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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
ニヴァリスの導き 編
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地下シェルター

 ポラリスが決めた、次なる調査はキイの叙事記の序盤に度々登場する地下シェルターだった。

 

「開いた。照らしてくれ」


 ポラリスが歪んだ入口を無理やりこじ開けると中で何十年、何百年と淀んでいた空気が流れ出てきた。

 どうやら使われなくなってからも何度か開けられたことらしい。設備の劣化は風化されきって最早砂のように崩れ落ちているがシェルターの構造自体はよっぽど頑丈なのか未だに崩れる気配もない。

 既にシェルターが潰れないことを確認しているのでスピカは安心しつつ、内側に何か住み着いているかもしれないので恐る恐る長杖の先を融合素(フューズ)で光らせながらシェルターの中に入れて光らせた。


「どうやら何もいないようですね。エルザ、マスクは絶対に外してはいけませんよ」


 二人の後ろで安全確保のために付けられているマスクをうっとうしく思って外そうとするエルザの腕をスピカは掴んで止める。

 埃や砂、さらに未知の細菌など口に入ると危険なものが非常に多いのでフューズでバリアを張ることのできないエルザはマスクを付けさせられているのだ。


「これ、すごい鬱陶しいです」

「だからついてこなくていいと言っただろう」


 ポラリスはシェルターの中に入り、扉周りを少々掃除してから後から入ってくる面々を引き入れるためにひょこっと頭だけを出す。

 ノーザンでは長らく観測されていない青空の色の、無垢の瞳に見つめられエルザは観念する。


「オリヴィア、君もだ。我々の調査の記録はダヴーがリアルタイムで監視しているのだからついてくる必要はないのだぞ」

「い、いえ。私は当代の公主に天の帝の供をせよと仰せつかっておりますのでご心配なく」


 ポラリスもスピカも常日頃から互いの心を開き通わせているわけではないが二人は共に同じことを考えていた。

 心配だ、と。

 しかし本人が責任と職務を盾に強がるのでは二人は何と説得すればよいのかわからなくなってしまった。権威の頂点に在る者は誰よりも権威を尊重する。ゆえに権威に誰よりも弱いのだ。


「そうか、なら調査を進めるぞ」


 ポラリスを先頭に灯りを灯したスピカが続く。長杖を高く掲げ、鬱屈としたシェルターに製造以来初めての日の出をもたらしている。

 その後ろに並んで控えるのはお揃いのマスクを被るオリヴィアとエルザである。

 オリヴィアは槍一本のみ携えた軽装だが気分は重そうだ。方やエルザは重装備に身を包み一歩一歩の足取りも力強く自信に満ち溢れている。マスクで覆われた顔は少々不機嫌層ではあるが。

 珍妙なるポラリス一行はこうして砂に溺れるシェルターの内部を行脚し調査しているのだ。

 しかし収穫は未だない。



 4人はシェルターの外に出てから出がらしから収穫が無いか漁りながら昼食を食べていた。


「これで4つ目だがこうも収穫が無いとは思いもしなかった」


 珍しくポラリスはそう不満を口にする。実に珍しいことでなんとスピカも目を丸くしている。

 

「収穫がないぐらいで何を」


 エルザは珍しく嘆くポラリスを冷ややかな目で見ている。彼女も標的を探してあてもなく探す旅を繰り返していた。故に気持ちは痛いほどわかるのだ。


「近場のシェルターはあと一か所か」

「はい。記録にはそのように」


 長らく崩落や資材の管理、権利問題から接近が禁止されていたシェルターの所在地は一つ残らず地図に記されている。

 今回は過去の調査の為、公主の命によって立ち入りが許可されたもののその効力は僅か数日で終わる。

 移動にかかる時間を考えてもそこまで時間はかけられない。

 何よりも、ポラリス達には最終的に目指さなくてはならない終着点もある。


「ですが次のシェルターはかつてのノーザン首脳部の本拠地です。何か記録媒体が残っている可能性は高いと思いますよ」

「結果が全てさ。世界が救えないなら全ては無駄になる。世界が続くなら全ては必然なのだ」


 ポラリスは昼食を腹の底に流し込む。乱暴に食事できるのも飽食の社会であればこそ。今頃ゲヘナの連中はどうしているだろうかとふと考えるも今は部下に任せていることを思い出して忘れる。


「さて諸君、次へと急ごう」


 

 ポラリス一行が目指したのはかつての都市があった場所の外縁。かつて都市の正門があった場所の傍に設置されているシェルターだ。

 都市の地下はビルの残骸が降り積もったせいで完全に潰れてしまっていたので無事な地下構造体の中では最も大きなものになる。当時は中に武器や兵員輸送車などが残っていたらしく、崩壊後の新世代黎明期に利用されていたようだ。

 技術が継承されなかったために破損後破棄されてしまったようだが。

 何がともあれ四人は地下の扉を例によってこじ開け、内部に入ろうとする。

 しかしポラリスとスピカが内部に入ってすぐに異常に気が付いた。


「危ない!」


 ポラリスが咄嗟に展開したバリアの光が暗闇に閉ざされたシェルターの中を照らす。

 同時にバリアの輝きが暗闇に隠れていた下手人達を照らし出す。


星幽(アストラル)!?」


 バリアに張り付いた漆黒の刃、爪、腕。様々な恐怖が形を成して襲い掛かってくる様が一堂に会する圧巻の景色に思わずスピカが驚きの声と共にポラリスの背後に隠れる。

 シェルターを開けるまで虚数(マイナス)レーダーの反応は無かった。シェルターの性能の情報はイ・ラプセルに残っていた。ポラリスがノーザンに到着する前にリゲルが関連データは全て取り寄せていたようだ。

 叙事記に、シェルターの放棄に関する記述はない。ノーザン公主の管理している公文書にも詳細は記録されていなかったと管理している担当官から報告を得ている。

 情報を、疑うわけではないが、動揺はあった。

 しかし度胸とは極限状態で鍛えられるものだ。


「これ、どけて。私が片付ける」


 エルザが覇槍の先でごんごんとバリアをつつく。ポラリスの膨大なフューズの作用量から形成されているバリアはその程度で小揺るぎもしないが彼女の威勢にポラリスとスピカも冷静さを取り戻す。


「いや、いい。スピカ、エルザ、君たちはオリヴィアを守っていてくれ」


 バリアを押し広げて星幽を弾き飛ばし、数歩前に出る。示し合わせたかのように即座にスピカは自分でバリアを展開してオリヴィアを保護する。

 その間にも星幽(アストラル)がポラリスに襲い掛かる。

 ポラリスが右手で蒼穹の聖剣(セレスタ・カリヨン)を振り回し、一振りで常に二体以上の星幽(アストラル)を切り刻み、破壊的な剣閃が彼の周囲を一掃していく。

 さらに彼は自身の周囲の空間からビームを放って剣よりもさらに広い範囲を薙ぎ払っていく。しかしそれだけではまだ押されっぱなしのようだ。不朽の剣も所詮はただの鋼。力を受け取る器でしかない。蒼穹の聖剣(セレスタ・カリヨン)はただ耐えるだけの器だ。それでは足りないと、ポラリスは判断した。

 融合素(フューズ)を用いる星の子(スターリア)の戦闘は如何に融合素(フューズ)を効果的に用いるかで決まる。莫大で純粋なエネルギーは他者を孤独にさせ、容易に結合を破壊する。あらゆる物質を創出し、自在に事象を改変する。

 ポラリスはまずより戦闘に向いた装いに。そしてより破壊をもたらす力の器をその手に創る。

 『星装』、融合素(フューズ)から装備を創り出す星の子の切り札。

 彼の右手に握られたデバイスを展開し、光状の刃を形成する。プラネッタの恩恵こそ無いもののポラリスが自ら持つ潤沢なフューズを惜しげもなく注ぎ込んだことで見るだけでも目が潰れそうなほどの光を放つ。

 そして剣を一振りすると剣閃の周囲の空間に伝播して星幽を粉砕していく。流麗に愚直な剣だがそれゆえに斬り損じることは無い。

 さらに浮遊状態からフューズによって推進して飛び回り、広範囲の星幽を光の中に溶かしていく。

 遊星が制圧した領域が広がる毎にスピカ達の自由が拡大していく。戦う覚悟を決めたオリヴィアがスピカの左に立ち、右にはエルザが左手に持つ大盾でスピカを守るように立つ。

 二人の戦闘態勢が整ったことでスピカもバリアを解除してポラリスの援護に入る。

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