“子供攫い”
「……また、とんでもないことをほざきおって」
苦み走った表情を浮かべるギルドマスター。
俺はあっけらかんと言い放つ。
「は? どこがとんでもねえんだよ」
「あのな……ギルドマスターたるワシが直々に手を出さにゃならんような依頼じゃぞ。幾ら何でも、冒険者の証すら持っていないような子供に――」
「ないなら作りゃいいじゃん」
「……そなたというヤツは」
いうヤツは、何だよ。
一々腹立つ言い方しやがって。
嫌がらせがてら精神操作して裸踊りでもさせてやろうかと考えていたら、ブレイドルが話し掛けてきた。
「あ、あのう、シズムくん……いや、もう、シズム様? シズム殿? 大賢者兼ギルドマスターを五歳時点でボコボコにしてみせたシズム殿?」
「くん付けでいいから」
「え、えっと……僕もう何が何だか分からないんだけど、あの、もしかして、その“例の事件”の解決を僕らでやろう、とか、ええと、そういう……そういう?」
「お前の言動の方が数段よく分かんねえけど、その通りだな」
「ま、マジで!? ちょっといきなりハード過ぎない!?」
「一番初めに死に掛けるとな。後々厳しい状況に陥っても案外平気になんだよ」
「しにかける……死に掛ける!? 死ぬ!? え!? 死!?」
思いの外パワーのある展開にビビるブレイドル。
ま、兎にも角にも話を聴かないことには何も始まんねえ。
騒ぐ凡人二匹を無視しつつ、俺はギルドマスターへ顔を向けた。
「で。どんなモンなんだよ、その“例の事件”とやらは」
「ワシが教えないと言ったら?」
「今、この場で……お前の全身の骨をへし折る」
「止さんかいそんな恐ろしいことを真顔で言うのは! 分かった、分かったから本気で魔力を集中させるな!」
おお、歳喰った爺さんがマジビビりする様を見るのは前世込みでも初めてだな。
前戦った時は恐怖するってよりはポカンとしてただけだったし。
ギルドマスターは溜息を吐き――諦め交じりの低い声を出した。
――ん、今しれっと音を遮断する結界を張ったな。
漏れたら不味い話か。
「……ここ最近、どうもきな臭い連中が居ての。そなた、“子供攫い”の話は聞いたことがあるか?」
「何それ」
「名前のまんまじゃよ」
ギルドマスターは腕を組んだ。
「性質の悪い悪党集団じゃ――拠点を頻繁に移しながら、人――特に幼子を攫う。相当昔から被害報告があったが、その本拠地がどうやらトルテにあるらしいことが最近分かっての。ここらで一網打尽にしようと思ってな」
「へえ。……幼子を、ねえ」
ならますます好都合じゃねえか。
俺は両手を広げた。
「自分でいうのもアレだけどさ、俺も大概攫われやすそうなツラしてるだろう。むしろ好都合じゃん」
「いや、しかし――」
「まさか危険とか言い出さねえよな。お前の万倍は強い俺に向かって」
「ひ、否定はできんが……むう」
彼はしわくちゃの顔を抑え――
ふと、ガチガチに固まっているシルバー冒険者に声を掛けた。
「おい、そこの坊主。……そなたじゃよ、そなた」
「へ――あ、は、はいっ!? わ、私にご用でしょうか、ギルドマスター様!?」
だいぶ放置されていたシルバーが舌をもつれさせながら答える。
ギルドマスターは長い髭を指で扱いた。
「そなたも冒険者じゃろう。名前と、あとランクはどの段階じゃい」
「はっ!? え、ええ、デッパと申します……ランクはシルバーです、ええ、シルバーですとも!」
「ふむ。そんなら丁度ええの」
なんかイヤな名前だな――とつい言い掛けそうになったが、これ以上場の雰囲気をガタガタにしたくなかったので黙っておく。
――ぱちん、とギルドマスターは指を弾いた。
「そなたは彼らの依頼に付いて行ってやれ。幾ら桁外れの実力を備えているとはいえ、まだ子供じゃ――ある程度場馴れした大人の目が必要じゃ」
「は、はい――はいっ!?」
デッパが目を見開いた。
「わ、私が!? 私がですか!?」
「おう。あと窓口に付き添って冒険者の証の作り方も教えてやんなさい。ランクはシズム――銀髪の子はゴールドでええじゃろう。残りはブロンズ辺りにしとけ」
「ゴールド……え!? ご、ゴールドですと!? い、いや、お言葉ですがそれほど気軽に、ゴールド認定など――まして、こんな子供に!!」
「……その子の実力も見抜けんとは、お主、本当にシルバーか?」
「なっ!?」
どこか呆れたような言葉をぶつけられたデッパは、顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。
ギルドマスターは髭を揺らし、手を叩いた。
「ま――そういうことじゃから、後はよろしくじゃ」
「ええっ!? ち、ちょっと――お待ちください、お待ちくださいギルドマスター様っ!?」
彼は職員を連れ立って、いずこかへと立ち去ってしまった。
……後に残ったのは、呆然と立ち尽くすデッパと少女、ガレットとブレイドル、野次馬――
そして、他人事のようにあくびをかます俺だけだった。




