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ふざけとんのか



「……凄え」


 観客の一人――癖っ毛の少年が、ぽろりと零した。


「ほんっとうに、凄え……」

「去年のSクラス対決もとんでもなかったけど、今の戦いに比べりゃ、お遊戯みたいなモンだ……頭がイカれてやがる」


 癖毛少年のそばに座る太っちょの少年が、掌に滲んだ汗を服の裾で拭う。


 ――シズム=ドラゴリュートとシルファ=アクアマリオンの試合が終わり、既に一時間ほどが経過していた。

 しかし、会場の熱気は未だ冷めてはいない――二人のSクラスがもたらした衝撃は、それほどまでに大きかったのだ。

 隣同士で彼らの繰り出した魔法の一つ一つをつぶさに考察し、それがいかに常軌を逸した所業であったかを語り合う――


 しかし、皆が最後に疑問に思うのは、やはりあの結末であった。


「でも、結局――どうしてアクアマリオンはあそこで降参しちまったんだろう?」


 太っちょは丸っこいアゴに指を這わせて言った。 

 それを受けて、癖毛がバカにしたような口調で話す。


「おいおい、お前はアクアマリオンをよく見てなかったのかよ?」

「へ?」

「霧でドラゴリュートを捉えたあの時の彼女の顔色を考えろよ。汗びっしょりだったろう?」

「汗びっしょり……ああ、そ、そうか! 分かったぞ!」


 ぽん、と太っちょは手を合わせた。


「あの時点で、アクアマリオンにはドラゴリュートを戦闘不能にできるほどのエネルギーは残っていなかったって、つまりそういうことか!」

「ああ。それに、彼女は相当切羽詰まった様子だったけど、相対するドラゴリュートには明らかに余裕があった。恐らく、彼にはまだ奥の手があったのだろう」

「た、確かに……彼は、試合の中で根っこすら出していなかったもんな」


 それを見抜いた彼女は、勝ち目がないと判断して自ら試合を退いたのだろう――

 自慢げに語る癖毛に、太っちょは感嘆の声を挙げるのであった。


 ――実際、観客の大半は癖毛と同じような結論に至っていた。

 実戦ではまず使用不可能と言われている難しい呪いを次々に使いこなすアクアマリオンは間違いなく天才であろう。

 が、白銀の髪を持った一年生――ドラゴリュートの前では、その才すら霞んでしまう。


 彗星の如く現れた神童――彼は、一体何者なのだろうか。

 桁外れのエネルギーとセンス、女神の如き美貌、数多く残る謎――

 まるで神話に登場する魔法使いめいたその在りように、生徒たちはただただ魅了されるばかりであった。


 癖毛と太っちょの話が、試合の検討から、シズム=ドラゴリュートの性別の話に移り変わり始めた頃――二人の元に、そばかす顔の女の子が走ってきた。


「二人とも! 今しがた、決勝戦の組み合わせが発表されたわよっ!」

「おお、ついにっ!」

「とうとう決戦か……ドラゴリュートが最後に戦う相手は誰なんだろう?」


 二人は、そばかす少女の持ってきた対戦表を覗き込み――唖然とした。





「…………何、これ?」





     ◇





 最初の試合は、戦う前に棄権された。

 次の試合は、戦いこそしたけれど、手ごたえの欠片もなかった。

 その次の試合は、前の二つに比べりゃあそこそこ楽しかったけど、緊張感は全く以て皆無。

 とことん期待外れの展開が続く、クソみたいな時間だった。


 だからせめて、最後くらいは面白え相手と当たりてえな――

 そうは思っていたけどさ。


「……にしても、これはねえだろう」

「こ、これとは何だいシズムくんこれとは!」

「私たちの相手をするのがそんなにクソつまんないって言うの!?」

「その通りだよ」

「僕らじゃ役不足だって、君はそう言いたいのか!?」

「その通りだよ」


 ちっちゃなガラス箱並の才能しかないゴミ凡人、ガレット=アラヤヒール。

 Aクラス如きに一撃で失神させられたザコ、バーン=ブレイドル。

 そして、さっきからずっと黙りこくっている変な色黒の大男。

 この三人が俺の最後の対戦相手という訳だ。

 ふざけとんのか。


 確かに面白いよ、めちゃくちゃ面白いよ。

 もう面白いってレベルじゃないよ。

 愉快過ぎて涙が出てきそうだよ。

 泣けてくるよほんとに。

 今までの試合がどうでもよくなってくるくらいにインパクトあるよ。

 誰か俺を殺してくれ。


 にしても、これはないだろう。

 意外性狙うにしても、もうちょっとマシなのがいただろう。

 完全に運営サイドが俺をバカにしに来ている。

 腹が立ち過ぎて、教師陣が座る席を睨み付けた――全員汗まみれ、真っ青になりながら顔を背けている。

 適当なのを捕まえて、心を覗く――どうやら本当に偶然、この組み合わせになってしまったらしい。





 ……冗談じゃないぜ、運命の女神さま。






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