第1話
ジリリリリ、ジリリリリ(目覚ましの音)。
「あ〜、うるさいな〜(起きなきゃいけない、でも寝たい、をベッドでリフレイン)」
ジリリリリ、ジリリリリ(さくらさん、そろそろ起きましょう)。
分かってます、分かってますってば、言われなくてもっ(軽い逆ギレモードにロックオ
ン)。
ジリリリリ、ってお前は毎日うるさいな〜(それが目覚ましでしょ、第一、目覚ましに
話しかけても解決しませんし)。
成敗してくれるっ、カチャッ(やっとこさ、目覚ましを解除)。
あ〜、眠いっす、先輩(さくらさん、先輩なんかいないっす)。
この感覚、二十数年も人間経験があろうと一向に慣れないっす、先輩(だから、一人暮
らしの部屋に先輩なんかいないっす)。
も〜、起きますよ、起きればいいんでしょ(逆ギレモード、継続中)。
そうだもんね、起きないと物語が進まないもんね(そんな、作者の意向まで汲み取って
もらわなくても、自然体でいてもらえればいいんですが・・・・・・)。
今、準備しますから待っててくださいな(カメラ目線とポーズ、いただきました)。
洗面所で顔をゴシゴシ(スッピンはダメ、って映像なしっすね)。
トイレ・・・着いてきちゃダメですって(はいはい、大丈夫です)。
お風呂・・・お風呂の実況はダメですよっ(分かってます、分かってます)。
朝ごはんはもっぱら牛乳とヨーグルトなりっ(コロ助っすか、さくらさん・・・・・・)。
着替え・・・覗かないでくださいね(あっ、すいません、つい・・・・・・)。
チッ、チッ、チッ(着替え中、時計の秒針が動く音)。
チーン、さくらさん、登場です(華麗にポージングをキメキメ・・・それっぽい効果音
でも足しておいてあげてください)。
今日のコーディネート、ホワイトシャツにキャメルのコットンスーツをあわせてみまし
たっ。
どうですか、皆々様(お似合いです、よっ日本一)。
いや〜、それどほでも(今度はしんちゃんっすか、さくらさん・・・・・・)。
あっ、もう出ないと電車の時間がっ(戸締まり確認、問題なし)。
それでは、いってきます(一応、誰もいない設定なんですが・・・・・・)。
それいけ、タッタカタ〜ッ(慣れたもんで、ヒールで一段飛ばしに階段を降りていくの
です)。
「あっ、宮前さん、おはようございます」
その声は管理人さん、今日もちゃんちゃんこでお掃除中ですね。
「おはようございます、いってきます」
さくらさん、とっても自然な笑顔中。
「いってらっしゃい」
管理人さん、さくらより一枚上手な笑顔中。
そして、さくらさんは通勤開始。
「も〜、なんやねんっ(関西弁になりきれない関西弁)」
毎日、この通勤の時間が苦でたまりません、さくらです(それ、どういう自己紹介・・・・・・)。
朝も早よから、オヤジたちに四方八方を囲まれての満員電車通勤。超ぎゅうぎゅうです、
牛ってことじゃないですよ(分かりますよ、そんぐらい)。
オヤジたちの体臭、くっさい、くっさい。
オヤジたちの死んだような顔、もっさい、もっさい。
オヤジたちのハゲ頭・・・かわいいかも(かわいいんかい、おのれ)。
だって、なんか愛おしい気持ちになりませんか(まぁ、言われてみれば)。
破滅の美しさってあるじゃないですか、そんなとこですよ(なるほど)。
オジさんたちも頑張ってるんだね、って慰めてあげたくなるでしょ(だったら、ハゲ頭
と結婚してみれば)。
イヤッ、そんなの絶対にイヤッ(さくらさん、極度の拒絶反応を示すの図)。
モト冬樹が旦那さんなんて、絶対にイヤッ(別にモト冬樹に限定はしてないですけど・・・
ハゲ頭で思いつく芸能人の筆頭ではありますが)。
あっ、取り乱してすいません、くるりんぱっ(今度はダチョウ倶楽部まで、って帽子な
んか被ってないでしょ・・・まさかっ)。
はっ、ヅラじゃないですよ、私は(そう・・・そうですよね)。
どう見たら、この艶やかで清廉とした素敵なロングヘアーをそう見ますか(自分のこと、
褒めすぎじゃないっすか)。
失礼しちゃいますよ、ってあなた誰ですか(・・・・・・その辺、うやむやにしといて
ください)。
まぁ、ボケっぱなしじゃなんですし、ツッコミいれてくれるのは嬉しいですよ(さくら
さん、大体は天然ですよ)。
分かってますよ、そんなことぐらいは言わなくても(すいません、一応)。
そんなこんなで、酸素の薄い箱型移動車輌から脱出するまで私は1時間ほど揺られるの
です(その箱型移動車輌って電車のことですかね、ドラえもんみたいな)。
ボク、ドラえも〜ん(ドラえもんじゃないし、似てもいませんよ)。
地下鉄の駅から外へ抜けたときの爽快感ったらないっすよ、もう(幸せそうな顔してま
すもんね)。
えっ、分かりますか(読者の皆々様には画で伝えることは出来ませんけど)。
でも、そんな余韻に浸ることもなく、私はすたこらさっさと会社に向かうのです。(すた
こらさっさ、って昔話の世界ですよ)
ジャンジャジャーン(効果音、入れといてくださいな)、到着です。
こちらにそびえ立つナウい高層ビルこそ、私の勤め先の会社なのです。格好いいでしょ、
チョベリグ〜(さくらさん、高層ビルの佇まいと紹介の言葉が反比例してます)。
田舎出身の私がこんな都会派なビルに勤めてるなんて、冷静に思うと不思議です。子供
の頃、鼻水たらしながら走り回ってた私からすれば信じがたいことです(あっ、食事中の
方、ごめんあそばせ)。
ここに移ろう空気、ここに吹く風、ここにいる人たち、全てが都会派です、そ〜なんで
す(川平慈英っすか、次は)。
失礼いたしやした、話を戻して、私はその高層ビルに向かいゆくように歩き始めます。
門番のように立ちつくす自動ドアをくぐり、周りの仕事人間に囲まれ、颯爽と歩く私。あ
ぁ、なんて都会っ子なのかしら(はい、さくらさん、ナル入りました)。
出来る女、キャリアウーマン、さくらです(自己紹介はもういいですって)。
作者さん、よかったら私の周りにバラでも並べておいてください(演出まで口挟むんす
か、さくらさん)。
そして、ガラス張りのエレベーターで、ガラス張りのビルディングを上昇〜っ(上昇時
にかかる圧を表現、これって嫌ですよね)。
チンっ、18階に到着すると、こちらが私の勤めますオフィスでございまする。
株式会社フロートアップ、18年前に設立した従業員30名による会社です。
フロートアップ、直訳すると浮き上がるって意味ですね(さくら、女教師に瞬間チェン
ジ)。
良い言葉だとお思いでしょうが、実は社長が航空機好きってだけです(ミーハーってこ
とですね)。
でもまぁ、航空機好きだったのが幸いですよ。これがアキバ系のヲタクだったら、どん
な名前ついてたか分かったもんじゃないですしね(まぁ、はい)。
株式会社綾波レイ、なんてたまったもんじゃないですよ(それ、さすがに却下されると
思いますが・・・・・・)。
「さくら、おはよう」
「あっ、おはようございます」
そう姉様はフローラルなフレグランスを残しつつ、シュッとした後ろ姿を私に見せてい
きます。
今、私の前を通り抜けていった、あのお方は羽場紀子さん(解説モードオン、カメラ目
線なり)。
私のことを入社当初からかわいがってくれている、よき理解者、よき姉さん。私だけで
なく、会社の下の人間の面倒見の良さは天下一品。当然のごとく、みんなからの人望は厚
く、社内でも随一のキャリアウーマン。完璧なプロポーション、美貌、どれをとっても私
には敵いやしません。お手上げ、降参、おみそれしますっ。私は姉様の敷いたレールを渡
っていくのが精一杯でやんす(時代をさかのぼってませんか、さくらさん)。
「おはようございます!」
この正面の自動ドアが開けば、私の仕事モードにスイッチが入るのです(再び解説モー
ドオン、カメラ目線なり)。
四方はガラス張り、18階から見える景色は快晴なら爽快ってもんです。あんなだだっ
広い、複雑に絡み合う街々を眼下にできる優越感、中々いいですよ。
さて、私のデスクがあるのは、その中の1番端っこ。下っ端の私の指定席、なんだかん
だで気に入ってます。窓に近いから、悩んでるときとかは景色を展望できるし。ちっぽけ
な悩みなんか、ぐしゃぐしゃに丸めてお空にポーイです。
あっ、ちなみに、私は悩みを引きずるタイプで〜す(ポイしきれてないじゃないですか)。
ここで、説明しておこう(解説モード、継続中)。
私の勤めますフロートアップは、皆々様へ幸せを届けますイベント会社なのです。従業
員はA・B・Cの3チームに分かれ、それぞれで依頼されたイベントを受け持ちます。そ
れを、企画・運営・展開していくのが私たちの仕事ってこと。
ちなみに、私は紀子姉様もいるAチームに入っています。
「先週の野沢温泉での七夕イベント、Aチームがそつなく運営してくれて大成功に終わっ
た。盛況のうちに終了ということで、先方もいたく感謝してくれている。「是非、来年もウ
チに頼みたい」と、嬉しい言葉までもらえた。今後もウチの名前をどんどん拡げていける
よう、精進してがんばってほしい」
部長の言葉に、Aチームのみんなが顔を見合わせては綻ばせます。
先週まで、2ヶ月にわたって我らAチームが担当した七夕イベントが無事成功したので
す。
織姫と彦星になぞった、カップル向けのイベントを大々的に展開したところ、これが結
構な盛況となりまして、私たちチームもやった感が満点でした。鼻た〜かだかっ、ピキー
ン(鼻を必要以上に伸ばすの図)。
「Aチームには、今日から親子向けのヒーロー系イベントを担当してもらう。羽場を中心
に、今回も良い結果を出してくれることを期待している」
次はヒーロー系か〜、シュワッチ(ウルトラマンなんて、1回も言ってない・・・・・・)。
みんな一度は通る道だもんね、私でいうセーラームーンとか(・・・・・・まさか)。
月にかわっておしおきよ、シャキーン(やっぱり、やっちゃいましたか)。
そういえば、タキシード仮面ってさ、タキシード着て仮面してるからタキシード仮面っ
て安易な名前だよね(・・・・・・まぁ、そこはいいじゃないっすか)。
「さくら、これ全員分コピーして」
「あっ、はい」
これが今回の概要か、要はヒーロー戦隊もののショーってことね(企画概要の書類をコ
ピーしつつ、そこに載ってる内容をチェックしておくの図)。
突撃戦隊セインダー、名前は知ってるなぁ。確か、日曜の朝っぱらにやってる番組だ(勤
め人であるさくらにとって土日は熟睡タイム、日曜の朝も早くの番組など見る機会もない
ということ)。
あっ、作者さん、わざわざ解説ありがとうございます(いえ、いえ、このぐらい)。
そうなんですよね、私を含め、仕事人には土日の睡眠時間は至福の時。これに勝る幸福
感、そうそうあるもんじゃないです(納得、納得)。
私の言ってることに、皆さん賛同してくださいますよね(はい、そのとおり)。
じゃあ、私が立候補した際には是非とも清き一票をお待ちしています(・・・・・・選
挙出る気ですか)。
だって、私が首相になったら日本をもっと明るくできますよ(・・・・・・否定はしま
せんけど、政策なんて無理でしょ)。
・・・・・・そこ、突きますか(だって、最終的にそこですから)。
あっ、なんだか心臓が痛い(仮病はやめてください、さくらさん)。
ちっ、バレたらしょうがねぇな(逆ギレっすか、最後は・・・・・・)。
「今回のイベントは2週間後の23日本番、突撃戦隊セインダーのヒーローショー。ショ
ーのストーリーと当日の企画進行はすでに現場とクライアント側で決定済みなので、ウチ
がやるのはショー自体の展開と運営、それの本番までを受け持ちます。子供たちに絶大な
人気のセインダーなので、親子連れが来場者の基本になります。親がいるといっても、シ
ョーが始まってしまえば関係ありません。子供たちはステージ付近まで来て、おかまいな
しに騒ぎ立てるので対応をしっかりしましょう。まぁ、過去にくさるほど行われてるタイ
プのイベントなので、やりやすいとは思います」
そうそう、この手のイベントはいくらでもやってるからね。私も見に行ったことありま
すよ、お兄ちゃんが好きだったから。
まぁ、えらいもんで、ビームとか波動砲とか出してくんないんですよね、ショーでは(さ
くらさん、分かってるくせに・・・・・・)。
まぁ、いいや、童心にかえったつもりでがんばりましょ〜。
今日は紀子姉様が佐渡さんとクライアントへの打ち合わせに向かい、残った私たちは先
週のイベントの事後資料の作成と次のイベントにまつわる資料集めに動きまする。
せっせ、せっせ(会社では真面目に働くさくらの図)。
「そして、タイム・ゴーズ・バイ(時間が過ぎて、ってことですね)」
部長のデスクの上の方に掛かってる時計はまだ17時。
いや〜、こんな時間に帰れるって実は久しぶりなんですよ。イベント本番に近づくにつ
れ、これがどんどん遅くなってくんです(つまり、今が1番良いところなんですね)。
夏場ってこともありますが夕日すらまだ出てませんよ、なんだか得した気分になりませ
んか。
「宮前さん、よかったら食事にでも行きませんか」
あっ、絵里奈さんだ・・・食事って、私と?
スト〜ップ、ここらで一つ説明しよう(解説モード、オン)。
会社からの出掛けに私の前に突如あらわれたのは、そう南絵里奈さん。私と同じくAチ
ームにいる、とっても優しいお姉さん。社内一の綺麗どころ、気立てもよくて社内で一目
置かれる存在なのです。
「雑誌でね、かわいいお店があったの。ちょっと待つかもしれないけど、早く終わったか
ら行ってみようよ」
そう絵里奈さんに連れてってもらったのは、街中にあるイタリアンレストラン。少し広
めな洋風の一軒家のような外観でオープンカフェのようにテラスまで席とテーブルが散り
ばめられてて、私たちが着いたときには辺りも暗くなっていたのでそこから見える夜空に
は星々がまたたいていてプラネタリウムにいるような感覚。ソファもネーブルでふんわか、
テーブルも艶のある木調、照明も席ごとに吊るされてるカラフルなランプを中心にしてい
て、インテリアにはブリキの木製人形がたくさん置かれてるポップな印象。
周りの席にいる人たちを見ても、仕事帰りのおしゃれさんたちばかり。私のような若輩
者、この中にいて浮いてませんでしょうか(うぅん、お淑やかにしてれば大丈夫ですよ)。
ホントに、お世辞じゃなくて(静かにしてればかわいいですよ、さくらさん)。
マジで、そんな褒めても何も出しませんぜ、おやっさん(それがダメやっちゅうねん)。
あっ、ついいつものクセで・・・・・・。
「じゃあ、野沢温泉の祝勝と次回の必勝をかねまして」
乾杯、チーン、コックン(たしなむ程度に口に含む)。
おぉ、中々いける、これ。
しっかし、こんなとこでセミスパークリングの白ワインなんて洒落てるやないの(さく
らさん、関西弁になってますよ)。
いいの、いいの、気にせんといてぇな(だって、関西人じゃないでしょ)。
関西人やなかったら、関西弁喋ったらあかんのか(いいですけど、多分関西人には嫌わ
れると思いますよ)。
「ねぇ、宮前さんはどんなヒーローものを見てたの」
私はペスカトーレ、絵里奈さんはオマール海老のクリームソース、それぞれのオーダー
したものを・・・モグモグ(さくらさん、食べたいのは分かりますけど、最後まで説明
を・・・・・・)。
オーダーしたものを食べながら、先週の野沢温泉でのイベントのああだこうだ話を・・・
モグモグ(さくらさん、すいませんが説明し終わるまで我慢してください・・・・・・)。
でも、オマール海老のクリームソースなんて、絵里奈さんは自分を知ってますな(そう
いえば、その絵里奈さんから話しかけられてませんでしたっけ)。
あっ、やべっ、早く言ってよ(大丈夫、物語上は時間は進んでませんから)。
「ヒーローものっていうか、セーラームーンは好きで毎週見てましたよ」
「セーラームーンか、私たちの世代にはタイムリーだもんね」
「小さい頃は親とカラオケ行ったりすると、いつも歌ってたんです」
「あぁ、分かる。私もアニメの曲ばっかり歌ってたもん」
ってか、子供の頃なんてアニメソングくらいしか知らないしね。会社の飲み会で先輩た
ちの歌う曲ならギリ分かるけど、親の歌う曲とかはもうアウトです。
き〜んい〜ろ、ぎ〜んい〜ろ、も〜もい〜ろと〜いき〜(高橋真梨子の桃色吐息のこと
ですね)。
きみも〜み〜るだろ〜か〜、いちご〜は〜く〜しょを〜(荒井由実のいちご白書をもう
一度のことですね)。
はて〜し〜ない〜、おお〜ぞ〜らと〜(松山千春の大空と大地の中でのことですね)。
く〜も〜り〜が〜らすの〜むこ〜は(寺尾聰のルビーの指輪のことですね)。
・・・・・・なんで、作者さん、即答なの(・・・・・・別にそういう年齢ってことじ
ゃないですよ)。
20代って聞いてるんですけど(そうですよ、同世代ですよ)。
・・・・・・絶対、年齢詐称だよ(違いますって、懐メロを聴いたりするから知ってる
だけですって)。
同年代って聞いてたから親近感もってたのに(だから、嘘偽りなく同年代ですって)。
じゃ、証拠を見せなさい、証拠を(ハイっ、これ免許証です)。
アハハ、この写真、油断してますよね(そっちじゃないでしょ、こっち)。
あぁ、失敬、どれどれ・・・本当だ(分かってくれましたね)。
仕方ない、そういうことにしといてやろう(なんで、素直に言えませんかね・・・・・・)。
「今度さ、みんな誘って温泉でも行ってみない」
「おっ、温泉ですか」
「先週の野沢温泉のとき、日帰りだったから温泉入れなかったじゃん。だから、今度みん
なで一緒にくつろぎにいったりしたいなって思って」
温泉って、まずいっすよ、それ。
みんなでキャピキャピ盛り上がりながら行って、着いたらお部屋で一段落して、そのま
ま裸のお付き合いってことでしょ。無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理(何
回言うんですか)。
さて、何回言ったでしょう(それ、文章だから数えればいいだけですよ)。
はっ、そんな裏技があったとは(いや、誰でも気づくと思いますけど)。
話を戻しまして、私には人様にお見せできるプロポーションはないということなのです。
さっきの免許証のくだりじゃないですけど、あの油断したお腹は同僚に見せるにはちとき
つい(それまた、どんな程度の)。
プニプニですよ、林檎殺人事件です(それ、フニフニ・・・っていうか、昔の曲知って
るじゃないですか)。
手でつまめるんですよ、プニ〜ってしてて(そのくらいの方がよかったりするんじゃな
いですかね)。
男の人はそうかもしんないけど、女同士は違うんですよ。プライドがあるんです、ちょ
っとでも痩せてる方がいいみたいなね(じゃあ、なんで油断しちゃったんですか)。
それは・・・いろいろ誘惑があるじゃないですか、おやつとか、おやつとか、おやつと
か、おやつとか(要はおやつってことですね)。
「いいですね、前向きに検討していきましょうよ」
「うん、そうだね」
とは言ったものの、実現されると困るな〜。普段はそういうの目立たない服でごまかせ
るけど、さすがにポンになったら無理だもんな〜(ポン・・・スッポンポンのことですね)。
笑い者にされて、社内中に言いふらされてもな〜(別に、メタボリックシンドロームっ
てことじゃないんでしょ)。
違いますよ、失礼な(あっ、ごめんなさい、気に触れましたか)。
会ったこともないのに、勝手にメタボ扱いするんじゃない(あぁ、こいつはすいません)。
罰として、私をスレンダー美女っていう設定に変えなさい(・・・・・・それはさすが
にダメですよ)。
なんでですか、ちょちょっと変えてくれればいいんですよ(そんなこと言っても、もう
ストーリーが始まってるんで)。
もう、融通がきかないなぁ(いや、さくらさんがわがまますぎると思うんですが)。
こうなったら、ダイエットでもやるかなぁ(おっ、その気になりましたか)。
ねぇ、「そして、2ヵ月後」みたいにさ、ダイエット終了後までとばしてもらえませんか
(そんなことしませんよ)。
いいじゃん、いいじゃん、いいじゃんじょん(それ、何ですか・・・・・・)。
ブー、ブー、ブ〜だ、ケチんぼ(なんとでも言ってください、痛くもかゆくもないんで)。
・・・・・・ふぅ、まったく先が思いやられるよ(こっちのセリフですよ)。
☆
ところかわりまして、こちらは主役である宮前さくらさんの自宅のあるマンションの一
室です。
ただ今の時刻は21時、この時間にもなれば近場の交通量も少なくなり、この一帯は静
まりをみせます。特にこの季節になりますと、セミの鳴き声が付録のようについてくるも
ので、たまにうるさく感じるときもありますが、これも夏の醍醐味の一つと解釈すると耳
馴染むものだったりします(・・・・・・ちょっと、ちょっと)。
はい、何でしょうか(さっきから普通に話してますけど、おたく誰ですか)。
あぁ、そういえば自己紹介が遅れました(そうそう、急に話し出すからおどろきました)。
私の名前は丹乍幸四郎といいます、このマンションの管理人をしている者です。
そう、この物語の冒頭で宮前さくらさんと挨拶を交わしていたのが私です(あぁ、思い
出しました)。
今後、何度とこの物語に登場させていただきますので、どうぞお見知りおきを(堅いで
すよ、リラックス、リラックス)。
いえ、元々こういう人間なんです(・・・・・・あっ、そうなんですか)。
幼少から父の影響で文学に興味がありまして、その頃から小説を愛読書としていまして
(・・・・・・そういう頃って、漫画とかにいきませんか)。
そうですね、周りはそうでしたが僕は違いました。
最初は父に薦められた太宰治を読み、面白い世界観を出す人だなと思いました。それか
ら、夏目漱石、川端康成、芥川龍之介、三島由紀夫、などを読んでいき、彼らの描く人間
の膿といいますか、人間の本質に迫るところに惹かれていきました。
最も興味をひかれたのは「人間失格」という作品です、どういう内容かといいますと
(・・・・・・すいません、それ長くなりそうですよね)。
何を言ってるんですか、まだまだ序章にすぎませんよ(正直、そこを引っ張られても困
るんですよね・・・えぇい、早送り、ピッ)。
・・・・・・というわけなんですよ(へぇ、そうだったんですか)。
・・・・・・何故だろう、あれだけ喋ったのに喋った感が全くないのは(・・・・・・
気のせいじゃないですかね)。
まぁ、いいでしょう(よかった、バレてねぇ)。
ピンポーン、ピンポーン(管理人の部屋にインターホンが鳴る)。
おや、誰でしょうか、こんな時間に。スクッ、スタスタ、ガチャッ(流れるように立ち
上がり、歩き、玄関を開けるの図)。
「こんばんは、管理人さん」
宮前さん、朝と同じ服でどうしたんでしょう。
「こんばんは、何かありましたか」
「あっ、回覧板が来たから届けに来ました」
101号室に住む管理人発の回覧板は、各住人の家を転々としていき、605号室に住
む宮前さんまで回ります。最後の宮前さんにサインをもらった回覧板は、彼女から私の1
01号室へと再び戻ってくるのです。
そのため、宮前さんとは顔を合わせる機会も多く、彼女も私によく笑顔を見せてくれま
す。
「どうもありがとうございます、夜分に」
「いえ、こちらこそ夜遅くにすいません」
んっ、なんだか臭うぞ。
前からだ、前からきている、前にいる宮前さんからだ。何の臭いだ・・・酒だ、酒臭
んだ、この人が。
「今日、飲まれてますか」
「えっ、なんで分かるんですか」
「ちょっと、お酒の臭いがするので」
「あっ、お酒臭いですか、すいません」
「いえっ、全然かまわないんですけれど」
そう言うと、宮前さんはクンクン自分の服を嗅ぎだしました。
5秒して首をかしげます、自分では分からなかったようです。どうやら、自分では把握
できない程度の少量の酒量のようです。
「すいません、管理人さん、お酒とか飲まない人ですか」
「いえ、たしなむ程度には飲みますよ」
「そうですか。よかった、管理人さんの嫌いな臭いだったら申し訳ないんで」
「大丈夫ですよ、そんな気になさらずに」
「はい・・・じゃ、失礼します」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
パタン、カッ、カッ、カッ・・・・・・(閉扉した後、玄関越しに聞こえるさくらの足跡
が小さくなっていく)。
このように、宮前さんはあまり人前でも臭気だとか細かいことは気にしない人のようで
す。まぁ、私に男の気などを一切感じていないということもあるんでしょうけれど。
これまでの私の人生では接してないタイプなので、彼女は新味ではあります(もしかし
て、どこそのお坊ちゃんですか)。
いえ、父は自営業、母はそれを手伝いながら主婦もしている、都会を外れたところでは
よく見られる家だと思います。
ちなみに、父は八百屋を営んでいまして、人情味と新鮮味が売りだなんて自分では言っ
ているんですよ(へぇ、そうなんですか)。
JA遠中から提供していただいてるトマトは糖度の高い、甘みが特徴の美味しい逸品で
す(・・・・・・もしや、また解説モード)。
三方原で栽培されたじゃがいもは(すいませんが、また早送り、ピッ)。
・・・・・・というわけなんですよ(へぇ、とっても参考になりました・・・しめしめ)。
では、これから多々の出来事があると思いますが、最後までお付き合いいただければこ
れ幸いです(あっ、締めていただいてありがとうございます)。
☆
ジューッ、翌日、ジューッ(さくらさん、翌日を入れるところが間違ってますよ)。
あっ、おはようございます(どうも、おはようございます)。
今日も爽やかな小春日和ですね(夏っていう設定なんですけど・・・ところで、料理で
すか)。
そうですよ、私だって料理ぐらいできるんですから(おっ、これは期待できる発言です
ね)。
はい、もう大船どころじゃなく、豪華客船に乗ったつもりでいてくださいよ(おぉ、言
いますね)。
今回はそうだな・・・タイタニックにでもご招待いたしますっ(沈んでまうがな、アホ
っ)。
アハッ、こいつは失礼ぶっこきましたっ(そんな、かわいく言ってもムダですって)。
あっ、そうこうしてる間に完成です(どれどれ・・・これは一体全体、何でしょうか)。
何って、ロコモコのハンバーグ抜きですよ(ハンバーグ抜きって致命傷でしょ、要はご
はんに目玉焼き乗せてるだけじゃないですか)。
そんな、朝っぱらからハンバーグなんて作ってられませんよ(分かりますけど、味もへ
ったくれもないでしょうに)。
おバカ言いなさんな、ちゃんと醤油かけますよ〜だ(それ、ただの目玉焼き丼でしょ)。
違いますよ、ロコモコのハンバーグ抜きです(それを世間では目玉焼き丼って言うんで
すよ)。
・・・・・・ああ言えば、こう言う(こう言えば、ああ言う)。
・・・・・・ツー(カー)。
私たち、いいコンビじゃありませんか(悲しいかな、そうですね)。
今年のMー1、優勝目指してやってみましょう(やりませんよ、絶対)。
いいじゃないっすか、打倒・品川庄司で(その目標、優勝に繋がらないと思いますよ)。
おっと、そんなこと言ってる間に時間がっ。
カッ、カッ、カッ、ジャーッ、パパパッ、ガチャッ(急いで、ごはんをかきこみ、食器
を洗い、洋服を着替え、出掛けるの図)。
それいけ、スッテケテッテッテーッ(さくらさん、まさかの横っちょ走り)。
「あっ、宮前さん、おはようございます」
その声は管理人さん、また今日もちゃんちゃんこでお掃除中ですね。
「おはようございます、いってきます」
さくらさん、またとっても自然な笑顔中。
「いってらっしゃい」
管理人さん、またさくらより一枚上手な笑顔中。
そして、さくらさんは通勤開始。
「もう、なにしよっとか〜(また、満員電車にもまれるさくら)」
もぉ、退屈でしょうがないんですよね、この時間(前のオヤジの白髪の本数でも調べれ
ば)。
ブー、もっとタメになる暇つぶしがいいの(シンプルに読書でもどうですか)。
無理です、こんな押し合いの中、集中して読書なんて出来ません。新聞とか見てる人も
ちらほらいますけど信じられないです、もはや匠の域ですよ(まぁ、そうですね)。
あっ、聞きたいんですけど、匠って聞いたときに辰巳琢郎が思い浮かぶのって私だけで
すかね(・・・・・・そうだと思います)。
なんでだろう、辰巳琢郎って聞いたら辰巳琢郎が思い浮かぶんでしょ(そんなの当たり
前じゃないですか)。
なのに、なんで匠が辰巳琢郎に聞こえないんですか(言ってること、めちゃくちゃです
よ、さくらさん)。
そんなことないですよ・・・あっ、ホンマや(この数行間を読み返し、自分の不徳に気
づくさくら)。
すいませんでした・・・でっ、何の話でしたっけ(電車での暇つぶしの方法です)。
そうか、そうか、そうか・・・せんべえ、食べたくなってきた(草加ちがいですよ、さ
くらさん)。
せんべえ持ってませんか、作者さん(あんまり食べないんで・・・おばあちゃんのぽた
ぽた焼きぐらいしか)。
あっ、懐かし〜、食べました、よく食べました(それでも、たまぁにですけど)。
・・・・・・でっ、何の話でしたっけ(電車での暇つぶしの方法です)。
そうでした、もうどうでもよくなってきましたけど(そっちから振っといて・・・・・・)。
また、次の機会にしてくださいな、バイビー(自分勝手ですね、ホントに・・・・・・)。
そして、いつの間にだか、こちらはフロートアップAチームのデスク(お得意のタイム
ワープ)。
紀子姉様と佐渡さんがクライアントと打ち合わせた結果、個人の担当が決定したようで
す。
「さくらと誉は来場者、絵里奈と智成は出演者、鋸鎖と米太良は舞台、緒辺と佐渡はスタ
ッフ、私は統括を担当します。それぞれ、自分の仕事には責任もって、当日の成功に向け
てがんばっていきましょう」
ゲッ、来場者かよ、しかも富士となんて最悪。
来場者って子供ばっかでしょ、対応が大変なの目に見えてるじゃん。まっ、そんな面倒
くさい仕事、下っ端がやるのが当然なんですけどね。
「おい、打ち合わせするぞ」
その声は富士誉、真ん中のないような低音空洞ボイス。
ここで、説明しようじゃあ〜りませんか(チャーリー浜チックに解説モード、オン)。
私のデスクの向かいのデスクにいるのが、そう富士誉。私と同期入社の2年目、なのに
若干ですが上から目線を感じるときアリ。先輩たちとはうまく取り合ってるのに、私には
タメ以上の態度で来る生意気小僧です。
富士と同じ担当になることは多いですが、どうも馬が合わないんですわ、これが。
「会場はセサミ遊園地のイベント広場、1000人まで収容可能。ちょうど遊園地の真ん
中にあるから、当日は入り口から広場までの道が来場者で混雑するだろう。ショーは4回
公演、開始時刻は10時から2時間ごと。その前後での広場周辺の来場者対応を含め、会
場整理の会社と話を詰めておこう」
「うん、分かった」
「じゃあ、現場行くぞ」
そう、富士はさっさと外出の準備を始めていきます。
あれっ、なんだか富士が主導権を握ってる(今ごろ、お気づきですか)。
くそ〜っ、またしてもアイツのペースに持ってかれてしまってる。いつもだ、いつもこ
の展開になっちゃうんだよなぁ(いつもこうなら、そろそろ学習しましょうよ)。
現場の見学は基本、会場と周辺を知らないで傾向も対策もありませんから。
今回は遊園地ということで、園内と周辺を歩いて当日の予測をたてます。遊園地側の方
とも打ち合わせをし、イベント時の来場者の流れについても教わります。それに基づいて、
私たちが対策をたててくというわけ。
「イベント広場だけあって、ちゃんと考えてある造りになってるな。対策たてやすいし、
当日の本番以外は問題ないだろ」
「うん、そうだね」
グー、キュルルル(今どき、中々ないお腹の鳴る音)。
やっべ、聞かれたっ(もう、これまで会社で何度と聞かれてるからいいでしょ)。
笑ってるよぉ、そして笑われてるよぉ。
「お前のお腹すげぇな、サイレンみたいだぞ」
「サイレンって何よ」
「警報信号みたいにさ、危険が近づくと鳴り出すんだよ、私のお腹がピンチですって」
失礼な、プンッ(さくら、心の中でふてくされるの図)。
ちょうど見学も終わったので、私たちは売店で昼食を摂ることになりました。ホットド
ッグと焼きそばとソフトドリンクを2人分、富士が買ってきてくれます(何気にいいトコ
あんじゃん、富士)。
「ありがとうね、いただきま〜す」
「あっ、先に850円ちょうだい」
「850円って、おごりじゃないの」
「誰がお前におごるんだよ、いいから850円」
このやろ〜、きちんと割り勘にしやがって(折角、フォローしてあげたのにね)。
こんな麗しきレディといるんだから、ちょっとは気を遣えっての(自分で自分のことを
麗しいって言ってる人、初めて見ました・・・・・・)。
しめたっ、キラーンっ(財布を広げて、何かを思いつくさくら)。
「はいっ、850円」
「ってお前、全部10円玉と100円玉かよ」
「50円玉と500円玉ないの、しょうがないでしょ」
クックックッ、これでアイツの財布は異様に重くな〜る(悪魔の微笑みを浮かべるさく
ら)。
せめてもの逆襲、富士への天災、さくらです(自己紹介の場所、間違えてますよ)。
この後、必死であの小銭を減らそうと頭働かすんだろうなぁ・・・モグモグ(やっぱ、
食い気が勝りますか)。
「お前、彼氏とかいないの」
「はっ、何でそんなこと聞くの」
「興味本位で」
「別に・・・いないけど」
「だろうな」
「だろうな、ってどういうことよ」
「まんまだよ、そんな物好きいないだろうなって」
ム〜ッ、さくらさん、噴火しますっ、ドーンッ(あ〜れ〜っ、こんなとこで噴火しない
でくださ〜い)。
生意気にも程がある、許せない(程々におさえてくださいね、そこは)。
アホかっちゅうねん、ここでおさえたら女がすたる(任侠モンですか、って言葉のチョ
イス違ってますよ)。
「そんな、アンタを好きな女だっていないんだからね」
「俺いるよ、彼女ぐらい」
なんですとっ、ピーッ(さくらの頭、沸騰中)。
また、こっちが燃え盛ってんのに、その冷静な感じがムカつくっつうんだよ。くっそ〜、
どうにかしてやりたいっ(まぁ、おさえて、おさえて)。
隊長、アイツをボコボコにしてもいいっすか(・・・・・・すいませんが、ケンカにな
らないようにこちら側で編集させてもらいます)。
えぇっ、アイツの肩を持つっていうんですか(そんなことないですよ、さくらさんの気
持ちは分かりますけど)。
じゃあ、どうやって、このうっぷんを晴らせばいいの(何か別の方法でお願いします)。
えぇい、そんなら、ヤケ酒だっ、ヤケ酒っ(昼間っからアルコールはまずいですよ、さ
くらさん)。
お得意のタイムワープを使えばいいでしょうが(・・・・・・よくご存知で)。
ワープ、ティリティリティリティリ(なぜかのワープ音)。
☆
ところかわりまして、こちらは宮前さくらさんの自宅のあるマンションの101号室で
す。
ただ今の時刻は19時、この時間はまだまだ上の階に住んでいる家族の子供の足音がド
タドタと響いています。母親もたまにしか叱ってないようです、子供へのしつけは厳しく
してもらいたいものです。自由奔放な子育てが近年広まっているようですが、それはどう
かと思う今日このごろ(もしもし、もしもし)。
はい、何でしょうか(また、さっきから普通に話してますよね)。
あぁ、遅れましたが丹乍幸四郎です、このマンションの管理人をしています(そうそう、
言ってもらわないと進まないんで)。
プシュッ、ゴクゴク(おっ、ビールっすか)。
この夏の夜にいただく缶ビール1本が私のささやかな幸せなんですよ(あぁ、分かりま
す、分かります)。
ちょっとほろ酔いの状態を継続させながら時間を過ごすんです、テレビを見たり、本を
読んだり(そう、そう、そう)。
思いつくがままに身を委ねる1人の時間、これは至福のときですよね。
ピンポーン、ピンポーン(昨日に続き、夜に響く101号室のインターホン)。
おや、誰でしょうか、こんな時間に。スクッ、スタスタ、ガチャッ(ほろ酔いながらに
立ち上がり、歩き、玄関を開けるの図)。
「こんばんは、管理人さん」
宮前さん、また朝と同じ服でどうしたんでしょう。
「こんばんは、何かありましたか」
「いえ、何もありません」
何もない、何も用事がないとはどういうことだ。用もないのに住人が管理人の部屋に来
訪する理由、そんな方程式は習った憶えがないぞ(そりゃ、そうでしょうに)。
「では、どういった御用でしょう」
「管理人さん、昨日、お酒を飲む人だって言ってましたよね」
「・・・・・・あぁ、確かに言いましたね」
「ニヒヒ〜ン(意味ありげな笑顔を浮かべる、さくらさん)」
なんなんだ、この宮前さんの自然にしようとして逆に不自然になっている笑顔は(ある
意味、すごい怖い顔にも見えるんですよね)。
「よかったら、一緒に飲みませんか」
「一緒に・・・ですか」
まずい、せっかくの1人の有意義な時間が。ここは、なんとかうまくやりすごそう(そ
うそう、さくらさんに捕まるとやっかいですよ)。
「お誘いいただいて光栄ですが、あいにく今日はそういう気分ではないといいますか」
「へぇ、あそこにビールがあるのにですか(さくら、めざとく部屋の中に置かれた管理人
さんの飲みかけビールを発見)」
「あっ・・・あれはですね・・・(言い訳に困る、管理人さん)」
「遠慮なんかしなくていいですから、2人でパーッと飲みましょうよ」
遠慮なんかしてません、1人で飲みたいんです(そう言いたいけれど、嘘をついた手前、
言いにくくなっているの図)。
おっじゃましま〜す、ズケズケズケ(ほぼ勝手に部屋に上がりこんでいく、さくら)。
どうすればいいんだ、ズケズケズケ(ほぼ勝手に部屋に上がりこまれてく、幸四郎)。
ドサッ、コン、コン、コン(近くのコンビニで買い込んだビールと日本酒をテーブルに
並べていく、さくら)。
「今日は私のおごりです、好きなだけ飲んでください」
「はぁ、どうも」
うなだれたい、この和室の畳の上で・・・・・・(もう、半分あきらめた管理人さん)。
「おつまみ、塩ときゅうりって戦後ですか。ウフフ、安心してください、ちゃんとおつま
みも買ってきてますから(同じくコンビニで買い込んだおつまみをテーブルに並べていく、
さくら)」
あぁ、何かが、何かが壊れていく・・・・・・(酒とつまみでぐちゃぐちゃになるテーブ
ルに絶望感を憶えた管理人さん)。
「テレビもつけないんですか、殺風景ですね〜。賑やかにしましょうよ、カチッ、アッハ
ッハ、ハッハッハ(テレビのリモコンも牛耳って、バラエティ番組で大笑いするさくらさ
ん)」
なんなんだ、ここは彼女の家じゃないんだぞ(すいません、そういう人なんで)。
他人の、しかも異性の部屋でのくつろぎ方とは思えない。
「宮前さん、なんでまた私なんかと飲もうと思ったんでしょうか」
「ちょっとですね、今日仕事でイラつくことがあったんですよ。憂さ晴らしに飲んでやろ
うと思ったんですけど、友達が運悪く1人もつかまらなくって。どうしようかなって考え
てたら、昨日の管理人さんとの会話を思い出して」
「それで・・・私と飲もうということに」
「はい、ついでに私の愚痴も聞いてもらおうと思って」
そんな、他人の愚痴なんて聞きたくないですよ。というより、私がこの現在の状況につ
いて愚痴を言いたいですよ(まぁ、まぁ)。
「会社にですね、ちょ〜ムカつくのがいるんですよ(幸四郎の心持ちなど関係なしに話し
出す、さくら)。同い年のクセして、私のことを上から見てて。いちいち突っかかるような
言葉ばっか投げてくるんです。今日なんて、私に彼氏がいないって言ったら、そんな物好
きいないだろって。お前が私の何を知ってるっていうんだ、ってぶっとばしてやりたくな
りました。大体、富士誉って完全に名前負けしてるんですよ。富士みたく勇壮じゃないし、
誉れ高さの欠片もないし」
「ふん、そうですか(聞きたくないけど、一応聞いている幸四郎)」
「どう思います、最低でしょ」
「その場合、二通りのパターンが予測できるでしょう。本当に宮前さんが嫌いか、実は好
きなのに裏返しの表現をしてしまっているか。話を聞いてるかぎりだと、後者のように感
じられますが(答えたくないけど、一応答える管理人)」
「実は好きって・・・な〜い、ない、ない、ない(オーバーリアクションで否定するさく
ら)。あれにかぎって、そんなこと1%もないですよ」
「1%もない、それで充分ではないでしょうか。世の中に0%の事柄などありません、全
てのものには可能性が含まれているんです。原始時代の人たちが現在のハイテク産業をど
れだけ予想できたでしょうか。全く予想だにしなかったでしょう、でも現在ではそれが可
能になったんです。あり得ないことだって起こりえるんです、だから面白いんじゃないで
しょうか」
・・・・・・パクパク、ゴクゴク(返答もなく、飲食を続けるさくら)。
宮前さん、黙ってしまいましたね(はい、そうですね)。
僕がなにかまずいことでも言ってしまったんでしょうか(いや、そんなことはないと思
います)。
結局、それからはテレビから流れてくる音だけが和室の中へ空しく響いていました。
「今日は急におしかけてすいませんでした」
「いえ、何のお構いもできず」
「よかったら、またここに飲みに来たりしてもいいですか」
「あっ・・・ハイ」
「じゃあ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
そう、宮前さんは飲み食い散らかしたゴミを持って帰っていきました。
またここへ来たいということは、私がまずい発言をしたわけではないみたいです(えぇ、
よかったですね)。
はい、なにか傷つけてしまったんじゃないかと気がかりだったので(それより、さっき
のいいんですか)。
さっきのとは、何のことでしょうか(さくらさんが来たいって言ったとき、ハイって言
ったからまた来ちゃいますよ)。
あっ、しまった(さくらさん、ちなみに本当に来る人ですから)。
ついつい、流れの上で言ってしまいました・・・・・・(なんだか、このままズルズル
いってしまいそうな予感)。
☆
ピンポーン、翌日、ピンポーン(だから、さくらさん、翌日の入れるところが違います
って)。
うるさい、横から口を挟むんじゃない(・・・・・・はぁ、すいません)。
カチッ、ガチャッ(インターホンを押した、101号室の玄関扉が開く)
「宮前さん、どうしたんですか(昨日と一昨日に続いて)」
「また飲みに来てもいいって言われたから来ちゃいましたっ(昨日に続いて)」
おじゃましま〜す、ズケズケズケ(管理人さん、ご愁傷様です)。
んっ、どういうこと、それ(いえっ、こっちの話です)。
な〜んだっ、ドサッ、コン、コン、コン(ビールと日本酒だけでなく、焼酎までも買い
込んで並べていくさくら)。
「あれっ、管理人さん、浮かない顔してどうしたんですか(あなたのせいですよ)」
「いえ、なんでもありませんよ」
「無理しないでくださいね、じゃあ乾杯っ(無理させたくないなら、帰ってあげるのが1
番では・・・・・・)」。
「・・・・・・乾杯(可哀相に、チーン)」
こうして、さくらと幸四郎の奇妙な交流関係が始まったのでした(チャン、チャン)。




