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泣きたくなるような夜空の下で

 俺の足音だけが、深夜の住宅街にこだまする。

 これまでの人生を、思い出していた。あの忌々しい記憶を。

 泣けてくる。決壊しそうな涙腺を、抑えようと上を見上げる。

 この町でも、こんなにも星空が見えるのか。雲一つなく、遮ることのない大空は、きれいだった。

 馬鹿馬鹿しい。生きていたい理由を、探そうとしている。こんなことすら逃げようとしているのか俺は。このまま生きていたって。

 

 街灯の光が、痛々しく刺さる。

 缶酎ハイを煽って、アルコールを流し込む。

 ああ、死にたいな。死にたいな。

 願望を呪詛のように、何度も何度も唱え続ける。

 いつの間にか、母校の中学校の近くまでやってきた。楽しかった記憶など皆無だ。それでも、中学時代を思い出すと、懐かしい気持ちになる。

 いくつもあったであろう選択肢の正解を進めば、青春を味わえたのかな。こんな俺でも、思い返して戻りたいと思える学生生活を送れたのかもしれない。親友も恋人も作れたのかもしれない

 ありもしない空想の生活を思い浮かべて、悲しくてまた死にたくなる。


 惰性にまみれて、ギャンブルにもはまり、最低な理由で作った借金。バイトを先月、衝動的にやめたせいで、今月の収入は無くなった。借金の返済がもちろんできない。督促状も来るだろう。

 その方程式の答えは、家族に借金がばれる。そんなの死んでも嫌だ。

 恥ずかしいより、情けなさすぎる。

 あの笑顔も、あの約束も、あの信頼も、全て裏切ってしまう恐怖で叫び出したくなる。そんな度胸も、勇気もないから、ただ上を向いて歩く。


 アルコールが、十二分に身体中を巡っていた。思考が段々、鈍化していく。このまま意識を失って、どんな理由でもいいからそのまま死にたいな。

 というか、死ぬとか死にたいとか言いすぎだな。神か仏が聞いていたら、怒られそうだ。まぁ、神も仏もいないから大丈夫だろう。もし、いたとしたら悪人でない俺が、こんな不幸になる道理がない。

 意識を途切れそうになったので、残っていた酎ハイを飲み干す。それが決めての一撃になったのか、意識が遠のいていく。その刹那、何かが癪に障った。この世界にムカついた。

 だから、

「誰でも良いから!俺の人生やり直させてくれ!!!」

 心の底から叫んだ。そして、意識を失った。



 

 目を開けると、白い天井があった。見覚えのある白さだった。

 今日も起きてしまった。最悪だ。死ねなかった。

 昨日の夜のあの状態から、よく帰ってくれたな。帰巣本能ってやつだっけ。またしょうもないことを考えてしまった。

 現代人の相棒であるスマホを、手探りで探す。

 あれ?ない。ない。いくら手を伸ばしても、見つけることができない。

 布団を捲り上げて探そうとして、ようやく違和感に気づく。

 これ俺の布団じゃない。いや、そんなことより、ここ俺の部屋でもない。

 でも、何だろう。この既視感、懐かしさは。

 驚きのあまり、脳みそがフリーズしていた。何分そうしていたか分からないが、徐々に冷静になっていく。

 それでも回りきらない頭が導き出した答えは、とりあえずこの部屋から出るだった。あまりに、短絡的な答えになってしまった。

 開けた瞬間、その先の景色で全てを思い出した。ここは、高校の時に引っ越した家だ。疑問は解けたが、また別の疑問が出る。

 なんで俺がこの家にいる?

「あっ、おはよう。今起こしに行こうとしたところだったのに」

 お母さんだった。

「お、おはよう」

 まだまだ混乱していた俺は、それしか言えなかった。

「今日入学式なんだから、早めに朝ごはん食べて用意しちゃいなさい」

 入学式????

 何を言っているんだ母さんは。ついにボケが始まってしまったのか。

「にゅ、入学式ってなに?」

「なにって今日中学の入学式でしょ」

 中学?????

 もっと意味が分からない。

 まるで、俺が中学生になったみたいに。

 ・・・・・・・・・・・・・・

 まさか。そんなはずは。ありえない。

 でも、もしかしたら。

「今、今ってなん、何年?」

 恐る恐る聞く。

「え?2017年でしょ」

「えーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 九年前???

「うるさい!朝っぱらからなに」

 真向いの部屋の扉から姉が出て来た。高校の頃の姉だった。

 それで、確定した。俺は、何の因果か十年前にタイムスリップしたようだ。



 朝食の食パンを、口に放り込みながら、ついていたニュースを見ている。テレビの中で示している日付も、2017年4月11日だった。

 本当に九年前なのか確かめたくて、ほっぺたを引っ張ったが、見事に痛かった。

 何故タイムスリップしたのか、足りない脳で考えても、分かるはずが無かった。でも、不思議とワクワクしていた。SFチックなこんな出来事に、興奮しない男は居ないだろう。

 何一つ特別なことが起きなかった俺の人生に、神が憐れんでやり直すチャンスをくれたのだろう。きっとそうだ。そういうことにしておこう。

 得る物が少なかったこれまでの人生で得た、唯一と言っていいほどの後先考えない楽観主義が発動して諸々を自分の中で納得させた。こんなんだから、借金するクズになる。


 何はともあれ、折角やってきたこのチャンス離すわけにはいかない。

 陰キャで根暗だった中学時代(今も大して変わらない)、親友も恋人もいない中学時代(現在進行形)、特筆した思い出がない中学時代(高校、大学と一緒)を塗り替えて、憧れの青春を謳歌する。絶対に!そうじゃないと死ぬに死にきれない。

 俺の華の中学校生活待ってろよ!!


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