って、はあああああっ!?」


 デッパは叫びながら目を見開いた。

 うわビックリした、何だよ急に。


「び、Bが二つだって!? バカな、子供の時分からそれだけの力を備えているヤツだなんて、今まで見たこと――」

「ふふん、所詮は盗人家系、大したモンじゃあないな!」


 そこへ喜色満面にブレイドルが飛び出してくる。


「聞いて驚きたまえ――僕の魔力量は驚異のA評価だぞっ!」

「A!? え……A!? そんな――ゴールド冒険者でさえB評価に辿り着くのがやっとだってのに!?」


 騒ぐデッパ。

 ま、当然の結果だろうな。

 前にも言ったが、こいつらは一応エストの入学試験を突破してはいるんだ。

 まともな訓練も受けていないアマチュア魔法使いを基準に作られた表で高評価を得られるのは普通だろう。


 と――デッパが引き攣った顔をこちらに向けてきた。


「あ、あの……ち、ちなみにシズム様の評価は……」

「何だ、気になるのか。ほれ」


 冒険者の証を投げて渡す。

 不恰好に受け取ったデッパは、血走った眼でそれを眺め――

 ふらり、とよろめいた。


「うわ、デッパさん!? 大丈夫ですかっ!?」

「……う、そだ……ありえねえ、幾らエストだからって、ありえねえ、ありえねえよっ、理不尽だ、理不尽だこんなのっ……こんな表記、今まで見たこと……」


 ブレイドルが慌てて彼の身を支える。

 地面に落ちた証を俺は拾い上げ――呟いた。


「……そんなにヤバいのか、これ」


 ――身体能力、S+。

 ――敏捷性、S+。

 ――魔力コントロール精度、EX。





 ――魔力量、測定不能。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ