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第182話 乙女の会合


「あぁ……本当に疲れた……死ぬわ。まじで……」


 とぼとぼと歩みを進めているのは、アメリアだった。最近はリーゼロッテと訓練することが多く、それはまさに地獄だった。


 レイとの訓練もまた、地獄と形容するのにふさわしいものだったが……それでも彼は、アメリアのことをしっかりと考慮してギリギリのラインで訓練を課していた。


 彼には師匠であるリディアの教えがしっかりと残っているからだ。リディアは厳しい人間ではあるが、愛情を持ち合わせていた。


 一方で、リーゼロッテは博識であり、七大魔術師でもあるが教えることに関しては素人に近い。


 そのため、アメリアの様子を伺うことなく毎日淡々と作業とも呼ぶべきトレーニングを行わせ続けていた。それに加えて、何よりも彼女の心を悩ませているのは……レイとアリアーヌのことだった。


 今頃は二人でトレーニングをしているに違いない。


 羨ましいと思う感情と、トレーニングの過酷さを考えると、その葛藤で頭がどうにかなってしまいそうだった。


 それに……アメリアは魔術剣士競技大会《マギクス・シュバリエ》の訓練においてレイに対して恋心を抱くようになった。


 ──もしかして、アリアーヌも……?


 そう考えるのも、無理はなかった。


 何よりもレイは誰に対しても誠実に接する。相手の気持ちを推し量るのは得意ではないみたいだが、誰にでも思いやりを持って接してくれる。


 そんな彼に惹かれるのは……理解できてしまう。


 その危機感は果たして、現実のものになってしまうのか。


「はぁ……ただいまぁ〜」


 寮の扉を開けて、誰もいないがそう言ってみた。そうして自室へと向かっている途中で、曲がり角から金色の髪がわずかに出ているのが見えた。


「あれ? クラリス?」

「あ! アメリアじゃない!」


 話しかけられると、クラリスはパタパタと走って近づいていく。その後ろにはエリサもいた。


 二人とも、会うのは久しぶりだと思いつつ……アメリアは疲れた顔のまま話を続ける。


「ぐ、偶然ね!」

「まぁそうね」


 明らかに挙動がおかしかった。クラリスの目はキョロキョロと忙しなく動いているし、表情も硬い。そう思っていると、エリサが後ろからニコリといつものように優しい笑みを浮かべる。


「もう。クラリスちゃん。それだと不審者みたいだよ?」

「ぐ……こればかりは、その通りだわ……」

「? もしかして、待ってくれてたの?」


 現在は三連休。


 実家が近いものは、帰っている生徒もいる。閑散とはしていないが、寮にいる生徒はいつもよりも少ない。


 そんな中で、エリサとクラリスが待っている理由とは……。


「うん。アメリアちゃん。最近とっても、疲れてるでしょ?」

「あはは……まぁね……」


 否定はしなかった。


 正直言って、かなり辛い。いくら大会のため、そして自分自身の魔術を制御するためとはいえ、連日の訓練はかなり堪えていた。それは心身ともに。


「だからその。私たちで、おもてなしできないかなって」

「おもてなし?」

「うん! 今日は私がお料理を作って、マッサージとかするよ!」


 瞬間。

 

 アメリアは自分の鼻をなんとか抑え込むことに成功。


 幸いなことに、鼻血は垂れていなかった。


「もしかして、二人がなんでもしてくれるの?」

「うん! アメリアちゃんのために頑張るよっ!」

「ま、まぁ……最近はあんまり話もできてなかったし、いい機会かなって。か、勘違いしないでよ! 別にその、私が寂しかったからとかじゃないんだからねっ!」


 エリサはいつものように大天使。


 クラリスもいつものように、ツンデレを発揮している。


 そんな二人がなんでもしてくれる……?


 もちろんアメリアの脳内では、邪《よこしま》な考えが過りまくっていた。


「よし! じゃあ私の部屋に行きましょう!」


 先ほどまでの疲れはどこに行ったのか。アメリアは意気揚々とそう言葉にすると、三人でアメリアの自室へと向かうのだった。



「ん〜! おいしーっ!」


 パクリと一口食べるそれは、エリサの作ってくれたシチューだった。野菜がたくさん入っており、何よりもクリーミーで美味しい。クラリスも野菜を切るのを手伝ってくれたようで、そんな二人の気遣いが心よりも嬉しかった。


「エリサ! あなたは将来、お店を開けるわ!」

「あはは。ありがとう、アメリアちゃん」


 はっきりと言われるので、エリサは頬を赤く染めて感謝の言葉を述べる。


 こうしてゆっくりと食事を取るのはいつ以来だろうか。


 今までは心身ともに休める時間もなかったので、アメリアはいつも以上にはしゃいでいた。


「ふん。ま、まぁ……美味しいんじゃない?」

「そんなこと言うクラリスちゃんには、おかわりは上げませーん」


 プイっと横を向いて拗ねる仕草を見せる。エリサもまた、明るくなったものだとアメリアは内心で思っていた。


「え、エリサ! そんな!」

「じゃあちゃんと言って?」

「ぐ……!」


 ツンデレの血がそうさせるのか、はっきりとものを言うことにはまだ慣れていないクラリスだが……彼女も少しずつ変わろうとしているのは間違いなかった。


「お、美味しいわよ! とっても美味しいわっ!」

「ふふ。ありがとう。クラリスちゃん」


 そんな二人の仲睦まじいやりとりを見て、アメリアは微かに笑みを浮かべる。


「アメリアちゃん」

「ん? どうかした」

「元気、出たかな……?」

「そうね……」


 二人がここまでしてくれたのだ。元気が出ない、なんてことはあり得なかった。


「もう元気いっぱいよ! 本当にありがとう。二人ともっ!」


 欲を言うならば、みんなで一緒に過ごしたかった。いつものみんなで、同じ食事を共にする。そして些細なことで笑い合い、かけがえなのない時間を共有する。


 しかし、今はそうも言ってられない。


 今回の大会では、それぞれの人間の想いがかかっていることをアメリアは知っているからだ。


「ごちそうさまでした」

「「ごちそうさまでした」」


 三人で手を合わせて食事を終える。


 もちろん食事を終えた後にすることといえば……。


「よし! みんなでお風呂に入りましょう!」

「「え……!?」」


 声が重なる。


 確かにこの寮は大浴場がついているが、今はちょうど時間も過ぎてしまった頃だ。つまり、アメリアの発言が意味するのは……この部屋にあるお風呂に一緒に入ろうということだ。


 一人にしては大きな浴場だが、流石に三人となると手狭になる。それをわかっているからこそ、エリサとクラリスは声を上げたのだ。


 そして、そのアメリアの言葉が意味するところを……そのいやらしい表情から理解してしまった。


「あはは……私はちょっと用事が……」

「エリサ。ここは覚悟を決めるべきよ」

「で、でもっ……!」

「話し合ったでしょう。こうなることも覚悟しておくべきって」


 何やら二人で話しているが、アメリアにはすでにそんな声は聞こえてなかった。と言うのも、彼女はあろうことかその場で服をぽいぽいと脱ぎ始めてしまっていたからだ。


 貴族の令嬢ではあるが、今は一人の少女。


 何よりも、アメリアは興奮しており、ニヤニヤと笑いながら裸で浴場へと向かっていく。


「よし! じゃあ行きましょう!」


 有無を言わせないアメリアの言葉に、二人は従うしかなかった……。



「ふぅ……いいお湯だったわね!」

「「……」」


 テカテカとアメリアの肌が光っているのは、気のせいではない。その浴場での出来事は、いくら同性とはいえまずいのでは? 一線を超えているのでは? と、思うほどに過酷なものだった。


「うぅ……胸が痛いよう……」

「私も……」


 自分の胸元を抑える。果たして、そこでは何が繰り広げられたのか……それは当人達しか知る由はなかった。


 その後は、とても機嫌の良いアメリアが食後のデザートということで残しておいたフルーツの盛り合わせを振る舞ってくれた。


 本当は夜食用に保存していたのだが、一人で食べるよりはずっといいと思ってみんなで食べることにした。


 そうして時刻が0時を回った頃、そろそろ寝ようかという話になったが……。


「よし! 二人とも泊まって行きなさい!」

「「え……!?」」


 その後、再び繰り広げられた惨劇は……果たしてどうなったのか。


 この日、エリサとクラリスは、ある意味で地獄を見るのだった。

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