表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/355

第224話 たどり着いた、その場所で


 俺は自分の才能というものに見切りをつけていた。


 その一方で、幼い頃は周りから褒められることが多かった。


「流石はアリウム家の長男だ」

「えぇ。魔術適性は、かなり高いようですわね」

「アルバート様は優秀ですね。上流貴族の血筋は、やはり素晴らしい」


 そんな言葉を聞いて育ってきた俺は、勘違いをした。


 アルバート=アリウムには才能があり、素晴らしい魔術師になるのだと。それこそ、七大魔術師に至ることも夢ではない。そんな不遜な考えを幼い頃は抱いていた。


 しかし、俺はさらなる才能の存在を知ることになる。


 三大貴族。その長女たちと、同世代の俺は同じ学園に通うことになった。周りは貴族が多く、その中でも俺は突出した存在だった。しかし……三大貴族は才能があるなんてレベルのものではなかった。


「すごーい! 流石はローズ様よ!」

「オルグレン様も負けてはいないわっ!」

「やっぱり、三大貴族は違うなぁ」

「あぁ。間違いなく、才能が違うよ。才能が」


 その時の衝撃を、なんて言い表すべきなのか。当時はただ、彼女たちの才能に嫉妬した。一目見て、わかってしまう。


 自分なんかとは魔術の質が違うと。俺もまた、ある程度の才能があったからこそ、理解できてしまったのだ。そのあまりの巨大な才能に。


 そこから先、努力を怠るようになるまでそれほど時間はかからなかった。


 才能を信じ、努力を怠り、才能がないものを見下す。この世界は、血統で決まる。そのように教育され、そのように生きるようになった。血統こそが、自分の生きる理由になった。



 その中でやはり、レイとの出会いは運命的なものだったと言わざるを得ない。



 レイ=ホワイト。


 一般人オーディナリー出身の魔術師。初めは、ただその存在が鬱陶しくて仕方がなかった。レイを見ていると、過去の自分を思い出してしまうからだ。


 無知で、自分の可能性を信じ切っている、ただの愚か者。俺は彼が愚者にしか見えなかった。虚勢を張って、冷静なふりをしているのだと思い込んでいた。



 しかし、彼は七大魔術師が一人──【冰剣の魔術師】だった。


 そんな彼は、こう言った。


 ──才能は確かに重要だろう。しかし、才能だけでなく、努力も環境も必要な要素だ。俺たちにできることは、適切な環境に身を置いて、愚直に努力を重ねることしかできない。


 その言葉を聞いた時、俺は知った。いや、元々分かっていたんだ。俺は、才能を言い訳にして努力を怠っていたんだと。


 努力をした先に、挫折しか待っていないのなら、可能性の中に生きてたいと。


 ──俺だってやればできる、俺だって三大貴族ほどの才能があれば、俺だって……。


 そんな幻想に囚われ、可能性に囚われ、自分で自分を雁字搦がんじがらめに縛りつけていた。


 まさにそれは、自縄自縛じじょうじばく


 自らが生み出した鎖に縛りつけられ、それを良しとしていた。いや、せざるを得なかった。


 そうしなければ、自分を保つ事ができなかったから。



 正直いって、レイの存在は未だに謎だ。彼は一般人オーディナリーだというのに、七大魔術師という最高の地位に俺と同じ歳で至っている。その過去は聞いているが、努力だけではたどり着けない頂であると分かっている。


 でも、どうしてだろうか。レイを見ていると、才能に言い訳している自分がどうにも恥ずかしくなる。矮小に思える。


 しかしだからこそ、俺もまた進むべきではないかと……前向きに思えたのだ。


 レイに負けることで、俺は前に進むきっかけを手に入れた。自分の足でやっと、立ち上がる事ができたんだ。


 そして、その集大成が今だった。


 まだ俺は、未熟な魔術師だ。まだまだ、頂には届かない。いやきっと、一生かけてもレイの領域に届くことはないのかもしれない。


 しかし、もう才能に言い訳するのも、可能性の中に生きるのも、嫌だった。


 俺の人生は──才能でも、可能性でも──ない。


 自分の人生は、自分自身で切り開いていくんだ。他でもない、自分自身のために。


 だから、立ち向かおう。目の前の最強の存在に。


 これまでは、上手く立ち回ることができた。しかしその奇襲はもう通用しない。これはルーカス先輩が作ってくれた舞台だった。


 俺とエヴィが、レイに立ち向かうという状況を作り上げることはできたが……ここから先は、真正面からぶつかるしかない。優勝するには、最強レイに勝たなければならない。


 あぁ。分かっているとも。


 レイは強い。こうして、再び相対するがその存在感は圧倒的だ。


 震えるとも。

 恐怖するとも。


 その圧倒的な存在の前に、俺はただ打ち震えるしかない矮小な存在だと、分かっている。


 でもな、レイ。お前がいたからこそ、俺はここまでたどり着くことができた。


 だから見せてやるよ。俺の、俺のこの努力の足跡を──。たどり着いた、この場所を今こそ……見せる時なんだ。



「──白夜反転ホワイトリバース



 エヴィが稼いでくれた時間を使って、俺が展開するのは固有魔術オリジン。訓練の際に、偶然発動したこの魔術は俺にとっても奇跡のようなものだった。


 そして、展開されるのは見渡す限りの真っ白な世界。


 広域干渉系のこの固有魔術オリジンは、指定した空間から一時的に第一質料プリママテリアを消失させるものだ。といっても、物質の中などには存在しているが、それを魔術的に引き出すことはできない。厳密にいえば、これは抑制。


 魔術師が第一質料プリママテリアを引き出せないように、抑制した空間を生み出しているに過ぎない。


 もちろんこの空間の中では、コード理論は適応されない。


 つまりここから先は、この肉体で決着をつけるしかないということだ。


白夜反転ホワイトリバース。広域干渉系の固有魔術オリジンだな。なるほど……今までの戦いは、全てここに持ってくるためのものだったのか」

「そうだ。レイ、ここから先は肉体で語り合うしかない」

「そのようだな」


 彼が持っていた冰剣はすでに消失していた。


 この空間ではあらゆる魔術が無に還る。一時的とは言え、この世界は魔術の無い世界。


 あとは、己が肉体同士で語り合うしかない。


 これが俺たちの描いた、勝ちへの道筋。魔術戦では、勝ち目は無いのは分かりきっていた。


「へへへ。ついにこの時がきたかっ! レイ、俺たちの筋肉でお前を凌駕してやるぜッ!!」

「やってみるといい」


 レイと戦うにあたって、魔術戦ではこちらの方が不利だということはすでに話し合った結論から出ていた。


 ルーカス先輩に聞いた話ではあるが、レイ=ホワイトという魔術師はたとえ能力が封じられていたとしても、規格外であると。


 しかし、魔術を互いに使えない状況であれば肉薄できるかもしれない。


 俺とエヴィでは、今の状態でも届くかどうかは分からない。しかし、大きな隔たりは確かに小さくなっているのは間違い無いだろう。



「「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」



 駆ける。駆け抜ける。


 全ての想いを、この体に、この拳に乗せて──俺たちはレイへと立ち向かう。


 エヴィと共に、レイに迫る。今までの訓練で、仮想レイとしてルーカス先輩とかなりの戦いを重ねてきた。


 その成果を見せる時が、今なんだッ!!


 挟み込むようにして、俺たちは分散する。そしてエヴィの拳がレイへと迫る。その瞬間、俺は上段に蹴りを放つ。レイからすれば、完全に死角。


 これは流石に入っただろうと思うが……やはり、そう簡単にいくわけもない。


 レイは右腕でエヴィの拳を受け止め、左肘で俺の蹴りを止めていた。それも、どちらも力が乗り切る前できっちりと止めていたのだ。


 魔術で知覚しているのではない。それはおそらく、今までの膨大な経験。それこそ──レイの努力の足跡。


 この世界に、魔術という才能はない。だからこそ、レイの異質さがさらに際立つ。ここまでしても、レイの頂が見えることはない。


 だが、ここで止まるわけにはいかない。


 この白夜反転ホワイトリバースが発動している間に、レイを抑えなければ敗北は必至だろう。俺とエヴィがここで倒れてしまえば、おそらくはルーカス先輩で三人を相手にすることになる。


 そうなってしまえば、流石の先輩でも厳しいと言葉にしていた。


 だからこそ、ここで絶対に──止めてみせるッ!!


 そこから先は、ただ我武者羅に己の肉体を信じて戦うだけだった。


 すでにどれだけ殴られ、蹴りを受け、ダメージを負ったのかも覚えていない。ただ食らいつくんだと、絶対にここを通すわけにはいかないと。


 その想いが、この限界の体を動かしていた。


 魔術領域も、すでに限界に近い。しかし、ここで解いてしまえば、全てが無駄になってしまう。それに、わずかにだがレイにもダメージを入れることができていた。


 俺とエヴィはすでにボロボロだった。唇を切ったのか、ツーっと血が流れてくる。それに先ほど叩きつけられたことで、額からも血が滴る。


 だが止まることはない。


 この想いが、負けを認めないのだ。


 どうしてだろう。俺は今──とても楽しいと感じている。


 死闘を繰り広げ、肉体は痛みで悲鳴を上げ、視界も僅かに霞んできた。


 それなのに、俺は、俺たちは、この状況を心から楽しんでいる。


「ははは……ッ!!」

「へへへ……笑えるぜ。なぁ、アルバートォ!!」

「あぁ! 間違いない。最高に、笑えるさッ!!」


 体は限界。この魔術領域もすでに、限界だ。


 しかし、俺たちはいま笑っている。


 心から、おそらくは今までの人生の中で、一番最高の笑顔を浮かべている。ドロドロになり、グチャグチャになり、自分の血に塗れているというのに、どうして笑えるんだ?


 レイもまた、肩で息をしながら微笑を浮かべている。


 あぁ。そうだ。


 俺たちは同じだ。俺たち三人は、楽しんでいるんだ。


 この戦いを、この肉体で戦っている今を。


 この世界で見えているのは互いの姿しかない。それ以外はもう、目に入らない。試合のことも、忘れてしまっている。敗北はすでに見えている、見えているというのに、楽しいんだ。


 ただ、目の前に立っている史上最高の魔術師に相対していることが、何よりも楽しかった。嬉しかった。


 溢れ出る感情が止めることはない。


 この足は止まらない。立ち向かい続ける。


 ただまっすぐ、進み続ける。


 なぁ、レイ。俺は、お前と出会うことで変わることができたのだろうか。まっすぐ進むことができているのだろうか。


 いや、レイだけじゃない。


 数多くの友人たちと出会って、俺は……今、進めているのだろうか。


 その問いの答えは、とっくにあったんだ。


 俺の心の中に。


 だから、こうして戦えている。圧倒的な存在を前にして、体を動かすことができている。


 全てがスローモーションのように過ぎ去っていく。


 互いの拳が、交わる。


 何度も地面を転がる。エヴィと入れ替わるようにして、俺は何度だって立ち上がる。立ち向かい続ける。


 我武者羅に、ただ真っ直ぐに、まるで自分の存在を証明するかのように。



「はぁ……はぁ……はぁ……ごほっ……う……うぅ……」

「へへへ……アルバート……あとは、頼んだ……ぜ……」



 二人して大の字になって、転がる。


 エヴィは最後にそう言葉にすると、気絶してしまった。彼は、俺が固有魔術オリジンを発動するためにずっとレイと戦っていた。


 白夜反転ホワイトリバースが展開された後も、俺を何度も庇ってくれた。その大きな体で、レイの攻撃を受け続けたのだ。


 だから、意識を失ってしまうのも無理はなかった。


 ありがとう、エヴィ。お前と一緒に戦う事ができて、俺は嬉しかった。最高に楽しかった。きっとエヴィがいなければ、ここまで戦うことは絶対にできなかった。


 だからお前の分も、俺はまだ──立ち上がって見せる。


「はぁ……はぁ……はぁ……レイ、俺は……負けない。負けるわけには……はぁ……はぁ……いかない」


 見据える。レイもまた、額から血を流していた。ダメージは確実に入っている。


 それでも彼はその場に悠然と佇んでいる。じっとこちらを、静かに見据えている。その闘気が衰えることはない。依然として、臨戦態勢で俺のことを捉えている。


 あぁ。もう、分かっている。結局レイに届くことはなかった。


 俺とエヴィの二人がかりでも、レイは圧倒的だった。


「アルバート。心してかかってこい──その気概、真正面から受け止めよう」


 ふ、と笑いが漏れる。


 俺はもう、死に体だ。間違いなく、次の攻防で敗北を喫する。そんな分かりきっている未来に、死の淵に、自ら進もうとしているんだ。


 笑えるさ。あぁ、どうしようもなく……俺は愚かだな。


 でも、ありがとう。


 レイがいなければきっと、ここまで来ることはできなかったから。


「はぁ……はぁ……う……うぅ……」


 よろよろと歩みを進める。もう肉体は活動を停止しろと、言っている。言っているが、この──最後の一撃だけは、全力で叩き込むッ!!




「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」




 そうしてレイの目の前まで全力で駆け抜けると、パァンッ!! と弾けたような音が響き渡った。レイは俺の拳を、その右手でしっかりと受け止めたのだ。


 ビリビリと電流が走るかのような痛み。そこから先は、感覚がなくなっていくかのように……その場にズルズルと倒れ込んでいく。


 その際に、俺は自分の想いを吐露した。


「なぁ……レイ」

「あぁ」

「俺は……強くなれただろうか? あの時よりも……成長できただろうか?」

「アルバート。君は間違いなく、強くなった。成長した。それは、俺が証明しよう」

「あぁ……そうか……俺は、そうか……」


 一筋だけ涙を零す。


 それは、嬉しさもあった。しかしやはり、悔しいものは悔しい。敗北してばかりだ。俺は、負けてばかりだ。


 でも、それは当然だろう?


 今まで俺が努力を怠って、才能に傲り、他者を見下して悦に浸っている間にもレイは努力していたのだから。


 敗北には慣れない。きっと、これは一生慣れることはないのだろう。


 でもそれがきっと、俺をさらに成長させてくれる。


 倒れる。その場に受け身を取ることも叶わずに、ぐらりと体はまるで糸が切れたかのように、倒れ込む。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 天井を見つめる。


 敗北だ。その現実を受け入れると、白夜反転ホワイトリバースは解除され、元の世界が戻ってくる。


 そうして俺は最後に、レイに言葉を投げかけた。



「レイ。ありがとう。レイの……おかげで俺は……ここまで、来ることが……できた」

「……アルバート、俺だって同じさ。君には、友人たちには本当に感謝しかない。戦う事ができて、よかった」

「あぁ……そうか。レイも……そうだったのか……」

「あぁ。それでは、失礼する」

「……」



 駆け抜けていく音が、響く。


 この場から徐々に遠ざかっていくと、レイはおそらくフラッグを奪取して最後の戦いに向かうのだろう。


 その戦いに俺がいないのは、本当に残念でしかない。


 しかし、後悔はなかった。俺は、俺たちは全力で戦い抜いたのだから。


 魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエの時のように、悔しさから涙を流すことはなかった。ただ、自分の敗北を冷静に受け入れる。


 徐々に視界が霞んでくる。


 おそらく、意識がそろそろ無くなる。


 はは、どうやらかなり無茶をしたみたいだからな。


 あぁ。どうしてだろう。今日はやけに、世界が美しく見えるな。もう視界はほとんど何も見えないというのに、この瞼の裏には美しい世界が写っているのだ。



 ──レイ、ありがとう。本当に心から、感謝しかない。



 この敗北を糧に俺は何度だって、その先に進んでいくとしよう。たとえその先に、何もなかったとしても。為すべきことは、進み続けることなのだから。



 レイと再び戦うことができて……俺は……本当……に……楽しかった──。



 そうして俺は、その瞬間。


 意識を手放すのだった。



冰剣の情報についてですが、メロンブックス様での予約が開始されました。なんとメロンブックス様の限定版特典は、【アメリアのB2タペストリー】がついてきます! さらに他にも予約特典がついたりと、とても豪華になっています!


規約の関係上、URLを載せることはできないので、検索して確認していただければと思います。(または、私のTwitterで確認してもらえればと!)


タペストリーのイラストは、それはもう凄いものになっていますので……(笑。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ