第136話 コンテスト開始!
「それではまず、男性のフィジークコンテストから行います。選手の皆様、ご入場ください」
レベッカ先輩がそう言葉にすると、舞台袖から次々と屈強な男たちが入って来る。全員ともに、上半身は裸で下にはサーフパンツを身につけている。
このフィジークコンテストにおいては、上半身の筋肉のみに注目されがちだが、やはりバランス。そしてポージングなども重要になってくる。
審査員の人は、毎年専門の人を五人ほど呼び、採点してもらうのだという。
学生の規模にしてはかなり気合が入っているが、これがアーノルド魔術学院の伝統。
そしてその選手の中には、エヴィだけでなく、部長や他の部員の方々もいた。それに加えて、他の部活の人もなかなかにいいバルクをしている。
これは一概に、誰かが一番良いとは決めがたいが……。
「レイ。どう見る?」
アルバートは真剣な面持ちで、舞台を見つめていた。
「部長とエヴィが、優勝候補だろうな。しかしあの二人の優劣、なかなかに難しい」
「俺も同意見だ。圧倒的な筋肉量。それにカットもよく出ている。おそらく、今日に向けて入念な調整を行なってきたのだろう……しかし、部長は流石だな。あのデカさは、凄まじいものがある」
二人で考察を交えて、会話をする。
周囲の人間もまた、ザワザワとしているがそれは全員ともに、舞台に立っている人の筋肉を評価しているのだ。
ミスコンこそが本命、と言われることもあるが違う。このフィージークコンテストもまた、文化祭の本命になり得るものである。
この学院は新たに設置されたジムにより、筋肉に対しての意識が以前よりも高まったと部長から聞いた。
そのため、今年は盛り上がるだろうと聞いていたが……やはりその通りだった。
「では、順番にポージングをお願いします!」
レベッカ先輩の進行のもと、競技が進んでいく。
エヴィの番号は三番。部長の番号は一番最後の十二番。
これはどのような勝負になるか、まだわからないな……。
そして、軽快な音楽の元で彼らはポージングをしていく。眩しい筋肉が迸り、それぞれ全員が声を上げる。
「二番キレてるよー!」
「でかいよでかいよー!」
「キレてるきれてるー!」
と、応援する声が上がる。
「ねぇ、レイ」
「どうしたアメリア」
右側を見ると、アメリアだけでなく、クラリスとエリサも俺のことを見つめていた。
「掛け声ってどうするの?」
「番号で呼ぶのと、そうだな。キレてる、とかでかいなど言えばいい」
「そっか……なるほど」
うんうんと三人ともに頷いていると、ついにエヴィの番がやって来た。
「三番、キレてるキレてるッ!」
「いいカット出てるぞーッ! 三番でかいよッ!」
俺とアルバートが先陣を切って、大きな声でエヴィに応援の声をかける。すると、ニカっと白い歯を輝かせてポージングを続けていく。
流石のエヴィだ。前の二人と違って、ポージングもとても綺麗だ。何よりも、自分の筋肉がどうすれば映えるのかよく理解している……そんな感じだ。
「いいよー! おっきいよー!」
「キレてるキレてる!」
「三番いいよぉっ!」
アメリア、クラリス、エリサの三人もまた明るい声援を送る。野太い男の声ばかり響くと思いきや、このフィジークコンテストは女子の声もよく通る。性別問わず、皆がその筋肉に魅了されているのだ。
その後、順調に進んでいくと……ついに大本命である部長の番がやって来た。圧倒的な巨躯がステージに進んでくると、音楽と共にポージングを開始。
「で……デカすぎる……」
「な、何だあれは……?」
アルバートと二人で呆然とする。俺たちは、掛け声をあげることも忘れて……ただ唖然としていた。元々でかいのは知っている。しかし、ポージングを取るとさらに威圧感というべきだろうか。
その圧倒的な存在感に、俺たちは慄いていた。
この会場の全ての人間が、戦慄する。
そしてついに、審査の段階に入ったが……これはもう確定だろう。
「──二位はエヴィ=アームストロングさんです! ということは……優勝は、レックス=ヘイルさんに確定しましたっ! みなさん、選手に大きな拍手を送ってくださいっ!」
レベッカ先輩が順位を発表するが、やはりこうなったか……という印象だった。エヴィもまた、笑ってその声援を受けて、がっしりと部長と握手を交わしていた。
あれだけの努力をしても届かない領域。
部長は晴れて、このアーノルド魔術学院の在学期間において、伝説の四連覇を果たすのだった。
「次は、ミスコンだが……全く知らないな」
「あぁ。俺も知らない」
大白熱のフィジークコンテストが終了し、次はミスコンに移ることになった。可愛い女子のナンバーワンを決めるとのことだが、これは審査員はここにいる全員である。観客もまた、エントリーした人間を一人選び、そこから集計をとって一番票数の多い人間が、優勝となる。
「それでは、続いてミスコンを開始します!」
レベッカ先輩も慣れてきたようで、声がよく通る。
俺はふと、あることを思い出してアメリアにこう尋ねた。
「アメリアは出る予定はなかったのか?」
「え、どうしてそんなこと聞くのよ」
「アメリアならば、優勝できるだろう」
「え!? そ、そう思う……?」
「あぁ。アメリアはよく映えるからな。舞台上ではその輝きがよく映ったと思うが」
そういうと、アメリアは少しだけ難しそうな顔をする。
「うーん。でも今回は、クラスの方に力を入れたかったからなぁ……」
「なるほど。それは仕方がないな」
「来年はレイがそういうなら、出ていいかも……?」
チラッと俺の顔を見るアメリア。俺はそれに、いつものように答える。
「それは楽しみだ。来年は、期待しておこう」
「う……うん」
そして恙無く進行していくミスコン。
「そういえば、こちらの優勝候補は誰なんだろうな……」
ボソっと呟くと、それにはエリサが反応した。
「ゆ、優勝候補は二年生のナタリア=アシュリーさんだよっ!」
「そうなのか。エリサ」
「う……うんっ! 魔術剣士競技大会でも実況をしてたし、この学院ではアイドル的存在なんだよっ!」
「おぉ……全く知らなかった。そうか、なるほど……」
エリサからの情報をもらうと同時に、その彼女がやって出て来た。
「では、お名前を教えてください」
レベッカ先輩が尋ねると、アシュリー先輩はニコッと笑って言葉を紡ぐ。
「ナタリア=アシュリーです☆」
右目の横で、横向きにピースをするとこの会場にいる男性陣の「おぉ……」という声が響いた。
なるほど。この学院のアイドルというのは、どうやら本当のようだ。それは男性陣の反応からすぐにわかった。
「では、アピールポイントや特技を教えてください」
「う〜んとねっ☆」
口元に指先を持っていき、渋る彼女を見て思った。
あれはキャロルと同じ系譜であると。
間違いなく、俺が苦手にしている部類の女性だ。
「やっぱりぃ〜、この可愛い容姿かな? かなぁ? 特技は歌とダンスで〜すっ! またライブやるので、来てくださ〜いっ☆」
バチン、という音が聞こえそうなほどのウインク。
あの人には絶対に近寄らないでおこう。そう誓って、そのステージを見守る。
そしてついに、最後の人になったが……。
「では最後の方は……ってあれ? レベッカ=ブラッドリィ? え、私エントリーしてませんけど?」
ポカンとした表情で渡された紙を見つめるレベッカ先輩。
すると、ディーナ先輩がやって来てニコニコと笑いながらレベッカ先輩から紙とマイクを強引に奪う。
そして彼女をステージの真ん中に追いやりながら、ディーナ先輩はこう告げた。
「ということで、喜びなさい。男子ども。レベッカ様がエントリーしてくださったのよ!」
『う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
それは今日の中でも、一番の歓声。この講堂が揺れ動くと錯覚するほどの、大音量。いや、錯覚ではないかもしれない。間違い無くこの振動は、熱狂的な人間の声によって生じている。
流石はレベッカ先輩。その人気は屈指なものなようだ。
その中で、レベッカ先輩はステージでオロオロとしていた。
「え……え? エントリーしてくれた? これは、どういうことなのですか……?」
ついにミスコンの最後の一人としてレベッカ先輩の番がやってくるのだった。




