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ギルドマスター



「んなっ!? あ、貴方は……っ!?」


 ただでさえ色々とギリギリだった男の様子が更に偉いことになった。

 どうにか身体を起こし、身なりを整える――

 ふむ、何だか知らんがビッグネームが来ているようだな。

 人多過ぎて姿がよく見えないけど。


 野次馬たちも随分と焦っている――というか、怯えている?

 沈黙を保ち続けていた受付の職員が、慌てて飛び出してきて叫んだ。


「そ、そんな!? な――なぜ、ギルドマスター様がここにっ!?」


 ギルドマスター、って……。

 ああ、ギルドの全支部を束ねるお偉いさんのことか。

 そりゃ皆驚くわな、トルテ支部は規模はデカい方だけど、流石にトップがふらりと現れるようなトコではないし。

 大してギルドに理解がある訳でもない俺はピンとこないけど。


 人の波が急速に割れていく――

 うお、確かに相当魔力がデカいな。

 単純なエネルギー量だけならば、俺には遠く及ばないにしろ、Sクラス連中よりも数段上だ。

 流石はギルドマスターか。


 ん――でも、この魔力、どこかで感じたことがあるような。


「いやなに、ちょいと“例の事件”のことをの――で、何があったんじゃ」

「は――それは、その」


 しゃがれてはいるが余裕を感じさせる声――

 ようやく姿が見えた。

 たっぷりとした白髭、派手な刺繍の施されたローブ。

 身体は小さいながらも、大魔導師としての風格を纏った老人だ。


 驚いたな――一瞬にして場の空気が変わってしまった。

 つい先程まで喧噪に満ち溢れていたロビーが、今じゃ葬式でも開いてんのかってくらい静かだ。

 不思議な尊さ、見上げたくなるような感覚――

 単純に身分の高さ、魔法使いとしての格もあるんだろうが……。

 こう、なんて言うのかな。

 よく分からん凄みのようなものが出てる感じだ。


 しかし、やっぱどっかで会ったことが……。


 ……あれ?

 やっぱり――もしかして。 

 言葉が口を衝いて出た。


「……アンタ、大賢者の爺さんか?」

「む? いかにも、ワシは大賢者の称号を王より賜っているが…………っ!? なぬうっ!? き、貴様はっ!?」


 目を見開くギルドマスター。

 俺は軽いノリで右手を上げた。


「おお、やっぱか。久しぶりじゃん――ええと、七年ぶりだっけ?」

「そ、その通りじゃが……それ以前に、なぜ貴様がここに!?」

「ヤボ用だよヤボ用。はは、何だよ爺さん。そんなビビんなって」


 物凄く雑なテンションで絡んでいく俺。

 ギルドマスターは露骨にキョドっていた。

 ウケるな。


 ――と、不意に肩に手を触れられる。

 ガレットとブレイドルだ。


「し、シズムくん……? あ、あの、どうしてギルドマスターさんとそんなに親しげなのかな? え? 友達? 友達なの? 親友?」

「それと、君――今、大賢者がどうたら言っていなかったかい……?」


 何が何だかさっぱり分からない、といった風情の二人。

 少なくとも友達ではないが、まあそうなるのも無理はない。 

 大賢者ってのは、国王直々に優れた力を秘めていると認められた術師にしか与えられない称号だからな。

 確かSクラス出身者の中でもこの肩書きを貰えたヤツは皆無なんじゃなかったっけ。


 しかし、なあ。

 俺は白々しく言った。


「あれ、言ってなかったっけ? 俺が五歳の頃に大賢者の爺さんを念動力だけでボコボコにしてやった話。――こいつがその時の爺さんだよ」

「はあっ!?」


 ガレットとブレイドルは目玉が飛び出るほどに強烈な驚愕を示した。

 慌ててギルドマスターが二人の口を抑えに掛かる。


「五歳で、大賢者を、念動力だけで、ボコボコ……むぐっ!?」

「こ、こらっ、ジャリ共っ!! 静かにせえ静かに、余計な噂をデカい声で広めるでないっ……!」

「えー、だって事実じゃん。噂じゃなくて」

「ああもう、その通りじゃが、言うにしても場所ってモンが……!」


 その通りじゃが――

 ギルドマスターの衝撃の発言に、ロビーは混乱に包まれる。


「う、嘘だろ!? あのガキがギルドマスターを七年前に!?」

「そんなのありえない、むちゃくちゃだ――ギルドマスターは、神獣に単独で傷を与えられる唯一の魔法使いなんだぞ!?」

「その実力は未だ衰えを見せていない……つまり、あの少女の技量は大賢者たるギルドマスターのそれを遙かに上回っているということか」

「バカな! あんな幼い子供に、そんなことができる訳が……!」

「だが、ギルドマスターは彼女の言葉を認めているぞ!?」

「と、とんでもねえ……! シルバー――いや、ゴールドですら足りないレベルの業績だぜ!?」


 あっという間に“噂”は広まってしまったようだ。

 ギルドマスターは頭を抱えた。


「……ったく、つくづく可愛げのないガキじゃのう……!」

「凡人如きに振る舞う可愛げなぞありゃしねえよ」

「そういうところじゃよそういうところ! クソったれめ、一体何じゃ、何の用なんじゃ!?」

「おお、そうだった。忘れてたわ」


 俺は人差し指を立てた。



「とりあえず、今出てる依頼の中で、一番難しいヤツ――そうだな、アンタがさっき言ってた“例の事件”とやらを俺たちに受けさせろ。いいだろ?」



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