助ける
「じゃ、今日は街の中を中心にグルグル走ってみようか」
「了解! 今日もよろしく!」
天南さんとのランニングも今日で数回目となる。
最初はヒーハー息が上がりまくっていたみたいだが、その他にも身体を動かしているのか幾分ましになってきた。
しかし、今思えばこうして天南さんと肩を並べて走る事があるなんて、昔のオレには想像出来なかった。あるとしてもアゲハと3人で、だろうな。
あれから色んな事が一気に変わった。茜色に染まる夕陽を眺めながらそんな事を考える。
何がどう転んでいくのか分からないまま、胸に巣食う復讐心だけが燻っている今。
事件に関係した奴らを全て潰し、相応の報いを受けさせた後、オレはどうするんだろう?
漠然とした不安はあるが、たかが人間一人、やれる事なんてそう多くもない。
ま、なるようになる……か。
今の自分を昔の自分が想像出来なかったように、未来は多岐にわたり流れて行く。
きっとそういうもんなんだ。
だから今は、流れに逆らわず思いのままに行動する。多分、それでいい。
あっと言う間に夕陽も落ち、走りやすい時間帯になる。
「あ、そうだ。夕方よりも朝の方が気持ちいいけど、朝に変更しようか?」
明るい時間帯に走った方がいいかなと思い、聞いてみた。
「えっ! 絶対無理! 全く起きれる気がしないんですけどっ!」
そんな会話をしていると、オレのスマホが鳴る。画面には御先 小吾の名前。
「珍しいな、ショウゴから電話してくるの」
「リン、今時間あるか?」
「今? ランニングで街中走ってるけど」
「なら丁度良かった。というか、ちょっと面倒な場面に出くわしてしまってな」
「面倒な場面? 行った方がいいか?」
「そうしてもらえると助かる。場所は飲み屋街手前のアーケードだ」
「わかった、すぐ行く。詳しくは現地で」
電話が終わると天南さんが聞いてくる。
「ショウゴって、もしかして三年のミサキ先輩?」
「そう。あれ? 知り合いだった?」
「ううん、全然知り合いじゃないけど、見た目とか雰囲気も怖いから有名だよ?」
「あはははっ! 見た目がアレなのは同意するけど、真っすぐ過ぎる性格と不器用が混ざった感じだから、実際は全く違うぞ? むしろイイ奴だし、イジられキャラなくらいで」
「マジで!? 人って見た目で判断出来ないもんだねー!」
ショウゴの奴、その見た目と雰囲気でどんだけ悪評作ったのか、今度聞いてみよう。
「で、そのショウゴがちょっと困ってるみたいで。すぐ近くにいるから来てくれだって」
「え、そうなんだ! じゃ行かないと! てかなんで友達? てか先輩なのに呼び捨て!?」
「友達になったのは偶然。呼び捨てもタメ口もショウゴの希望。ああ、そうそう、なんか面倒な場面に出くわしたって言ってたから、もし危ない目に遭いそうだったら、約束通りちゃんと逃げるように」
「う、うん、もちろん!」
「じゃ、ちょっと行ってみようか」
言われた場所に到着すると、既に揉めているのがすぐにわかった。
ショウゴはいつも通りというか、また間に入って壁になっている。
「だから、誰の許可取ってんだぁ?」
「ちゃんと警察から許可はもらったっす!」
「もらったのですわ!」
「もらったんだぞ!」
ショウゴの後ろには何やら煌びやか? な恰好をした若い女性が5人。
絡んでるのはチンピラっぽいのが十数人。女性らに怒鳴ったり脅したりしてる感じ。
「ショウゴ。いつもどおり頭突っ込んだ感じだな」
「すまん、リン。ちょっと人数が多くてな」
「だな。で、これってどういう状況?」
ショウゴと女性らに顔を向け、誰か説明して? って感じでキョロキョロしたら察したのか説明してくれた。
「ボクらはここでライブやってたの! 警察にも届け出してるから悪いはずないの!」
「だっちゃ! こいつらが変なイチャモンつけてきて、ライブは中断するし、聴いてくれてたお客さんも逃げちゃったし。全部こいつらが悪い! だっちゃにゃ? リーダー!」
「そっす! 今言った通り、自分らは何も悪くないっす! そこのお兄さんがいなかったら、今頃きっとどっかに連れて行かれて、何されてたか分かんないっす!」
説明してもらったのはいいが……なんというか、色々ツッコミたい。
「えっと、キミらは?」
「私たちは、アイドルを目指して活動しているチームですわ!」
何となく状況は理解できたけど……ショウゴ、なんでこういう場面に出くわすかな?
「で? あんたらは何の理由があって声上げてんだ?」
「ああん? なんで俺らがおめぇみてぇなガキに説明しなきゃなんねぇんだ?」
「そもそも、誰に断ってここでライブなんかやってんだよ」
「警察から許可は取ってあるって事だが? それ以外に何か必要か?」
ぶっ飛ばしたほうが早いのは分かってるけど、一応言い分聞いとかない事には、大義名分もクソもないからな。
「ったりめぇだろが! ちゃんと払うもん払えば帰ってやるよ」
「払うもんねぇ……ちなみにいくらだ?」
「はっ! ニイチャンが払ってくれるってか? いや、全然いいぜ?」
「そうだな、3百万くらい払ってもらおうか? ギャハハハッ!」
「おい。ふざけるのもいい加減にして、謝って素直に引いた方が身の為だぞ」
あら、ショウゴってば、かなり怒ってる。
「ん? おぉん? 3百万と言わず、このおネーチャンでもいいぞ!」
天南さんの両腕を2人の男が掴んで引っ張った。
「え? ちょっ! やめてっ! イヤぁーっ!!」
「あ……」
ショウゴのこれは終わったな、を表現した一言と同時に、オレは相手の手首を折っていた。
アゲハが大事にしてる友達に手を出したな?
「潰すぞ?」
汚い男の悲鳴と共に、手が離れた瞬間、天南さんを抱っこしてショウゴの後ろに運んだ。
「ショウゴ、頼んだ」
「ああ、任せろ」
ショウゴに後ろを任せ、肩を回しながらチンピラ共に告げる。
「お前ら、終わりだよ。覚悟はいいな?」
「な! なに言ってやがるこのクソガキが!」
「全員でブチのめせ!」
一斉に十数人がオレに襲いかかる。
女性陣から小さな悲鳴と叫び声が聞こえる中、躱され続ける攻撃。
「な、なにが起こってますの?」
「凄すぎて理解が追い付かないっす!」
「まるでダンス踊ってるみたいだにゃ……」
「リン……すっご!」
「いや、リンが凄いのはここからだ」
ショウゴがオレのタイミングを見計らって、そう言ったのが耳に届いた。
「ウォーミングアップにもなんねーよ、お前ら」
目にとまらない程の速度で鳩尾に打撃を入れ、返し手で頭を地面に叩きつけ2人排除。
その手を軸に回転蹴りし、3人の肋骨を折り、二回転目で顎を打ち3人の意識を刈り取る。
その勢いでジャンプし、回転踵落としで2人排除。
残りは単純に足や肩、肘を破壊したり投げ飛ばしたりで、あっと言う間に汚掃除完了。
その間、10秒にも満たないくらい。
地面に蹲るチンピラどものうめき声をBGMに、ポカーンと口を開けている女性陣。
ショウゴに至っては、額に手をあて「やりすぎだ」とでも言わん感じ。
「天南さん、怪我とかしてないか?」
「えっ! は、え、えっと、全然大丈夫!」
「なら良かった、怖い思いさせてごめん」
「リン、それよりここを離れた方がいいぞ。野次馬が増えると面倒になる」
「そうだな、そうしよう」
その場を離れた俺たち三人。
しばらくして警察が到着し、チンピラ共は連行されて行った。
現場に立ち尽くす、アイドルを目指す女性5人。
「……い、今のは一体なんだったっすか!?」
「全く目で追えませんでしたわ……」
「やばすぎなの!」
「今の、人間だったのかも怪しいんだぞ!」
「ヤバすぎだっちゃ……」
周囲の野次馬もざわつきながらスマホを触っている。
SNS「XYZ」にアップされた動画の再生回数が一気に伸びた。
「これは何て言う種類のイケメンですか!?」
「この子らアイドルみたいな恰好してんだけど、何ていうグループ?」
「動きが人間離れし過ぎでは?」
「どこの誰だか分かんないのかな? この場所知ってる人いない?」
「このアイドルグループ追っかければ判明するんじゃないかな?」
「みんなで推しましょう!」
「弟子入りして喧嘩の仕方教えて貰いたい」
これが、リンの戦闘映像が世に出回った、最初の投稿となった。
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