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イーディア・クロニクル~笛吹き男と女神の血涙~   作者: ミズノ・トトリ
3章 そして歴史が始まる
12/32

ガレリア占拠

午後1時45分 

ネーポルガレリア 西棟1階 イベントフロア


 武装した謎の集団に、ショッピングモールが占拠されてからしばらく後。 

 事件発生時に建物内に居た人間は全員、ヒーローショーが行われていた1階の催事スペースに集められていた。

 休日の昼下がりとあって、捕らわれた客は多く、その年齢層も、母親に抱かれた赤子から杖が必要な老人までと幅広い。

 2棟で構成された内、催事に特化した片側でこの有り様である。飲食店や商業施設が集中している東棟を含めれば、人質の総数は計り知れない。

 そんな数の人質を見張るのは、僅か10名程度のテロリスト。しかし全員が拳銃もしくは小銃を携帯している上、その半数以上が2階から人質たちを見下ろす形で陣取っている。防犯の為に見通しを良くした、吹き抜け構造が仇となっていた。


「……素人と玄人の混成、素人は初めて銃を触る奴がほとんど。対して玄人は、扱いも動作も慣れた感じ……元軍人だな」

「ああ。それも共和国軍残党、といったところか。『悪魔』『耳長』というスラングは、あいつらにとって挨拶代わりらしいからな。だから2人とも、下手なまねはしないでくれよ」

「無論だ。姫様を守るのが、私の責務だ」

「……レアーレ、エル殿、申し訳ありません」


 エル、レアーレ、レシーナの3人は、身の安全を図るべく、他の人質たちに紛れながら、情報をすり合わせる。

 しかしタキトは、ここに集められて以降、3人の傍でずっと頭を抱えていた。


「なんでだよ、なんであんたが……家族だと思っていたのに……」

「親しかったのか?あの爺さんと」


 ふとタキトが気になったエルは、しきりにこちらへ視線を向けてくる老人を注視しながら、彼に語り掛ける。

 しばらく間をおいてから、少年はようやく顔を上げた。


「俺が『河川敷』に拾われた頃からの古参だ。名前はシャイ・ロック。昔は銀行員だったとかで、金に絡んだ相談事は皆あのクソ親父に頼ってたんだ。……そういえば今朝、なんか焦っている様子だったけど、まさかこんな事になるなんて」

「ワシも、できればお前さんを巻き込みたくはなかったよ」


 耐えかねたのか、シャイは銃を構えたまま、タキトたちの方へ近づいていった。


「だがな、タキト。誰かが『これ』をやらねばならんかったんじゃ。やらねば……」

「やらねばっ!我々は末代まで、『耳長』どもの奴隷として生きねばならん!!」


 シャイの言葉を、新たに現れた軍服の男が強引に引き継いだ。

 すると人質を見張っていたテロリストらは皆、一斉にその男へ敬礼を捧げる。

 テログループのリーダーだと、エルとレアーレは察した。


「我々は『金色(こんじき)のカナリア』、ヴェスヴィオスを蹂躙せし帝国人と戦う有志である!このガレリアは、東西ともに我々が占拠した」


 人質全員へ向けられた宣告に、いくつかの悲鳴が返される。

 その中で、軍人であるレアーレは冷静に、帝国を()つ際に調べた自治領内で活動するテロ組織の情報を、記憶の片隅から引き出す。


「(元・共和国軍将校が寄り集まったテロ組織か)」

「(ああ。戦争中は大本営で胡坐(あぐら)かいておきながら、最終防衛戦の時には、真っ先に難民に化けて逃げた連中だ)」

「(……?そんな情報は帝国軍になかったぞ。どこで……ああ、お前の同業者(・・・)からか)」

「(……、……まぁ、そんなところだよ)」


 より詳細に敵を知っていたエルを、レアーレは一瞬いぶかしんだが、何かに納得し、すぐにそれを打ち消した。

 そんなやり取りをしている間にも、『金色のカナリア』と名乗った男は、自分たちの正当性を勝手に演説し、それが終わると、意外な事を口にした。


「我々はあくまでも、帝国に対し要求を行う為、今日この時に決起した。よって、『帝国人』でない者、我らと同じヴェスヴィ人はもちろん、オーラシア連合国やヨーロピア王国、シュンジュン連邦からの来訪者は、現時点より解放する。また、帝国人であっても、老人及び怪我や病気を抱えている者も、全員解放する」


 今度はエル達を含めた全員から、ざわめきが沸いた。


「人質の数を減らす?同情を得る為か?」


 警戒するエルをよそに、他の客たちからは、我先にと開放を望む声が上がり始める。


「わ、私はオーラシアから出張で来ている。解放してくれ!」

「わしらのような年寄り夫婦は、見逃してもらえるのか?」

「お、おれ、肝臓を病んでて薬飲んでるんだ。しょ、処方箋もあるぞ!」


 段々パニックに陥りだした人質。テロリストはそれを黙らせるように、拳銃を天井へ向け、一発撃った。


 pan!


 突然の発泡に、一瞬にして沈黙が生まれる。


「解放するのは、あくまでも外国人、そして老人と傷病者だ。そして、その身分が本物かどうか、解放する際に改めさせてもらう。嘘偽りがあった場合は、見せしめに殺す」


 すると、東棟の方から更なる一団が現れた。

 今度はテロリストだけでなく、おそらく向こう側で人質になったである10数名の一般人が混ざっていた。

 そして、最後尾にいた女のテロリストが、こちらを仕切っていた軍服男に敬礼し、報告する。


「対象外の人質、全員の解放を終えました。残ったのは帝国の『耳長』ども14人。男が8人女が6人です。また……」

 

 そこで言葉を切ると、女は西棟の人質たちを見やり、嘲笑を浮かべながら続けた。


「オーラシア人だと偽り逃げようとした帝国人が5人おり、全員『処刑』しました。また、東棟制圧時に抵抗して来た客と警備員の計6名も、その場で射殺。東棟での死者は11人です」

「なっ!?」


 死者11人、それを証明するように、履いている迷彩ズボンに飛び散った血痕を、女はエル達に見せつけた。

 そして、報告を受けた軍服男は、それに眉一つ動かすことなく、女たちに命令を下した。


「これより、残った人質の選別を行う。解放を望む者は名乗り出よ。また、残る者たちも、電話や通信端末などを差し出す様に。それと……」

「まぁ、こうなるか」


 軍服男の視線が、帝国の軍服を纏うレアーレに向かう。


「そこの『耳長』の女、俺と一緒に来てもらおう。本土の騎士がなぜこんな所にいるのか、じっくり聞かせてもらうとしよう」


 男が合図を出すと、血染めの女ともう一人のテロリストが、レアーレを拘束する。


「レぁ……んぐ」

「(静かに、連中はまだ姫さんに気付いていない)」


 銃を突き付けられ立たされるレアーレに、レシーナは縋ろうと手を伸ばす。が、エルは背後から羽交い絞めにしてそれを抑えると、素早く人質の中へと隠す。


「ん?何だ今の娘は」

「騒ぎの中で保護した帝国臣民だ。それ以前に面識はない、赤の他人だよ」


 レアーレのごまかしに、軍服男は疑問をいだかなかったようで、その後は何事もなく、女騎士は連れていかれた。


「(……レアーレ)」

「(大丈夫、ボスコ嬢は強い。それに、姫さんの情報は外の帝国軍に届いているんだ。すぐに救助が来るよ)」


 そう励ましつつも、少女から背けられた彼の表情には、焦りと警戒心が浮かんでいた。


「これは……難航しそうだな」


*****


 それから1時間後。合計138名の人質が解放され、イベントスペースには、179名の若い男女が留められた。

 意外な事に、その中にはエルやタキトの姿も残っていた。


#####

午後3時 

ネーポル・ガレリア駐車場 帝国軍臨時作戦本部


 テロリストによる籠城事件発生から、1時間ほどが経過した現在。

 辛くも襲撃から生き延びた客たちや、解放された人質からの通報により、警察と帝国軍・自治州駐留部隊が出動。商業施設周辺は封鎖され、現場には<ドーレブ>2個小隊他、特殊急襲チームが展開。

 対するテロリスト側も、犯行声明をビデオメッセージで公開。複数の要求とその期限、反故にされた場合の人質の処遇などを、一方的に突きつけ、以後は一切の交渉に応じていない。


 そして、屋外駐車場に設営された指揮所では、ネーポル駐屯地司令官に加え、本国から来訪していた第一皇女オクタヴィア・イーディアと、その護衛である騎士レカーゼ・ボスコ、テレンス・ユーリスの3人が責任者となり、錯綜する情報の整理に追われていた。


「現時点で判明しているのは、以下の通り。

 1.テロリストは『金色のカナリア』。モーマイ・ムッチ元中将を中心としたヴェスヴィオス共和国軍残党で、ガレリア西棟を拠点に籠城中。

 2.彼らの要求は、ヴェスヴィオス共和国の再独立、及び帝国軍の全面撤退。そして賠償金200億ドラク。

 3.人質となっているのは、買い物客と各店舗のスタッフ、およそ180名……。それと……その……」

「遠慮する必要はない、司令官殿。人質の中には、我が妹レシーナ・イーディアとその護衛のレアーレ・ボスコが含まれている可能性が高い、だろう?」


 あくまでも冷静な様子で苦笑を浮かべる第一皇女に、レカーゼは告げる。


「姫様を発見したと妹から連絡が入ったのは、事件発生の30分前。そこから西棟4階のイベント会場へ入ったと思われます」

「再度確認するが、テロリスト共の犯行声明文の中に、2人の情報は無かったのだな」

「ええ、皇女と近衛騎士です。もし正体が知られていれば、テロリストは必ず利用するでしょう。何も言及されていないという事は、うまく人質に紛れているのだと思いますが、今は安否不明としか……」


 歯がゆさを露にするレカーゼ。そんな彼女に追い討ちをかけるように、テレンスは非難の声を浴びせる。


「まったく、連絡の時点で無理にでも連れ戻っていれば……。姫様に甘すぎるんですよ。貴女の妹は」


 だが、それに異を唱えたのはレカーゼではなく、自らが仕える主人だった。


「レシーナの好きにさせろと言ったのは私だ。その非難はレカーゼではなく私に向けろ、テレンス」

「っ!?い、いえ……口が過ぎました」


 失言で押し黙るテレンスを他所に、オクタヴィアらは解決策を探る。


「敵は当初、建物全体で500人近い人質を捕えていた。しかし、すぐにその大半を解放した。なぜだ?」

「解放されたのは帝国籍ではない者、帝国籍であっても傷病を抱えているか高齢である者たちです。犯行声明で宣っていた通り、義憤での決起なのだとアピールする為なのでは?」

「いや、ムッチら『金色のカナリア』は、無差別テロを主な手口としている連中だ。今さら人の情など宿らんよ。その証拠に、一ヶ月前の貨物船ジャック事件では、オーラシア人船員も犠牲になっている。加えて、声明の最後」


 オクタヴィアのリモコン操作により、指揮所のテレビに犯行声明の一部分が再生される。


『日没までに、要求が1つも達成できなかった場合、人質を15分に一人ずつ、我らが本気の証として処刑していく』


「奴らが静かにしているのも、あと2時間と少し。それまでに制圧したいが。内部の確認はどこまで進んでいる?」


 テントの隅で偵察部隊との交信を担当している兵士に、オクタヴィアは問いかけた。

 片耳にヘッドホンを押し当てた通信士は、自らの殴り書きを手早く見返し、内容を伝える。


「決死隊による集音と赤外線探査・ヘリからの空撮では、東棟はほぼ無人。エスカレーターなど数か所にバリケードが設置されているのみ、との事」

「ほぼ無人?どういうことだ?」

「解りません。ただ、正面入り口のバリケードには爆薬が確認されており、他の箇所も同様のトラップが予想されると、オハラハン隊長は報告しています。警備室にも数名が潜んでいると予測されて……あっ、お待ちを」


 新たな報告があり、伝令兵はヘッドホンに集中しながら、内容を書き留めていく。


「食料品店・搬入口からの潜入に成功!現在、例の警備室へ移動中」

「潜入できた、だと!?……人質の事といい、不可解極まる」


 見えてこない敵の思惑に、オクタヴィアはこれまでとは違う種類の警戒心を抱く。


 しかし彼女の不安を他所に、偵察部隊は無人の施設内を無事に進んでいき、ついにガレリア内の監視カメラ全てを管理する、警備の心臓部分へたどり着いた。


#####

午後3時7分

ネーポル・ガレリア東棟 警備ルーム前廊下


 偵察部隊を率いるオハラハンは、姿の見えぬ敵よりも、生ぬるい現状により己の集中力が切れそうになっている事の方を警戒しはじめていた。

 

「……異常だ。搬入口からここまで、バリケードすらなかったぞ」


 先の戦争では、南方の奇襲部隊の一員として従軍。戦後も対テロ特殊部隊に転属し、今日まで三十を超える立てこもり事件を担当して来たオハラハンにとって、この事件よりも普段の訓練の方が過酷に思えていた。

 5分前、二手に分かれての周辺警戒中に、建物裏を調べていた副隊長の班から、侵入可能の報告を受けた時、彼にとってこの建物は、まだ戦場だった。見張りも居ない、開けっ放しの搬入口にブービートラップの気配を感じていた。

 しかし、手榴弾へと延びるワイヤーも、赤外線式の警報装置も見当たらず、それどころか、搬入口から従業員控室、食品売り場へと、何の障害もなく到達できてしまったあたりで、オハラハンは、コレが本国から来た皇女一行の悪戯ではないのかと、ふと考えてしまった。


「隊長!、ワイヤーを確認。ブービートラップです」


 そんな精神の揺らぎは、目的の部屋へのドアを調べていた部下の報告で、辛うじて治まった。


「やっとですか。しかし解除して入った途端、テレビカメラとプラカードが待ち受けていた、なんて展開は御免ですよ」


 普段は冗談など口にしない副隊長が、そんな事を呟く。それほどまでに、敵はオハラハンたちに対して無警戒だったのである。

 だが幸いというべきか否か、室内で彼らを待っていたのはドッキリ番組ではなく、射殺された警備員の遺体だった。


≪<アーウィン(本部)>より<グラスタワー(偵察チーム)>へ。状況を報告せよ≫


 職務に殉じた警備員たちを簡素に弔い、監視システムを操作していたオハラハンの下へ、外で待つ本部から無線が入る。


「こちら<グラスタワー>、警備ルームを確保。防犯カメラの映像ログと、現在の様子をそちらへ送信する。……スコット、送れ」

「ラジャボス、……送信します」


≪……<アーウィン>、受信を確認。そちらでも状況の確認をお願いします≫

「<グラスタワー>、了解。まずは正確な人質の……ん?」


 事件発生直後の映像を確認していたオハラハンは、西棟の1階を捉えたカメラの映像に目を止めた。


「彼は、まさか……」


 そこにはオハラハンが良く知る、小麦色に日焼けした青年が映っていた。

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