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「……………」


僕は体育館倉庫の上にある窓を見据えて距離をとる。手には手頃な長さの棒がある。


「…ハッ!」


一気に加速。壁の手前で地面を強く棒で突き、その反動を利用して高々と跳躍する。


「…くっ!」


だが足りない。僕の手は窓には届かない。ほんと、何で無闇に高いとこにあるのやら。おかしいでしょ、この倉庫。僕は諦めて体を反転、壁を軽く蹴り、地面に着地する。


「うーん」


少し思案し、僕は決定付ける。


「他に方法は無さそうだし、諦めよう」


「諦め早ああああああーーーーーーーい!!!」


現在、13:00。

人、少な過ぎでしょ。


・・・

・・



「お腹減った…」


「うーん。気を紛らわせればいいんだけど…」


さあ、何をやろう。


「あ、しりとり」


「いきなりマイナーなの来たね。…しょうがない。やろうか」


「じゃあ僕からね。しりとりのり」


「リヒター」


「アッシュ」


「ユルゲンス」


「スケルトン・ウォーリア」


「アビス」


「スプレッド」


「ドランソード」


「ドロッセル」


「ルーク」


「クラトス」


「スキット」


「トリリオン・ドライブ」


「ブラスティア」


「アスベル」


「ルミナシア」


「アリエッタ」


「タラス街道」


ー13:30ー


「何でテイルズなのよおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


「すっごく今更だね」


というか、僕は30分も続いたことに驚愕だよ。何で知ってるんだ?


「うぅ、余計にお腹減った」


「さて、どうするか…うん?」


何か音が聞こえる。音はドンドン激しくなっていく。


「雨かな」


「雨ね」


気温が下がっていく。うーん、薄着だと少し寒いな。


「あ、あれ」


「なに?」


「マットよマット。あれに挟まりましょう」


「そうだね」


室内だしあまり寒くはないけど、一応入る事にした。


ー14:00ー


「寝てるし」


マットに入って寒さを防ぐうちに、意外に寝心地がいいために火渡さんは寝てしまった。


「…雨も降ってるし、人は来ないだろうな」


僕も寝てしまおうか?そう思ってる矢先、


「…行かないで」


「え?」


手を握られた。


「火渡さん?」


「…行かないで。お願い、行かないで。子どもらしく、するから。周りと、同じにするから、一人に、しないで。普通に、するから、ちゃんと、笑うから、子どもらしく、するから、お願いだから、一人に、しないで。お願い、お願い、お願い、だから」


…火渡さんはずっと一人で抱え込んでいたんだ。心の奥底で、ずっとずっと、耐えてたんだ。


「どうして、離れるの?どうして、行っちゃうの?どうして、一人にするの?どうして?どうして?どうして?こんな事なら、最初から一人で、よかったのに。一人で、一人で、一人で、ずっと一人で、いた方が、楽なのに」


「火渡さん」


でも、周りが火渡さんを否定した。だから、拒絶した。…でも、それでも、そうだとしても、


「一人じゃない」


一人にさせない。


「火渡さんは、一人じゃない。僕がいる。紅がいる。蒼ちゃんがいる。クラスメートがいる。火渡さんは、絶対に一人じゃない。だから、もう我慢しなくていいんだ」


一人の苦しさは知っている。だからこそ、僕が手を伸ばさなきゃならない。


「火渡さんは、もう僕たちの友達なんだ」


僕たちは、とっくに火渡さんを、肯定している。

そう言うと、火渡さんは笑って、また眠りについた。手は握られたままだ。


「これは、眠れないなー」


僕は、とりあえず眠気を払拭させるためにマットから出て軽く動くのだった。もちろん、繋いだ手は離さず、火渡さんを起こさず、だ。


ー18:00ー


「…んにゅ」


謎の言葉を発しながら、ついに目を覚ます火渡さん。


「ん…?」


寝ぼけてるのかな?


「おはよう、火渡さん」


「……………」


自分の手を見下ろす。その手は僕の手を握っていて…


「っ!!!」


一気に赤面。面白いぐらいはっきりした変化だ。


「な、あ、んで」


何を言いたいのかはっきりしていない。


「待って待って。落ち着こう。一回落ち着こう。はい深呼吸。すぅー、はぁー」


「やらんでいい!」


すっかり何時もの調子だ。


「あぁー、折角のいい夢がぁー」


「どんな夢見たの?」


あの寝言からどう派生していい夢になったのか気になる。


「ん?…まあ、隠す事じゃ無いか。でも他言無用だからね!」


「たごんむよう?」


「誰にも言うなってこと!」


「わかったわかりました!」


怖いです…。


「…私ね、他の子とは根本的に何か違うの。自分でも自覚できるぐらい。周りとのズレがあるっていうか、こう、周りに馴染めない感じ。私が何か言うとあっちがわからない顔をして、それでたまに夢にも見るの。最初は鮮やかな風景が広がって、沢山の人もいるのに、少しずつ、色彩が黒くなって、周りから、ドンドン、人が…」


「…火渡さん」


表情が暗くなっていく。思わず手を握る。そうすると、少し目を見開いてから少し柔らかい表情になる。


「大丈夫。その後ね、ぼんやりと人みたいな影が出てきたの。そしてね、その人が「一人じゃない」って言ってくれたの」


…うわぁ。僕だ。


「それで、胸の奥にあったモヤモヤが取れたの。…まあ、そんな急には性格なんか変えれないけど」


何処となく嬉しそう。うーん。やっぱり笑顔が似合うね。


「じゃあ火渡さん」


「焔でいい」


「…いいの?」


「うん。何か今更って感じがするのよねー。あんたと(クレナイ)君は特別」


「じゃあ、僕たちも名前で呼んで。絶対そっちの方が嬉しいから。もちろん僕もね」


「…わかったよ、“晶”」


その答えに、僕は思いっきりの笑顔で答えた。


「これからよろしくね、“焔”」


と、言った瞬間、光と音が、空間を支配した。


「落雷!?」


「ぐっ!」


かなり近くに落ちたみたいで、あまりの光に目が霞み、音に耳がキーンとして、使い物にならない。


「きゃあ!?」


「焔!?」


ボヤける視界には焔と、頭上から落ちる用具などか確認できた。

…まずい!

手もとにあるのは鉄の棒一本。焔はいきなりの事で対応できない。僕もだ。

どうする、どうするどうするどうする…


「…くそおおおお!!!」


僕のとった策はあまりにも無謀。はっきり言って、僕が今の状態で焔を安全地帯まで投げようと、焔は着地に失敗して結局大怪我を負うだろう。今の僕には何処に何があるかわからないし、この倉庫はかなりごちゃごちゃと物が置いてある。

だからと言って何もしないわけにはいかない。だから僕は、僕の力を振るうしかない。

全部打ち落とす。


「はあ!」


完全とは言えない視界で必死に棒を振るう。失敗は許されない。

だが、


「ぐっ!」


ボールなどは良かった。簡単だし、そこまで痛くない(腫れるぐらいには痛いけど)。だが、


「何で投球機が高いとこにあるの!?」


誰か教えてほしい。

だけど、ダメだ。お父さんとの稽古でも、僕はここ一番での威力を出すことができなかった。一撃に込める威力が少ない。だけど、どんなに練習しても、威力が上がることは無かった。

潰…れる?

もう、無理なのか?


「晶!」


「っ!」


バカか!今は僕以外に焔がいるんだ!できるできないじゃない!やるしかないんだ!


「ハアアアアアアアアア!!!」


渾身の威力を込めた突き。全身全霊の一撃だ!

だが、所詮は子どもの力。一瞬のラグが生まれたぐらいで、さして意味は…

認めちゃいけない。

子どもも何もない。あるのは成功か失敗かの二つ。だから、成功させるしかない。粘れ、粘れ粘れ粘れ!


「ァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


全ての力を棒の先端に集中させる。とにかく腕を伸ばし、腕全体を棒にする。声を上げる。

すると、不思議な事が起こった。棒の先端にすこしだけ、光が灯ったのだ。それに驚愕してる内にも変化がおこる。とても力が湧く。


「アアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーー!!!」


少しだけ、持ち上げた。が、結局それだけだった。

子どもの力を考えれば奇跡に近いだろう。だが、現実にそれは関係無い。焔も少し泣きそうな顔をしてる。

でも、僕には不思議とマイナスな感情は無い。スッとしてる。時間を稼げたって、自信を持って言える。焔にも教えなきゃね。


正義(ヒーロー)は、遅れた頃にやってくるんだ。










「正義キーーーーーーーーーーーーーーック!!!」


ほら来た。正義の味方。僕の、みんなのヒーロー。


「遅いよ、紅」


(クレナイ) (コウ)


「わりぃ!遅れた!」


ずぶ濡れだった。随分と長い時間探してくれたのだろう。


「ふ、ふぇえええ~~~ん!!!」


「うわあ!?火渡どうした!?」


「…ははは」


泣きながら紅に抱きつく焔。きっと彼女の心も少しずつ解放されりだろう。全て、完了だ。
































…いいとこ取りされたのはイラつくけどね。


・・・

・・



「セエエエエイ!!」


「おっ」


ガキィィイイイイン、と音が鳴り響く。いつもの練習では鳴らないような音だ。


「いい突きだな」


「ありがとうございます」


あの時、焔を助ける時の突きをイメージして突き出した一撃。結構試したが、あの時のような光は出なかった。でも、ここ一番での威力は十分に出るようになった。


「これならもう教えていいかもな」


「?何をですか」


「“氣”だ」


「き?」


「氷野家秘伝の技術だ。具体的には」


その後は説明が少し続いた。簡潔に言えばファンタジーでよくある魔力のようなものだった。

体の中にある“氣”を操作し、一撃の威力を底上げする。他にも身体能力や動体視力に反射神経などなど、いろいろ特典があるらしい。


「だが、これは使い過ぎると体が使い物にならなくなる危険なものでもある。お前の目指す強さがそれくらいかは知らんが、この先もっと強くなりたいならこれを会得する必要がある。だからこそ、ある程度強くなるまで教えなかった」


「はい」


「まあ、どちらにしろ、お前はある程度強くなったわけだ。そうだな、具体的に見せるか」


そう言うと、お父さんは右手を前に出し集中し始めた。すると、ぼんやりと光を帯びはじめた。て、この光、あの時の!


「どうした?」


「あ、いえ。この光、前に一度だけ出して」


「…そうかー。父さんはこの光出すのに5年掛かったんだが、晶はもう出せるのか」


「あ、いえ。自由には出せないです」


「出されてたまるか!父のメンツ丸潰れだぞ!?来い!今からしごいてやる!」


「え?ちょ!?お父さん!?私情でやるのは…嫌ああああああああーーーーーーーーーーーーーー!!!」


学校にはギリギリに着きました…。トホホ…。


・・・

・・


「コーウ!」


「うわ!また焔か…」


「…このメス豚が…!」


…学校では非常にカオスな状況が出来上がってました。

何が「性格を変えるまでには時間がかかる」だろうか。もう面影が無いくらいブレイクしてますが?

最近の焔のマイブームが紅のおんぶらしいです。この時の僕は、このマイブームが一時的なものではなく、永続的なものだとはまだ知らなかったのです。


「ははは」


もう苦笑しかでません。でも、僕はあの輪に向かいます。だって、そこが僕の居場所だから…。


ーThe Endー

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