エピローグ
とある慌ただしくも穏やかな朝。
焦りながらせかせかと動き回って身支度をしていると、部屋のドアがバンッと大きな音を立てて開き、誰かが部屋の中に入って来た。
「けーた、早くしなさい! はる君が待ってるわよ!」
「分かってるって、姉ちゃん! ってか、着替えてる最中に部屋覗くなって!」
急いで半袖のワイシャツのボタンを留め、学校のカバンを手にすると姉の体を擦り抜けてダッシュで階段を降りて行く。すると、玄関には見慣れた顔があった。晴馬がいつものように爽やかな笑みを浮かべていて、慶太は苦笑いを浮かべた。
「ごめん、晴馬」
「いいっていいって。遅刻しなければ問題ねえよ」
玄関に座り、靴を履き、スポーツシューズの紐を結んでいると後方から声が飛んでくる。
「慶太、忘れ物はないか?」
まるで父親のような言葉に、慶太は肩を竦めた。
「大丈夫だよ。もうそんなガキじゃないし」
いつの話してるんだよと呟きながらも靴を履き終えると立ち上がり、振り返る慶太。その奥では晴馬が玄関のドアを開けている。慶太は、目に映っている姿に満面の笑みを浮かべた。
「そんじゃ、いってきます、兄ちゃん!」
蒼斗にいってらっしゃいと手を振られ、慶太と晴馬は学校へ向かって歩き始めた。通学路には同じ夏用の制服を着た者達がちらほらと見受けられ、これだけ大勢の生徒がいるのであれば遅刻は免れるだろうとのんびり歩いている。寝坊したものの、時間には余裕があったようだ。
登校中の晴馬の話は相変わらず二次元の事ばかりで、けれどもそんな話が前ほど嫌いではなくなっていた。それはきっと、そういう世界が本当に存在しているという事を知ったから。その世界で、自分と同じように生きているのだと知ったから。
くだらないなど、ましてやそんな世界ある筈がないなど、慶太が言える訳がない。異世界リンク説、それが紛れもない事実であるという事を身をもって知ったのだから。
そうして歩いていると、前方に人垣ができているのが見えた。
「あれ、どうしたんだ?」
「さあ」
不思議そうな晴馬に、慶太も首を傾げる。何か事故でも起こったのかと、そう思った。人垣へ近付く度にざわめきの声も大きくなっている。何を喋っているのか聞き取る事は出来ず、そんな声にならない音に耳を傾けつつもどう通り抜けようかなと思って居た時だった。道を開けるように人垣が左右に割れた。中央を颯爽と歩いて来る者を目にした時、ざわめきの声は止んでいた。
真っ直ぐにこちらへ向かって歩いて来る、制服姿の女子生徒。鮮やかなラベンダーブルーの髪が目に飛び込んでくる。
彼女は慶太の目の前で立ち止まり、唇を動かした。
「貴方、普通?」
抑揚のない声、その質問に、慶太は屈託のない顔でニカッと笑う。
「勿論、普通だ!」
おわり
最後まで読んでくださってありがとうございます。
前作、My Taleの次に書いた作品です。
男の子が護られる話が書きたいと思って書いたものです。
普通の男の子だけど、ちょっと頑張ってみたよ、みたいなお話になっていればいいなと思っています。
あの世界は、慶太が王になって、どんな世界になったんでしょうね。




