大惨事
「……まず、聞きたいことがあるんだけど」
「えっ聞きたいこと!? それってもしかして私のスリーサイズとか交際経験とかそういうプライベートな!? も、もう、シズムくんったらドスケベ!」
「僕は、恋人なんていたことがないな……恥ずかしながら童貞だ」
「お前らの性体験の有無なんざどうだっていいわ勝手に童貞宣言しやがって! 知るかよそんなモン! 俺が聞きたいのはもっと根本的なことだよ根本的なこと!」
「こ、根本的? 根本的って、あの、ご先祖様のこととか、そういう……?」
「ブッ殺すぞ!!!」
大声を挙げてしまった。
いけねえ、つい頭に来ちまった。
落ち着け……冷静になれ、怒りを精神から逃がすんだ。
思考を静めろ、静めろ……。
大きく息を吐き――俺は、ヘラヘラ笑っているバカ二匹と謎の色黒男を睨み付けた。
「まず、そこの色黒は知らないけど……お前ら、どっちもクラスが違うだろう。クラスの異なる者同士は、チームが組めない筈じゃなかったか?」
「ふふーん、流石はシズムくん! そこに気が付くとは、鋭いねえ!」
「止めろ、そんなクソみたいなことで一々褒めるな! バカが伝染るから!」
「そこについては、僕が説明しよう」
ブレイドルが前髪を掻き上げつつ話に割り込んでくる。
「演習の時、君は言ったね? 凡人に努力する価値などありはしない、どれだけ頑張りを積み重ねたところで、天才には決して敵わないのだから、と……」
「ああ、うん。言ったな」
おざなりに返す。
大げさにショックを受けるジェスチャーをしながら、ブレイドルは言った。
「それを聞いて、確かに一理あると思ったよ。……でも、だからって、全部の努力が無駄だなんてふうには考えられない! 故に、このトーナメントで君に勝利し、教えてやりたくなったのさ……凡人のプライドってヤツをね!」
まっすぐな瞳でブレイドルは叫ぶ。
ふーん、だからどうだって話だけど。
「しかし、僕がトイレに行っている内にBクラス一年の代表者選抜は既に終わっていた。信じられなかったよ……刃の魔法の継承者たる僕を放置するだなんて!」
(それただ単にハブられてるだけなんじゃ……)
「だが、僕は諦めなかった。他に何か手がある筈だと、分厚いトーナメントのルールブックを読み漁り――そして知ったのさ、“特別枠”の存在を!」
特別枠?
何だ、そりゃ。
「特別枠とは、代表者選抜には受からなかったものの、優れた力を有していると認められた者だけが入れるクラス混合チームのことさ。半ば形骸化したルールだが、決して破棄された訳ではない――僕はそこに目を付けたんだ」
へえ……。
結構やるじゃないか。
こいつら、もしかして案外頭は回る方なのか?
いや、頭が回るというか、どっちかと言うと小狡いって感じだけど。
……しかし、一つ疑問が残る。
俺はブレイドルに問うた。
「だけど、お前ら、別に優れた力が備わってるって訳じゃないだろう。よく許可が下りたな」
「ブレイドルの名前ってね。強いんだよ」
「お前恥知らずって概念知ってる?」
いや……待てよ、じゃあ。
「まさか、お前らみたいな凡人が他チームを押しのけてここまで残れたのも……」
「ブレイドル家はね。超名門の貴族として有名なんだ」
「止めろ! 止めろそういうこと言うの!」
「あとお金のパワーって計り知れないものがあるよね」
「止めろォ!!」
クズ共め。
どうしようもないクズ共め。
地位と名誉に支配されたクズ共め……。
世の中腐ってやがる。
頭をガリガリと掻きながら、俺は二人をねめつけた。
「……だが、結局お前らはどうやって俺に勝つつもりなんだよ。俺は相手がブレイドルだろうが何だろうが躊躇なくズタズタにするつもりだぞ」
「ず、ズタズタとか怖いこと言わないでよ……さ、流石に比喩表現だよね?」
「それは内緒だ。で、どうすんだよ? なんか凄い術でも覚えてきたのか」
半目でブレイドルを見る。
そこに、ずいとガレットが進み出た。
「そういうのはないかな。でもね、アラヤヒール家とブレイドル家……普段は憎しみ合っているけれど、あの、ほら! そういうライバル関係にある二人が手を結んだ時に、力が凄い……凄いたくさん出てくるとか! あるじゃんそういうの!」
「で、実際出たのかよ。力は」
「それは……あんまり」
(こいつら……)
「だけどね、ちゃんと手は打ってあるよ!」
ガレットはニコリと笑い――色黒男を手で示す。
「彼の名前はゴンゾゾ! すっごく強ーい魔法使いだよ! 私たちに協力してくれるんだって!」
「ドモ……ヨロシク、オネガイシマス」
ゴンゾゾは厳つい顔を不器用に歪め、微笑んだ。
やや拙い発音――外国人か。
「まあ、確かに見た目は強そうだけど……でも、こんなヤツ学院に居たっけ?」
「ううん、ゴンゾゾはここの生徒じゃないよ。完全なる部外者」
「お前いい加減にしとけよ!!」
何が完全なる部外者だよ完全なるルール違反じゃねーか!!
怒りを我慢するのにも限度があるんだよ!!
脳味噌が沸騰しそうだよマジで!!
比喩表現じゃないんだよ!!
「お、落ち着いてくれシズムくん! ゴンゾゾはギルド所属の魔法使いだけど、僕らの財力をちらつかせたら試合に参加する意思を示してくれたいい人なんだ!」
「単に金に釣られてるだけじゃねーか! どこにいい人要素があんだよ殺すぞ!」
「ケ、ケンカハ、ヤメテクダサイ……ボウリョク、カナシイ」
「どっちかっていうと俺が理不尽という名の暴力受けてる側だよこの状況は!」
何だよ畜生カタコトで諭してくるんじゃねーよ!!
金に釣られてきた癖に正論ぶつけてきやがって意味が分からないんだよ!!
ていうか何で今まで誰もこいつらに文句つけなかったんだ!?
そんなか!!
そんなにブレイドル家が怖いのか!!
何だってんだよクソビビり共め!!
ああもう駄目だ!!
我慢できねえ!!
俺は審判に向かって叫んだ。
「おい、とっとと試合を始めろ!! 一秒でも早くこいつらをブチのめしてやりてえんだ!! 早く!!!」
「は、はいっ!? え、ええと、それでは両者構えて……!」
謝っても許さんぞ――絶対にブッ潰してやる!




