第9話
ところかわりまして、こちらは宮前さくらさんの自宅のあるマンションの101号室で
す。
只今の時刻は21時、うぅん・・・どうしましょうかねぇ(ねっ、どうしたもんでしょ
うか)。
こんばんは、丹乍幸四郎でございます(どうも、こんばんは)。
この状況、私はよく理解ができていないのですが(すいません、一つずつ説明させてい
ただきますから)。
「富士、どんどん飲んじゃっていいから(我が家のように振る舞うさくら)」
「あぁ・・・いただきます(初めての場所に遠慮しつつの富士)」
「どうぞどうぞ(顔で笑って心で混沌の幸四郎)」
宮前さんはともかく、なぜ富士という人まで私の部屋にいるのでしょう(はい、順を追
って話していきますね)。
よろしくお願いします(まず、さくらさんは今日は富士との初デートに出かけてました)。
あぁ、書き置きにあった「急ぎの用」というのはそれだったんですか(そうです、それ
で1日かけてデートをしまして)。
ほぉ、それはよかったですね(そんでですね、そこでさくらさんが管理人さんの話をし
たんですよ)。
えっ、私のことをですか(はい、いつも仕事の帰りがけに寄って一緒にお酒を飲んでる
ことを)。
まずくありませんかね、いくら感情がないにせよ、恋人のいる女性が別の男と毎晩飲ん
でるというのは(ですね、富士も少し驚いてました)。
それで、どうなったのでしょうか(富士の方から「その人に会ってみたい」という言葉
がありました)。
どういった意味で言われたんでしょう、その文は(おそらく、富士も怪しみも込めて言
ったとは思いますが)。
では、私は今彼から怪しまれてるということなんですね(まぁ、そういうところですか
ね)。
「へぇ、管理人さんは中古文学が好きなんですね(お酒も入り、いい具合のテンションに
なった富士)」
「はい、特に源氏物語に興味をそそられましてね(文学系同士、思わぬほど話が合ってい
た幸四郎)」
「うんうん、ですね、ですね(話の内容をあまり理解できてないけど、お酒が回ってるの
で「なんとなく楽しい」状態でいるさくら)」
なんだ、良い青年じゃないですか、彼は(富士と通じ合いましたね、管理人さん)。
宮前さんの話を聞いていたかぎりでは、もう少しちゃらちゃらした感じに想像していま
したが(あぁ、意外にこういう人みたいです)。
なるほど、よかったです(向こうにとってもそうでしょうね)。
「俺、管理人さんの話を聞いたとき、もっと違うの想像しちゃってて。会ってみたらすご
くアットホームで癒されました、宮前の言ってたことが分かりました」
「でしょぉ、でしょぉ、管理人しゃんはいつも私の曇った心を晴れさせてくれるんでしゅ。
とっても良い人でしゅ、なくてはならない人でしゅ」
「ありがとうございます、富士くんもとても話しやすかったですよ」
「いえ、こちらこそ」
穏和な雰囲気で飲み会は23時過ぎまで続き、彼は終電が迫ってるということで帰るこ
とになりました。
「富士、送っていきましゅよ」
「あぁ、いいよ、結構酔っ払ってるだろ、お前」
「そんなことないでしゅ、素面そのものでしゅ(どこが素面だ、おい)」
「いいから、駅までの道は分かるから1人で帰るな」
「ん〜、じゃあ、バイビー(それ、なかなか恋人との別れ際には使わないんじゃ)」
「じゃあな、また会社でな」
トコトコ、バタンっ(101号室を後にする富士)。
「良い人でしたね、富士くんは」
「はい、ムカつくこともあるけれど、基本的には良いやつなんでしゅ」
好感を持てました、宮前さんが好きになったのも納得です(よかったです、何事もなく
終わって)。
最初はどうなるのかと思いましたが、全て丸くおさまったようです(はい、そのようで
す)。
☆
ジリリリリ、1週間後、ジリリリリ(さくらさん、目覚まし時計の音は「1週間後」を
挟むためにあるわけじゃないですよ)。
ジリリリリ、グースカ、ジリリリリ(さくらさん、さくらさぁんっ・・・ダメだ、奥の
手を使おう)。
ジリリリリ、グースカ、グースカ、ジリリリリ(あっ、あんなところにクリリンがいる)。
はっ、クリリン、クリリンはどこですかぁ(よし、見事に起きた)。
クリリ〜ン、私のクリリンはいずこへっ(あなたのものじゃないですって、クリリンは)。
なぜですか、なんだかんだでクリリンは私のものです(「なんだかんだで」って曖昧な・・・
どうして、クリリンが好きなんですか)。
どうしてじゃないです、あのツルピカ頭に乙女心はがっぽり持ってかれるんです(多分、
それ間違ってる・・・っていうか、クリリン髪の毛ありましたよね)。
そうなんですよ、途中からツルツルじゃなくなってふざけんなって感じです(えらい怒
りようですね、さくらさん)。
「反省」をしない反省ザルと同じです、魅力半減ですよ(まぁ、確かにツルツルの方が
似合ってますけど)。
キムタクより歌が上手な中居くんとか、ワイルドじゃない坂口憲二とか、アクションシ
ーンのないジャッキー・チェンの映画とか、ペコペコ媚びまくってる中島美嘉とか(どん
どん例えが出てくるな・・・どんぐらい出るか、待ってみよう)、口から水が出てないマー
ライオンとか、凶悪きわまりないキティちゃんとか、手品の下手くそなトランプマンとか、
毒舌を吐き続ける来日韓流スターとか、日本人より日本語の上手なリア・ディゾンとか、
ものすごいダンディーなえなりかずきとか・・・もういいや(あっ、もう飽きたな)。
とにかく、期待を裏切る行為だってことですよ(はい、それはずいぶん前半に分かって
ましたが)。
まったく・・・でっ、何の話でしたっけ(クリリンはどこかって話じゃ)。
はっ、そうです、クリリンはどこにいるんですか(いるわけないでしょ、クリリンが)。
何言ってるんですか、クリリンがいるって言ったでしょ(さくらさんを起こすための嘘
ですよ、クリリンは漫画の中の世界ですから)。
嘘ついたんですか、嘘までついて起こすなんて恥ずかしくないんですか(全然です、お
チビちゃんにオナラされるぐらいのもんです)。
そうは言っても、ものすごい臭い屁をするおチビちゃんかもしれませんよ(嫌でしょ、
そんなチビいたら)。
確かに、行く末の不安なこと、この上ないですね(根本から逸れ続けてるんですが、要
は起きてくださいってことなんで)。
おかげでバッチリ目が覚めちゃいましたよ、どうしてくれるんですか(そんなこと言わ
れましても、善意で起こしただけなんで)。
善意ったってね、今日は日曜日なんですよ(はい、分かってますが)。
それをこんな朝8時に起こすなんて神経がどうにかなってます、せめて正午あたりまで
グッスリいかせてくださいよ(だって、今日は本番の日でしょ)。
そうです、今日は本番の日なん・・・はあぁっ、そうだったぁっ(この人、どうしてス
ムーズにいってくれないんだろう・・・・・・)。
ありがとござんやす、作者さん、恩にきりますぅ(さっき、「神経がどうにかなってる」
とか聞こえたんですけど)。
そんなこと言ってやしません、誰がそんなひどいことを言ったんですかっ(そして、ど
うしてバレる嘘をつくんだろう・・・・・・)。
すいませんです、やっぱ作者さんあっての私だと実感しました(そう、素直にね)。
こうなったら、地獄の果てまでも着いていく次第でございます(いえ、着いてこないで
ください・・・それに、地獄に行くつもりも更々ありませんし)。
遠慮はいらねぇでげす、どうせ私がいないと何もできないんでしょ(どっから、その発
想が降りてくるんですか、あなたは)。
そろそろ準備に入らないと、構ってあげられなくてごめんなさい(誰も構ってくれと言
った憶えはないですが)。
そぉれ、シュパパッ、ガチャッ、スッテケテ〜ッ(手早く準備して出掛けるさくら・・・
ってか、やれば出来るのにな、いつもの不器用さは何なんだろう)。
「庄内平野でドドンガド〜ン(・・・・・・もはや、意味不明だし、意味を知ろうとも思
わない)」
知らないんですか、庄内平野(知ってますけど、その後のドドンガド〜ンは一体)。
何言ってるんですか、聞いても分かんないことぐらい分かってるでしょ(はい、重々)。
休日の朝は電車が空いてていいですね、毎日これならいいのに(毎日が休日だと、日常
に偏りが生じるのでいいです)。
こんだけスペースがあれば踊れちゃいますよ、SAMが黙ってないってもんですぜ(S
AMは別にどこでも踊ってるわけじゃないですから)。
私もたまにはハジけてみたいです、クラブなんて全然行かないし(充分ハジけてる気
が・・・なら、何か流しましょうか)。
そうですね、イケイケがいいからMAXの「GET MY LOVE」をリクエストし
ます(いいですね、はい、ポチッとな)。
熱く〜騒ぐ〜瞳のスキに〜愛をチラつかせ〜ウソで揺さぶる〜(さくらさぁん、いい感
じでぇす、でも最後までは無理だから早送りしま〜す、ポチッ)。
男じゃない〜このままじゃ〜(ヒュ〜、最高ですっ、さくらさぁん)。
ありがと〜、次のさくらオンステージも観に来てね〜(わ〜、パチパチパチ)。
いや〜、熱唱の後のコーラは美味いですね、ゴクゴク(いつの間にコーラが・・・完全
にカラオケ気分だ)。
いいじゃないですか、最近行ってないから盛り上がれます(それ以前の問題として、こ
こがカラオケじゃないっていうのが)。
小さいこと言わないの、電車という名のカラオケルームでしょ(・・・・・・もはや、
止められないし、止めようとも思わない)。
次の曲に行かせていただきます、しっとり聴き入ってください、SMAPの「らいおん
ハート」です(バラードか、ならいいや・・・これって、麻痺してるのかな)。
君は〜いつも僕の〜薬箱さ〜、どんなふうに僕を〜癒してくれる〜(うんうん、いいで
すね)。
君を守るため〜そのために生まれてきたんだ〜、あきれるほど〜にそうさ側にいてあげ
る〜、眠った横顔ふるえるこの胸らいおんハート(ヒュ〜、また最高でしたよ、さくらさ
ぁん)。
ありがと〜、次のさくらオンステージも観に来てね〜(お〜、パチパチパチ・・・待て
よ、次ってことは・・・まぁ、いいか)。
いや〜、素敵な曲ですよね(はい、指折りってぐらいの良い歌詞ですね)。
こんなこと言われてみたいもんです、ねぇ(富士に言ってもらえばいいんじゃないです
か)。
いやいや、富士はこんなセリフ、天地が引っくり返っても言いませんよ(そういうノリ
じゃないですもんね、2人は)。
というわけで、作者さんに言ってもらうことにします(言いませんよ、さくらさんには)。
なんで〜、富士の代わりに言ってくださいよ(「代わり」って時点で、まず言いませんし)。
言ってみましょうよ、悪いようにはしませんから(良いようにしてくれそうにもありま
せんが)。
もしかして、作者さんにコロッと気持ちがいってしまうかもしれませんよ(そんな設定、
ありませんので)。
ちぇっ、なんだよ、こうなったら次の曲でうっぷん晴らしてやるっ(あっ、火をつけて
しまったかも・・・・・・)。
では、惜しまれつつも最後の曲になりました、相川七瀬の「BREAK OUT」でっ
す(ラストはノリノリでいきますか、ポチッと)。
このままずっと走〜り続けて夢の中〜、何にもいらない〜きっと二人でいられれば〜
(おぉ、盛り上がってますねぇ)。
後悔なんてしたくない〜なんだか喉が渇いてる〜、人生とか語り出すなんて BREA
K OUT 5億年先でいい〜(ヒュ〜、感動をありがと〜、さくらさぁん)。
ありがと〜、次回のさくらオンステージも観に来てね〜(わ〜、パチパチパチ・・・次
なんて無いけどね)。
現場となる商店街の入口にある空き地に到着すると、Aチームのみんなはほぼ集合して
いました。
舞台設営は昨日までに終わっていたので、座席を並べていったり、のぼりなどの飾りつ
けで完成を目指します。
「さくら、誉、呼び込みしてきて」
「はい、行って来ます」
一通りの準備を終えると、来場者担当の私と富士はイベントの呼び込みに出発。
「本日、17時より、商店街の北口広場にて歌自慢合戦を行います。ぜひ、ご家族で来場
してくださぁい」
そのセリフを言い続け、商店街を何往復としていくのです(地味にきついですね、その
仕事)。
そうですよ、このクソ暑いのにこんなに歩かされ、大声出し続けるんだからたまったも
んじゃありません(確かに、代わってくれと言われたら嫌な仕事ですね)。
商店街の人たちだってさ、毎年やってるんだから分かってるはずなんですよ(まぁ、そ
うでしょうね)。
ポスターだって前もって貼って告知してるんだし、なのにこの呼び込みに必要性はある
んですかね(改めて、今日やりますよっていう告知としてはいるんじゃないですか)。
それに、衣装のこのハッピですよ(どうしました、いいじゃないですか)。
なにがですか、背中の字が「一等賞」なんて微妙ですよ(それに関しては否定しません
が、お祭りにはもってこいでしょ)。
プラスで隣の富士ですよ、クールにキメてんのか、やる気ないだけなのか、いまいち掴
めません(良い方にとっておけばいいんじゃないですか)。
クールにキメてるってことですか、真夏にハッピで・・・キマらねぇっつうの、プププ
(どうやら、無理だったようで)。
「お前、笑ってないで声出せよ」
「んっ、あぁ、分かってるよ」
なんで、私が怒られなきゃいけないんですか(笑ってるからですよ)。
何をおっしゃいますか、私の笑顔は万人を幸福に導く種でございますよ(でも、なぜか
不適な笑みに見えるんですよ)。
まぁ、私が持って生まれた小悪魔的な部分が見え隠れしてしまうんでしょう(あぁ、な
るほど)。
やれやれ、魔性の女はつらいでやんす(魔性の女はそんな語尾を使わないのでは)。
「暑っちぃな、休むか」
「えっ、でも見つかったらまずいじゃん」
「見つかんなきゃいいんだろ、おごってやるから何でも選べよ」
おごってやるから・・・自動販売機でそんなこと言われましても、後々でネタに出され
ても困ります(さくらさん、まずはそういう考えを改めた方がいいんじゃ)。
どういうことですか(もっと素直に優しさを受けましょうよ)。
分かりましたよ、そっちの方が「いい女」なんですね(はい、そうです)。
なら、シフトチェンジいたしますよ(よろしくどうぞ)。
「おごってくれるの、ありがとぉ(ブリっ子さくらに変身)」
「あっ、あぁ・・・何でもいいから」
「どうしよっかなぁ・・・うぅんとね、ピーチジュースがいいっ(ピーチジュースが自販
機で1番かわいい飲み物と思った様子)」
「宮前、お前さ・・・・・・」
「んっ、なぁに(「そっちの方がいいよ」と言われると思ってるさくら)」
「・・・・・・猛暑で頭がイカれたのか」
「はっ、何言ってんのよ(一転、ケンカごし)」
「熱中症か、無理すんなよ」
「バァカ、ちょっとかわいくしただけじゃんよ(あっさり、ブリっ子はナシに)」
「似合わねぇな、そういうの全然」
「くうぅ、緑茶、緑茶おごってよっ(本音は緑茶だったのか・・・・・・)」
プンッ、さくらは怒りましたよっ(私に言われても困るんですが)。
あまり露骨に怒ってケンカになるのは避けたいので(あぁ、花火大会ありますしね)。
せっかくの花火大会なのに、ケンカして迎えるのはイヤですから(ですね、ここは耐え
ましょう)。
「怒んなよ、おごってやったんだからさ」
「怒ってないよ、別に」
怒ってませんよ、プンプン(だから、私に言われても困るんですが)。
だって、他にぶつけるところがないですもん(私にぶつけないでくださいったら)。
17時から始まった歌自慢イベントは、2時間弱にわたって演歌歌手の卵のみなさんが
素敵な歌声を届けてくれました。
来場者は中年以上から年配の方まで、もしくは一緒に連れて来られてよく分からないけ
ど聞いてる子供っち、という顔ぶれ(あぁ、いますね、絶対に無理くり連れて来られた子
供って)。
まぁ、みなさん手拍子とともにノリもよく混乱もない、我々としては理想的な環境でつ
つがなくステージは終わりました。
しかし、あれですなぁ(んっ、どうしました)。
演歌の方たちは腰が低いですね、私みたいな未熟者スタッフにも丁寧に挨拶してくれま
したよ(教育はしっかりしてそうですもんね、演歌の世界って)。
でも、サブちゃんみたいなパンチパーマはいないんですね(そんな新人、シバかれます
って)。
五木ひろしみたいに目が細い人もいないですし(コロッケの見すぎです、さくらさん)。
天童よしみみたいにかわキャラもいないですし(多くを期待しないでください、さくら
さん)。
ヒュ〜ン、ボッ、ボッ、ボッ(あっ、さくらさん、後ろ後ろ)。
あっ、花火大会が始まったみたいですっ(ここは仕事を忘れてじっくり楽しみましょう)。
ヒュ〜ン、ボッ、ボッ、ボッ(いいですねぇ、これを見ないと夏は終われません)。
キレイです〜、1つぐらい割れないで落下しないもんですかね(さくらさん、前半と後
半があまりに違いすぎます・・・・・・)。
「いいなぁ、仕事がらみとはいえ、毎年こうやって花火見れるのは」
「うん、キレイだね」
クライマックスに差し掛かるころに富士がそっと私の手を握ってくれました(おっ、接
近ですね)。
スタッフも周りにいるからそれが限界でしたけど、それでもなんだか嬉しかったです
(もうチャラですね、さっきのブリっ子のくだり)。
いえ、あれはあれです(・・・・・・根に持つタイプだな)。
「というわけで、全部終了しました」
「はい、分かりました。じゃあ、さくらと誉は帰っていいよ、ご苦労様」
「はい、お疲れ様でした」
花火大会の終了後、来場者を送り出すと会場のゴミ拾いが待っています。このゴミ収集
をしている時間、さっきまでの幻想的な空間から現実にすっかり引き戻されます(あくま
で仕事ですから、こっちが本腰ですよ)。
落し物の収集、会場の点検、商店街の担当者さんとの最後の確認と挨拶を終え、22時
前にようやく私と富士は仕事から解放されるに至るのです(お疲れ様です、さくらさん)。
出演者担当の絵里奈さんと智成さんは既に直帰していましたが、舞台担当の鋸鎖さんと
米太良さん、スタッフ担当の緒辺さんと佐渡さん、統括の紀子姉様も今回は早々に終われ
るようです(規模は小さめですからね、今回)。
「今年の夏の良い思い出になったな、今日は」
「うん、さっき手つないでくれたの嬉しかったよ」
帰り道、駅までの道を歩きながらハエの集ってそうな街路灯が立ち並ぶ商店街を通って
いきます(一言多い、さくらさん)。
それは、何でもない会話を続けてる中で急に送られました。
「なぁ、今日ウチに来ないか」
「えっ、ウチって・・・・・・」
「俺の家、明日休みだからいいだろ」
ふっ、富士の家ですか・・・あっさり言ってるけど、何気に大胆ですよ(これまた、急
展開ですね)。
まだ1回しかデートもしてないってのに、いきなり「ウチに来い」って(いいんじゃな
いですか、良い流れだと思いますよ)。
まぁ、断る理由もないし、もし断ったら気まずくなるし(そういうこと、そういうこと)。
「いいよ、私でも着れる寝巻きってあるかな」
「あぁ、俺のでよかったら貸すよ」
「うん、分かった」
私でも着れる寝巻き・・・まさか、元カノのじゃないでしょうね(「俺の」って言ってる
でしょ、疑り深い)。
しかし、展開早いですね、付き合って10日ぐらいでベッドインとは(早いのはさくら
さんの頭の中じゃ・・・・・・)。
何を言いますか、これはそういうお誘いでもあるわけでしょ(まぁ、否定はしないです
が・・・富士の意図は知らないとして)。
なんだかんだ手が早いですねぇ、富士は(でも、富士とさくらさんはこれまで2年以上
も一緒に仕事をしてきた仲ですから)。
まぁね、気心は知れてますよ(それで充分でしょ、お互いを分かってるんだから)。
そうですね、私・宮前さくら、今晩抱かれま〜す(おちゃらけないの、そこは)。
ガチャッ、おじゃましま〜す、トコトコ(富士の自宅に到着)。
「へぇ、綺麗にしてあるんだね」
「あぁ、意外にキッチリしてるんだ、そういうところ」
とか言って、最初から誘おうと思って、昨日必死に片付けたクチじゃないの(疑り深い、
さくらさん)。
でも、ホントに男の一人暮らしとしては整理されてる部屋ですよ(うん、几帳面みたい
ですね)。
もしや、片付けてくれる女が他にいるとか(だから、疑り深いって)。
「俺、先にシャワー浴びてくるわ、汗かきまくったから」
「あっ、うん」
帰ってすぐシャワーとは・・・そんなに早くお求めですか、富士さん(汗を流すってこ
とでしょ、あと富士に「さん」を付けるの止めておいてください)。
もしかして「富士山」ってことですか、それなら作者さんが来るまでの2年ちょいの間
にくさるほどイジってるんで(あっ、もう古いってことですか)。
はい、「だっちゅ〜の」ぐらい(そこまでじゃないでしょうが・・・まっ、そういうこと
なんでしょう)。
そうっすよ、「だっちゅ〜の」なんて日本をよく知らない外国人ぐらいしかやってません
よ(その例え、珍しくポイント高いっす)。
「上がったら酒飲もうぜ、テレビでも見といて」
「うん、了解」
スタスタ、シャワワ〜(富士、お風呂タイム)。
酒を飲むってことは、ワンクッション挟むみたいですね(だから、さくらさんの考えは
一つ早いってことですよ)。
いや、アルコールでたっぷり私を酔わせておいて、ってことでしょ(・・・・・・もう、
さくらさんの頭はそっちにしかいかないようですね)。
作者さん、なんだか急にドキドキしてきました(どうしました、緊張ですか)。
彼氏の部屋で独りの空間になるって苦手なんですよね、何していいか分からないってい
うか(あぁ、自分のテリトリーじゃないっていう)。
それにこの後の展開を考えると、もうドッキンコです(落ち着いて、今から緊張してた
らもちませんよ)。
心臓のドッキンコメーターが上昇中です、今ならドキンちゃんの気持ちがよく分かりま
す(んっ、食パンマンのファンでしたっけ)。
いえ、私はカレーパンマンのファンです(また珍しいとこを・・・して、その理由は)。
カレーパンが好きだから(聞いた私がバカでした、すいません)。
や〜い、バ〜カ、バ〜カ(言わせておけば・・・いや、これから良いシーンになるんだ
から我慢せねば)。
良いシーン・・・まさか、あんなこと、こんなこと、そんなことまでですか(抽象的で
分かりにくいです、それ)。
イヤですわ、具体的に言えと言うんですか(いえ、言わなくて結構ですが)。
「生き返った〜、次入っていいぞ。着替えは外に置いておくから」
「あっ、ありがとう」
スタスタ、シャワワ〜(さくら、お風呂タイム)。
ル〜ルル、ルルル、ル〜ルル、ルルル、ル〜ル〜ル〜ル〜ル〜(さくらさんの入浴中、「徹
子の部屋」のBGMをお楽しみください)。
ル〜ルル、ルルル、ル〜ルル、ルルル、ル〜ル〜ル〜ル〜ル〜(富士の入浴時間の15
分に対し、さくらさんは30分経過)。
こんばんは、宮前さくらでございます(お前が徹子やるんかいっ)。
今日のゲストは作者さんで〜す、こんばんは(あっ、どうも)。
早速ですが、まず作者さんの人生最大の汚点を教えてください(真っ先に人生最大の汚
点を聞くって、どんな番組ですか)。
私は人の不幸を聞くことで人生歩いていけるので(じゃあ、ご自分の汚点をそれに充て
ればいいのでは)。
あぁ、残念、私に汚点はないんです(そうですね、ハイハイ)。
むっ、適当に返事したでしょ(はい、この掛け合い、正直どうでもいいんで)。
はあっ、そんなの許しませんよ(何を怒ってるんですか、さくらさん)。
だって、こうやって作者さんと絡めるのも長くはないんでしょ(そうですね、前に言っ
たように全10話なので)。
全10話で、今もう9話の後半ですよ、競馬だったら最終コーナーに向けて競り合いが
始まるぐらいです(そう言われましても、決定事項なので)。
もっと楽しんでいきましょうよ〜、ねぇ〜(ただ、ここを長引かすことによって、肝心
のメインストーリーを端折っていくことになりますよ)。
えぇっ、なら早くこんな意味のないトーク終わらせましょうよ(・・・・・・自分で分
かってんじゃん)。
「いいのか、宮前」
「いいよ、イヤなら家まで来てないよ」
「そうか、よかった」
お風呂上がり、2人でお酒を軽く飲むと、あとは自然な流れで・・・ってことです(来
ましたね、ついに)。
緊張からか、お酒を飲んでも私は酔えませんでした(あぁ、そんなもんですよ)。
「一つだけいいかな」
「んっ、何」
「私のこと名前で呼んで、私もそうするから」
「分かった・・・さくら」
「ありがと、誉」
見つめ合った2人は微笑んで、そのまま・・・残念ながら、ここまでで〜す(あれ、ど
うしました)。
そんな、ベッドシーンを詳細にお届けするなんて恥ずかしくてできませ〜ん(えぇっ、
きっと期待してた人もいるはずですよ)。
ダメです、作者さんが何と言おうとこればっかりはプライバシーの限界を超えてま〜す
(そりゃそうですが・・・まぁ、仕方ないか)。
では、私は甘〜いハッピータイムに入りますので、ごめんあそばせ(カチッ、照明暗転)。
ミ〜ンミン、翌日、ミ〜ンミン(さくらさん、「翌日」はセミの鳴き声で挟むものではあ
りません)。
うぅ・・・よぉく寝たなぁ、今何時ですか(10時半です、ゆっくり寝られましたか)。
はい、今日は休みなのでぐっすりと・・・あれぇっ、なんでっ(えっ、何かありました
か)。
私、なんで何も着てないんですかっ(寝ぼけてるな、これはまだ)。
まっ、まさか・・・作者さんが脱がしたんですかっ(そんな・・・脱がされたのはそう
だとしても、相手は私じゃありません)。
セクハラだぁっ、いくら作者だからって何してもいいのかっ(聞いてないな、オイ・・・
さくらさん、さくらさぁん)。
なんだっ、この変態仮面がっ(その呼び名、何かを思い起こすので嫌なんですが・・・
とりあえず、私ではないんですよ)。
信じられるか、お前の言うことなんかっ(完全否定かよ・・・じゃあ、そこ誰の部屋で
すか)。
誰の部屋って・・・ここ、誰の部屋ですか(分かんないんですか、なら昨日の夜は誰と
いましたか)。
昨日は花火大会のイベントがあってぇ、クリリンとドラゴンボールを探しに行ってぇ
(・・・・・・もう忘れてください、クリリンのくだりは)。
花火をみんなで見てぇ、富士に誘われて・・・あっ、富士の家か、ここ(そういうこと
ですよ、一つずつ思い出してってください)。
汗かいてるからってシャワー浴びてぇ、2人でお酒を飲んでぇ、そんでもって・・・ム
フフフフ(思い出したようですね、どうやら)。
イヤだなぁ、そういうことなら言ってくださいよぉ(言うもなにも、2人があの後どう
なったかは見ていないので)。
あの後ですか、そりゃあもう・・・ムフフフフ(いいです、詳しくは聞きませんから、
自分の中にだけ閉まっておいてください)。
そういえば、富士はいないけどどうしたんですか(さぁ、もう起きてるようですね)。
じゃあ、私も起きるとしますか、着替えるから席を外してください(あぁ、はいはい、
了解です)。
チッ、チッ、チッ、チーンッ、さくらさん完成なりっ(あなた、インスタント食品です
か・・・・・・)。
ガチャッ、富士はどこにいるのかなぁ(向こうで音してますよ、あっち、あっち)。
あっ、いました・・・って、コーヒー片手に新聞読んでますぜ(そういえば、意外に文
学系でしたからね)。
「おはよう、富士」
「おはよう、起きた」
「うん、変な感じだけどね、こうやって富士の家に朝いるってのが」
「あぁ、まぁな・・・そういえば、名前で呼ぶんじゃないの」
「えっ・・・あっ、そうだった、ごめん」
「お前、自分から言ったんじゃねぇのかよ」
「ごめん、ごめん・・・誉」
「よし、OK」
ぅん、なんだか痒いですねぇ、こういうの(最初だけですって、じきに慣れますよ)。
「なぁ、天気もいいから出掛けない」
「いいね、どこに行こっか」
「どこでもいいよ、この前は俺の行きたいところだったから今日はお前の行きたいところ
にしない」
「うん、いいよ、分かった」
てなわけで、今日は私のショッピングに付き合ってもらうことにしました(買物にしま
したか、ちなみにウィンドーショッピングはしない方がいいですよ)。
なんでですか、別にいいんじゃ(男は女の人みたいに長時間は買物できないもので、そ
の上で何も買わないなんて言われたらカチンとくる可能性ありますよ)。
そうなんですか、私なら何時間でも見てられますけどね(デートのときは勘弁してあげ
てください、富士の立場側からの意見として)。
はい、給料も入ったばっかですし、そのへんは大丈夫ですよ(そうですか、よかったで
す)。
じゃあ、いってきますね(いってらっしゃい、さくらさん)。
「ルンルン、これもいいなぁ、あれもいいなぁ(富士そっちのけで買物を楽しむさくら)」
12時前から始まったショッピングは19時過ぎまで、昼ごはんを食べたとき以外はノ
ンストップで続行されました(これ、デートでは困る図式ですよ)。
いいんです、今日は誉が私に付き合ってくれる日なんですから(待ってる側の富士の心
中を察すると、というところですよ)。
「ごめんね、いろいろ付き合ってもらっちゃって」
「あぁ、全然いいよ。こんなの慣れっこだし」
ほら、富士的にはそんなに言うほどではなかったようですよ(みたいですね、慣れっこ
ということで)。
そうです、慣れっこ・・・んっ、何気に聞き捨てならない言葉じゃ(気づきましたか、
その顔は)。
こうやって、これまで何度となく彼女の買物に付き合わされてきたってことですよね(そ
ういうことですね、はい)。
くそっ、そうやって私に妬かせる作戦ですか(いや、ただ単に口から出た言葉でしょ)。
「今日は楽しかった、ありがとうね」
「いや、俺も普段さくらがどういうとこ行ってるのか分かったし」
夜ご飯も私の行きつけの洋食のレストランに行き、誉がごちそうしてくれました。なん
だかんだ良いやつですね、私の彼氏にはふさわしいです(なぜ、上から目線・・・・・・)。
私はきのこスパゲッティ、誉はデミグラスソースのオムライスをオーダー(さくらさん、
シンプルですね)。
そうですね、今日は帰ってから管理人さんのところに行くつもりなので腹八分目でいい
かなと(あぁ、なるほど)。
対して、誉は結構食べるんですよ、昼ご飯ではステーキ300g食べてましたし(中々、
がっつり食べるんですね)。
はい、男らしく豪快なんです、たしか昨日の夜も・・・ムフフフフ(それ、気になって
しまうんで止めておいてください)。
「次のデートは2人で行くところ決めようね」
「あぁ、じゃあな」
「じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」
夜ご飯を食べ終えると、最寄り駅で誉と別れました。
いいですねぇ、この流れ・・・ラスト、どうなるんだろう(さくらさんはそこまで考え
なくていいですから、普通にしておいてください)。
☆
ところかわりまして、こちらは宮前さくらさんの自宅のあるマンションの101号室で
す。
只今の時刻は21時すぎ、テレビでは2時間サスペンスドラマがやっています(好きそ
うですね、そういうの)。
はい、大体はストーリーも定番をなぞったようなものが多いんですけどね、ついつい見
てしまうんですよ(好きな人は好きですからねぇ、はい)。
こんばんは、遅れましたが丹乍幸四郎でございます(どうも、こんばんは)。
宮前さん、まだ現れないですね(おや、さくらさん待ちですか)。
昨日は宮前さんがイベントの本番の日だということで帰りを待ってたのですが、富士く
んの家に泊まるという電話をもらいまして(はいはい、そうです)。
電話では「その代わり、明日は絶対に行きますから」と言っていたので、待っていると
ころなんです(そろそろじゃないですかね、時間的に)。
ピンポーン、ピンポーン(101号室に響くインターホンの音)。
来たようですね、スタスタ、ガチャッ(さくらさん、登場)。
「宮前さん、こんばんは」
「こんばんは、管理人さん」
おじゃましま〜す、トコトコ。
トクトクトク、乾杯っ、ゴクゴクゴク(すっかり慣れたようにお酒を酌み交わす2人)。
「楽しかったですか、今日は」
「はい、なんか今ものすごく幸せなんです」
「そうですか、それはよかったですね」
うまく彼といってるようですね、微笑ましいかぎりです(えぇ、中々いいですよ、あの
2人)。
宮前さんは笑顔でいてこそ、というくらい印象的なので(確かに、素敵な笑顔もってま
すね)。
「管理人さん、サスペンス好きですよねぇ」
「あぁ、そうですね、他の番組にしてもいいですよ」
「いえ、私も金田一少年の事件簿や名探偵コナンの世代ですから、割と好きですよ」
「そうですか、すいません・・・そういえば、今日おでんを作っておいたんです」
「ホントですか、管理人さんのおでん大好きですっ」
「はい、今持って来ますから」
ボーッ、カチッ、よいしょっと(火にかけて温めて、テーブルへ)。
「いっただきま〜す」
「どうぞ、食べてください」
「そうだ、カラシありませんかね」
カラシ・・・どれどれ、ガチャッ(冷蔵庫を確認中)。
「あぁ、ごめんなさい、切らしてました・・・買って来ましょうか」
「あっ、私が行きますよ。管理人さんはサスペンス見ててください、ひとっ走り行って来
ますね」
「そうですか、ではお願いします」
「はい、いってきま〜す」
トコトコ、ガチャッ(101号室から出て行くさくら)。
申し訳ないですね、買物に行ってもらっちゃって(いいんですよ、管理人さんが作った
おでんだし、いつも管理人さんのお金で買ったお酒を飲んでるんだから)。
そうですね、言われてみれば(むしろ、さくらさんはこれでトントンぐらいに思ってる
でしょうよ)。
いや、それはないでしょう(それがあるから怖いんです、あの人)。
ジリリリリン、ジリリリリン(電話の鳴る音)。
んっ、こんな時間に電話とは誰でしょうか(さくらさんですかね、「他に買うものありま
すか」とか)。
あぁ、なるほど、ガチャッ、もしもし(管理人さん、通話中)。
「はい・・・はい・・・はい・・・分かりました」
失礼します、チンッ(下を向く幸四郎・・・誰からの電話でしょう、さくらさんじゃな
いですよね)。
ババッ、ダダダダダ〜ッ(急に着替えて走って出て行く幸四郎・・・どうしたんですか、
管理人さん、管理人さぁ〜ん)。
「カラシついでに、デザートまで買っちゃいましたよ〜(上機嫌なさくら)」
もち管理人さんの分もありますからね〜・・・あれっ、作者さん、どうしたんですか(さ
くらさん、急ですがバトンタッチです)。
管理人さんはどこにいるんですか、トイレですか(それが・・・血相変えて飛び出して
ってしまいまして)。
えっ、どこに行ったんですか(分かりません、何も言わずに行ってしまったんで)。
でも、テレビついてるし、電気ついてるし、鍵も開けっ放しだったから近くなんじゃ(い
や、どちらかといえば、そんなことまで気が回らないくらい焦ってた様子でした)。
ふへぇ、どうしちゃったんですかね(う〜ん、何か大ごとのような気はしますが)。
心配です・・・まぁ、待ってても仕方ないし、1人で食べてましょうかね(心配してそ
うに見えないんですが・・・・・・)。
モグモグ・・・うめぇな、やっぱり(食べるさくら)。
ゴクゴク・・・うめぇな、こっちも(飲むさくら)。
キュ〜、身体がポカポカして気持ちいいでしゅ・・・パタッ(酔っ払った末、眠りにつ
くさくら)。
うぅん・・・朝ですか、もう(結局、そのまま眠り続けたさくら)。
あぁ、管理人さんの家で寝ちゃったんですね、私(はい、ぐっすりと)。
あっ、そういえば、管理人さん・・・いたっ(すでに帰宅して、自分の部屋にいた幸四
郎)。
「管理人さん、おはようございます」
「おはようございます」
「どうしたんですか、昨日は」
「すいません、鍵も閉めずに急に出て行ってしまって」
「いえ、いいんですけど・・・何かあったんですか」
管理人さんは少し黙っていました、何かを言おうとしたまま。その眼差しは一直線に先
を見ていて、私は見られると目線を離せなくなってました。
「実は電話がかかってきたんです、病院から」
「病院・・・誰か入院してたんですか」
管理人さんはまた少し黙って、そして全てを明かしてくれました。
「小百合が・・・昨日の夜に息を引き取りました」
「えっ・・・・・・」
「人は死ぬ前に少し反応を見せると聞くのですが、小百合はただ静かに眠りについたそう
です」
「・・・・・・(呆然と立ち尽くすさくら)」
管理人さんは涼しい顔をして遠くを見てました、どうして・・・・・・。
「気にしないでください、私は大丈夫ですから」
「何を・・・何を言ってるんですか、管理人さん。6年も待ってたんでしょ、16年も想
ってたんでしょ、大丈夫なわけないじゃないですか」
「いえ、こうなることは心のどこかで覚悟してましたから」
「強がんないでくださいっ、そんなの平気な人いません。もし・・・もし、自分だったら
って考えたら、絶対にイヤですっ、辛すぎますっ」
「・・・・・・(静かに目をつむってる幸四郎)」
「泣きたかったら泣いてください、涙を人に見せるのは格好悪いことなんかじゃありませ
ん。私じゃ頼りないかもしれないけど・・・でも、でもっ、私でよかったら頼ってくださ
い」
管理人さんはゆっくり私の方へ顔を向けました、そこにはもう涙が見えてました。
感情の線が切れたみたいに管理人さんは号泣しました、私はその管理人さんをギュッと
強く抱きしめていました。6年分の恋人への想い・・・きっと、私が想像してるのより、
ずっとずっと大きなもの。その積み上げた想いが失われたとき、人は計りえないほどの寂
しさに襲われてしまうのです。
私は管理人さんを抱きしめながら、その身体をとてつもなく愛しいものと感じてました。
管理人さんがもし私の前からいなくなったら・・・そう思うと、自然と私も涙が流れてい
ました。




