閑話7 クリニエル王国の出来事
一方その頃、クリニエル王国では、キュウヤとレネに負かされた勇者コウキと騎士団が、重い足取りで王都へと向かっていた。彼らは途中の街で宿泊しているが、勇者コウキの部屋には誰も近づけなかった。
部屋には勇者コウキのみで、いらだちを隠そうとせずに怒鳴り散らしている。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。何故、俺様の技が通用しない。それも魔力なしの外れスキルである相手に対してだ」
椅子を蹴飛ばして、いらいらを解消しているようだが収まっていないようだ。
「剣聖スキルと聖剣シャルルーンの威力は中位魔物を倒して、騎士団との訓練でも彼らを打ち負かすほどだ。それが何故、簡単に止められてしまう。あの方から授かった身体強化で、どうして槍ごときを折ることができない」
今度は両手をテーブルに叩きつける。テーブルから備品が落ちるが、勇者コウキは気にせずに何度もテーブルへ怒りをぶつけた。
「これではまるで、俺様が嘘の強さで周囲から賛美を浴びていたと思われる。今回は騎士団が無能だったからだ。次は勇者たちを引きつれて、俺様の本当の強さを国内外に示して、最強の名を刻んでやる」
いくらか落ち着いてきたのか、椅子に座って天井を仰ぐ。しばらくの間、何も話さずに天井を眺めていて、気分が落ち着いたのか椅子から立ち上がった。
「このままで終わらせてたまるか、あのふたりは絶対に俺様が倒す」
きびしい表情の中には決意をこめたと思われる、するどい視線があった。勇者コウキは聖剣シャルルーンを手にとると、薄笑いを浮かべた表情へと変わった。
数日後、勇者コウキと騎士団は王都へ到着して、国王へ結果を報告した。拠点の占領に失敗して、キュウヤとレネ以外は誰がいるか不明であるなど、国王の逆鱗に触れる内容であった。
だが代表で報告した勇者コウキは自分の失敗ではなくて、あくまでも騎士団の能力不足が原因と結論づけた。勇者コウキと同行した騎士団の騎士たちは反論したかったが、とてもできる状況ではなかった。
勇者コウキの報告が終わると、国王は勇者コウキと騎士団へ処分をくだすと自室へと戻った。ひとりだけになった国王は少し落胆しているのか、ため息を吐きながら椅子へ座る。
「まったく勇者コウキには困ったものだ。聖剣シャルルーンを与えているのに、魔力なしの外れスキルである相手に負かされるとは国内外に示しがつかない。所詮は中位魔物や騎士たち相手に勝てる程度の存在か」
国王はもう一度ため息をもらして、自体が進まない状態を嘆いているようだ。
「だが勇者コウキは手駒として使えるから、今回の処分も頭を冷やすための休養ですませた。それに反して騎士団の処分は、よい見せしめになっただろう」
国王の言葉からは、騎士団に下された処分をほかの騎士団が聞けば、必死に国王の命令に従うと考えているようだ。国王の考えは、処分を下された騎士たちの顔を見れば予想通りにも思えた。
「本来ならランダーの拠点を占領して、あのふたりに協力したのがルシェロ王国の関連者としたかった。仮に第1王子と第2王女だったとしても、犯罪者をルシェロ王国がかくまっていたとすれば、ルーペンへ攻める口実ができた」
現状では拠点を占領できずに負けて戻ってきたので、国王の考え通りにはならなかった。それでも国王に焦りは感じられずに、ほかの考えがあるようにみえる。
「当初の予定とは異なったが、あの方にあれを献上したおかげで、あの方の準備も大詰めのようだ。あの方が進めてくだされば、我の国は損害を受けずにランダーとルーペンを手に入れられる。それも近い将来に達成できそうだ」
国王は部屋に入ってきたときの落胆したようすはなくて、次の算段がうまくいくと思っている表情を見せていた。それでも、クリニエル王国の未来がどのようになるのかは誰にも分からない。
(第1部 了)




