第7話 悪戯な守護者
「エアガン隠し持ってたんじゃね?」
三年一組の黒崎颯が言った。
「まあ、そうだろうな」
右手を包帯で巻き肩から吊るしている同じ三年一組の古賀将史が答えた。
「小島を騙すくらいの奴だし、気をつけた方がいいよ」
三年二組の矢野翔太が、俯きながら言った。
「同じ目に……いや、もっとギタギタにしてやらないと気が済まない」
古賀が左手の拳に力を入れて振り回した。
「今日、昼休み終わる間際に呼び出すか」
「いいなそれ」
三人は笑い合った。
◇
昼休み。天は給食当番で、机の端に積まれたトレーを順番に並べ、汁椀と皿を分けて片付けていた。
「天野」
クラスメートの矢萩が天に声をかけた。
「当番終わったら、ちょっと話、いい?」
「あ、うん」
矢萩は、食器を給食室まで運ぶのを手伝ってくれた。
食器を下ろすと、矢萩が「ついてきて」と言った。
矢萩は昇降口から外に出て、校庭の隣の通路脇にある桜の木の根元へ行った。天も後から付いていく。ナギもついてくる。
校庭でサッカーをする声はするが、近くには誰もいなかった。
「なに?」
天は、桜の木を軽く叩いた。
「お前さ、なんか隠してない?」
天はドキッとするが、誤魔化した。
「なんも隠してないけど……」
「いつもさ、帰り声かけようと思ってたんだけど、林と帰ってるじゃん?」
「ああ、林がいつもなんか知らないけど、待ってるんだ」
矢萩は少し驚いた顔をした。
「あれ? お前ら付き合ってんじゃないの?」
「違うよ」
「そうなの?」
「うん」
「じゃなんで林は待ってるの? お前のこと」
天は、返事に詰まった。
「林となんで仲良くなったの? それに最近、お前の周りで変なことばかり起こるしさ。上級生のことだって、俺はお前がやったとは思ってないよ」
天は下を向いた。
(色々噂が流れてるはずなのに、矢萩はまだ僕のこと信じてくれようとしてる……)
矢萩が顔を覗き込む。
「まだ朝倉のこと好きなの?」
天はしばらく迷ったが、小さい声で答えた。
「……うん」
「ふーん」
矢萩は、天の噂を聞いてるはずなのに、変わらず優しかった。
天は、矢萩に打ち明けたくなった。
「あのさ……、実は……」
天は今までのことを全て矢萩に打ち明けた。
矢萩は、ボーッとして視線の焦点があっていなかった。
(嘘だろ――鬼!?)
矢萩は天の言うことが、にわかには信じられずにいた。
「天野……大丈夫か……?」
天はその一言で、矢萩が信じてくれていないのだと悟った。
「……変なこと言ってごめん。気にしないで」
天が時計を見ると、五時間目が始まる数分前だった。
「五時間目、始まっちゃう」
二人は慌てて教室に戻ろうとすると、廊下で上級生三人に道を塞がれた。
「俺ら、天野に用がある」
古賀が、天の肩を掴む。
黒崎が顎で矢萩に「あっちへいけ」と合図した。
天は顔面蒼白になった。
二人の間で肩を掴まれ、屋外に引っ張り出された。体育館の裏につくと、天は地面に投げ出された。
ナギはおとなしくついてきている。
「俺以上の目に合わせてやる」
古賀が薄ら笑いをした。
――その頃、矢萩は。
上級生に連れられて行ったことを、職員室の先生に告げに行った。五時間目は、担任の小島先生が職員室にいた。
矢萩は、息を切らしながら先生の前に走った。
「先生……! 天野が上級生にどこかに連れられて行きました!」
「いつ?」
「今です!」
「どこに行ったかわかるか?」
「わかりません……。上級生三人いました。肩を掴まれて……」
矢萩は泣きそうな顔をしている。
「わかった。探しに行こう」
他の先生数人と一緒に探しにいくことになった。
――一方、天の方は……。
古賀に胸ぐらを掴まれ、体育館の壁に叩きつけられ、殴られた。鼻血が滴る。
「あ? なんも抵抗しないのか?」
古賀がそう言って左手に力を入れた。
「今日はエアガン持ってなさそうだな」
黒崎が天のポケットや手元を調べて言った。
矢野は離れたところで見張りをしていた。
ナギは、口を開けて、天から群青色のエネルギーを吸っていた。
『ちょっとスパイシーだ』
古賀は黒崎に目配せすると、天のお腹に膝を入れ、体は《くの字》に曲がった。
「うっ」
古賀と黒崎は、倒れた天を踏んだり蹴ったりした。
ドカッ! ボスッ!
『舐めんな……』
ナギは、玉を何度も弾いた。
丁度その時、小島先生と矢萩が現場を見つけた。
古賀と黒崎は、何かを避けるように顔を腕で覆ってこちら側を見ていた。
「「いてえ!」」
みるみる古賀と黒崎のシャツが赤く染まってゆく。とうとう二人はその場にうずくまった。そのまま二人とも倒れた。
「どうしたんだよ!」
矢野は、どうしたらいいのかわからないまま、立ち尽くしていた。
小島先生と矢萩が駆けつけると、古賀と黒崎の足元で天が横たわっていた。
「どうしたんだ、お前ら。この有り様は……」
「天野!」
矢萩は天に声をかけたが、反応がない。矢萩は青ざめた。
『天は失神してるだけだ。……手加減はしたぞ』
ナギは、指で宙に玉を弾いて遊んでいた。
ピッ。ピッ。ピッ。
小島先生は、スマホで救急車を呼んだ。
「矢萩、早瀬先生と織田先生呼んできて。まだ、探してるはず」
「……はい」
矢萩が走り去ると、小島先生は矢野に声をかけた。
「矢野、状況説明してくれ」
矢野は震えていた。
「アレは、天野じゃない……。誰だ! こんな目に合わせた奴!」
矢野は周囲を何度も見回していた。
「矢野、落ち着け。周りは誰もいなかった」
小島先生も見ていた。天は地面に横たわり、古賀と黒崎が血だらけになっていくところを。
(あれはなんだったんだ……?)
振り向くと、矢萩と早瀬先生と織田先生が走ってくるところだった。
◇
救急車二台が学校の体育館前に着き、学校内は騒然となった。
五時間目の授業は、みんなが窓際にかじりつき(先生まで)、授業にならなかった。
三人は市内の同じ病院に運ばれた。小島先生と三年の学年主任の織田先生が付き添った。三人の家族にも連絡を入れた。
古賀と黒崎は、体のあちこちの骨が折れていた。まるで小さな弾丸を何発も撃ち込まれたような傷だった。
痛み止めと鎮静剤のせいで、二人はまだ意識を取り戻していない。
天は、あざが多数あるものの、軽傷だった。入院にはならなかった。ベッドで少し休んだ後、帰れることになった。
天はナギに話しかけた。
「先輩たちは、また骨折したらしいけど、またやったのか……」
ナギは天の足元でベッドに腰掛けている。体が大きくなった分、ベッドが沈んでいる。
『手加減してやったんだぞ! ちょっと小島先生と矢萩に見られたけど……』
「まじか……」
(矢萩はあの話、信じてくれたんだろうか……)
矢萩が先生を呼んで駆けつけてくれたことを知り、天は嬉しかった。
小島先生が、そう教えてくれた。
駆けつけた小島先生と織田先生は、重症の先輩たちに付き添っているようだった。
小島先生が部屋に来た。
あの二人はまだ意識がないらしい。織田先生が家族が来るまで付き添うようだった。
「天野のお母さんが来てくれるそうだ」
「僕、もう大丈夫です」
「いや、色々きつかったろ。もう少し休んで行きなさい」
「先生、先輩たちは……大丈夫なんですか?」
「麻酔で意識はまだないが、命は取り留めたそうだ」
小島先生は、言いづらそうに話した。
「先生は、天野がやってないのは知っている。だが、古賀や黒崎の怪我の原因を知ってたら、教えてくれ」
天はしばらく考えてから言った。
「わかりません……」
「そうか」
その時、天野秋穂、天の母が病室に入ってきた。
「天……。あ、小島先生、いつもお世話になっています」
「天君は、怪我は大したことなくて、もう帰っていいそうです」
「今日は、本当にありがとうございました」
秋穂は深々とお辞儀をした。
「では、私はこれで。……明日無理しなくていいんだからな」
そう言って、小島先生が病室から出て行った。
「先生から電話来た時、驚いて心臓止まるかと思ったわ……でも大したことなくてよかった」
「……」
「病院の先生が言っていたわ。妙だって」
「……」
「上級生の子は、重症だって。レントゲンではあちこち骨折してるのに、原因となるものが体内に何も残ってなかったらしいの。天、何か知ってる?」
「なんも知らないよ!」
天はそう言って寝返りをして秋穂に背を向けた。
「じゃあ、会計してくるから、終わったら一緒に帰りましょ」
秋穂が病室を出ていく。
『手加減しない方が良かったか? ヒヒッ』
「うるさい!」
天は自分のせいだと思うと、やりきれなさで胸がいっぱいだった。
(俺、生きてていいのかな……)
一雫の涙が目尻を伝った。
ラインが来た。愛羅からだ。心配してくれていたようだった。ラインで今までの事を全て話した。
『大した事なくてよかった! 天野君はなんも悪くないから。悪いのはナギと先輩たちだよ!』
愛羅と話していると、胸の支えが取れていくようだった。
『明日休みなよ』
『いや、ナギに家族が巻き込まれそうだから、明日行くよ』
『学校なら私や先生いるしね』
(学校ならいいのか?)
天は自分が自分のことしか考えてないような気がした。
『私、ナギが変なことしないようについてようか?』
『いや、いいよ』
(巻き込むわけにいかないだろ)
『助けてもらったから、助けたいんだ』
『それは、ナギが』
打ち込みかけて削除した。
『ありがとう』
『じゃ、また明日ね』
『また』
その時、秋穂が戻って来た。
天は帰り支度をしながら思った。
(気持ちがだいぶ楽になった……)
ナギはつまらなさそうに歩き回っていた。
『俺も愛羅と会話してえな……』
(やっぱりナギは愛羅が好きなのか――?)




