表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰塵  作者: 銀城
9/20

08.個体番号:�2�2


 夕暮れの家は、湯気の匂いで満ちていた。


 古い木の柱は長年の手触りで艶を持ち、畳はところどころ色を褪せている。

 壁際に積まれた薪、吊るされた手拭い、台所から運ばれてくる湯の音。

 

 家全体が、今日という一日を静かに畳もうとしていた。


 そこにいるのは、二人。


 一人は、腰の曲がった老婆だった。


 背は小さく縮み、首は前へ落ち、手は背に回されている。

 杖こそ使っていないが、立つだけで長い歳月の重さが分かる体つきだった。


 瞼は落ち着き、視線はどこにも定まらない。

 生まれついてではなく、長い時間の果てに光を失った者の目である。


 身に着けているのは、何度も洗われて柔らかくなった薄茶の着物だった。

 裾は短く上げられ、動きやすいように腰元できちんとまとめられている。

 色は褪せているが、襟元も袖口も清潔で、日々の暮らしが丁寧に積まれてきたことが分かる。


 その隣には、娘がいる。


 年若いというには少し落ち着きがあり、老いているというにはまだ声に張りがある。

 桶を抱え、肩越しに振り返って笑う。


 娘は紺の小袖に白い前掛けをつけ、袖をたすきで軽くまとめていた。

 湯の支度をしていたばかりなのだろう、裾のあたりに少しだけ湿り気があり、髪も後ろで手早く結われている。


 「お母さん、お風呂の用意できたよ」


 老婆は、顔を少し上げた。


 見えてはいない。

 だが、声の位置へ向ける角度に迷いはない。


 「そうかい。今日は早いねえ」


 「薪の具合がよかったの。ちゃんと熱いから、ゆっくり入れるよ」


 「そりゃありがたい。最近は腰がね、冷えるとすぐに文句を言うんだよ」


 娘が笑う。


 「腰が文句を言うの?」


 「言うとも。お前よりよほど口が悪い」


 「じゃあ今日は、お湯で黙らせないとね」


 二人の間には、長い年月で削れて丸くなった会話がある。


 大きく跳ねもせず、だが途切れもしない。

 何度も繰り返されたやりとりが、形を変えずに今日へ続いている。


 娘は手拭いを畳み、その後に老婆の肩を支える。

 そういう役割の分かりきった優しさが、家の中にはあった。


 湯気が戸の隙間から流れ、石鹸代わりの草の匂いがする。

 老婆は鼻を鳴らして、ほんの少し嬉しそうに言った。


 「いい匂いだ。今日は気分がいい」


 「それはよかった」


 「お前もあとですぐ入りなさい。若いからって、冷やすもんじゃないよ」


 「はいはい」


 娘の返事には、呆れと笑いが混じっていた。


 着物を脱がせようと裾へ手をかける。


 その穏やかな空気が、次の瞬間に、ねじれた。


 風が止まる。


 湯気が、形を崩さず空中で固まる。


 家鳴りが消え、薪の爆ぜる音も消え、二人分あった気配が一瞬だけ薄くなる。

 世界が薄い膜で包まれ、畳の匂いと湯の匂いがまとめて引き剥がされる。

 空間の継ぎ目がずれ、家の輪郭が紙のように折れ曲がる。


 娘が何かを言いかける。


 老婆もまた、声を出しかける。


 だが、そのどちらも最後まで届かない。

 世界はねじれ、裂け目みたいなものが家の内側へ走る。


 壁も、柱も、湯気も、そこにいた二人も、まるごと何かに巻き取られていく。

 ただ、片方の手がもう片方へ伸びていたことだけが、最後の形として残った。


 そして、そこに空白が生まれた。


 娘の指先が、掴んでいたはずのものが、消えている。

 布の擦れる音もなく、人が一人、最初からそこにいなかったみたいに消えていた。




 *




 次に足が触れたのは、冷えた岩混じりの地面だった。


 家ではない。

 畳でも板でもない。


 乾いた土と砕けた石、痩せた草。

 風は鋭く、匂いは薄い。

 高所に特有の冷えた空気が、肌を細く切っていく。

 どこかで小石が斜面を転がり、遠くの山肌が夜の気配を抱き始めていた。


 ――山岳地帯。


 切り立った稜線りょうせん、深い谷、まばらな木々。


 人の生活の匂いはない。


 獣の縄張りか、旅人が避ける道の外れか、そういう場所に近い。


 そこに、老婆、(たちばな) いちゑ がぽつりと立ちすくむ。


 先ほどまで家の中で娘と話していた、盲目の、腰の曲がった老女だった。


 「……あやめ、あやめはいるかい?」


 返事がなく、娘はいない。


 家もない。


 湯気も、湯の匂いも、背を支える手も、もうそこにはない。


 「……」


 身体の感覚は正しくあり、足場の悪さに爪先と踵の置き方には気を付ける。

 見えていない者の立ち方ではなく、見えなくても崩れない者の立ち方だった。


 突然に起きた謎の現象に脳がフル回転する。

 動揺がないわけではない。


 老婆は冷えた風の中で、わずかに眉を寄せた。

 鼻先へ届く匂いも、足裏に返る地の硬さも、家のものではない。

 何が起きたのか、どうしてこんな場所へ出たのか、娘はどうなったのか。

 疑問だけが、急に世界の輪郭を濃くする。


 「……なんだい、これは」


 誰に問うでもない声だった。


 その目の前に、半透明の板が浮かぶ。

 冷たい枠、機械的な文字。


 だが老婆には見えない。

 光を失った目に、それは届かない。

 それでも、スキルは発動する。


 頭の奥に、何かが流れ込んでいく。


 一本の線ではない、無数の線。

 薄い川のような未来が折り重なり、脳裏の暗闇へ流れ込んでくる。


 《スキル付与:〈未来視〉》

 《効果:複数の未来を同時�観測》

 《備考:行動により分岐する未来も並行し�表示》

 《注意:観測中も現実時間は経過する》

 《発動方法:非危険時 任意 / 危険時 自動》


 文字は読めない。

 だが能力は、文字より先に体へ実態を体験させる。


 老婆は眉を上げた。

 見えない世界に、別の “見え” が差し込んでくる。


 立ったまま風を受ける未来。

 右へ半歩ずれる未来。

 石に足を乗せ、滑る未来。

 何もしない未来。


 どれも暗闇の中に、鮮やかな確かさを持っている。


 現実の山は相変わらず見えない。

 それなのに、未来だけが輪郭を持って現れる。


 老婆はしばし黙った。


 脳が、現状を受け入れるための準備を整えていく。


 少しだけ喉を鳴らすように笑った。


 「……ははあ」


 感嘆とも呆れともつかない音だった。


 驚きは消えていない。

 むしろ、理解の届かぬものが増えたぶん、深くなっている。

 だがその驚きを押し潰すより先に、老いた身体は新しい手触りを確かめようとしていた。


 杖の代わりに置いていた足先を、ほんの少し動かす。

 その瞬間、未来が分かれる。


 右へ向けた場合の未来、左へ向けた場合の未来、踏み込んだ場合、引いた場合。

 石の位置、風の強さ、裾の揺れ方まで違う。


 老婆は遊び始めた。


 右足を上げる。

 上げる前に、その未来を見る。


 下ろす位置を変える。

 変えた先の未来を見る。


 手を腰の後ろに組んだまま、首を傾け、つま先で小石を転がしてみる。

 小石がどこへ行くのか、風に攫われるのか、別の岩に当たるのか、何度も先に見える。


 見えない者が、見えている者より先に事象の変化を知る。

 現実そのものではなく、現実の少し先を通して。


 老婆はその事実に、素直に感動した。

 皺だらけの口元が、年相応でなくゆるむ。


 「こりゃあ、すごいねえ」


 山の風に向かって漏れた声は、驚きより喜びを含んでいた。


 「目が見えるってのとは、違うんだろうけど……いやあ、これは……」


 未来は映る。

 見えないはずの足元が、転ぶ未来と転ばない未来を教えてくる。


 前方の段差が、躓く未来で分かる。

 細い道の曲がりが、踏み外す未来で形を持つ。


 現実は暗いままだ。


 だが未来は明るい。


 それが妙に、おかしかった。

 何十年ぶりかも分からぬ “視える” という感覚に、老婆は山の真ん中で、小さな子供みたいに遊ぶ。


 爪先で石を弾く。

 避ける。


 風に合わせて体をずらす。

 自分がどう動けばどうなるか、その先が幾重にも映る。


 感動が遅れて胸を満たしていく。


 失ったものが別の形で返ってきたような、奇妙で贅沢な感覚だった。


 未来がいくつ重なっても、それは老婆の中で騒がしさにはならない。

 もともと彼女は、目で世界を受け取っていない。


 足裏の高低、風の向き、音の返り、匂いの濃淡。

 そういうものの上へ、少し先の出来事が静かに重なってくる。


 現実を塞がれる、という感覚そのものが、彼女の中ではうまく育たない。


 だから、その遊びは自然に続いた。


 しかし、いつまでも続くわけではない。


 未来の中に、異物が混じり始めた。

 山道の先、まだ現実には届いていない位置に、人影が五つ。


 鎧を着た者たちだった。


 全身を鉄の板で包み、肩当ては張り出し、胸甲は厚い。

 丸みのある兜には鼻を守る筋金が落ち、頬まで覆う当てがついている。


 片腕には縁を鉄で補強した逆三角形の盾、もう片手には柄の長い戦斧。

 刃は半月型に大きく張り出し、潰し用の突起が背に生えていた。

 全員が同じ得物を持ち、足には脛当て、腰には革帯と短い外套がいとうを下げている。


 先行する二人が道の具合を見つつ、少し遅れて中央に三人が上がってくる。

 その三人のうち一人が半歩前、残る二人が後ろに開き、さらに外側から最初の二人が弧を描くように寄ってくる。

 山道の幅に合わせて自然に散り、何が起きても対応できるように考えた陣形だった。


 ――探している、そういう足取りだった。


 ただここを歩いているのではない。

 そこに “いる” と知っている者の進み方である。


 老婆の笑みが薄くなる。

 遊びの延長で、彼らの未来も見る。


 未来は無数に分岐している。

 だが、枝の先にはどれも血の気配があった。


 やがて、現実の音が追いつく。


 金属の擦れる音。

 靴底が石を噛む音。

 鎧の中の人間が息をしている、生臭い近さ。


 鎧は老婆を視界に捉えたとき、合図とともに止まった。


 山の冷気に混じって、革と鉄の匂いが流れてくる。

 老婆は、わずかに眉を寄せる。


 こんな山の中に、こんな格好の人間が五人。

 持ち物も、匂いも、立ち方も、どれも覚えのある世界のものではない。


 疑問はまた増えた。

 ここは何なのか、どこなのか、人の世なのかさえ、急に曖昧になる。


 それでも、老婆はいつもの調子で口を開く。

 未来を選択する。


 「こんばんはねえ。ここ、どこだか教えてくれるかい」


 返ってくるのは、意味を持たない音だった。

 分かっていた未来、すでに視た未来が現実に追いつく。


 硬い子音、短く切れる語尾、喉の奥で転がすような発声。

 通じる気配はない。

 未来視を持ってしても言葉はわからない。


 だが敵意の濃淡は分かる。


 数人は緊張しているようだった。

 ただしそれは、相手を老婆だからと侮らぬ慎重さだけではない。


 山岳の中腹、人気のない場所に、老婆が一人で立っている。

 その不自然さそのものが、彼らの警戒を引いていた。


 見慣れたようで見慣れぬものに対する疑いが、戦斧を握る指へわずかに力を入れさせている。


 そんな中で、一人だけが少し前へ出る。


 その一人だけ、声にわずかな柔らかさがあった。

 比較して一番落ち着いている者だった。


 申し訳なさそうに聞こえる抑揚の声。

 同情か、作法か、あるいは処理対象への最後の体裁か。


 だが、そこには油断もあった。


 目の前にいるのは、腰の曲がった、目の見えぬ、ひどく小さな老婆だ。

 不気味さはあっても、脅威とは見ていない。


 盾を構える手にも、戦斧を握る指にも、獲物に対する張り詰めた慎重さは薄い。

 周りの四人もまた、半ばは囲み、半ばは見定めるような余裕を残してはいる。


 前に出た男は、斬るというより処理するつもりで一歩踏み込んでいた。


 未来視が、次の線を明るくする。


 戦斧が持ち上がる未来。

 首を狙ってなぎがれる未来。

 老婆はそれを見て、ほんの少しだけ首を傾けた。


 「なんだい。いきなり物騒だねえ」


 前に出た男が、さらに何かを告げる。


 分からぬ言葉。

 だが、その終わりに合わせて刃が来ることは、もう分かっている。


 振りは速い。

 無駄がない。

 素人ではない。


 訓練を受けた者の振りだった。

 相手が老女であろうと、ためらいなく首を落とせる速さだった。


 山の冷気を切り裂き、刃が走る。




 ――だが、その戦斧は首を断たなかった。


 いや、断てなかった。


 首には届かない。


 一切、動かない。


 老婆が上げた足、その指に掴まれて。


 草履も履いていない、痩せた足。

 皺と節ばった骨ばかりに見えるその指先が、斧頭の刃を摘まみ、挟み、まるで万力のように固定していた。


 金属がきしみ、振った男の腕が震え、だが刃は一分たりとも進まない。


 全員の気配が跳ねた。

 前に出た男自身が、何が起きたのか理解できていない。


 老婆はにこりと笑う。


 「危ない危ない。首は困るよ。風呂に入る前なんだからねえ」


 次の瞬間、指先に力がこもる。


 金属が悲鳴を上げ、戦斧の刃が、折れる。

 叩き折るのではない。

 摘んだまま、圧し潰すように折る。

 刃の付け根から不自然に砕け、老婆は折れた断片を、足指で摘んだまま軽く放った。


 投げたというには、小さい動きだった。

 だが断片は、真っ直ぐ男の喉へ吸い込まれる。


 喉当てと兜の間、守りの継ぎ目、呼吸の通り道。

 その一点だけを、未来視が先に示している。


 断片が刺さる。


 男は声もなく喉を押さえ、崩れ落ちた。


 それが本当の意味での開戦の狼煙になった。


 残された四人が一斉に動く。

 慌てて間合いを変え、盾を上げ、戦斧を構え、言葉を荒げる。

 連携を保とうとする者、後ろへ回ろうとする者、恐怖で半歩遅れる者。


 そのすべてが、老婆には先に見えている。


 対する老婆は、笑顔だった。


 腰は曲がったまま。

 手は腰の後ろ、背中で組んだまま。

 その姿勢を一切崩さず、山道の真ん中で静かに立つ。


 「……ああ」


 懐かしむような声が漏れた。


 「戦場の空気ってのは、まだ覚えてるもんだねえ」


 二人目が、横から斬りかかる。


 老婆は見ない。

 見えていないからではない。

 未来で十分だからだ。


 足先がわずかに引かれ、刃の通る線から身体が外れる。

 返す足の甲が、男の手首を下から打つ。

 骨が砕ける音が小さく鳴り、戦斧が宙へ跳ねる。


 苦痛の音が空に響き、鎧の身体が痛みで前屈みに。

 次の一歩で足刀が頭上から首筋へ落ち、兜と喉当ての隙間ごと肉を断つ。


 男はそれ以上の声を許されず、地へ沈んだ。


 別の一人が遅れて背後へ回る。


 未来の中では、そこから脇腹を狙う。

 老婆は背を向けたまま、後ろ蹴りを出す。


 蹴りというより、置いた足に相手が突っ込んだように見えた。

 腹部へめり込んだ踵が胸甲を歪ませ、空気と胃の中身をまとめて吐き出させる。

 男の身体は山道の外へ吹き、岩に当たり、二度目の音を立てて止まった。


 残る二人が躊躇する。

 躊躇そのものが、未来視には鈍い色で映る。


 老婆は楽しげに言った。


 「やっぱり視えるのはいいねえ」


 次の瞬間には前へ出ている。


 老いた身体とは思えぬ速さではない。

 むしろ遅く見える。

 腰は曲がり、歩幅も小さい。

 

 だが到達する位置が、常に最適だった。

 最短でも最速でもない、 “間違えない” 動き。

 その積み重ねが、若い兵たちの反応をことごとく置き去りにする。


 戦斧が来る前に外れる。

 盾を合わせる前に横へいる。

 踏み込む前に足を刈る。


 ひとつひとつが先に見えているから、老婆は急がない。

 急がなくても間に合う未来だけを選んで進む。


 「見え過ぎて申し訳なくなるねえ」


 そう言いながら、足の指で転がした石を跳ね上げる。


 石は一人の兜の隙間に入り、目を潰す。

 怯んだところへ、膝蹴りが胸板の中心に沈む。

 重い甲冑の内側で肋骨が陥没し、呼吸が壊れる。


 男は膝をついたまま動かなくなった。


 最後の一人は、ついに恐怖を剥き出しにした。

 叫び、後ずさり、だが逃げるには遅い。


 老婆は追う。

 追うというより、逃げる未来の前にいる。


 足払い、転倒。


 顔が上がるより早く、つま先が顎を打ち抜く。

 首が跳ね、一瞬意識が飛ぶ。


 倒れた相手へ、老婆はとどめの一撃を入れない。

 ただ、未来の枝を確かめる。


 起き上がる未来、腰の手斧を抜く未来、叫ぶ未来。

 どれも煩わしい。


 だから踵を静かに落とした。


 「やられる覚悟は無かったのかねえ」


 首の上、必要な一点へ。

 骨が鈍く鳴り、未来が消えた。




 山岳地帯に静けさが戻り、風だけが吹く。


 死体は四つと、少し離れて喉を押さえた一つ。

 鎧の重さに潰れた草、転がる盾と戦斧、石に散った血。

 

 さっきまでの戦いが嘘みたいに、空は広いままだった。


 老婆はその中央で、ようやく背中の手をほどく。


 腰に片手を当て、もう片方の手で腰をとんとんと叩く。


 「いたた……さすがに、これは年寄りに優しくないねえ」


 文句の内容とは裏腹に、声は軽い。


 少し息を整え、風の向きを読むように顔を上げる。

 未来視の中では、この先の山道がいくつも枝分かれしていた。

 谷へ下る道、尾根へ向かう道、獣に出会う道、人里へ届く道。


 老婆はその中から、最も面倒の少ない未来を選ぶ。


 「さて」


 誰にともなく言う。


 「あやめも来てるのかねえ」

 「帰れるかどうかは分からないけども……まあ、歩けばどこかには着く」


 そうして、また手を背に回した。


 「いやはや便利便利」


 腰は曲がったまま。

 足取りは小さく、だが迷いがない。


 視えない目のまま、未来だけを頼りに、老婆は山岳地帯の奥へ消えていく。


 残るのは風と、血の匂いと、戦いの終わったあとの静けさだけだった。




• 対象:たちばな いちゑ/女/70代�半/危険個体

• 目的:���

• 付与:未来視

• 結果:生存継続 1.5h 仮保護圏外に滞留

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ