第41話 引きずり込まれた九龍の友達
「ったくよ、いつものお前はどこ行ったんだ、ああ?」
「んなら勝也もあれじゃねえか、あれからなんか覇気がねえぜ」
「フン……未だにあのことが忘れられねえ」
勝也も、自分と同じどこかうかない顔をしている。少し前までもっと明るい、というか堂々としていた彼はどこに行ったのかと思いながら、鮮那美は自分と理由が同じなのか勝也に尋ねた。
「この前捕まった時のこと?」
「……チッ、そうだよ。あれから俺は、妙なものが見えてんだ。それと昔のことを思い出してな、気分が悪りぃんだよ」
やはり同じか、九龍は同じ奴がいてよかったとどこかで思っていた。
もしかして自分だけかと思いきや、あの事件に巻き込まれた知り合いは全員何かがおかしい。あの空間と化け物は一体何なのだろうと思いながら勝也と話をする。
「私もよ勝也。……こういう時は、ゲーセンにいってパーッと暴れてすっきりしようぜ」
「へっ、悪かねえな。んじゃ行くか。負けても泣くんじゃねえぞ?」
「言ってくれるじゃねえかよぉ!格ゲー勝負だぜ!」
勝也の誘いに鮮那美は快諾し、商店街近くにある行きつけのゲームセンターに向かおうとした矢先、鮮那美は友達の天糸文香を見つけ声をかけた。
「っ!あれは文香!おーい、なにやってんだ!」
鮮那美は彼女に声をかけるが、反応がどうもおかしい。普通なら物静かに返事を返してくれるはずなのに反応が薄い。
何かあったのかと鮮那美は近づこうとした次の瞬間、文香は突然光る亀裂に吸い込まれるかのように消えていった。
「おい、文香!ちっ、なんだあの亀裂は。まさか、あれが響たちの見つけたやつか。ってことは、俺も霊が……いや、今はそれよりどうするべきだ」
「助けに行くしかねえだろが全く」
「てか勝也、見えてるの?」
「当たりめえだろぉ!ああ?」
鮮那美はそれを見てどうするべきか迷っていた。すると勝也もその亀裂が見えていたことに彼女は驚いていた。勝也もまた、あの事件の被害者であり後遺症で、内なる力が目覚めかけていた。
すると彼は背中に背負っていたバットを手にし亀裂の近くに近づいた。すると突然跡形もなく彼の姿が消え鮮那美は目を丸くする。
「ちょ、待てよ!ったく彼奴は昔からあんなんだからよ。てかあいつも事件の被害者だったし、見えない方がおかしいわな」
そう思い鮮那美は早速ハーネイトに連絡する。するとすぐに電話に出たハーネイトは彼女の慌てぶりに驚く。
「兄貴!聞こえるか!」
「鮮那美か、早速どうした、何があった!」
「ハーネイトの兄貴、俺の友達が光る亀裂の中に入っちまったんだ!」
「なんだと?場所を教えてくれ」
「場所は百祭神社の近くにある石壁のところだ。ったく、俺も追いかける!」
ハーネイトは至急全員を招集し、鮮那美の言った場所に集まるように指令を出した。問題は鮮那美も勝也の後を追うように亀裂の中に入っていったことであった。
電話越しにそれを察したハーネイトは止めようとしたが間に合わず、とにかく急ごうと近くにいた伯爵とリリーに声をかけた。
「待つんだ、君はまだ力が……っ、伯爵、リリー、至急百祭神社に行くぞ!」
「合点承知の助や!」
「急ぎましょう。私は彩音たちに連絡しておくわね」
「頼んだぞリリー!」
3人は急いでホテルを出てから、鮮那美の言っていた現場まで猛スピードで向かっていた。
そんな中勝也と鮮那美は、亀裂の奥まで入り倒れている文香と武骨で巨大な剣を手にした禍々しい気を放つ騎士を見て激昂していた。
「お前らな、俺のダチに手ぇ出してんじゃねえよ!」
「それがどうした、計画のためには手段を選ばないのが私たちだ」
「んじゃぶっ潰すしかねえよな!」
「てめえ、覚悟できてんだろうな!」
勝也はバットを強く握ると高く飛び上がり、霊騎士の頭をぶん殴ろうとバットを振るう。だが当たったと思いきやスカッと素通りし、勢い余って転倒してしまったのであった。
「なっ、確かに殴ったはずなのに、効いてねえ!」
勝也はその事実に驚いていた。しかし相手が本物の幽霊ならば、確かに道理の通る話だ、彼はそう思うと冷静になり、一旦間合いを取るため後方にジャンプした。
「ハハハ、無駄だお前ら」
「んざけんなよ!次はどうだ!」
「全力でボコってやる!」
鮮那美と勝也は長年の付き合いがもたらす怒涛の連携攻撃を見せる。けれどやはり攻撃は意味をなさず、逆に騎士の振るう剣の一撃をもらいそうになり2人は再度間合いを取る。
「どうなってんだよ、まるで空気か霞か何かだ」
「行かせてもらうぞ、邪魔をするな!」
「ちっ、なんで向こうの攻撃は当たるんだ!痛ってえなあこん畜生!」
今度は霊騎士が攻勢に回り、連続で繰り出される斬撃をどうにかよけようとするも数か所かすり苦悶の表情を浮かべる2人は、どうやって攻略すればいいか頭を回していたが打開策がまるで見つからない。
その時どこからか声が聞こえてきた。すると2人は突然体が金縛りでもうけたかのように固まってしまう。
「もう終わりか、ならばソロン様の、生贄となれぃいい!」
「なっ……!」
「ぐぁあああああ!」
それを見逃さず仮面騎士は思いっきり剣を振るい衝撃波で2人を吹き飛ばした。倒れこんだまま動かない2人は、心の中で黒い影のような、自分ではない何かの存在を感じていた。
「どうした、俺はお前を弱く育てた覚えはないぞ」
「……!と、父さん?なぜだ」
鮮那美は意識を失ったまま、心の中で聞こえた声の主と対面し驚いていた。その声は確かに父である蔵王であった。
「鮮那美、お前はまだまだ強くなる。だが昔のことばかり見ていては、前に進めないぞ」
「それは、あんたに言えなかったことを引きずっていたからだ!」
鮮那美は影の声を聴いて、今まで我慢していたことを口に出しぶちまけた。
本当はあの時謝りたかった、だけどそうしようとした矢先に出動要請がかかり、言えずじまいだった。それを思い出し普段めったに泣かない彼女が涙を激しく流していた。
「俺は、いつも無茶ばかりするあんたのことが心配だったんだよ。だからあの時……」
「確かに、そうだな。……すまなかった、鮮那美」
父である蔵王もまた、娘と妻を置いて先立ったことに未練があった。そのためか娘の傍に寄り添いずっと彼女を見守っていたのであった。
それから蔵王は娘をあの化け物から守るため、娘である鮮那美は父の意志を受け継ぎ、最強の格闘家になってやると決意した。その2人の思いが奇跡を紡ぎ、幻霊を現霊へと昇華させたのであった。
「……それと俺の今の名前は、マスラオだ。共に、あれを倒すぞ!」
「ああ、力を貸してくれ、マスラオ!」
その頃勝也もまた、鮮那美と同様に意識を失ったまま、心の中で聞き覚えのある声の主と対面していた。




