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見下ろすループは青  作者: 木村薫
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番外編 二つの片思い 2

 爽やかな香りがする茶の湯気に包まれながら、昔の事を思い出す。

 幸せだけど、胸の奥が小さく痛む。そうして少し、熱くなる。


 「私と兄は、深淵の孤児院で育ちましたん。そこで共生者としての将来を見込まれてリュウ大師の下で修業することになって。その頃でしたわ、サイイド様も大師の弟子に入ってきたん。その頃から大きくて、賢くて、無口なんは変わらんなぁ」

 「そんな小さい頃から? 」

 「幼馴染み、というんやろか。ずっと妹のように可愛がってくれるんけど、妹でおしまい。先に進めへん」

 「告白はしないんですか? 」

 「出来へんよぉ。よう出来へん……。それより、ミンツゥ様は? お気持ちは何時伝えるん? 」


 自分の事を聞かれるのに困って、逆に質問をした途端にミンツゥは小さく俯いた。さっきまで輝いていた青い瞳が潤んでいく。

 

 「だって、だってハルキは、ずっとクマリの姫宮しか考えてない。この世界に来る前の、異世界にいた時から姫宮様と一緒だし、クマリを復興させようとするのだって姫宮様の為だと思うし」

 「そうだとはっきり言うてないやん。クマリの困窮には自分に責任の一端があると、だから自分がクマリ復興を成し遂げると、そう言うてはりますやん」

 「けど、ハルキの中は姫宮様で一杯だよ。みんなも、それでいいと思ってるし、それが、道理だよ……」


 この小さな姫は、全てを分かっている。クマリにとって、何が大切か。そうして、想い人の行動の起点が全て他の女性に在る事も。自分に入る隙間は一寸もない事を。

 小さく俯いた肩に、そっと頬を寄せる。ハンナには、ふんわりと涙の匂いがした。


 「ねぇ、ハンナは神殿で姫宮様を見れた? どんな人? 」

 「遠く離れてなら、見ましたなぁ。でも、よう見れんかった」


 本当の事は言えなかった。宵の巫女として給仕や祈りの準備で姿や声に触れて、その美しさをよく知っていると、言えなかった。

 自分と同じほどの歳なのに、漂う雰囲気は対面する貴族達を圧倒していた。凛と伸ばした背筋も、見据える視線も強く、美しかった。孤高の貴婦人。

 その美しさを、今のミンツゥには伝えられない。想い人の心の影にさえ怯える少女に、その光り輝く姿を伝えられない。 ただ、細い肩を抱いた。


 「私達は同志やねぇ。片思い同志や」

 「片思い同志かぁ。うん、片思い同志」


 目の前で寂しげに涙を零す少女の想いは、恐らく叶えられる事はないだろう。

 想いを叶えようにも、クマリ建国の激流の中で砕け散ってしまう。例え万に1つ、当事者同士が想い合う事になっても、周囲はそれを認める事はない。認められない恋だ。

 青い瞳から零れた涙を、ハンナは白い手でそっと拭った。

 どうか、この優しい少女の心が壊れませんように。いつか、想い人が幸せになった時に祝福を送れる大人になれますように。それを支えよう、とハンナは心の中で誓う。

 天幕が、南風に揺れた。僅かに甘く爽やかな茶の香りが、木々の間を漂い消えていく。

 

 という訳で、メリークリスマス!! 

 さて。冬休みです。今までは長期休暇はお休みいただいてましたが、何か月も更新してませんでしたからね、ここは一気に出しちゃいます! 

 

 次回は31日 水曜日に更新予定です。

 仮題 『春雷』 


 大掃除をそろそろ頑張らないと……(苦笑)

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