第137話 核心へ
「え……ちょっと、その……っ!」
ということで、半ば強引な形だがレベッカ先輩が壇上の中央に押されるようにしてやって来た。
あの様子からして、事前に打ち合わせなどはしてないのだろう。
レベッカ先輩は、戸惑いの表情を浮かべながら周囲をオロオロと見回している。
「それでは、恒例の質問タイムいくわよっ!」
『おおおおおおおおおっ!」
ディーナ先輩がそういうと、最前列に集まっている男子たちが湧き上がる。いつの間にあんなにも多くの男子生徒が集合したのかは分からないが、異様な盛り上がりを見せていた。
「ではレベッカ様。趣味は何でしょうか?」
「しゅ、趣味ですか……?」
レベッカ先輩もこの状況を受け入れたのか、質問には答えてくれる様子。
先輩の趣味となると……なかなかこれは難しい質問だ。ディーナ先輩も知っているだろうが、先輩の趣味は漫画を書くことだ。
しかし、レベッカ先輩はそれを公開したくはないだろう。それは、夏のあの時を一緒に過ごして分かっている。先輩はどのように答えるのだろうか……と思っていると、おずおずと口を開いた。
「えっと……お花を育てること、甘いものを食べること、それに芸術活動……ですかね。絵を書いたりするのが好きです」
俯きがちに答えるその姿は、何か心にくるものがあった。
そんなレベッカ先輩の壇上での様子を見守っていると、妙にハラハラするというか助けてあげたくなるというか、この感情は初めてのもので俺も少し戸惑っていた。
「聞いたわねっ! レベッカ様の趣味は高尚なのよっ!」
『お、うおおおおおおおおおおおおおおっ!』
さらに湧く男子たち。もはやこれはミスコンなのか、何なのか分からなくなって来た。
むしろ、レベッカ先輩の特別ステージというか……。
でも、その周囲には笑顔が溢れていた。
ディーナ先輩も微笑みながら進行をして、周囲の生徒も笑っている。
熱狂的なファンもいるようだが、それは温かい雰囲気に包み込まれていた。
そしてその中央にいるレベッカ先輩もまた、顔を赤くしながらも微かに微笑んでいる。
もしかしたらこれは、ディーナ先輩からの贈り物なのかもしれない。
少しでも、この文化祭を楽しんでくれるようにと願っての。
いやそれはきっと……間違いないだろう。
俺はディーナ先輩の想いを知っている。だからこそ、サプライズのような形でレベッカ先輩を巻き込んだ。
遠くからこの文化祭を眺めるのではなく、その中に入っていけるようにと……きっとそう願っているに違いない。
そこから今までと同じように、質問が行われ……ついに、最後の質問にやって来た。こればかりは、鬼門だろう。
なぜならばそれは、好きな人を尋ねるものだからだ。
「ではレベッカ様。最後の質問になります」
「は、はいっ!」
レベッカ先輩も慣れて来たようで、受け答えがしっかりとしてきたみたいだ。
「現在、好きな人はいますか? もちろん恋愛対象として……です」
「あ……う、えっと……その……」
再び俯く。それと同時に、先輩はチラッとステージからこちら側を見た。きっとこれは偶然なのだろうが、俺と視線が交わった気がした。
「……もちろん私は、婚約しておりますのでエヴァン様のことをこれから愛していければいいなと思っております」
毅然とした態度でレベッカ先輩はそう告げた。
今まで湧き上がっていた男子生徒たちも今回ばかりは、静まっていた。そして、ついにレベッカ先輩の番が終了し、ミスコンの優勝者発表となった。
それぞれの生徒が投票箱に紙を入れて、それを運営の人たちが数える。その作業は、手際がいいのかあっという間に終了。
そして、壇上に上がって来たレベッカ先輩がペコリと頭を下げると、ついに発表となった。
「では、今年のミスコンの優勝者を発表します。優勝者は……」
ペラっと折り畳まれている紙を開いて見ると、レベッカ先輩はその場でわなわなと震え始める。
顔をその紙で隠し、こちらからは様子が窺えない。
だが、その反応で誰が優勝したかは明らかだった。
そうしていると、ディーナ先輩が舞台袖からやって来てレベッカ先輩からその紙をスッと奪い取った。
「はい。じゃあ分かってると思うけど、今年の優勝はレベッカ様よっ! 喜びなさいっ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおお!』
『きゃあああああああああああああああああああ!』
今回は野太い声援だけでなく、黄色い声援も聞こえて来た。
レベッカ先輩には男性だけでなく、女性のファンも多いのだと改めて理解した。
まぁ……俺も今回はレベッカ先輩に投票したしな。
「ねぇレイ」
「どうしたアメリア」
隣にいるアメリアは、ただじっとレベッカ先輩のことを見つめていた。それは、優しい表情だった。アメリアもまた、レベッカ先輩を見て思うところがあるのだろう。
「レベッカ先輩さ」
「あぁ」
「楽しそうだね」
「間違いない」
みんなに祝福されるレベッカ先輩は、依然として顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。「もう、みなさんやめてください! 怒りますよっ!」と、本気で抗議している様子だが、それもまた逆に可愛いというか……そんな彼女に、この場にいる生徒は魅了されていた。
そうだ。
やっぱりレベッカ先輩は、魅力的な人だ。
人を集め、その人たちに慕われる、そんな優しい人。
改めて俺は、レベッカ先輩の魅力に気がつくのだった。
こうして、文化祭二日目もまた終了。
色々と波乱めいたものはあったが、きっとレベッカ先輩にとっていい思い出になったに違いない。
◇
夕刻が過ぎ、日暮れの時間帯となった。
俺は外出届を提出して、街に繰り出す。
一応名目としては、メイド喫茶に関して食料をもう少し補充しておきたい、という事にしておいた。
それは決して嘘ではないが、あくまで二次的なもの。
俺の目的は、アビーさんの自宅に向かう事だった。
学院からの坂道を降りて、街の中央区へと向かう。
ふと、夜空を見上げる。
最近多いのだが、今日もまた綺麗な夜空が広がっていた。星々も輝かしく瞬き、この夜の世界をその明かりで照らしていた。
こんな夜も、悪くはない。
そう思いながら一人で歩みを進めて、アビーさんの自宅へとたどり着く。
扉に付随している、鳥型のドアノッカーをコンコンコンと三回ほど叩くと、室内からはカーラさんが出て来た。
「レイ様。すでに全員集まっております。どうぞ、中へ」
「失礼します」
その場で軽く一礼をすると、中にはすでに俺の見知った人たちがいた。
師匠、アビーさん、キャロル、カーラさん、それに部長もいた。その他には、魔術剣士競技大会の時に顔を合わせた部長の家族の方も隅の方に直立していた。
「レイ。来たか」
「師匠もいらしていたのですね」
「もちろんだ。今回の件は、色々ときな臭いからな……」
すでにこの場は緊張感が漂っていた。キャロルも俺に会うと、何かと理由をつけてスキンシップを図ろうとして来るのだが今回はそれがない。
ただ静かに、ソファーに座って紅茶を楽しんでいるようだった。
キャロルも静かにしていれば、いい女だろうに……と思っても仕方がない事だろうな。
俺は空いている席に座ると、カーラさんがスッと前に出てきて本題に入る。
「レイ様から依頼を受けていました。エヴァン=ベルンシュタイン氏の正体が判明いたしました」
その口ぶりからするに、間違いなく彼には裏の顔があるのだと理解した。
「──彼は、裏で魔眼を非合法に収集していた、有名な魔眼収集家です」
「それはつまり、狙いはレベッカ先輩の魔眼だと……?」
俺はすぐに口を挟んだ。その内容からするに、予想するのはそれしかない。だがカーラさんは、少しだけ表情を歪める。
「……そう思うのが至極当然です。しかし、この件。不可解な点が多過ぎます」
「というと……?」
カーラさんは淡々と話を続ける。
「この情報を入手したのも、あまりにも容易過ぎました。まるで、早く知ってくれと言わんばかりに」
「……」
情報を秘匿するのに、必死ではない……ということか?
しかしこの情報は知られてはまずいはずだ。
あまりにも外聞が悪い上に、間違いなくその身柄は拘束され、婚約は解消になるだろう。エヴァン氏が投獄される可能性は限りなく高い。
それを隠す気がない……?
どういう事だ……?
それにレベッカ先輩はこのことを知っているからこそ、身動きが取れなかった……?
錯綜する状況。
そして俺たちは徐々に真実に近づいていく。だがそれは、思いもよらないものであるとのちに知る事になる。
この王国の裏で蠢く意志は、さらに大きく膨れ上がっていく。




