22.桜庭政宗
いつものように電車に揺られ、スマホをいじる。
周りも大体がスマホをいじっていた。
あと二駅程で俺が降りる駅に着く。
降りやすいように出口の近くへ行こうと思ったとき、変なものが目に入った。
綺麗な黒髪を肩で切り揃えている小柄な女の子が俯いていた。本を持っていたけれど、読んではいないようだ。肩を少し震わせている。
中学一、二年生位だろうか。どう見ても、高校生や三年生には見えなかった。
三年生だったら、参考書とかを読むだろうし。
観察していると、その子の手が動き、何かを叩くような動作をした。
少し経つとまた肩を震わせる。
痴漢だ。周りの奴等も気付いてはいるけれど、誰一人助けようとするものはいない。
痴漢をしているのは後ろにいるサラリーマンだ。
俺は、サラリーマンの手を掴み問い詰める。
しかし、情けないことに逃げられてしまった。追いかけようとすると、女の子が俺の服の裾を弱々しく掴んだ。顔は真っ赤で、今にも泣き出しそうだった。
制服を見ると、青蘭学園。
……年上だ。嘘だろ?コスプレか?
小さすぎる。男のなかでも小さい俺は、女子よりも小さい。
俺より小さい女子なんて久しぶりに見た。
次の駅は青蘭の生徒が降りる駅だ。
混乱している女の子を連れて電車を降りる。
安心したんだろう。
足が震えている。自分には痴漢をされているときとかの怖さがわからない。
慰めることしか出来なかった。
涙を必死に堪えようとしている。何で泣かないんだろう。
人の目が気になるからか?
小さいと言われたことが癪なのか逃げてしまった。
なんとなく気になる奴だ。
放課後友人の月と玄関に向かっていると校庭が騒がしかった。
噂好きの男子に訊くと、何でも他校の可愛い女子生徒が来ているらしい。
おいおい、いいのかよ。
他校の生徒が入ってきて…。
「すみません。金髪の人」
戸惑いを含んだその声は、朝に聞いたものだった。
まさか、な…。
あー。男どもの視線が痛い。
月も好奇の目を向けてるし。しょうがねぇな。
チビと言うと、そいつは目を見開き、俺を睨んだ。
あーあ、顔は整ってんのにもったいねぇ。
その後、月の提案により、シェールに行くことになった。
何故来たのかと問えば、お礼をしに来たらしい。
律儀だな。その為にここまで来たのかよ。
「内容、何がいいですか?あっ、ここの代金を払うとか…」
内容…。弁当がいいな。
最近金欠だし。それに、女子に全部払わせるとか男として情けない。
─────────
翌日、指定した電車に乗る。
今日は痴漢に会ってねぇといいけどな。
探していると、小さい動くものが見えた。綺麗な黒髪が靡いている。
声をかけると本当に弁当を作ってきてくれたようだ。
月にも会い、あいつが降りるまで三人で話していた。
昼休みになり、あいつに貰った弁当を広げる。
月も一緒に食べるので、机をくっ付けて食べ始めた。
「これ、千紗ちゃんが作ったのかな~?」
「あぁ、だろうな」
弁当の中には色とりどりのおかずが詰め込まれていて、ウサギのおにぎりなどもあった。
可愛い!可愛いけども!
男子中学生が食べるものじゃねぇ!
「可愛いね」
絶対、チビって言ったことへの恨みだろ!
おかずを一つ、口に入れる。
「うまっ…」
「本当!?ちょっと頂戴?」
「ちょっとだけだぞ」
月は、花が綻ぶように笑い、卵焼きを取った。
あ、卵焼きが!
「うわ~、甘い。凄く美味しい」
「……俺も食べたかった…」
「えっ?ご、ごめん!でも、あとひとつあるし…」
月がもう一つの卵焼きを箸で掴み、俺の口に持ってくる。
お前にあーんされても嬉しくねぇ!
「ほら、あーん」
「ん…」
仕方なく、口を開ける。
卵焼きを噛むと、甘みが口に広がった。
美味しい…。
「ね、美味しいよね。千紗ちゃんはいい奥さんになるよ」
「お前、千紗を口説いてんのか?」
「まっさか~」
いつもヘラヘラしている月の感情はあまりわからない。
けれど、少なからず、千紗に興味を持っているのだろう。
それがわかり、俺は小さくため息を吐いた。




