第13話 あぁ、素晴らしき日常 そんなものお前には必要ないんだよ、ばーか
次の日サクヤは、午前中カナタとの訓練に励み、午後の時間にイスラの元を訪れた。
「やぁやぁよく来た、サクヤ君」
「用事があるって呼び出されたからな」
そう言いながらサクヤはイスラの前の椅子に腰掛ける。
「っで、話っていうのは何だ? また俺の剣について調べたいのか?」
「いや、それについては調べても何もわからないという事がわかったのでもう大丈夫だ。今日はそんな事よりも君にプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
疑問の声を上げるサクヤにイスラは手にした物を差し出す。
「これだよ」
「これは……、俺の服か」
「まぁ、正確にはボロボロだった君の服を復元して、修復機能と浄化機能を付与した物だね。本来二つの機能を持った魔道具は一般人には出回らないんだ。感謝したまえよ」
「ああ、そうなのか。道理で買い物の時に見かけないと思った。ありがとうイスラ。最高の贈り物だよ」
思い出の初期衣装を完璧に復元し、便利な魔道具の機能まで付与されたそれは、サクヤにとってこの国で一番うれしい贈り物だった。
「あっ、あと、これもついでに作っておいたぞ」
そう言って差し出された物は、白いレースの様なデザインの上下の下着だった。
「えっと……」
「いやぁ、下着の方はカナタが回収してしまったから見本が無くてな、適当に選んだ物に修復機能と浄化機能を付けといたぞ。これで一生着替えの必要が無いな。あっ、でも風呂にはちゃんと入らないと駄目だぞ。浄化されるのは衣服だけで、体は汚れたままだからな」
知りたくも無い新事実を知ってしまい微妙な顔をするサクヤだが、確かに下着にも代えが必要なので、有り難いと言えば有り難い。しかし、貧乏性のせいか、下着にまでこんな機能を付けるのは勿体無い様な気がしてしまう。
「あぁ、その顔はこの下着の重要性を理解していないな。君は女で旅人なのだから、突然始まってしまった時に適切な処理が出来るかわからない。そんな時、この下着とそのショートパンツの機能をこまめに使えば多少はやり過ごす事が出来る。これで女の子の日にも安心だ。はっはっはっ」
「はぁ……?」
イスラがいったい何の事を言っているのか理解出来ないサクヤだが、よくわからないテンションで話すイスラの頬がだんだん赤くなっていき、「こんな話題、私のキャラじゃないのに、何をやっているんだ……」と落ち込んでいくのを目の当たりにして追求できなくなってしまう。
『まぁ、御主人様には行為は出来ても、その機能は無いので関係ありませんけどね』
その一言により、この時のイスラの発言の意味をサクヤが理解する日はこないとわかった。
「とっ、取り敢えず今日の用事はそれだけだ。訓練の後で疲れているだろうし、風呂にでも入ってから着替えてみてはどうだね」
「あぁ、わかった。本当にありがとうなイスラ。この服は一生大切にするよ」
「ふふん、そう思うなら一日でも長くその服を着ているところを私に見せるんだな」
「ははっ、そうだな。それじゃあ、また明日」
今着ている服は腰の鞄にしまえばいいかと思いながら、サクヤはイスラに言われた通りに風呂場へと向かった。
「あぁ、また明日……」
サクヤがいなくなった場所に語りかけるイスラの顔は、恋する少女の様だった。
「何故だ、サクヤ君と話していると男性と会話をしている様な気分になってしまう。私にはそんな趣味は無いのに……、あの喋り方が悪いんだ全く……」
男性に免疫の無いイスラは、この歳になっても未だに男と会話が出来ないくらい奥手だった。その為、イスラの研究室は男子禁制であり、助手や世話係も女性のみで、女王補佐のヘンリーでさえ直接イスラと話す事は無かった。
今まで普通に会話をしていたイスラだが、ふとサクヤは見た目は女の子なのに中身は男みたいだなと思ってしまい、ついつい意識してしまう様になっていた。
「全く、こんなのは私らしくない。このままではサクヤ君に嫌われてしま……って何を考えてるんだ私は!」
誰もいない研究室で一人悶々とするイスラであったが、そんな悩みはすぐに考える必要がなくなる。
だって、イスラはもう二度と、サクヤに会う事が出来ないのだから……。
◇◇◇
――同日、エスタシア西工業区画の門前。
「やっと着いたか。キヒヒッ、ここの奴等の絶望に染まる顔が今から楽しみだぜ!」
そう言いながら一人の男がエスタシア西工業区画の門に近づく。
「おい君、待ちなさい。その門を通るならこちらで手続きをしてくれ」
エスタシアは本来、来訪者に対して厳格な個人の証明などを求めないが、男が入ろうとしている西工業区画は魔道具の生産工場が立ち並ぶ区画であり、関係者以外の出入りが禁止されている場所だった。
門番を担当していた兵士は、おそらくこの男がくる場所を間違えたのだろうと思っていたので、すぐに正門に案内するつもりだった。しかし、最初にそれを伝えなかった為に門番の命運はここで尽きる事になる。
「空より舞い降りしもの、地より現われしもの、全ての竜は我が配下となる」
男が突然門番の前でブツブツと喋り出す。もしこの門番がカナタの神意能力発動を見た事があれば、それが神意能力発動の為の詠唱だとわかったかもしれない。
「おい! 聞いているのか!」
門番は男が無視しているのだと思い詰め寄る。この時門番はせめて腰の剣を抜いているべきだった。
「我が元へ集え、獰猛なる幻想存在よ!」
「いいから黙ってこっちへ来い!」
この時になって門番はやっと剣を抜いた。
「神意解放、竜招の能力ドラゴン・サモンズ!」
「なっ!」
門番がやっと、それが神意能力の詠唱だと気付いた時、門番の体は空を舞っていた。断末魔も残せず門番は門に激突し絶命する。
その時の音で他の門番が異変に気が付いたが、その目に映った光景があまりにも現実離れしていて、本部への連絡も忘れて止まってしまう。
「この国の連中は本当に平和ボケしてんな! お前らもそう思うだろ!」
「「「「「「グオオォォォォォオオオオン!!!」」」」」」
その呼びかけに反応したのは六匹のレッドドラゴンであった。六匹もの竜による咆哮で大気が振動し、門番達は正気を取り戻すが、その瞬間、眼前に迫った六個の火球を避けられずに消し炭となった。
「あはははははは! いいぜ、なかなか楽しめそうだ! さあ行くぞ、竜王ゼノン様のお通りだ!」
ゼノンと名乗った男とレッドドラゴン達により、エスタシアの西門は破壊され、軍事大国シルヴァリオン帝国と同盟関係にあった魔道具大国エスタシアは建国以来始めて、外部勢力からの襲撃を受ける事となった。
◇◇◇
――同日ゼノン襲撃の少し前、エスタシア城内。
「お待たせカナタ、着替えてたら遅れた、ごめん」
「えっ……? 着替えって!?」
イスラに言われた通り、風呂で軽く汗を流して着替えてきたサクヤを見て、カナタは驚きの声を上げる。それもそのはず、サクヤが今まで着ていた服は捕縛用の魔道具であり、それがあるからサクヤは城内でも自由に行動出来ていたのだ。
しかし、今着ている服は贈り物として用意した物なので捕縛用の機能が付いていない。
本来の予定では、サクヤの着替えはカナタが管理し、旅を再開する時かもっと信頼出来ると判断するまでの間は、常に捕縛用魔道具を身に付けさせておく筈だった。しかし、イスラは動揺していた所為でその事を失念してしまい、すぐに着替えるように伝えてしまった。
「サクヤ様、そのお洋服は如何致しましたか……」
「これか? イスラがすぐに着替えて来いって言って渡してくれたんだが、何か問題があったのか?」
「いいえ……、イスラ様が良いと仰るなら、私は構いませんよ……」
正直、カナタは普段のサクヤの行動から、捕縛用魔道具の必要性を感じていなかった。しかも、自分より上の立場のイスラが着替えを勧めてしまったので、今更元の服に着替えろとは言い出しにくい。
(今まであなたが着ていた服には捕縛機能が付いていて、その服を着ていないと駄目だと指示されているとは言い辛いですし、私の責任ではありませんから、気が付かなかった事にしましょう)
そう結論付けてカナタはサクヤとの訓練を再開する。
「今日こそ一撃食らわしてやる!」
「ふふっ、期待していますよ」
サクヤの動きは最初こそ素人であったが、カナタとのスパルタ訓練のおかげで、ある程度の水準までは成長している。
元々、身体能力が高いサクヤは、一般人を超える戦闘力は持っていた。この調子で成長していけば、魔法に頼らなくても一人前の剣士として名を残せるであろうと考えたカナタは、サクヤの為に心を鬼にして訓練に付き合う――。
「ほらほら、このままだと皆さんに恥ずかしい姿を見られちゃいますよ」
「――っつ! まだまだぁ!」
――と見せかけて、カナタがノリノリでサクヤの服と体を切り裂いていく。
そして、その光景を見るのが日課になっていた兵士達は、前屈みになったり、突然トイレに向かったりしていてまともに訓練を行えていない。こんな毎日が続いてしまったら、エスタシアの軍事力はどんどん弱体化してしまうであろう。
「――そこだ!」
「――っく!」
5分程経過して、サクヤはカナタに初めて攻撃を当てた。
「――ってあれ? その剣、刃が付いていないのですか?」
「ん? あぁ、カナタは気が付いてなかったのか」
今まで一撃も当たっていなかったカナタは、その時初めてサクヤの剣に刃先が付いていない事に気が付く。
カナタが気が付かなかったのも無理は無い。まさかそんな欠陥品でレッドドラゴンに挑んでいたとは考えられず、ドラゴンが相手では切れ味なんてあっても無くても攻撃した時のダメージに変化が無いため、見た目では判断できなかったからだ。
「言ってなかったっけ? これはそういう剣なんだ」
「それは……、他の武器を使った方が良いのでは無いですか?」
カナタの意見は真っ当なものだった。正直な話、グランエグゼを使うよりも、カナタの刀でも借りた方が余程役に立つ。
「いや、俺はコイツを使って強くならないといけないんだ。だから他の武器に変えるつもりはない」
「そうですか……、止めはしませんが、命を賭けた場所では、そういった考え方が死を招く可能性があるので程々にしてくださいね」
「わかった、参考にさせてもらうよ」
サクヤはそう返事をしてから、訓練を再開しようとカナタにグランエグゼを向ける。しかし、訓練はどこからか聞こえた爆音と一人の兵士の叫び声で中断された。
「西工業区画の方から煙が上がっているぞーーーー!」
その声により、訓練場にいた兵士達は騒ぎ始める。そんな中、サクヤは落ち着いた様子で破れた服を修復し、カナタは見張りの兵に状況を確認する。
「原因はわかりますか!?」
「そ、それが……」
カナタの言葉に遠見の魔道具で状況を確認していた見張りの兵士は言い淀む。その兵士は先日のレッドドラゴンとの戦いにも参加していた人物であり、あの悪夢を一日でも早く忘れたいと思っていた。しかし、その兵士の目に映ったのはあの日の悪夢を超える悪夢だった。
「竜です! あの時の竜が集団で襲ってきています!」
「――なっ!」
カナタは絶句する。この辺りにドラゴンが現われる事自体、異常な現象であったのに、それが複数現われるとは、幻界でもないと有り得ない出来事であった。
「とにかく全軍に通達! 住人の避難を最優先にし、防衛の準備を! 使える武器は全て用意しなさい! サクヤ様、申し訳ございません。手伝っていただけますか」
「わかってる、時間稼ぎぐらいしか出来ないだろうががんばるよ」
「ありがとうございます」
そう言いながら、カナタは神意能力発動の詠唱を始める。前回の戦いとは違い、先に発動させておけば戦闘中に無防備な姿を晒す必要もない。これが、神意能力の正しい使用法だった。
「それでは行きます」
「おう!」
カナタは迅雷の能力を発動すると、サクヤを抱きかかえて屋根の上を走って行く。そして、そのままサクヤが耐えられるギリギリの速さを維持して現場に向かった。
◇◇◇
――エスタシア西工業区画と中央市街地、境界地点。
「あーあ、思ったより楽しめなかったな」
そう呟きながら、ゼノンが歩いていた。彼の周囲には六匹のレッドドラゴンが付き従っており、自身が進むのに邪魔な建物を只管に破壊している。その為、ゼノンが歩いた場所は廃墟同然になっていた。
「女子供が絶望しながら死んで行くのを見るのが楽しいのによぉ……、汗くせぇ野郎の死に顔ばっかりで嫌になるぜ」
ゼノンはこの場に来るまでに、目に付いた全ての人間を殺してきた。いや、目に付いただけではなく、建物に隠れていた人間も建物ごと潰され、燃やされ、西工業区画にいた人間は次々とゼノンとレッドドラゴンによって殺されてしまっていた。
生き残った者たちも、炎に囲まれ、逃げ場が無く、すぐに同じ運命を辿る事になるので、西工業区画にいた4000人あまりの人間は、もう既にゼノンに殺し尽くされたも同然だった。
「まぁ、この先は居住区みてぇだから、少しは楽しめるかねぇ」
ゼノンの目的は最早この国をどう惨たらしく滅ぼすかに変わっている。神の意思に選ばれし者として、圧倒的力で弱者を迫害する。これこそがゼノンにとっての至高の喜びであった。
本来であれば、この様な行動をする神意能力者はシルヴァリオン帝国によって討伐されるのだが、ゼノンは今まで、シルヴァリオン帝国に気が付かれぬ様、最大限の注意をしながら神意能力を使用してきた為、今日まで生き延びていた。
しかし、その我慢の日々がゼノンの心をすり減らし、この暴走の原因となっていた。
「ばっ、化け物!」
「なんだあれは!」
門に近い場所の住民を避難させながら味方が来るまで待機していた、西工業区画と中央市街地を隔てる門の門番達がゼノンの姿を確認する。しかし、門番達の目線はその後ろにいる六匹のレッドドラゴンに集まっていた。そして、常軌を逸したその光景に恐れ戦き、門番達は我先にと逃げ出した。
その光景を見てゼノンは、惨忍な笑みを浮かべ門番達にレッドドラゴンを嗾ける。ゼノンのレッドドラゴンは本来のドラゴンと違い、食事を必要としない。しかし、レッドドラゴン達はゼノンを喜ばせる為だけに、門番達を平らげていく。それを見て、ゼノンは満面の笑みで笑った。その光景は狩られる者からすれば正しく地獄であった。
「てめぇら、次はその辺適当に燃やしちまえ!」
ゼノンに命令されたレッドドラゴン達は一斉にドラゴンブレスの準備をするが、一匹のレッドドラゴンが命令を無視して、ゼノンの方へ飛んだ。
その時、上空からゼノンに向かって一筋の雷光が撃ち出されたのだが、レッドドラゴンの身を挺した行動によりバチバチという音だけを残して四散してしまう。
「――っつ! 誰だオラァ!」
ゼノンが光の飛んできた方向にある建物の屋根を見ると、そこには黒髪黒瞳で刀を持った少女がいた。
「失敗ですか……」
ゼノンに見つめられた少女、――カナタがこの場に辿り着いたのはつい先程だったが、状況に関しては一瞬で理解できた。これだけのドラゴンがこんな場所に現われる原因など二つしかない。それは神意能力者によるものか、神剣によるものかのどちらかだ。
そして、ドラゴンに命令をしているこの男は無手である事から、この男が神意能力者である事は疑いようが無い。ならば、不意打ちで神意能力者のみを殺せれば、それで終わりのはずだった。
「まさか、レッドドラゴンが命令以外の行動をするとは……」
カナタは自分以外の神意能力者と戦った事が無い為、召喚や生命創造の類いの能力は操り人形を生み出す程度の力しかないだろうと思い込んでいた。しかし、神の意思に選ばれた能力者はそんな想像を超える力を有している。
ゼノンによって呼び出されたドラゴンは基本的に命令に従うが、主に危険が迫れば自己判断により主を助ける知能と忠誠心も持っていたのだ。
「おいテメェ、俺様のかわいいドラゴンに傷を付けやがったなぁ、オイ!」
ゼノンは傷つけたと言っているが、レッドドラゴンの鱗には傷一つ付いていない。本来、雷を纏う神意能力者であるカナタの撃ち出した雷で殺す事が出来るのは、精々無抵抗な人間くらいであった。
(やはり、直接斬りかかるべきでしたか……、でもそれだとレッドドラゴンを回避して当てる精度は期待出来ませんし……、こんなに自分が不甲斐ないとは思いませんでした。)
カナタは自分の弱さを痛感しながら、刀を構える。最早不意打ちは不可能な状況であるが、カナタがゼノンに勝つには、ゼノンを直接倒すしか方法が無い。
遠距離攻撃はもう通じないと判断し、屋根から跳び降り近距離戦を開始するカナタだが、その攻撃はレッドドラゴンにより阻まれる。
「おいおい、噂の迅雷の能力者がこの程度かよ! お前みたいな落ちこぼれがどうやって俺様のレッドドラゴンを殺したんだよ! ああ!」
レッドドラゴンの後ろからゼノンが偉そうに話す。
ゼノンは粗暴な性格だが、こういった時に落ち着いて自分の身を守るため、何かを従える神意能力者としては優秀だった。
「一旦距離を――っ!」
攻撃を防がれ離れようとしたカナタに、レッドドラゴンの尻尾が振るわれる。カナタはこれを回避するが、次に着地した瞬間、三方向からの同時攻撃され、そのうちの一撃が回避出来ずに近くの建物に吹き飛ばされる。
「――かはっ!」
カナタはそのまま建物の壁を突き破り、瓦礫に埋もれてしまう。それによりカナタは気を失うが、レッドドラゴンの一撃を受けて即死しなかっただけでも運が良い方であった。
「本気でよえぇなコイツ。これなら直接こんな場所に来る必要なかったぜ」
そんな事を言いながら、ゼノンは瓦礫の方へ向う。どれだけ弱かろうと神意能力者は神意能力者。油断せずに確実に殺さなければならない。
「なんだよこれ……」
その一連の流れを見ている第三の人物がいた。それは、戦いが始まる直前、カナタに降ろされ、グランエグゼを片手に建物の影からチャンスを窺っていたサクヤだった。
当然ではあるが、この状況でサクヤが乱入するチャンスなどは無く、狼狽えているのは当然の事だった。だが、サクヤが狼狽えていたのには別の理由があった。
『神意観測装置起動。――対象神意能力者の解析完了。竜招の能力ドラゴン・サモンズ。能力、様々な竜を呼び出す事ができる。欠点、竜は呼び出した種類、数、能力者との距離により制御が難しくなるため、遠くに飛ばす場合、弱い竜一体しか使う事が出来ないなどの制約を受ける。なお、遠くにいる竜に命令するのは難しく、予め与えた命令に従わせる事しか出来ず、その竜の状況確認については生死が確認できる程度が限界になる』
「なんで俺は、あいつの能力の詳細がわかるんだ……」
まるで最初からその神意能力を知っていたかの様に、サクヤの頭の中には目の前の神意能力者の情報が浮かび上がってくる。その事に驚きながらも、サクヤはその事実を受け入れる。
「それにしても、この欠点ってあいつを倒す時に何の役にもたたないな……、接近されたら欠点が無いのと変わらない」
カナタに隙があれば援護を、と頼まれていたサクヤだったが、カナタが吹き飛ばされたこの状況では飛び出すのは自殺行為だった。しかし、このままここでじっとしている訳にもいかず、考えを巡らせる。
(どうする、せめてカナタだけでも助けるか……。でも、あいつの目を盗んで助けるのは不可能に近い……)
ゼノンに注目していたサクヤは、その時レッドドラゴンが一匹減っているのに気が付かなかった。
「グルァァァァァァァア!」
「――っつ!」
サクヤは上空から落下してくるレッドドラゴンにやっと気が付く。レッドドラゴンの飛翔は魔法による飛行であり、巨体に似合わず静かに飛ぶ。その為、影や声が出るまで自分の上にいるとは気が付かなかった。
「おっ、新しいエサか、やっちまえ!」
ゼノンは対象を確認もせずにレッドドラゴンに向かって命じる。ゼノンからすればこの国で注意するべき相手はカナタのみであるため、それ以外など取るに足らない存在だった。
「やばい……!」
サクヤには無傷のレッドドラゴンに傷を付ける方法が無い。その為、出来る事と言えば逃げる事だけだった。
「あっぶな!」
レッドドラゴンの急降下攻撃を回避したサクヤは、距離を取る為に駆け出した。しかし、その後姿に、他の三匹のレッドドラゴンが容赦なくファイヤブレスを放つ。
接近するファイアブレスは三発、手持ちのグランエグゼは一本。前回の戦いの様にグランエグゼを投げつけても、防げるのは一発だけ。しかも、左右には建物があり避ける事も出来ない。
(終われない、こんな所で、終わりたくない……)
サクヤは心の中でそう念じながら、グランエグゼを頭上へ振り上げた。だが、そのままグランエグゼをファイヤブレス振り下ろしても、爆風に巻き込まれサクヤは確実に死ぬであろう。しかし、それでもサクヤはグランエグゼでファイヤブレスを迎撃する事を決めた。
何故、そうしようと思ったのかは自分でもわからないが、しかし、サクヤにはこの方法が最善だと思えていた。
『幻想因子残量の全てを使用、対神兵装の第一封印を解除します』
その声と共に、グランエグゼの剣身の付け根、鍔の上部に亀裂が入る。そして、そこからグランエグゼの外部装甲が開き、隙間から漆黒と紅の部分が現われた。
『対神兵装・幻想因子崩壊機関、起動』
グランエグゼの漆黒と紅の部分から黒い粒子が溢れ出し、刃先の部分を包み込み、漆黒に染め上げていく。
「うわああああああ!」
そしてサクヤは、漆黒を纏ったグランエグゼをファイヤブレスに振り下ろした。
修正箇所
3/17 謎の声→その声
全然謎ではなかったから




