第12話 あぁ、素晴らしき日常 こんな日々が続けばいいね
11話(1話前)を少し修正しましたが、ストーリーには影響ありません。
申し訳ございません。
朝、サクヤが目を覚ますと、カナタが買い物に出かけようと誘ってきた。何でも今日は一日休みらしく、街を案内してくれるらしい。
「良いのか? 折角の休みなのに?」
「大丈夫です! ちょうど新しい靴が欲しかったところなので問題ありません!」
あまりにもカナタが盛り上がっているので、訓練がしたいとか、イスラの話を聞きたいとかも言えず、そのまま街へ出かける事になった。
「サクヤ様はどのようなお店を回りたいですか?」
「そうだな、旅の役に立つ道具が置いてある所かな」
「それでしたら、こちらのお店がお勧めです」
サクヤが案内されたのは、旅人も使える様な雑貨を扱っている店だった。
店の中には様々な道具が置いてあり、サクヤは用途などを確認しながらタオルやコップ等必要な物を購入していく。食料に関してはいつ出発するか決めていない為、長期保存出来る物を中心に購入した。
元の世界と違い、お店にはお釣りが多く置いてある訳ではないので、お釣りが少ないように調節しなければならず、ついつい買い過ぎてしまう。
「早速貰った鞄が役に立ったな」
「それにしても買い過ぎです。重くないのですか?」
「大丈夫だ」
サクヤの鞄は現状で約2kg程の重さになっていたが、所持品軽量化の効果で殆ど重さを感じていなかった。
(この分だと俺が重いと感じる前に鞄が重みに耐えられなくなりそうだな……、注意しないと)
身に着けている間は軽くて大丈夫でも、外した際に急に重くなるとどうなるかわからない為、余裕を持って入れる必要があり、少し面倒くさく思うサクヤであった。
「それにしてもサクヤ様は始めての買い物のはずなのに、慣れている感じでしたね」
「そっ、そうか? 適当にやっただけなんだけどな」
購入の仕方は元の世界と大差ないため、無意識にいつも通りに買い物をしてしまい、カナタに疑いの眼差しを向けられるが、そもそも信じられていないので今更の話である。
「そうだ、次は靴屋に行こう」
「サクヤ様は、靴が欲しいのですか?」
「いや、お前が欲しいって言ったんだろ」
「あははっ、そうでしたね」
カナタの目的はサクヤと休日を過ごす事だったので、口実として使った靴を買いたいという目的を忘れてしまっていた。
「それでは、こちらです」
その後、靴屋に連れて行かれたサクヤは、カナタが靴を見ている間、店内を観察していた。元の世界と違いファッションとしての靴と実用性の高い靴が混在していて、見ていて違和感があった。
(この世界の人間は陳列に気を使ったりしないのか)
雑貨屋もそうだったのだが、この世界の人間は取り敢えず棚に物を出して置けば良いと思っており、見栄え等は気にしていない様だった。
その理由については、ライバル店が少なく、購入者にも陳列の仕方を気にする様な人間がいないからである。
もう少し巨大な国に行けばその辺りに気を使う店もあるのだが、この世界の住人は自国から出る事なく一生を終える場合が殆どなので、お店とはこういったものという認識が強かった。
「これはどうですか? サクヤ様」
「良いんじゃないか、カナタに似合っていて可愛いよ」
「そっ、そうですか。ふふふっ」
カナタは楽しそうに買い物をしているが、サクヤはだんだん暇を持て余してきた。
そもそもサクヤはファッションに気を使うタイプではなく、靴なんて履ければいいと思っているので靴の良し悪しなどわからない。
適当に可愛いと言い続けるのも辛くなって来た頃に、やっとカナタの買い物が終わる。
「これをどうぞ」
「これは?」
「今日付き合せてしまったので、お詫びのしるしです」
そう言ってカナタが渡してきたのは、カナタが自分用に買った物とお揃いの靴だった。
(女っていうのはお揃いとかいうのが好きなのかねぇ)
そういった感覚が理解できないサクヤだが、断るのも悪いので「ありがとう、大切にするよ」と伝えて靴を受け取る。
使う使わないは別として、他の荷物と同じように靴を鞄にしまい、次の店に向かった。
「ここのパンケーキは絶品なんですよ」
「へぇ、それは楽しみだな」
サクヤとカナタは行列の出来るパンケーキ店にやって来たのだが、店員がカナタの姿を見た途端、新しいテーブルとイスを用意し始め、二人の前に行列をすっ飛ばして料理が運ばれ始めた。
予約でもしていたのかとサクヤが確認するが、カナタはここに来るといつもこうだと答えた。カナタには自覚が無いが、エスタシア住人にとってカナタは守り神の様な存在で常に特別待遇だった。
雑貨屋と靴屋も本来は常に混雑しているのだが、カナタが来店する時は住人が気を利かせて自主的にいなくなり、帰った後に舞い戻るのだった。
サクヤはこういった特別待遇をされている人間が好きではないのだが、自分が得をしているので触れない事にしてパンケーキを食した。
「ここが魔道具専門店になります。取り扱ってるのは主に生活用魔道具ですが、旅にも役立つものがたくさんあります」
「確かに使えそうだな」
サクヤは明かりとして使えるペン型魔道具や、調理用魔道具を見ながら答える。
魔道具はかなり高額で持ち合わせでは大したものは買えないが、最低限必要になるであろう、明かり用魔道具と、鍋底が直接発熱する調理用魔道具と、浄化の機能が付いたタオルの魔道具を購入する。
本当は痛覚遮断の魔道具と戦闘用魔道具が欲しかったのだが、痛覚遮断の魔道具は他と比べて途轍もなく高額で購入できず、戦闘用魔道具についてはエスタシアでは軍関係者しか購入できないそうで手に入れられなかった。
痛覚遮断の魔道具についてはカナタがプレゼントしてくれると言っていたのだが、サクヤは断った。
財布の中身を確認して、冷や汗を垂らしながら提案してくる人間に奢らせるほど人間を捨ててはいないサクヤであった。
その後も何件かお店を回っているとすっかり暗くなってしまった。
「今日はどうでしたか?」
カナタは少し不安そうにサクヤに尋ねる。
「ああ、楽しかったし助かったよ。ありがとうカナタ」
サクヤが笑みを浮かべて答えると、カナタはうれしそうにしていた。
「それじゃあ、お礼はベッドの上でお願いしますね」
その一言を聞いてサクヤは複雑な心境になりながら帰路に着いた。
その後、サクヤは言葉通りベッドの上でカナタが満足するまでお礼をする事になり、痛覚遮断の魔道具を買わせないで良かったと思いながら眠りに付いた。
◇◇◇
次の日、サクヤはイスラに呼び出されて研究室にやってきていた。
「昨日は随分と楽しんだそうだね」
「なんでイスラがその事を知ってるんだ」
「カナタと一緒に歩いていれば嫌でも目立つからね、仕方ないよ」
サクヤは昨日の出来事を思い出し納得した。カナタはあらゆる意味で目立つ。そんな人間と一緒にいればすぐに噂されてしまうのであろう。有名人の知り合いは大変だなとサクヤは考えた。
「それで、そんな世間話をするために俺を呼んだのか?」
「いやいや、私だってそこまで暇じゃないさ。君を呼んだのは君に聞きたい事があったからさ」
そう言いながらイスラはサクヤににじり寄ってくる。
「君の使っていた剣、それが見たいんだ。今までの授業料だと思えば安いものだろう?」
「そういう事か……」
イスラは元々サクヤのグランエグゼに興味があった。しかし、この国に留まっているのなら何時でも聞けると先延ばしにしていたのだ。
しかし、サクヤがカナタと旅用の道具などを買い込んでいるという情報を聞き、聞く前に出て行かれたら困ると思い、急遽呼び寄せたのだった。
「だったら最初に会った時に聞けば良かっただろう」
「私はおいしいものは最後に食べる主義なんだ」
イスラの研究者らしからぬ発言を聞きながらサクヤは迷う。
(人造神剣はこの世界ではどんな扱いのものなんだ……、見せたらいきなり奪われたりしないだろうか)
サクヤはいろいろと考えを巡らせるが、結局断る理由が思い浮かばずに見せる事にした。
「形成」
その言葉と共に、サクヤの右手にグランエグゼが形成される。
何度も見たその光景だが、その幻想的美しさは色あせる事が無い。サクヤがどうだとばかりにイスラの方を見ると、イスラは目を丸くしていた。
「話には聞いていたが、本当に何の道具も使わずに剣を呼び出せるのだな」
魔道具や魔法を使えば、魔力で出来た剣を作り出す事が可能だが、その場合はガラスの様に半透明な見た目となり、ここまで正確な実体を持っている状態では作れない。
また、サクヤは魔道具を付けていないし魔法の発動宣言もしていないので、そもそもその二つでは無いと分かっていた。
イスラは興味深そうにグランエグゼを眺め、恐る恐る触れる。
「素材は金属の様だが、何だこれは。鋼鉄とも違う様だし、ドラゴンのブレスを受けたと聞いていたが、傷一つ付いていない。これは本当に実戦で使った物なのか? 観賞用の剣かと思うほど使い込まれている様に見えないぞ」
「この剣は頑丈だけが取り柄でね。切れ味とかは全く無いから、観賞用というのも間違っていない気がするな」
「切れ味の無い剣だと? いやしかし、これはそういう事では無い気がするぞ」
イスラはうんうん唸りながらグランエグゼを観察していた。
一頻り観察を続けたイスラはサクヤを見つめながら口を開く。
「サクヤ君、もしかしてこの剣は神剣だったりするのかね?」
「――っ、神剣? よく分からないな……」
イスラがどうしてその結論に至ったのかはわからないが、神剣という単語が出てサクヤは驚いて咄嗟に否定した。
まあ、グランエグゼは人造神剣なので、サクヤが言った事も嘘ではない。
「――ん、まあいいさ。知らないと言うなら神剣について説明しよう」
神剣、それは神により作られた特別な力を持った剣である。
ただ能力を持った武器ならば、剣などを魔道具として加工するだけでも十分だが、神剣の力は人間が作り出せる物の限界を超えていた。
ある時は死者を蘇らせ、ある時は時を操り、またある時は空間さえも切り裂く。神剣の力はまさに神の奇跡に等しかった。
「そうは言っても、剣によっては魔道具で代用できる程度の力しか持たない物もあるから、最強の力といった物ではない。しかし、神剣には例え大した力が無くても魔道具よりも優れている点がある」
神剣が他の武器より優れている点、それは神剣が神意能力者と同等の特性を持った半生命体であるという事だ。
「半生命体?」
「そうだ、神剣は武器でありながら単独で神意能力者並の幻想因子を保有し、再生能力を持ち、持ち主を選ぶ意思を持ち、持ち主を補助する為に自らの判断で能力を使用したりもする。しかも、前準備としての詠唱も神剣が勝手に行ってくれたりするので、下手な神意能力者より優れているとも言える」
神剣による能力の行使は神意能力と同じく、幻想因子を消費してもすぐに回復し、持ち主の技量により効果が増減する。
そこに、神剣の補助も追加されれば、例え効果が魔道具と大差が無くても、十分有用な武器となる。
ただ、神剣には意思があるが故に、持ち主が気に入らなければ力を発動しなかったり、自らの意思で力を暴走させる事がある。その為、使うにはそれなりの覚悟が必要だった。
「そして、神剣にあるもう一つの特徴。それは持ち主との適合率が極めて高い場合、その持ち主の体と融合し、自在に呼び出す事が出来る様になるという点だ」
「なるほど……」
それは間違いなくグランエグゼと同じ特徴だった。
(人造神剣と言うからには人間が作ったものなんだろうが、こいつにも意思とかあるのかな?)
そう思いながらサクヤはグランエグゼを見つめた。
『クスクス……』
その時、何かの声が聞こえた気がした。
「大丈夫かい?」
「――ん、ああ、大丈夫だ」
サクヤは最近空耳が多いなと思いながら、視線をイスラに移す。
「それで、君のその剣をどこで手に入れた。どういう物か知っているのかい」
「これは師匠から譲り受けた物で、どんな物か教えてもらう前に師匠が死んでしまったからわからないな」
「じっくり考えたかの様な回答ありがとう。取り敢えず良くわからないと言う事だけは理解したよ」
イスラはそれで一応は納得してくれた様で、それ以上は質問してこなかった。しかし、自分もグランエグゼについて知りたかったので、サクヤはイスラにグランエグゼを差し出す。
「なぁ、イスラ。もしよかったら、こいつの事調べてもらっても良いか?」
「ふむ、私も実物の神剣を見た事は無いから正確に調べられるかわからないが、やってみよう」
グランエグゼを受け取ったイスラは、好きな人からプレゼントを貰った女の子の様にウキウキしながら様々な機械を引っ張り出し、グランエグゼを調べ始める。
イスラかグランエグゼに夢中になっている間、暇になったサクヤは近くの本棚から一冊の本を取り出す。
「大陸地図、幻想暦1220年版か……」
幻想暦の部分は西暦みたいなものと判断できるのだが、今が何年か分からず、サクヤはイスラに尋ねようとした。しかし、イスラがあまりにもグランエグゼに夢中なので話しかけられなかった。
「まぁ、年代なんていつでも聞けるし、中身だけ確認しておくか」
サクヤは手に取った本をめくり内容を確認していく。
――幻想暦1220年現在の大陸地図。主要国家の位置と詳細。
まず、サクヤの目に入ってきたのは、横長で楕円形な大陸全体図と中央にある、大陸を二分する建造物の絵だった。
「ええと、大陸中央にある国はシルヴァリオン帝国で、その帝国から上下に伸びている壁がマギカラインか。ええっと、何かの絶対防衛線みたいな名前だな」
大陸は中央のシルヴァリオンから東が人界、西が幻界と呼ばれ区別されているが、双方共に人間が住み、一定の生活水準は維持している。
ただし、幻界はイスラが説明した通り、魔物が大量発生する地域となっており、更に人間同士の争いも頻繁に起こっているらしい。
「シルヴァリオン帝国は幻界からの脅威を防ぐという名目で大陸を二分し、幻界から安く魔結晶を購入し高値で人界に売却、逆に人界から食料などを安く購入し幻界で高値で売却しているだって。酷い国だなシルヴァリオン帝国っていうのは」
実際、シルヴァリオン帝国のやり方に異議を唱える者もいるが、シルヴァリオン帝国には多数の神意能力者と神剣保持者、そして神意能力者に引けを取らない多くの魔法使いが存在しており、表立って逆らう者は殆どいなかった。
「シルヴァリオン帝国の女帝、クレア・R・シルヴァリオンは神意能力者を超えた存在、神格能力者と呼ばれ、神と同格の存在として扱われている。その証拠に彼女は歳を取らず、400年もの間、変わらぬ美しさで女帝として君臨しているっか……、そりゃ普通の人間じゃないな」
女帝クレアが神格能力者だと知った瞬間、心の中で言葉で言い表せない感情が芽生える。
サクヤは自然に女帝クレアの能力について調べようとするが、手にしている本には名前と簡単な説明しか書かれておらず、女帝クレアの能力はわからなかった。
「まぁ、そっちは後で調べるとして、今は周辺の事を調べますか」
大陸一の有名人であろう女帝クレアの情報ならばすぐに調べられるだろうと考えたサクヤは、大陸地図を読み進める事にした。
この後サクヤが知った情報は以下の通り。
――エスタシアはシルヴァリオン帝国の南東にあり、シルヴァリオン帝国に魔道具を無償で提供する代わりに同盟を結んでいる。ただし、軍事力に関しては有事の際にしか援助されない。
――エスタシアの隣国リンドブルムは、昨今衰退が始まっており、治安が最悪の国である。
――人界にある主要国家の位置と国柄、軍に所属する神意能力者の情報。
――そして、大陸の外側、海と呼ばれる場所は幻想因子枯渇エリアであり、エリア内に入ると体内の幻想因子が周囲に溶け出し死んでしまうという事である
それ以外にも、この大陸に関する知識を得る事が出来たサクヤが一息ついてイスラの方に目を向けると、イスラはまだグランエグゼを調べていた。
「――これは、神剣にしては幻想因子保有量が少なすぎる……。しかし、強度に関しては神剣以上かもしれないな……。何をやっても全く削れないから材質も調べられん……。そもそもこの剣は何かがおかしい……まるで……ブツブツ……」
「えーと……」
周囲にはあまり聞こえない大きさの声で、独り言を繰り返しているイスラにどうやって声をかければ良いのか迷っていたサクヤだったが、イスラを呼びに来た研究員のおかげで面会時間は終了となり、サクヤはグランエグゼを回収して研究室を出た。
その後サクヤは、カナタと合流し、またボロ雑巾になるまで訓練に付き合い、動かなくなったところで風呂場に連れ込まれるという最近の日課を終わらせて眠りについた。
◇◇◇
――同日深夜、エスタシア南東の森。
「あーーーー! なんで俺様が態々あんな国に行かなきゃなんねぇんだよ! レッドドラゴン一匹送り込んで、ターゲットを魔物による襲撃で運悪く死亡って事で処理しようとしたのに、自国に立て篭もられちまうし、あのクソ依頼主は早く成果を上げろってうるせぇし、めんどくせぇ!」
暗い森の中を一人の男が歩いていた。獣のように鋭い目をした中肉中背のその男は、喚き散らしながらエスタシアへと向かって行く。
「しかし、どうする。相手が外に出てこねぇんじゃ、街は壊さずターゲットだけ殺すなんて無理じゃねぇか! あの野郎無理難題押し付けやがって……、ああ! もうどうでも良い! 依頼達成なんてしらねぇからあの街ごとターゲットをぶっ殺してやる!」
男は近場の木を殴りつけながら声を荒げ、しばらくすると、突然笑い声を上げだした。
「そうだ! 俺を馬鹿にする奴等は全員殺してやる! あの国の奴らを皆殺しにしたら、次はあのクソ依頼人の国をぶっ潰して、俺様こそが最強の神意能力者だと教えてやるんだ!」
男はそれこそが正しい選択であると信じ、獲物を狙う野獣の様な目でエスタシアがある方向を睨み付ける。
「待ってろよ、エスタシアのクソ女王! テメェをぶっ殺して、俺様のドラゴンの餌にしてやるぜ!」
狂ったように笑う男は、泣き叫ぶ人々の姿を想像し、獰猛な笑みを浮かべて歩みを再開したのだった。




