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見下ろすループは青  作者: 木村薫
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番外編 春のおもてなし

 ちょっと、いつもと形を変えて、ハンナの独演会みたいな。

 一方通行でどこまで雰囲気が伝わるか、遊びで書いてます。

 ようこそ神苑の陣へ。

 遠くからのお越しでお疲れになりはったでしょう? 粗茶ですが、どうぞ。

 私、ですか? はい。聖下の身の回りのお世話をさせて頂いとります、ハンナ言います。よろしゅう。

 まだお時間がありますから、何かありましたらなんでもお聞きになって構いませんよ。

 そう緊張されんと大丈夫ですから。

 あぁ、でも目隠しをして来られたから「大丈夫やない」ですよね。目隠しで星輿に乗られたら不安になりますわなぁ。

 すいません。まだ神苑の中の何処で暮らしているかを知られては困るんどす。もちろん、貴方様を信用しています。信用してなかったら、今日のお召もないでしょう? 

 ……えぇ、貴方様を今日御呼びしたのは、土方の玄人と陣内で推薦があったからどす。なんでも、十年前の乱で大規模な土手や防衛塁をお作りになる指揮をなったとか。

 ……あれは戦時の仕様だから? ご謙遜されなくともえぇですよ。とても高く評価されとります。限られた人員や材料、時間もない状況で作り上げた知恵と技が今回必要だと、ダショー様が仰ってます。

 今回は灌漑に関する意見を貴方からお聞きしたいそうです。

 えぇ、もちろんダショー様ご自身が。えぇ、お見えになりますよ。はい、ここに。この天幕に。

 はい。ダショー様も他に張った天幕で暮らしてはりますよ。「クマリの民の多くが雨露に濡れる生活を送っているのに家を作ることは出来ない」言うて。だから、ここも全て天幕ですわ。

 ですから格式もうるさくないですよって、そんなに強張らなくても大丈夫。お茶でも飲んで、落ち着きなさって下さいな……と言うても落ち着けませんな。

 私もそうでしたわ。はい、エリドゥの出身どす。ここに来て、まだ数か月しか経っとりまへん。言葉がなかなか治らないので、聞きづらかったらすみません。

 そうですなぁ、御前で気を付ける事ですか? 

 あまりありまへんよ。はぁ、それでは困ると? うーん。しいて言えば聖下と目の前で言うては怒られますよ。あんまり平伏されるのも好まれまへんなぁ。まぁ、『ダショー様』と仰ればいいんかと。

 そうなんどす。やはり異世界でお育ちになられたからか、少々変わってらっしゃいます。ふふ、大丈夫です。「変わっている」と言うてもお怒りになるような心の狭い方やありません。兄様達など「もっとダショーらしく堂々となさって下さい」と小言を零すぐらいですわ。信じられへんでしょう?

 とにかく、いい意味でダショーらしくない……と言えばえぇのでしょうか。

 私が知っている高貴な身分の方々とは違います。エリドゥ法王国の枢機卿の方など、神殿にお越しになる時は同席になる方との相性はもちろん、お好みの茶菓子やお香まで揃えなければあきまへん。何人もの稚児や茶子を泣かせる方もいらっしゃいますさかい、そんな姿を見るのはきつうございましたね。

 ……と、これは私の愚痴になってしまいましたね。

 話が逸れてしまい、すいません。

 そうそう、ダショー様らしくない、ですわ。とにかく、身の回りの事も全部ご自分でなさりはるんです。

 何もかも、ですよ。食事の給仕どころか、お支度までやろうと為さるんですわ。それがまたお上手で、大層珍しい方法でお料理を作られる姿に、驚きましたわ。

 え? 危なくないか? はぁ、刃物を持たせ、肉などを触るのは不浄ではないか、と。えぇ、えぇ、お気持ちはわかります。陣内でも、始めの頃は皆が頭を悩ませました。お料理をなさるダショーなど、前代未聞ですし。

 でも考えてみたら、毒殺の心配がなくなるでっしゃろ? 食材からお食事の膳になるまで、ダショー様本人や陣内の信頼できる配下の者で作る食事に毒物を混入することなど、不可能でっしゃろ?

 ダショー様も、気晴らしになるみたいやし、これでいいん思います。というか、そういう事になったんですわ。

 陣内の結束も固まりますし。えぇ、ダショー様と作った食事を三度、皆で顔を合わせて頂いております。食事も一人でなさらないんですわ。「顔を合わせて食べたほうが、色々話せるじゃないか」って。 

 ね? 随分と気さくな方でっしゃろ?

 ですから、あんまり構えんでえぇですよ。

 あら、そろそろお見えになるようです。ふふっ、ほら風がフワフワと舞い出しましたわ。

 精霊がこんなに優しくて、ここは心地えぇ場所ですわ。クマリも、きっとここと同じ心地えぇ場所になりますよって。

 ダショー様は、いつも「ここから、今から五百年先の未来を創るんだ」て言うてます。どんな未来になるんでっしゃろう……。

 あぁ、お見えになったようです。中央の、髷を結ってない背の高い方がダショー様どす。あ、そんなに早う伏せんでも大丈夫ですよって。顔が見えんのをダショー様は嫌がりますさかい、普通に敬意を込めて下されば伝わります。大丈夫です。ほら、こちらのバタバタ見て笑っとりますわ。大丈夫ですから。大丈夫。

 はい、落ち着きました? よかったですわ。ふふっ。 

 では私はこれまで、で。

 終いに再びご案内します。では、おきばりやす。

 

 次回は24日 水曜日に更新予定。

 仮題 『片思い二つ』

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