第157話 力を求めて
いつものようにトレーニングに励むアルバート。
「ふ……ふ……ふん!」
現在はエヴィにサポートしてもらい、学院内のジムで汗を流していた。
すでに話は聞いている。
大規模魔術戦。
学院と学年の壁を超え、誰とでもチーム組むことができるそのルールは、生徒たちの間に大きな反響を呼んでいた。
もちろん、同じ学院同士で組むことも可能。
現時点では、他の学院の生徒と組もうとする方が少数派。
そのような状況下で、アルバートは耳にしていた。
レイ、アメリア、アリアーヌの三人がチームとして出場すると。
間違いなく優勝候補筆頭。
今年の魔術剣士競技大会新人戦の優勝と準優勝。
特にアメリアに至っては、因果律に干渉できる魔術を使用できる。
それだけで反則級だというのに、その中に混ざるのは……【冰剣の魔術師】であるレイ=ホワイト。
大規模魔術戦において、その存在はもはや語るまでもないだろう。
知っている者は知っている。
レイの実力は、すでに世界屈指。特に白兵戦においては、満足に魔術が使えなくとも学生レベルなどにとどまる存在ではない。
だからこそ、アルバートは思うのだ。
レイと再び……戦ってみたいと。
「エヴィ」
「どうしたアルバート」
「レイたちに勝つには、どうすれば良い?」
「……あの三人が組むとなれば、どうにもいかねぇかもな。正直いって、お手上げだぜ。ただ……」
「ただ?」
エヴィは言い淀む。
そして彼は、勝てる可能性を一つ提案した。
「魔術剣士競技大会本戦で優勝した、ルーカス=フォルスト。それしか可能性はないだろうな」
「……なるほど。それは確かに、そうだろうな」
考える。
アルバートは彼の試合を全て見ているわけではないが、その実力は折り紙付き。
レイたちに対抗するならば、それぐらいのカードは用意すべきだろう。
「よし。交渉に行こう」
「良いのか? 他にも実力者はいるだろ?」
エヴィもまた、今回の大会に参加する予定だ。
アルバートとエヴィ。そして、残り一人。
後一人を探していたが、エヴィの提案によりアルバートは決めた。
何事も挑戦してみないと始まらない。ということで、二人はすぐにメルクロス魔術学院に向かった。
「ここか?」
「あぁ。話では、ここでよく鍛錬をしているとか」
アーノルド魔術学院からは、それほど遠くはないので二人はあっという間に辿り着いた。
そこで話を聞くと、ルーカスは演習場で一人、よく鍛錬をしているとのことだった。曰く、そこはもはや彼専用の場所になっているとか。
「お、あれじゃねぇか?」
「……間違いないな」
二人の視線の先に映るのは、刀を構えているルーカスだった。
目を瞑り、ただじっと刀の柄を握っている。
姿勢は低く、その研ぎ澄まされた雰囲気を感じ取って、容易に声をかけてはいけないと二人ともに悟った。
そして、一閃。
虚空を切り裂いた刀を収めると、ルーカスは悠然とそれを鞘に収める。
まるで女性のような中性的な容姿。髪も長く、一見すれば女性に見える。だがその鋭い雰囲気は、男性的なものでもあった。
まるで幾千の戦場を切り抜けてきたかのような、そんな雰囲気。
「で、僕に何か用かな?」
振り向く。
ルーカスはすでに、二人が後ろにいるのは感じ取っていた。
「自分はアルバート=アリウムと言います」
「エヴィ=アームストロングです」
まずは挨拶をして、丁寧に一礼をした。自分たちは後輩。それに、頼みに来ている立場なのだ。礼儀はしっかりとしておくべきだと、二人とも心得ていた。
そのあとは、アルバートがルーカスに語りかける。
「フォルスト先輩にお願いがあってきました」
「君たちも、僕とチームを組みたいと?」
「はい」
「そっか。なら、勝負だ」
演習場の隅に置いてある木刀。それを持ってくると、ルーカスはそれをアルバートとエヴィに向かって投げて渡した。
「その手の勧誘はすでにたくさんあった。その度にこうして、その力量を測った。僕が認めれば、君たちのチームに入っても構わない」
「……分かりました」
木刀を構える二人。
一方のルーカスは、刀を構える素振りはない。
すでに実力差は明白。ならば、ルーカスが測ろうとしているのは一体何なのか……。
そうして、アルバートとエヴィが同時に地面を蹴った瞬間に戦いは始まった。
「はああああああああッ!!」
駆ける。
アルバートは今までは魔術ばかりに注力を割いていた。それこそが、貴族の在り方だと思っていたからだ。だが今は基本的な身体技能もトレーニングによって、かなり向上している。
「……いいね」
ボソリと呟くルーカス。
アルバートの動きは、荒削りだがその動きは彼が良いと認めるほどのものだった。
そうして……一閃。
アルバートの攻撃をバックステップだけで避けると、その背後には……すでにエヴィが迫っていた。
「おっ、らあああああああああああッ!!」
振り下ろす。
エヴィは巨体ではあるが、敏捷性がかなり高い。今の一瞬の間で、ルーカスの後ろを取ると、木刀を一気に振り下ろした。
その時のルーカスは、笑っていた。
そうしてアルバートもまた追撃をかけようとするが、二人の攻撃は素手で止められてしまった。
「な……!?」
「マジか!? 素手で止めたのかよっ!!」
内部コードで強化した二人の攻撃を、ルーカスは何の魔術を行使せずに受け止めた。
それは、第一質料の兆候がないことから二人ともにはっきりと分かってしまった。
「いいよ。合格だ」
木刀を取り上げると、ルーカスは淡々とそう告げる。
「え……?」
「は……?」
呆然とするアルバートとエヴィ。それもそうだろう。
この勝負は完全なる敗北。何もいいところはなかったはずだ。
真正面から挑み、完膚なきまでに敗北を喫した。
だが、ルーカスはどこか上機嫌だった。
「良い。二人ともによく鍛えているのが分かる。実戦的なことは、そうだね。僕が指導しよう」
「い、いいんですか?」
アルバートは恐る恐る尋ねる。
まだ彼は、合格と言われたことに現実感が伴っていなかった。
「もちろん。まだ荒削りだが、よく鍛えている。正直いって、僕は魔術戦よりも白兵戦の方が好みだからね。ちょうどいいよ。二人は」
学院では寡黙で通っているルーカスだが、二人の動きを見て思わず饒舌になってしまう。
「それに……レイ=ホワイト。出るんだろ?」
レイ=ホワイト。
それは、ルーカスが求めている相手だ。
「はい。そのはずです」
アルバートがそういうと、ルーカスは微かに微笑む。
「彼とは、来年の魔術剣士競技大会で戦うことが目標だったけど……その目で確かめるのもいいかもしれない。もちろん、今回は僕は彼とは戦わない。僕が求めているのは、一対一の場だからね。それよりも君だろう。彼を求めているのは」
「……はい」
ルーカスは見抜いていた。というよりも、情報を持っていた。レイの戦いを経て、成長している魔術師がいることを。
「レイ=ホワイト。その実力は、一生かけても君がたどり着けない領域だろう。それでも、その高みを目指す覚悟があると?」
「はい」
「その先に待っているのは、挫折と苦悩だけだとしても?」
「後悔は後からできます。今はただ、全力であの背中を追いかけたい、と」
「……いいよ。気に入った。アルバート、だったね? それにエヴィ。僕のことは、ルーカスで構わない」
そして、アルバートとエヴィは改めて頭を下げる。
「よろしくお願いします。ルーカス先輩」
「ルーカス先輩。俺も、レイとは一度ガチでやりあってみたかったんです。ご指導、よろしくお願いします」
その様子を見て、後輩を持つのも悪くはないな……と思う彼であった。
「さて、じゃあ早速トレーニングをしようか。彼に勝つなら、それこそ最低限の戦闘技術は身につけないといけない。ついてこれるかい?」
「「はいッ!!」」
大きな声で、気合の入った返事をする。
ルーカス=フォルスト。孤独にして孤高。誰も近寄らせないことで有名な彼がどうして、別の学院の後輩と組むことにしたのか。
しばらく学院の中では、その噂が大きく広まることになる。
こうして、アルバートたちも大きく前進するのだった。




