逃亡
迂闊だった。まさか火菜が僕のことを尾けてきていたなんて思いもしなかった。僕は咄嗟に火菜を捕まえて家に入れて内側から鍵をかけた。
「なんでここに来た。」
声を潜めて聞いた。
「様子が・・・変だったから。」
火菜は怯えながら答える。ここで僕たち一家の罪は露呈した。記憶と感情を無くした妹を病院にもつれていかず、隠蔽し監禁し放置した僕らの罪が。今ここで火菜に黙ってもらうように頼む、或いは口封じをすれば隠し通せるが、そんな物はすぐにばれる。一度一目に触れてしまった物は隠し通せる物ではないからだ。
だがこれも幸運だ。これからは家族に束縛されずに生きてゆける。償いが終われば僕を家に縛りつけていた厄介な役目を終えて一人で暮らそう。
目の前で怯えている火菜を放っておいてそんな事を考えていた。火菜は完全に怯えた目をしており、全く動こうとしない。僕が火菜を離せば火菜は逃げるだろう。そして僕は生まれ変わる。新しい人生を歩むために。僕は火菜の手を離した。しかし火菜は動かない。茫然自失という感じだ。ああ、彼女は僕に失望したのだ。当然だ。彼氏が犯罪者だなんて知りたくもなかっただろう。だがもうどうでもよかった。火菜を家に帰そうと火菜の手を取った瞬間火菜がおもむろに口を開き話し始めた。
「私は何も見てないし学校から真っ直ぐ帰りました。」
そして走り出した。彼女の答えだった。彼女は自分の意思でこの事実をなかったことにした。僕の束縛の日々はまだ続いて行くことになってしまった。正直落胆した。なぜ、通報してくれなかったのか。なぜ、責めてくれなかったのか。僕はそれだけが心に引っかかった。
翌日僕は文字通り家を出た。逃げ出した。火菜から、朝名から、義務から、家族から、自分から、自分から、世界から。
もう何もかも投げ捨てた。何もかもいらなくなった。このまま適当な所に隠れよう。がむしゃらに走った。走った。走った。そしてふと気づくと朝名の家の前に立っていた。正直自分がバカバカしかった。今更こんな所に来るなど、どうかしていた。別の場所に移ろうとしたそのときドアが開く。朝名が立っていた。赤ん坊のようなよちよち歩きでこちらに歩いてくる。僕は気づいた。朝名は精神が後退していたのだ。そして数年の歳月を経てやっと歩けるようになったのだ。僕は彼女の病の原因に気がついたときどうするか悩んだ。そしてやはり逃げ出した。束縛の恐怖には勝てない。ぼくを止める者は誰もいなかった。
安定の酷いまとめ方ですね。次は頑張ります(ーー;)




