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玉滴石  作者: みつき


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第9話 守るための力

 朝。

 昨夜も眠れなかった。

 ナギに兄のことを聞くと、大人に囲まれて落語をしていると言っていた。

 (試験みたいなものなんだろうか?)

 

 今日はナギには変化がないようだ。少しホッとする。

 (いや、封印解ければもう関わらなくて済むんだよな……。ホッとしちゃいけないじゃん) 

 自分にツッコミを入れたところで、ナギがむくりと起き上がる。横に寝ているだけで、部屋が完全に狭くなる。

  

『……よく寝た』 

「後どれくらいで封印解けるの?」

『知らん。まだだろ』

 ナギはぶっきらぼうに答えた。

 (まだ先かあ……)


「おはよう」

「おはよう」

 今日は珍しく海都が起きていた。

「はや!」

 海都は、『言うなよ?』とでも言うように天を睨んだ。

 (わかってるよ……)


 天と海都は、トーストと牛乳とハムエッグを一緒に食べた。

「いつも食ってないから、お腹いっぱい」

 海都がお腹をポンポンと叩いた。

 

「朝食は摂った方がいいわよ」

 秋穂が苦笑する。


 天と海都は歯磨きと洗顔をして身支度する。

 海都は小声で天に囁いてから先に学校に行った。

 (あの事、絶対に秘密だぞ) 


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 天は胸がちくりと痛んだ。


 ◇


 学校に着くと、昇降口の外にパトカーが止まっていた。


 胸がズキンとする。見ないふりをして靴を履き替えた。


「天野」

 振り向くと、小島先生と制服の警官が立っていた。


「少しだけ話を聞かせてくれるか」

 断れず、頷いた。


 通されたのは応接室だった。ナギも続いて中に入り、窓際に立って腕を組んでいる。尻尾が時折壁に当たり、小さな音を立てていた。


「昨日の件で、その場にいた生徒に話を聞いている」

 警官は淡々と言った。


「三年生に連れて行かれたんだな?」

「……はい」

「場所は?」

「体育館の裏です」


 ペンが紙を擦る音だけが響く。


「何をされた?」

「殴られて、蹴られて……」

「その後は?」

「気づいたら病院でした」

 警官は頷いた。


「周りに誰かいたか?」

 一瞬、ナギの方を見た。ナギはニヤッと笑っているだけだ。

『黙っとけよ? 証拠はないんだから』


「……いませんでした」

「そうか。ありがとう。もういいよ」

 思っていたより早く終わった。


 廊下に出ると、小島先生が言った。


「大丈夫か?」

「……はい」

「無理しなくていいからな」


 先生はそれだけ言って職員室へ戻った。

 窓の外では、いつも通り授業が続いていた。

 天は静かな廊下を歩いて自分の教室に戻った。


 ◇


 休み時間。

 

 矢萩が天の席に来た。

「朝遅かったろ。何してたの? 小島先生もいなかったし」

「応接室に行って一昨日の話聞かれてた」

「お前もか。実は昨日帰ろうとしたら、俺も警察に聞かれてた」

「そうだったのか」

「俺はずっと小島先生といたから軽く聞かれただけだった。お前は色々聞かれたんだろ?」

「ううん、何されたのか聞かれただけだよ」

 そう言った天の目は落ち着かず泳いでいた。 

 なぜなら、朝倉七海が二人をじっと見ていたからだ。

 (朝倉は怪しんでるんだろうか……僕のこと)


「天野……アレって今もここにいるのか?」

 矢萩が天に顔を近づけて囁いた。

「うん。今廊下に行った」

「うろうろしてんの?」

「そうだよ。いつもうろうろしてる」

「なんか……怖いな」

「慣れたけど……怖いね」

 その時小島先生が来て、チャイムが鳴った。二時間目始業になり、みんなが席についた。


「来週のテストの範囲について説明するからよく聞いとくんだぞ。教科書の五十ページを開いて――」

 

 みんなが教科書を開く音がする。

 天は七海の背中を見つめていた。


 ◇


 市内の病院。

 古賀将史と黒崎颯は、同じ部屋に入院していた。

 

 漫画を読んで笑っている古賀に黒崎が声をかけた。 

「天野天だけど……。奴さ、なんか変な力があるんかな?」

「単純に仲間がいるんじゃねえのか?」

「どこによ」

「……わかんね」

 古賀はページをめくろうとするが、右手中指と薬指がまだギプスで固定されており、うまくめくれずイライラした。

 

「矢野はすっかり怖がってるな」 

「うーん……。弟経由で調べとこうか?」

「圭吾か。あいつ頼りになるのか?」

「多分……ならねえ」

 二人は苦笑した。

 

「いたた……傷痛え」

 二人はふうっとため息をついた。 

 

 ◇


 昼休み。

 

 七海が、天のところに来た。


「天野くん。ちょっと聞きたいことあるんだけど……」

「何?」

 天は照れ臭くて目が合わせられなかった。

「前に消しゴムが勝手に動いていたのと、天野くんの周りの事件て関係ある?」

 天は心臓が飛び出しそうになった。

 ドキッ!

 

『こいつ、ほんと鋭いな。消すか』

「やめろ」


「……天野くんて、誰かと話してるの?」

 (朝倉は、巻き込みたくない……)

 

「誰とも話してないし、なんでもないよ。朝倉、気にしすぎ」

 そう言って天は笑ったが、顔が引き攣っている。


 ナギは口を開けて水色の負のエネルギーを吸っている。

『足りねえ……』


 ナギは前髪を上げると一つ目を出して、七海に向けた。

『こいつ、動けなくしたぜ! 金縛り! 次は何しようか。天以外は触れられないから……頭痛でも起こすか』

 七海は硬直し、目だけキョロキョロ動かしている。


「や……め……ろ。今すぐ」

 天は両手で拳を作った。

 

『やんのか? 天。お前は殺さないけど、どれだけ傷ついたっていいんだからな。動けなくなると吸えなくなるからやらないけど……』

 そう言ってナギは口を開ける。

 シューッ。

『うまいうまい。こうでなくっちゃ』


 天の拳が震える。天がナギに拳を振り上げようとした時、七海が動いた。

「ハァハァハァハァ……」

 七海は喉を押さえていた。

 

「い、息ができなかった……死ぬかと思った」

 七海は涙を溢して、手で涙を拭う。

「うっ……」

 

 周りの子が、異変に気づいて近寄ってくる。

「あー! 朝倉泣いてるじゃん! 天野が泣かした!」

 

 七海はどこかに走り去った。

 

「あー! 私先生に言ってくる!」

 七海の友達の吉沢が菜月が走っていく。


 天は呆然として立っていた。


 ナギは満足な顔をして、口を開けていた。

『ああ、うまい』

 (朝倉にもバレたのか……?)

 天はゆっくりとした足取りで自分の席に戻った。


 ナギは窓に背中を預け、ニヤニヤと天の横顔を眺めていた。

『天……お前、あいつを助けようとしたな。……ヒヒッ、無駄な抵抗はやめろよ。お前が苦しめば苦しむほど、俺は強くなるんだからな』


 それからは、七海は天と目を合わせようとしなかった。

 小島先生に声をかけられ、放課後職員室に行くよう言われていた。


 ◇

  

 放課後。


 小島先生の席に向かう。他の先生方の視線が集まっているのがわかる。

 (朝倉になんて聞いたんだろうか……?)

 先生がこっちを見ている。ドキドキしながら先生に近づいていく。天は俯いた。

 

「天野。朝倉が泣いていたらしいが、なんか家のことで情緒不安定になって泣いてしまったらしい。なんか聞いているか?」

 (えっ?)

 天は、ハッとして顔を上げた。

「……なんも聞いてないです」

「そうか。吉沢がお前が泣かしたと勘違いしてたぞ。俺からちゃんと言っておくな」

 先生は、優しく微笑んだ。

 

「最近色んなことが重なっててお前も気に病んでるかもしれないけど、お前のせいじゃない。……些細なことでもいいから気づいたことがあれば俺に相談してくれ。いつでも聞くから」

 天は先生が信じてくれているのがわかった。


「……はい」

「もういいぞ。帰り気をつけろよ」

「失礼します」

 天は小島先生にお辞儀した。


 (朝倉はなんで言わなかったんだろう? 本当のことを言っても、信じてもらえないと思って?)

 天は七海の意図がわからないまま、昇降口へ向かった。


『七海、頭いいな。先生に喋ったら頭がおかしいと思われるからな。ヒヒッ』

「ナギ、今日は本当に頭に来てる」

 

 そう呟くと、天はナギに突進した。

 ナギはスルッと避けた。

 

『おいおい、お前が俺に勝てるわけないだろう。ヒヒッ』

 

「わーっ!」

 天は再度突進した。 

 ドスッ。

 

 天はナギのお腹に肩をぶつけ、ナギの両腕を掴む。力を込めた。歯を食いしばる音がする。

 

『めんどくせえなあ……』

 ナギは天の胸ぐらを掴み、軽々と放り投げた。天の体は傘立てに突っ込んで大きな音を立てた。

 ガシャーン!

 

「やめて!!」

 愛羅が天に駆け寄った。天は起き上がる。 

「いたた……」

「ナギでしょ? これ。もうやめて!!」

 愛羅は天が飛んできた場所に叫んだ。


『わかったよ。……七海に手を出さなきゃいいんだろ? チッ』


 愛羅は天の体を庇うように腕で包む。

「愛羅……。ありがとう」

「ううん。もう大丈夫そう?」

「ナギが朝倉に手を出さないって約束した」

「噂でチラッと聞いたよ。やっぱりナギか」

 愛羅は、ナギがいる方向を睨んだ。


「立てる?」

「うん」

「帰ろ」

 天は、ゆっくり立ち上がって埃を払った。

「なんかあったらすぐラインちょうだいね」

「うん」

 天は一生懸命心配してくれる愛羅を見ていると、怒りややりきれなさが消えていった。そして、安堵感が広がっていった。


 二人から少し離れてナギがついて行く。

 外はもう暗くなりかけていた。

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