第317話 原点回帰
この世界が不思議でたまらなかった。
私は物心ついた時から、魔術や魔法というものが全く理解できなかった。いや、構造としては理解しているし、どうして発動しているのかも分かっている。元々、そのような超常的な能力に関しては適性が高かった。
私が生まれた村は魔法使いの末裔であるということが分かった。世界に定着している魔術とはコード理論を使用して、論理的にこの世界にイメージを具現化するものである。
一方のこの村で伝わっている魔法とは、第一質料の根幹に存在している第零質料を使い、イメージを直接具現化するものである。
その違いは明白であり、魔法は発動プロセスが少ないため高速かつ、高威力で発動できる。逆に魔術は発動プロセスが多いのだが扱えるものが多く、それこそ適性のある人間ならば誰もが一定のレベルに達することができる。
そもそもその違いとは、第一質料と第零質料のどちらにアクセスできるのかというものだと私は後に知った。魔法使いの末裔である私たちは、そのどちらにもアクセスすることができる。
要するに、どれだけ世界の事象に改変できるだけの能力があるのか……ということである。この世界は全て第零質料で構成されている。世間では第一質料こそ、万物の根幹と説明されているようだが、本当は第零質料こそが世界の根幹である。
しかし、歴史を遡っても分からない。どうして魔法が淘汰されつつあり、魔術が世界に定着しているのだろうか……と。
そもそも、どうしてそんな現象が存在する?
それが始まりだった。
知的好奇心、または自身の存在証明。それこそが、私が私になるための原点だった。
「兄さん。何を読んでいるの?」
自宅にある物置部屋で、小さな明かりを灯して読書をしていた。ここ最近はずっと様々な書物を読み漁り、魔術と魔法の歴史について学んでいた。世界には何か秘密がある。それは絶対的な予感であり、確定事項である。
それは、目の前にいる弟。レイが証明しているのだから。
レイ。
どうして弟がその名前になったのか。
レイというのは、零という意味を表しているらしい。曰く、彼は千年に一人現れるという聖人なのだとか。聖人とは超常的な存在であり、魔法に対する適性がズバ抜けているのは言うまでまでもなく、こことは別の世界に干渉できる何かを持っているらしい。
村の人々はレイを特別扱いする。それは私にとって、些事に過ぎない。弟のことをどう思っているのか、と問われれば私は好ましいと答えるだろう。だが、それまでだ。家族としての情はあるが、その先にまでは届かない。
きっと自分が人間として破綻している片鱗に気がついたのは、この時だったと思っている。
「本を読んでいるんだ」
「本?」
「あぁ。レイは魔法に興味はないのか?」
「うーん……よくわからないや」
「そうか。まだレイは幼いからな」
ニコリと笑みを浮かべる弟を見て、私は思う。どうして彼が真理に近い存在であるのか。どうして私ではなく、弟だったのか。そんな感情が芽生えていることに気がつかず、私は日に日に自分の疑問が積もっていくことになる。
どうして、世界は今の状態になったのか?
魔法とは?
魔術とは?
そして、世界真理とはなんだ?
どうして世界が複数存在している? いや、もしかすると今いる現実と世界真理以外にも世界は存在しているのか?
考えれば考えるほど、頭がおかしくなりそうだった。
そして私はついに、ある計画を実行することにした。
世界真理に干渉するために必要なのは、揺らぎであることが判明した。日々の研鑽によりたどり着いたその結論。世界は魔術を使用した際に、わずかに揺らぐ。それは人の感情であっても同様だった。
ならば、より大きな揺らぎを──混沌を生み出すことができれば、私は世界真理に辿り着くことができると確信した。
その後。自分の生まれ育った村を焼き尽くし、殺し尽くすことに疑問など覚えなかった。元々、私以外に同じような思想を持った人間がいたので、協力して計画を実行することにした。
そこで一つ。問題が起こった。
それはレイがいなくなっていたと言うことだ。いくら死体を探しても、出てくることはない。レイはまだ幼く、逃げることはできないと考えていたが……そこは甘く考えていたのかもしれない。
私たちは、七賢人と言う組織を作り上げ、エイウェル帝国の中枢に入り込むことに成功した。必要なのはより大きな揺らぎである。そのため、必然的に求めるのは──戦争である。
戦禍による人間の感情の揺らぎは尋常ではない。それは、過去の歴史から分かる明らかなことである。そうして着々と戦争の準備を進めていく一方で、レイはどうやら王国のある組織に保護されたらしい。
「……レイ。そうか……いや、これはいい機会だ」
そう。それはいい機会だった。レイは世界最高の天才と表されている、リディア=エインズワースに保護されたらしい。彼女ならば、レイの能力を開花させてくれるだろう。そしていつか、戦場で相見えることができる。
何故だか、私にはそんな確信があった。
それから数年。
ついに極東戦役が開幕することになった。




