乱暴者の村長
ゴータマ・ブッダのもとを訪れるのはバラモン達ばかりではない。偉大な聖者と聞き、相談を持ちかける人々もいた。
その村長も、村を訪れた出家の柔和な表情を見ているうちに、ふと心の奥底にある想いを吐き出した一人だった。
彼は、いかつい髭面を曇らせて尋ねた。
「私はたいへん評判の悪い人間で、皆は私のことを『乱暴者、乱暴者』と申します。人は生まれながらにして『穏やかである』といわれる者もありますが、どうしてこのようなことになるのでしょうか」
常日頃、村人たちから悪口をいわれても、彼は平気な素振りをしていた。国王の政を村で直接担う者として王に忠実であれば良いと、何か云う者には言い返したものだ。けれども実は、密かにそのことを苦にしていたのであった。
村長の心の底から出た真実の言葉に、仏も率直に応えた。
「……それは汝の心の中にむさぼり(貪)があるからではなかろうか。あるいは、汝の心の中にいかり(瞋)がありはしないか。それがあると、人はとかく他人の瞋りに遭わねばならない。それに対して汝自身がまた瞋り返す。そういうことで、人々はいつの間にか、汝を呼んで『乱暴者』というようになったのであろう」
村長は考え込む。
(私に貪る心、瞋る心があったのか……)
素直におのれを省みてみれば、確かに瞋りの心で人を怒鳴りつけたことがある。貪る心で人を押し退けたことがある。
「……まこと、おっしゃる通りでございます」
彼は認めた。
「では、その貪りや瞋りを無くしてしまったとき、汝はもはや『乱暴者、乱暴者』といわれないようになるのだ」
「ううむ……」
村長は唸った。
「むずかしゅうございますな」
彼が顔を上げると、聖者と目があった。
世尊は微笑んでいる。
すると彼も、ぎこちない笑みを浮かべた。




