139 朔日会(仮題)
先の贋金騒動を防いだ功労者の銀問屋達を雲上殿へと招待した。報奨を与えるにも建国したばかりの貧乏所帯ゆえに、書状と一席設けることぐらいだけど全員が家族や店の番頭的な従業員を連れてきてくれた。ささやかな席だけど、誉れとしてくれるならありがたい。だから、俺も『立派なダジョー』の役割を頑張らねば。
祝の口上を述べ、書状を渡し、背筋を伸ばして。
緊張で青白い人、汗を浮かべてる人、キョロキョロと周りを見渡す子供達。じっとしているのも限界かな。お尻が落ち着かない様子に笑いかけ、サイイドに頷く。頃合いだ。
「今日は慰労の席を設けた。私は一度席を外すが、皆はゆっくり寛ぐよう。サイイド、後は頼む」
皆がホッとした表情を平伏で隠すのを見て、緊張してるのは俺だけじゃないと安堵もしつつ退席する。後ろで扉が閉まる音を確認してから、深呼吸。肩と背中がバキバキに固まっている。音を鳴らして腕を回し、深呼吸する様子にヴィグが笑いかけてくる。さすが、フフタルの長の義弟だけある余裕さ。大勢の中で平常心でいられる腹の座りは見習いたい。未だにビビりな俺は、冷凍肉のように凝り固まった体を解しながら階下へと歩いていく。ちょうど昼休憩なのだろう、賑やかな声と食欲をそそる香りが風に乗って来た。
「私達も昼餉にいたしましょうか……あ」
「俺も腹ペコだよ。今日の献立は何だろねぇ」
「えへへっ。何でしょね」
育ち盛りの腹の虫が盛大に鳴り響き、ヴィグが照れ隠しに笑う。そりゃ、高校生の年頃男子なら致し方ない。胃袋が無限大の収納力なのだから。
「先日食べた小鉢は美味しかったですね。変わった青菜の和物の……タレじゃなくて、えーと」
「あぁ、『甘くないピーナッツバター』の和物みたいな……木の実を潰して和えた青菜な。コクがあって美味かったなぁ。野菜苦手なヴィグが和物を美味しいっていう日が来るとはね」
「フフタルはこんなに野菜を食べる習慣が無いんですよ。苦手な訳ではなく、食べ慣れてないだけですから。その、『甘く』、『無い』、ぴーなすばあの味に慣れてないんです。うーん違うなぁ。ぴーなすばぁた? ばぁたぁ? 」
「……日本語まで覚えなくていいんだよ……」
そう。最近のヴィグは俺がうっかり口にした日本語を覚えようとしている。何でも「この世界にない言語が使えるのは格好良い」と。でもなぁ、伸び盛りの脳細胞の貴重な記憶部に「この世界にない言語」を入れるのは記憶容量が勿体ないと思うだよなぁ。
何度もピーナッツバターの発音に手間取りながら階下に降りる。賑やかな食堂に近づいたところで、控えている馴染みの近衛兵が音もなく前に立つ。
曲がり廊下の先に誰かいるのか。
「サンギ! ダワとバータル殿も! こんな所でどうした? 」
「その言葉はこちらの台詞です。聖下こそ、こんな階下へ降りてこられてどうされました? 」
「今日は銀問屋の朔日会でお披露目だったはずだから……大方、面倒くさくなって逃げてきたんだろ」
「凄い! サンギ様、何で知ってるんですか! 」
「やっぱりかい。ホントにまぁ、もぅちょっと慣れなよ」
手にお膳を持った三人が、歩いてきた。すっかり雲上殿に馴染んできたバータルは、ここ最近は法務局と外務局の往復をしている。貿易に関しての整備の下準備で忙しいらしい。
今回は、とりあえずこれだけになりました。
荒いのも承知で、ひとまずupしたので後日修正加筆します。
ここのところ想定外の事が起き、安定して書けませんでした。まだ、気が緩めれない状態です。
私事で申し訳ないのですが、ようやく再開したばかりですが、事態が少し落ち着くまで不定期で更新したいと思います。
読んで下さっている方、すみません。
また気の向いた時に覗いてくださると嬉しいです。
活動日記の方に、また書いときますね。
追記
書き込みが遅くなりましたが、活動日記の方に諸事情を書いておきます。すみません。暫くお休みさせていただきますが、体調が整いましたら復帰します。覗いて下さった方、申し訳ありません。また、気が向いたら思い出して来ていただければ嬉しいです。